ゴマすり三下クソ野郎と美少女留学生の馴れ初め 〜1
ドーモ、政岡三郎です。新作の連載、始めました。ジャンルは現代恋愛モノです。楽しんでいただけましたら幸いです。
永野一はゴマすり三下クソ野郎である!
気弱だけど優しい箱入りお嬢様である母と、そんな母を食いモノにしたゴミクソ人間である父との間に生を受けた彼は、母の自己肯定感の低さと父の世渡りの巧さを受け継いだ、ゴマすり三下クソ人間として、十七年間を生き抜いてきたのである!
ある時は近所のガキ大将を神輿に担ぎ!
ある時はクラスの一軍陽キャの太鼓を持ち!
またある時はバイト先の店長のイエスマンとして生きてきた!
また、永野一はそこそこ学業も順調であった!
都内でもそこそこ偏差値の高い西城学園高等学校へと進学し、以来一年間、テストの点数は平均よりやや上から始まり少しずつ上昇傾向!
そんな彼が目指すはズバリ!【S.Ke.J.R】!!
【S.Ke.J.R】とは、日本のTop of topであるT大、K大の下に位置する難関私立大学の総称!
そして【S.Ke.J.R】の次は、大手企業!五菱商事(株)!或いは四井物産(株)!!
ホワイトな一流企業へ就職し、薔薇色の人生へと至る、夢のめでたし、紅白街道!!
そんな一も、現在高校2年生!
欲を言えば、彼女を作り、青春したいお年頃!
しかし……諦める!それは流石に諦める!
一の学力では、残り1年と数カ月を今のペースで学業に勤しむことで、ようやく【S.Ke.J.R】に手が届く!
彼女を作って学業のペースを乱せば………最悪は【マーティ】!!
【マーティ】とは、東京にキャンパスを置く私立大学群……いずれも名門に違いはないが、【S.Ke.J.R】と比較すれば、些かランクダウン……見劣りする!
大手のホワイト企業は相応に倍率も高く、【マーティ】出身ともなれば内定への門戸は更に狭まるは必然!!
ゆえに、彼女は諦める!人生とは、選択と妥協の連続である!!
しかし!そんな彼の運命は高校2年の一学期に大きく分岐する!!
時は6月……梅雨真っ盛りのこの時期、今日の東京は雨こそ降らぬものの、陰鬱とした曇り空!
しかし!ここ西城学園2年B組には今、そんなジメジメとした天候を物ともしない、Big event が到来していた!!
留学生!!
芸術の国、France からはるばる大陸を渡り、海を越えてやってきたブロンドヘアーの美少女が!
遥か極東の西城学園2年B組の門をくぐったのである!!
「えー、皆さん、静かに」
突如現れたブロンド美少女に浮き足立つクラスを鎮めるは、クラス担任、大森寛一(66歳)!
「えー、今日からこのクラスに新しいお友達が加わります。さ、みんなにご挨拶して」
大森担任に促され、遂に留学生が口を開く!!
「えっと……皆さん、初めまして。アニエス・カスタネールと申します。パリのサンジェルマンから来ました。……よろしくね?」
流暢な日本語……謙虚さの中に垣間見えるフランクな言い回しは、これから学園生活を共にする学友たちへのリップサービス!
「えー、アニエスさんはご両親のお仕事の都合もあって、この度フランスからはるばる留学してこられました。皆さん、仲良くするように」
沸き立つクラスメイト……そんな折、一人の男子生徒が彼女に質問を投げかける。
「ハイハイ!質問!アニエスちゃんって彼氏いるの!?」
アニエスちゃん……!
初対面でこの距離の詰め方は、良く言えば陽キャ!悪く言えば無神経クソ野郎!!
だが、そんな無神経クソ野郎の下世話極まる質問にクラスメイト一同、興味津ッッッ々!!
これには、流石の留学生も困惑!
「え、えっと……あの………い、いません……」
その瞬間、更に沸き立つ男子生徒一同!!
だが、そんなクラスメイト達を冷めた目で見る男子が一人……この物語の主人公、永野一その人である!!
(下世話だねぇ〜〜……日本人の品性が疑われる……)
それは、普段の彼がおくびにも出すことはない、心の声!普段他人に媚びへつらいながらも、心の中では他者を見下す三下クソ野郎の典型!
