最初の夜
夢は、目覚めた瞬間に終わるはずだ。だが、アイコにとってはもう違う。
物心ついた頃から、アイコは鮮明で自由に操れる夢を見てきた。それはまるで、別の現実に足を踏み入れるような感覚で、最初は彼女だけの楽しい秘密の世界だった。しかし、今や目覚めるたびに、彼女は見たことのない、だがどこか懐かしさすら感じる不思議で朽ちかけた館にいる。そして、夢と現実の境界が曖昧になる中で、夢の中でしか聞こえなかった奇妙な残響が、現実の生活にも忍び寄り始める。
※この物語は、作者が元々英語で執筆し、その後日本語に翻訳されたものです。
アイコが最初に館の夢を見たとき、それはまるでデジャヴのように感じられた。
彼女は広々とした玄関ホールに立ち、螺旋階段を見上げていた。上から吊るされたシャンデリアは、何とも不自然な輝きを放っており、その冷たい光はまるで病院の明かりのようだった。足元の木製の床は軋み、重いカーテンはひとときも揺れず、静寂が支配していた。
アイコは手をこめかみにあてた。夢だ。私はただの夢を見ているだけだ。 そう認識しても、安心感は得られなかった。むしろ、ますます不安に駆られた。
彼女は子供のころから明晰夢を見ていたが、今回の夢はいつもと違った。普段なら、夢の世界を自由に操り、景色さえ思い通りに変えられた。しかし、この夢は、そんな彼女の思い通りには動かない。空気が重く、肌に湿った布のようにまとわりつき、埃っぽく、金属的な臭いが漂っていた。
どこからか、時計の鐘の音が響いた。
アイコはその音の出所を探して振り向いたが、廊下は途方もなく長く、ありえない方向に続いていた。扉は異常に高く、細長く、壁に掛けられた絵画たちが、空洞のような目で彼女を見つめていた。
目を覚まさなきゃ。
アイコは自分の腕をつねった。だが、何も起こらない。
唇を噛みしめ、血がにじむほど強く歯を立てた。それでも、変わることはなかった。
その時、目の端に何か動くものを見た。
それは、階段のそばに立っていた。彼女に向かって歩いてくるわけではない。ひっそりと立ち尽くしているだけだった。まるで、じっと見守るように。
アイコは恐る恐る一歩後ろに下がった。息が乱れていくのを感じる。
シャンデリアの灯りがちらつき、その影がわずかに動いた。
そして—
アイコは目を覚ました。
だが、
まだ館の中にいた。
『目覚めても、まだ夢の中』を読んでいただき、ありがとうございます!アイコの物語に少しでも引き込まれたなら、とても嬉しいです。この先、夢と現実の境界はさらに曖昧になり、より不気味で恐ろしい展開が待っています。
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