第二話 酒は飲んでも飲まれるな
バタっ
「きゃあ!!大丈夫螢ちゃん!!」
「大丈夫大丈夫!最近何でか良く転んじゃうんだよね〜」
「お前さ、何でさっき何もないとこで転んでたの?老人なわけ?」
「本当に失礼な奴ね!たまたまよ!!」
「え?でも最近よく転ぶ。みたいな事言ってなかった?」
「え?何で知ってるの?もしかしてさっきの会話全部聞いてたの?」
あ、やべぇ。
咄嗟に螢の顔を見たが、案の定左右非対称の引きつった顔をしていて、
さっきまで脳内盗聴していた俺はそのデータを削除するのに必死だった。
「ねぇ。何で聞いてたの?」
「さぁ、興味本位?」 何も考えず返答
「ふふ、何よそれ!」
そう言って螢は笑ったが、俺には今の何が面白いのか理解できなかった。
ただでさえ最近のjkはすぐに”可愛い”と言うし、
一般的に見ても、思春期の女は情緒がぶっ壊れているのかもしれない。
「じゃあね壮馬!」
「あぁ。さようなら」
気付いたら6限は終わり、下校の時刻が訪れた。
「今日カラオケ行かね!」
「いや、ボーリングっしょ!!」
「俺放課後彼女とデートあるんだよね」
全く。高一で浮かれるとは愚かな連中だな。
学校が終わったら真っ直ぐ家に帰り勉強。今時猿でも知ってるぞ。
まぁ。誘われたら行ってやらん事もないが。
「..........」
うん勉強しよう。国公立大学に受かるためには、
今から始めても早いなんて事はないし、むしろ少し出遅れている。
中高一貫校の連中は、もうとっくに高校の内容に入ってるからその差を埋めなければ。
有名大学に入る。大手企業に就職する。
「ただいま」
「あらおかえり。学校どうだった?」
「まぁまぁかな。勉強するから入る時はノックして」
俺に父親はいない。母親がバイトを掛け持ちして働いてくれているおかげで
何とか生活が成り立っている状態だ。俺の通っている私立高校も、
俺が学費免除の特待生じゃなきゃ通学は不可能だっただろう。
大学も、出来るだけ学費の安い国立が良いというのは母の意向だ。
浪人も許されない一発勝負。俺の人生の全てがかかっている。
「ここで怠けるわけにはいかないんだよ!」
貴重な時間をただ娯楽のためだけに使うクラスの連中。
俺は時間の価値を知っている。その使い方を知っている。
あいつらとは違う。あいつらとは違う。
中学の時からその言葉のみを武器に、好きでもない勉強を続けてきた。
それなのに今日、俺は勉強で負けた。
勉強を取り上げたら俺に残るものは何もない。
(クソっ。頭が全然回らない!)
ピロン
ん?
携帯から通知音がした。
こういう時は大体、公式ラインかネットニュースだ。
今はそれどころじゃないし無視するか。
ピロン ピロン
今度は立て続けに通知音が2回した。
ここまでくると流石の俺でも違和感を覚える。
スマホを開くと、通知の正体は今日学校で友達追加したばかりの
螢からのものだった。そしてトーク画面には一枚の画像と二つの文面があった。
『茜の誕生日パーティーに行って来ました!!』
メッセージと共に添付された写真には、そのパーティーとやらの
様子が写されていた。高級そうなチョコレートケーキに
Happy Birthdayと書かれたホワイトチョコのプレート。
写真中央に鎮座する本日の主役、クラスメートの本田茜さんも満面の笑みだ。
そして彼女を囲うように螢含め数人の女子が手を彼女の方に向けつつ、
カメラ目線で微笑んでいる。
くっだらね〜。こういう友情アピールみたいなの本当気持ちわr
『それでね。今日壮馬の物理のテストの点数皆んなに言ったら、
凄い!って褒めてたよ!!』
おいーーー!!余計な事をするな。
俺はそんなんで目立ちたくないし認知されたくもない。
妙な興奮状態に陥り、怒りスタンプで返信しスマホを閉じた。
1時間後
「今日、何か良い事あった?」
夕飯時、そう尋ねてきたのは母
「え?何で?」
「だって今日の壮ちゃん。とても嬉しそうな顔してるから」
は?何言ってんだこの母親。
今日は螢にテストの点で負けた挙句、
その点を誕生日会に参加した女子グループに晒されたんだぞ。
「何もないよ!」
「そう?でもちゃんと高校生活を楽しめてるみたいで安心したわ。
ずっと不安だったのよ。私のせいで、
壮ちゃんが生きづらさを感じてないかって。
家計は気にしなくて良いしまだ若いんだから、
やりたい事を見つけたら、どんどん挑戦しなさい!」
「..........」
全く。軽々しく嘘をつかないで欲しいものだ。
その台詞は酒を飲んで本性が顕になった時、もう一度行ってほしい。