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すきだらけ  作者: 35
8/33

第8話 俺にやさしくないギャル

俺の名前は長田次郎おさだじろう


いわゆる大学生2年生である。普段は漫画やアニメをのんびり見て過ごす典型的なインドア系だ。


大学に通うため親元を離れているので学校近くのアパートに一人暮らししている。


友人も決して多くはない俺は1人のんびり過ごすのが普通だが、1つ違うことがある。


「だーれだ!?」


女子の声がすると、俺の視界が突如隠される。


「わっ、なんだ?」


だーれだと言われても、俺にこんなことをしてくる女子は1人しかいない。


「お前ミヤだろ! からかうのをよせ」


「へへー正解だよ! まぁおじさんみたいなさえない男子に声をかけてくれる女の子なんて、わたししかいないっしょ。一択じゃん」


この女子の名前は石川美弥子いしかわみやこ、通称ミヤ。俺の部屋の隣に母親と2人で住んでいる女子高生である。確か二年生って言ってたから17歳くらいかな。


「おれは21歳だぞ。おじさんって呼び方はなんとかならないのか」


「長田の『お』と次郎の『じ」に年上への経緯を込めてさんづけて、おじさんだよ? ニックネームで呼んでるんだから親愛を込めてだよね」


「お前に親愛を込めてもらう覚えはないがな」


「つれないなー、おじさんもわたしのことをミヤって呼んでるんだし♪ そもそもかわいい女子高生にこんなに声をかけてもらえるだけで喜ぶべきでしょ。なのにそんな反応しかできないなんて完全にモテない童貞丸出しじゃん」


言われたい放題だが、もちろん俺はヘタレなので言い返せない。


俺がモテないのも事実だし、ミヤがかわいらしいのも事実だ。


明るく金髪に染めていて、薄く化粧もしていて、爪にもおしゃれをしていて、香りもいい。


清楚なタイプではないが、派手な見た目にどもどこか上品さがあり、間違いなく一目を引くかわいらしさだ。


「もういいか、俺はこれから用事があるんだ。お前にかまってる場合ではない」


だから俺は大人っぽく何も言わずに流すのである。


「はぁ、私と話す以上に尊い用事があるの? 暇そうなのに?」


「今ここにあるだろう。この漫画の最終巻を今から読むんだよ。よっぽど有意義だろうが」


俺は本を差し出す。


「ああ、これなら私も知ってる。有名だもんね……、って何言ってんの生意気に! くらえ~

~」


ミヤに思い切り首を絞められる。苦しいのだが、ミヤの胸部が俺の高等部に思い切り当たる。


「やめろ、思い切り胸が当たってるぞ」


「当ててあげてるんでしょ? このまま幸せな感触につつまれて気絶しなさい」


「ふざけるな!」


俺は思い切り逃げた。感触は確かにふわふわだが、それ以上に首が決まりすぎて幸福度よりも苦しさが買った。


「はぁはぁ。苦しかった」


「完全に決まったと思ったんだけどな……、逃げられたか」


「まったくお前はいいかげんにしろよ。次変なことしてきたらただじゃおかないからな」


「へ~ただじゃおかないって具体的にどうするのかな」


「そ、そりゃ罰を与えるに決まってるだろ」


「何々? ヘタレのおじさんがどんな罰を女の子に与えられるの? それに何をするの?