「聞いての通り、カスタネールさんは留学生なのでまだ日本での生活に慣れていません。皆さん、仲良くしてあげてくださいね。さて、それじゃあカスタネールさんの席は……」
(うっ……)
大森担任がアニエスの席を決めるこの瞬間、一は一瞬ギクリとする。
一の席は教室廊下側の一番後ろの列。
転校生や留学生の座る席を決める場合、大体は教室の空いているスペース……つまり後ろ側の席を指定される。
そう!このままでは下手をすれば、彼女の席が一の席の近くになってしまう可能性も、なくはない!
そうなれば休み時間、彼女の席をクラスの一軍陽キャ達が取り囲み、必然的にその近くに座る一の居心地が悪くなってしまう恐れがあるのだ!!
はたして彼女の席は……!?
「はい、じゃああそこの席ね」
そう言って大森担任が指差したのは、窓際一番奥の位置!
一とは真反対の位置……ひとまずセーフ!一はほっと息をつく……。
なお、ここまでの描写からも分かるように、一はクラスに美少女留学生がやってきたというこの状況に対して、決して浮かれてはいない!
断っておくが、一は何も、異性に興味が無いわけではない!
むしろ、学業のことを考える必要がなければ、人並みに異性とお付き合いしたいと考える程度には、異性に興味はある!!
では何故このような塩対応なのか!?
思春期特有の周囲や異性に対して意味もなく斜に構える、恋愛漫画の主人公などによくある高二病?断じて違う!!
誤解を恐れずに言えば、そもそも一はアニエスが眼中に無いのだ!!
眼中に無い、とは決して上から目線で相手を値踏みしているわけではなく、むしろ逆!
まず一は、ゴマすり三下クソ野郎である!
ある時はバイト先のクレーマーに土下座をし!
ある時は地元のヤンキーの靴を舐め!
またある時は嫌味な教師に媚びへつらい、生きてきた!
対するアニエスは、日本人女性憧れのオシャンティー国家、FranceはParisのSaint-Germainに生を受け、そこからはるばる海を越えてやってきた、日本語が堪能な美少女留学生!
はっきり言って、住む世界……人間としてのレベルが違いすぎて、もはやそういう対象として認識することすら叶わないのだ!!
例えるなら、テレビの世界に生きる人気女優は確かに美しいが、はたしてそれを明確に恋愛対象として意識できる一般男性が、どれほどいるだろうか?
おそらくそれは資産家や、新進気鋭のベンチャー企業の敏腕若社長など、ごく一部の一般男性に限られるだろう!
要はそういうことである!
兎にも角にも!この時、一はアニエスが自分にとって恋愛対象になるなどとは、露ほどにも思ってはいなかった!
そう、この時までは!!
最初に一がアニエスと話したのは、その日の昼休み……。
例によってアニエスの席は、クラスの陽キャ軍団に包囲されていた!
「ねえアニエスちゃん!好きな日本食とかってある!?」
「行ってみたい場所は!?」
「この指何本に見える!?」
一軍陽キャ軍団の怒涛の質問攻めが、アニエスを襲う!
アニエスも、負けじと頑張って受け答えするものの、圧倒的数と熱量で攻めてくる陽キャ軍団の勢いに、否応なしに気圧される!
そんな折、一人の陽キャが言う。
「そうだ!なぁみんな!今日みんなで放課後、アニエスちゃんの歓迎会やろうぜ!!」
「えっ!?いえ、あの……」
アニエスが口を挟もうとするが、陽キャの暴走は止まらない!
「あ、それいいね!」
「じゃあ場所は、駅前のカラオケ店にしよっか!」
アニエスの意思も聞かずに、話が進んでいく。
なお、彼らの名誉のためにも言っておくが、彼ら陽キャ軍団は基本的に悪い奴らではない。(たぶん!!)
フランスから来た美少女留学生という存在に、浮足立っているだけなのだ。
(あ〜……こりゃまずいね)
自身の席から呑気に対岸の火事を眺めていた一は、少し危機感を覚える。
このまま放っておけば、いずれ爆発しかねない。
「よぉ〜し!じゃあ今日の放課後、みんなで駅前のカラオケ店に行こうぜ!!アニエスちゃんも___」
「で、ですから!!私は___」
ガタッと音を立てて、アニエスが椅子から立ち上がる!その刹那___!
