序編
そう言って 彼女は自分の胸にナイフを突き立てる
あと数ミリナイフが動けば 彼女はその美しい肌から血を流すだろう
誰もいない夕日の差し込む学校の図書室
音はない しかし
2人がいた
そこには誰もいなかったわけではないのだ
そこには
誰もいなかったわけではないのだ
▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣
5月24日
晴れた朝、通学路にて
「ぱおぱおーーーーーー!!!!!!!もおおおおおおおくううううううん!!!!!」
朝からでかすぎる声で意味不明な感嘆詞(?)を叫びながらオレの幼なじみ女子高生
鍵ノ山学園2年B組の増井川 灯里は後ろから抱きついてきた。
「どわああああ!!!!朝から抱きつくんじゃねー!!暑苦しい!!」
「なんでえええ!!!??もーくんはるーめんの事嫌いなの?ねぇ?ぱぁおおおおお!!!」
ちなみに灯里は灯火に由来する名前の文字とその明るすぎる性格から「るーめん」と呼ばれる事もある、というか過去のクラスイベント時にオレが「るーめん」とあだ名をつけたらそれがそのまま定着したのだ、ちなみにいつもぱおぱお言ってて意味不明だ。
「別に嫌いじゃねーけどそう朝から毎日抱きつかれるとこっちは疲れるんだよ!!!・・・はぁオレの平穏な日常はどこへいったのやら・・・」
「そんなぁ!!ひどいよもぉ君!!るーめんはもぉ君が元気になればいいなと思って、とびっきりの笑顔と女の子の膨らみたてのやわらかさを提供しようとしてるんだよ!!」
「ん?膨らむ?何が?まな板?オレにはまったく今何の話をしているのかわからんぁ」
「ひどい!!!るーめんの身体的特徴バカにしたでしょ!!ルーメンがこんなにもぉ君の事を愛してるって言うのに!!!わかった!!!別の女でしょ!!!別の女ができたんでしょ!!!!2人の子供はどうなるっていうの!!???」
「でかい声で誤解を産むような事を言うんじゃねえええええ!!ただの幼なじみだろ!!!貧乳!!!!牛乳飲めば可能性あるかもな!!!」
「ぱ、ぱお!!!?今るーめんの事を大事に思ってくれてなかった??!!最後あたり!!るーめん嬉しいよおお!!!!」
「だから抱きつくんじゃねーーーー!!!!!」
こんな疲れる環境にいるオレ、男子高校生、鍵ノ山学園1年B組、酒亜神 素、・・・通称「もぉ君」・・・なんとでも呼んでくれ!!
・・・は、今日も平穏な日常から遠ざかるのだった。
▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣
「素君、たとえ幼なじみでも人の身体的特徴をネタにするのは良くない」
「・・・はい・・・スイマセンでした・・・」
学校の正門前でオレはなぜか反省を求められていた。
オレの目の前にいるのは3年の漆川 宵先輩だ。
いっつもヨイヨイ言っているのかと思うかもしれないがそういう訳ではない(思った君はセンスいいぞ)
彼女は風紀委員で学園のトガった方々を鎮め、戒めるのが仕事だ、つまり先ほどのバカ騒動をばっちり見られ、風紀を乱す輩カテゴリに完全にオレが入れられているのだクソが!!!
あ 一応言っとくけど全員成人済みで何が起きても大丈夫です、じゃなー!
「素君、君は、成績は良くも悪くもなく学校の問題児とはほど遠い存在かと思っていたのだが私の見た手違いだったかな?幼なじみだけでなく他の女も妊娠させるなんて」
「ちっがああああああああああああああああああう!!!それはあのぱおぱお野郎がかってに言ってるだけであって、そんな事実はございません!!断じて!!そう、証拠もない、根の葉もない事なのです!!!」
「本当かい?君の見た目ならヤりかねないが・・・」
「それはオレがそんなにキケンな奴に見えるっていうんですか?こんなに誠実で清純な男子高校生が!!そう、髪も普通、顔も普通、性格も成績も普通な・・・」
「無理をするな、言っていて辛くなってきたんだろう、おーよしよしお姉さんが慰めてやろう」
なでなでされる、先輩のやわらかい手と不思議な香りがして癒されているオレ
「ありがとうございます、宵先輩・・・って!!!さっきの異常なオレへのレッテルは全部撤回してくださいね!!全部無い事です!!オレは無実です!!!」
やっとの事で鍵ノ山学園の正門を抜けるオレ、オイオイ、登校するだけでこんなにダメージくらうなんて聞いてないぞ、まったくかわいそうな自分にツナ缶おごってやりたくなるぜ・・・あ、今日の昼はツナサンドにしよ、あの耳のついてないパンに挟まれてる奴、コンビニとかに売ってるあれ。