? もしかして18禁なこと?」


俺の言葉ににやにやいやらしい顔を向けてくる。


「ば、ばかやろう。女子高生に手を出すわけがないだろうが」


「ぷぷぷ、やっぱへたれ~、かわいいんだから」


俺はダッシュして逃げた


大体こんな感じで俺は負けている。


俺は部屋に逃げ込んでじっくり漫画の最終巻を読む。

感動のラストに号泣して満たされていた。


「ふぅ、満足した。なんか無駄に疲れたな。ミヤは毎回毎回面倒くさくて困る。しかも今日はしつこかったし。何か言いたいことでもあったのか」


ミヤが俺をからかいに来ること自体は毎回会うたびに恒例なので珍しくもないのだが、今日くらい直接的なアクションをしてくることは非常に珍しかった。


ピンポーン


俺がそんなことを考えていると、インターホンが鳴った。

何か配達でもあったのかと思い、ドアを開けると


「おじさん……」


ミヤがいた。ミヤが俺の部屋をわざわざ訪ねてくること自体が初めてで警戒をしたが、それ以上にいつも元気でテンションの高いミヤが少し元気がないのも気になった。


「なんのようだ?」


警戒しつつも心配して声をかけた。


「ねぇおじさん。私の事500万で買ってくれない?」


「……うん? なんだって?」


聞こえなかったわけではない。本当に意味が分からなかったのだ。脈絡がなさすぎである。


「お金がどうしても必要なの。私にできることなら何でもするから」


「女の子がなんでもするとかいうな! とにかく一度話を聞くから落ち着け」


俺はミヤを部屋に招き入れる。いつもなら俺が部屋に招けばいじられるところだが、今日はミヤもそれどころではないようだ」


「500万は大金だろ。どうして一介の高校生のミヤに必要なんだ?」


「私の家が母子家庭なのは知ってるでしょ」


「ああ、お母さんと二人で引っ越してきてたからな」


もともと俺のほうが先にここに住んでいて、ミヤの家族が引っ越してきたのは結構最近だったりする。


ミヤは引っ越し当初は見た目こそギャルだったが、話し方はとても丁寧な女の子だったな。


当初は俺のことを長田さんと呼んでいたし、ミヤのことも石川さんと呼んでいた。


転機があったのは、ミヤが帰り道でナンパされていたのを助けた時だった。


助け方は大声でお巡りさんを呼ぶというあまりかっこいいものではなかったが、俺的には優しくしたつもりではあった。


ところがその日から急激に態度がよく言えば親密に、悪く言えばなれなれしくなった。


それから自分語りもやたらするようになってきて、中途半端な時期の引っ越しは父親が金遣いが荒くて働かないやつで、それから逃げるようにここに来たことも聞いていた。


俺にそんなことを話しても仕方ない気もするが、友人に話すには重いし、だがため込むのもつらいので、近所の知り合い程度の俺に話してきたというところだと思っていた。


で、そのあたりの事情を知ってしまって、母親と2人でなんだかんだ苦労しているのを見ると、ミヤもさみしいのかなと思ってしまい、俺のヘタレなのも合わせてあまり強く突っぱねられないのもある。


しかもミヤの母親に、俺を兄のように慕ってるようなので、仲良くしてあげてくれると嬉しいとまで言われてしまってはもう断るのは無理だろう。

俺も1人っ子だし、妹がいたらこんな感じなのかなと思って俺もなんだかんだ甘くなっていた。


「昨日親父がここに来た。それで私のことを借金のかたに500万で売ってきたとか言ってきた」


「まじか」


俺は驚いた。この時代にそんあ現実離れしたことが起こってもいいものなのか。


「それで今日中に500万円もってこないと……、私連れていかれるんだよね……、だから500万円貸してくれない……、なんてね。分かってるよ。大学生のおじさんが500万円持ってるわけないよね。でもいいの、だからもう1つお願いを聞いてほしいんだけど……」


「1人でぶつぶつ言ってるところ悪いが……」


「私のはじめてを……おじさんもらってくれない?」


俺が話を遮ろうとしていると、それを更に遮ってとんでもないことを俺にミヤが言ってきた。


「お前は何を言ってるんだ」


「具体的にどうなるかは知らないけど……私みたいな女の子が売られるってことは……つまりそういう店の汚いおじさんとかの相手をさせられるんでしょ……。私そんなのが初めては嫌だし」