「アニエスさん、さっき大森先生が職員室に呼んでたよ?」
それまで傍観者に徹していた一が、初めてそう口を開いた!
「え、大森先生が?」
爆発寸前だったアニエスは、その一言に虚を突かれ、気の抜けた声で聞き返す。
ちなみに、大森担任がアニエスを呼んでいたというのは、真っ赤な嘘である!!
これはあくまで、アニエスの感情の爆発を察した一の、助け舟……!
一自身、特に下心などがあって助けたわけではない。
ここで生じたクラスの不和が、最悪の場合イジメ等の悪い方向へ発展してしまう恐れがある。
それを避けたかったのだ!
「うん、そうそう。なんでも急用らしいから、早く行ったほうが良いと思う」
一のその言葉に、アニエスはこくりと頷き、教室を後にする……。
アニエスが去った後、一人の陽キャがこんなことを口にする。
「なぁなぁ、アニエスちゃんなんか、ノリ悪くね?」
その陽キャ(名を赤島という!)が、どこか落胆した様子で言う。
その瞬間、一は直ぐ様会話に割って入る!
「いやいやいや、きっとあれですよぉ〜赤島クン!外国から留学してきたばっかりだから、緊張してるんですよぉ〜!」
手揉みをしながら腰の角度は45度!これが一の、陽キャと話す際の定番スタイル!!
「それにほら!もうすぐ期末テストでしょ?ただでさえ慣れない留学に期末テストの時期が重なって、ちょっとナーバスになってんですよ!」
「あー、なるほど」
「確かに……アニエスさんにとっては初めての外国での生活だろうし、そこに期末テストの時期が重なっちゃったわけだもんねぇ〜」
一の言葉に、陽キャ軍団の女子達が理解を示す。
そこで一は、さもたった今思い付いたかのように、こんな提案をする!
「あっ、そうだ!アニエスさんの歓迎会、今度の期末テストの打ち上げと兼ねてやるのはどうざんしょ?きっとアニエスさんも、期末テストを片付けてからの方が、心置きなく歓迎会を楽しめるかと」
一のアイデアに陽キャ軍団、賛同!!
「あー確かに、それ良いかも!」
「俺もそれ賛成!やっぱ楽しいことは、ヤなこと片付けてからパァーッと楽しみたいし!」
「永野、名案!!」
陽キャ軍団から褒めそやされる一!
「へへへ、あざます!!」
一は腰を低くしたまま照れる仕草をする!
「じゃあ今度の期末明けの予定、アニエスさんに聞いてみよっか!永野くんも来るでしょ?」
「お、いいねぇ〜!永野も来いよ!お前の合いの手があると盛り上がんだよな!」
陽キャ軍団から誘われる一。
「ええーいいんすかぁ〜?やった〜〜!!」
否!本当はそこまで行きたくはない……!
しかし、それは言わない!そう、たとえ口が裂けても!!
ゴマすり三下クソ野郎の、哀しき性!!
だが、それでいい!!
円滑な人間関係のためならば、時として自らのプライベートを犠牲にすることもまた、やむなし!!
自らのプライベートのために会社の飲み会を突っぱねる、昨今のZ世代の風潮とは対極を往く漢、永野一!!
(………後でアニエスさんに謝らねえとな〜……)
表面上では喜びながら、一はそんなことを考えていた……!!
__続く!!
平凡なゴマすり三下クソ野郎の俺がフランスから来た美少女留学生とお付き合いした件 第一話、いかがでしたでしょうか?
タイトル賀長いので、以下『ゴマクソ』と略します。
この作品は、ちょうどスピアノベルズ大賞の募集が始まったタイミングで、たまたま思い付いたラブコメを書き出したのがこの作品になります。
スピアノベルズ大賞は文字数制限無しで恋愛モノのジャンルを受け付けているということで、早速この作品で応募しようと思ったのですが……。
よくよく調べてみると、スピアノベルズ大賞はジャンルが異世界モノ限定らしく、応募を断念しました。(ちゃんと確認しろよって話ですが……)
そんなんで、代わりに別の小説大賞があったので、そちらに応募させていただきました。
ここから、あと4話は連続で投稿します。
現在連載中の『直也之草子』と共に、こちらも楽しみにしていただけますと幸いです。