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すきだらけ  作者: 35
7/33

第7話 見分けのつかない双子姉妹VSどんな双子でも見分けられる俺

「やっほー小春ちゃんだよ! お母さんがシチュー作りすぎちゃったんで、おすそ分けに来ました!」


「お、いつもありがとう、小夏の家のシチューはうちでは大人気だから、みんな喜ぶよ」


俺は高井忍たかいしのぶ。お隣の家の刈谷家とは家族ぐるみの付き合いをしていて、この子はその家の女の子の刈谷小夏かりやこなつである。


「むー、ちょっと! 私は小春だよ! このピンク色の髪留めが目に入らないの! 私と小夏は見分けがほとんどつかないから、髪留めで区別できるようにしてるんだよ! ピンクが私で、水色が小夏でしょ!」


「確かに髪留めは小春のだけどさ、それをつけてるのは小夏なんだから、それは小夏だろ」


「もー、私が小春って言ってるんだから、小春でしょ」


「でも……、香りが小夏だし……」


「え? 香り?」


小夏は口元を抑える。別に口臭的な意味で言ったわけじゃないのだが、ちょっと発言が失礼だったか。


「ごめん、別に臭いわけじゃないくて、なんとなく小夏っぽい香りがするんだ」


「むー、ばかー!」



~刈谷家サイド~


「小春ー! また見破られた~、しかも香りがなんか違うとか意味の分からない理由で!」


「何それ! 忍って犬かなんかなの?」


「それより髪留め戻しとかないとね」


「あ、そうだね。お母さんとお父さんが混乱しちゃう」


私は刈谷小夏、さきほど高井家に小春の振りをしていったのは私。刈谷小春かりやこはるは双子の妹である。


私たち双子はとにかく似ている。小さいときから顔も似ていて、好みの髪型、好きな食べ物、癖、趣味、いろいろなものがとにかく同じで、とにかく自然と似てしまう。

そのせいで、いまだに両親すら明確な見分けがつかないのである。


髪留めの色で春は桜色のピンクで、小春はピンク色、私は夏のさわやかな水色の髪留めをつけることで区別している。


小さいころはよくこの髪留めを意図的に交換したりして、どっちだゲームで遊んでいた。


しかし、母親なのに明確な区別がつかないことをお母さんがめちゃくちゃショックを受けてしまったので、家族の前では基本この遊びはしないことになった。


ところが、私たちが5歳のころ引っ越してきた高井家の一人息子である忍という男はこのそっくりな私たちを完璧に見分けることができる。


初対面の時にあっさり私たちを見分けてから、本当に一切の誇張無く1度も間違えたことがない。


「もー本当に悔しい! 1度くらいはぎゃふんといわせたい!」


「わかるよ、1回くらいはあのすました顔をびっくり顔にさせたい!」


「小春の声に寄せて、もう少し細かいしぐさも小春に寄せて……」


「小夏の声に寄せて、もう少し細かいしぐさも小夏に寄せて……」


私たちは基本的に間違えられない方がうれしいはずなのに、なぜか迷走していた。


~刈谷家サイド終わり~


「だーれだ!」


俺が教室で座っていると、後ろから声をかけられて、目隠しをされる。


「声を出したのは小春、目隠しをしてるのは小夏、背中にのしかかってるのも小夏」


「「なんでわかるのよ!」」


「なんでと言われても、手の質感はしっとり具合と胸の感触が小夏だからな。声は少し遠いし」


「手の質感って何?」


「「それより、胸の感触って何?」」


「だって、2人ともよくこういうことしてきて距離感近いじゃん」


「「でも同じサイズだし」」


「感触が違うんだよ」


「「変態か!!」」


「事実だよ」


事実を言ってはみたが、確かに変態感が強い。



~刈谷家サイド~


「私たちでも気づいてないような声や胸の質感まで気づかれてるんだとすると、面と向かっては難しいと思うわ」


今日も小夏と一緒に作戦会議である。


「私のスマホで電話をかけて、それを小夏の耳にあてて、小夏が話をする作戦。これなら、質感もないし、声の距離もないし、香りもないからほぼ私でしょ! さすがにこれならさすがの忍も間違えるって」


お隣さんの忍には電話で話すことはほぼ無い。お互い家に入るのにも抵抗がないため、毎回毎回面と向かって話すことが多い。この作戦ならほぼ前例がないから成功間違いなしのいい作戦だと思う。