「だからといっても俺ならいいとはならんだろ」


「そ、それはいわゆる消去法だし、おじさんはおじさんだけど若いし小汚くはないし……、いいでしょ」


「あのさ何かを勘違いしてるっぽいが……、俺500万は一応持ってるぞ」


「……え? まじなの? なんでそんなに持ってるの?」


「そのあたりは秘密だ。あとまだ早まるな。俺は500万を持っているといっただけで、出すとは言ってないだろ、さて何をしてもらうか……」


「まさかやらしいことを頼んでくるつもり?」


俺をジト目でで見てくる。


「いや、いやらしいことを頼んできたのはそもそもお前だろうが」


「私は消去法だって、積極的に頼んだわけじゃないもん、それより何をさせる気なの」


「うーん、そうだな、掃除とか家事でもしてもらうか」


「は?」


「ほら、俺は1人暮らしであまりきちんとしてないからな。そのあたりでもしてくれたら助かる」


「ちょっと待って、掃除や家事をするだけで500万って何? まさか俺の体をきれいにしろとかいう掃除の隠語?」


「ちげえよ。普通に部屋を掃除してくれって話だ。なんでミヤの方からそっちに寄って行くんだよ。

1回覚悟決めて脳内がピンク色になったのか」


「それくらいなら普通にやるけど……」


「なんかちょっと残念そうじゃないか」


「べ、別に」


そして俺はミヤに部屋の掃除をしてもらい、夕食を作ってもらった。

ギャルな見た目だが、普段母親のお手伝いをしていることは知っているので、さすがの女子力だった。


「さてと、ここに現金500万があるから、これをとりあえず持ってれば大丈夫だな」


「ほんとにありがと……、こんな大きな恩どうやっておじさんに返せばいいのかな」


「別にいいって、お前のお母さんからミヤと仲良くしてるおかげで、よくお裾分けもらったりするし、困ったときはお互い様ってやつだ」


「……お互い様ね……おじさんは優しいね……んっ」


そういうと俺のほほにミヤが口づけしてきた。


「おい、そういうことはしなくていいって」


「とりあえず……これは前払いってことで、ううん、私がしたかったんだ」


「恥ずいって……」


「ふふ、さっきの500万出せるって顔はかっこよかったのに……。ほんとおじさんはへたれなんだから」


ゴンゴン!


「おい美弥子、ここにいるんだって! 出てこい!」


独特の空気もその乱暴にドアをたたく音と怒号で一気に変わる。


「親父だ……」


「ちょっと俺の後ろにいろ。乱暴されたらいけないからな」


俺はミヤを背に隠して、ドアを開ける。


「あんまりドアを乱暴にたたかないでくれますか。そんなに新品なドアでもないですし、壊れたら俺が怒られますから」


「おお、お前美弥子の男か」


ドアをあけると、いかにもな男がいた。


目つき、顔つきも悪くまるでやくざのようである。本物ではないとは思うが。


「男ではないですが」


「まぁいいや。今日こいつは売りに出すことになってるんだ。さっさと俺に渡せ」


「待って、あなた。私がいくから美弥子を連れて行かないで」


ミヤのお母さんも一緒だったのか。


「うるさいな。お前みたいな年増が500万も稼げないだろうが」


「お前こそ待て、ここに500万はあるぞ。これがあればミヤは連れていかれないんだよな」


「ああ、500万?」


男は俺の差し出した紙袋に入った500万を見て目を丸くした。


「次郎君? こんな大金……」


お母さんも驚いていた。


「へへっ、これじゃ足りないな。美弥子は500万円の借金を返すだけじゃなく、それ以上に稼いでもらってそれを俺がもらうことになってるんだからな」


この人本当に屑だな。


「あんたいいかげんにしろよ。勝手にあんたがいろいろやってるだけでも2人が迷惑しているのに、さらに食い物にして楽しいのか」


俺は基本マイペースに生きていて、怒ったことなどほぼないが、さすがにこれには

堪忍袋の緒が切れた。


「は? お前痛い目に合いたいのか?」


男が俺を殴ろうと手を出してくる。


パァン!


「何?」


だが俺じゃそれを軽く受け止める。


「俺実はこういう荒事に対応するアルバイトをさせてもらってるんだよね。結構稼ぎがいいのもこのおかげだ。それであんたみたいな人もいくつか見てきたが、あんたがやくざじゃないのは一目でわかった。それで、まだやるのか? 今なら500万円持って、この後二人にかかわってこなければ、いろいろ見なかったことにしてやるぞ」


「……ちっ、親不孝者が」


そういって男は500万円ももってどこかに逃げて行った。


「次郎さん! あ、ありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか……」


「いえいえ気にしないでください」


「おじさん……、あの、ありがとう」


お母さんとミヤにお礼を言われる。


「ミヤが珍しくも素直だな、普段からそれくらいだったら可愛げがあるのに」


「べ、別に素直じゃないし、私みたいなかわいい女の子をかっこよく助けられてむしろ気持ちいいでしょ?感謝してくれてもいいんだからね:」


「まぁ普段からいい関係でいたからこそのこういう結果だしな。情けは人の為ならず的なことだ」


「おじさんもどうせかっこよく助けて私がおじさんに惚れるとか思ってるでしょ。私はそんなにちょろくないんだから」


「分かってるよ。別に俺みたいなやつに女子高生が惚れてくれるなんて思ってない」


「ばーかばーか」


ポコポコたたかれたなぜだろう。


「あらあら、仲がいいわね。次郎君、美弥子をよろしくね」


「まぁからかわれるくらいならかわいいもんですからね」


「そうだそうだ、これからもからかわれろ~」


こんな関係が気兼ねなくできるなら500万円は大金ではないかな。




















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