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十二 新事実

「もう、話しても大丈夫かな?」

「はい。多少は落ち着きました」

「よかった……本当にごめんね、戦場くん」


 先生はまだ申し訳なさそうに僕の顔を見つめていたが、僕がもう取り乱していないことをしっかり確認すると、やがて安堵したようにため息を吐く。彼は向かいの席に座ると、一枚のバインダーを取り出して机の上に置いた。


「さっき職員室に行って、君の出席名簿をもらってきたんだ」


「……遅刻とか、欠席の理由とかが色々書かれてますね」

「あ、他のとこは見ちゃダメだよ。個人情報だからね」

「というか、そもそも持ち出していい物なんですか? これって」

「教頭先生にお願いしたんだ。ちょっとしたコネを使ってね」


 僕の頭の中で、いかにも「ざます」とか言いそうな教頭先生の顔が浮かび上がる。なるほど、色仕掛けか。


「ナイショだよ?」


 いたずらっぽく微笑む先生に、僕は感心したような、呆れたような笑みを返す。破天荒だけど、意外といい先生なのかもしれない。


「それで、ここを見て欲しいんだけど……」


 先生は姿勢を正すと、ちょうど半月前のところを指でさす。七月三日、木曜日。僕が車に撥ねられた日だ。


「その翌日が欠席になってますね」

「理由は検査入院。ちなみに、反さんは普通に出席してたよ。病院に行くほどじゃなかったようだね」


 先生はそう言ってから、「君のおかげで」と付け加える。どうやら、まださっきのことを気にかけているようだ。


「本当はこの時の病院のカルテとかがあると、色々わかったんだけどね。それはさすがにダメだったよ」

「……これが新事実ですか?」

「いや、これはただの確認。問題はこっちだ」


 ページを一枚めくり、先生は次に七月七日の月曜日を指さす。


「……ここも欠席?」

「そう。しかも結構長いんだよね。七日から今日まで、丸一週間も休んでる」

「理由は、胃腸炎」

「七月七日は、祭りの日の翌日だね」


 ああ、なるほど。祭りというワードを聞いて、合点がいった僕は顔をあげる。


「多分、食あたりですね。お腹が弱いので、屋台の食事とかを食べると、確実にお腹を壊すんですよ」

「うん。私も保険医だから、それは親御さんから聞いて知ってたんだ。屋台のご飯でお腹を壊すのは初耳だったけど……」


 先生は賞味期限が切れたお茶の缶を申し訳なさそうに一瞥した後、再び咳払いをして姿勢を正す。



「さて、ここで疑問になるのは二つだ。

 一つ。なんで君はただの食あたりで一週間も休んだのか。

 二つ、なんで屋台の食事がダメだと現時点で知ってる君が、祭りの時には屋台のご飯を食べてしまったのか」


「まあ、それを食べたからとは限りませんけどね。地面に落ちたやつとか、ちょっとした生ものとかでもお腹壊しますし」

「そうだね。他にもいろんな可能性があり得るし、この謎は考えてもきりがない。

 でも、先生は一つ目に関してはちょっと思うことがあるんだ」

「なぜ、僕が一週間も胃腸炎で休んだのか、ですか?」

「あー、ごめん。厳密には、その一週間の間に、君に何があったのか、だね」

「……と言うと?」

「先生、ずっと気になってたんだよね。二人が言ってた、「君が一度逃げた」って話。あれっていつのことなんだろうってさ」

「……確かに、いつなんでしょうか」


 二人が口を揃えて逃げたと言う以上、それは二人の間で出来事が色々と共有された後……つまり、祭りの後ということになる。


 しかし、祭りの後は学校を休んでいて、僕は今日一週間ぶりに学校に登校した。この間のいつに、僕が二人から逃げるような出来事があったと言うのだろうか。



「先生が思うに、それは今日なんじゃないかな」


「今日?」

「さてさて、先生の推理タイムだよ。先生の予測が正しければ、これでいろんな事が判明するはずだ。

 祭りの後から今日まで、ここ一週間の全てがね」


 どこからか取り出した眼鏡をかけて、先生は子供っぽい仕草で鼻を鳴らした。


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