「もしもし忍~、昨日私が貸した本明日返してくれる~?」


上機嫌で小夏が私の携帯から電話をする。もちろん着信でばれないよう家の電話にしている。


「え、昨日本を貸してくれたのは小春だろ。小夏からは借りてない」


「いやいや、私は小春だよ。何言ってるの?」


「え、確かに小春の電話だと思うけど、話してるのは小夏だろ」


「「なんでわかるのよ!」」


「勘?」


「「勘怖い!」」


~刈谷家サイド終わり~


「「こんばんわ~、お味噌汁のおすそ分けに来ました~」」


「あ、ありがとう、お味噌汁は珍しいね。2人で来るのも珍しいし」


遊びに来るのは2人が多いが、このおすそ分けは基本的に1人で来る。


それにおすそ分けは主食が多くて、お味噌汁は珍しい。


「今回は2人で作ったんだよ! どっちが作ったかわかる?」


「はい一杯どうぞ」


小春が鍋を持っていて、小夏がお玉とお椀を持っていた。


小夏がいっぱいすくって俺に渡してくる。なぜ玄関で味噌汁を飲まねばならないのか。


「うーん、どっちというか、大根とねぎと豆腐を切ったのは小春で、出汁をとって味噌を入れて味付けしたのは小夏だね」


「何正解してるのよ!」


「グルメ漫画の主要キャラか!」


次の日…


「どうもおすそ分けにきました!」


「さて、どっちがどっちでしょう」


次のひ、おすそ分けは普通だったが、2人は犬の着ぐるみと猫の着ぐるみできた。意図はわからんが。


「犬が小春、猫が小夏だ」


「「なんで間違えないのよ!」


「はぁ……、間違えてもいいの……?」


「…………」


それに対しては特に返答なく2人は帰っていった。


~刈谷家サイド~


「あ~もう、なんで全部わかるの! もしかして私たちが思ってるより、私たちって違いが多いのかな?」


小春と一緒に部屋でうつぶせになる。忍は私たちでもわからないようなことで私たちを区別しているとしか思えない。


「感触とか、香りとか、声ならまだ納得できるよ。でもお味噌汁の配分とか、着ぐるみの中身とまで当てれるのは、もはやエスパーでしょ! うれしいけど……」


「うれしいのはわかるよ……、でも」


「「悔しい!!」」


うれしい気持ちは私も小春も同じ。でも悔しい気持ちも同じ。


「ねぇ小夏……」


「ん?」


「もし私たちが完全に別々の所にいて、2人同時に来てほしいって言ったら……忍はどっちのところに来てくれるのかな?」


「…………どっちだろうね」


それは私も思っていたこと。明確に結論が出る回答。怖い気持ちもあるけど、でもこれくらいしかもう忍を驚かせることはできないかもしれない。


「やってみよ。隠れる場所も教えないでさ」


~刈谷家サイド終わり~


ブー、ブー。


俺のスマホのライン通知が2回連続でなる。


「珍しいな、たいてい面と向かって話してくる2人からわざわざラインで」


俺はラインを見る。


小春からは『私は今どこにいるでしょうか。見つけてください♪」

小夏からは『私は今どこにいるでしょうか。見つけてください♪」


「なんだこれは。よくわからないが……」


俺は少し悩んだ後、立ち上がった。


~刈谷家サイド~


「おなかすいたな……、時間を考えるべきだったかな……」


私はついおなかを押さえた。とはいってもやったことは仕方がない。ただひたすら待つだけだ。


私は近所の第一公園の遊具の中にいる。

小夏は第二公園の遊具の中だ。


第一公園と第二公園は私達の家を中心にそれぞれ反対側に位置している。絶対に同時に来ることはできない。


「どっちのところに来るか実験中なんだから……、あっ」


私の目の前に光がともった。誰か来たんだ。


「おなかすいたな……時間を考えるべきだったかな」


私はついおなかを押さえた。とはいってもやったことは仕方がない。ただひたすら待つだけだ。


私は近所の第二公園の遊具の中にいる。

小春は第一公園の遊具の中だ。


第二公園と第一公園は私達の家を中心にそれぞれ反対側に位置している。絶対に同時に来ることができない。


「どっちのところに来るか実験中なんだから……、あっ」


私の目の前に光がともった。誰か来たんだ。


「お父さん……」

「お母さん……」


私を迎えに来たのはお父さんだった。

私を迎えに来たのはお母さんだった。


「「忍君がここにいるから迎えに来てほしいって」」


「「…………」」


~刈谷家サイド終わり~


ガチャ


「お。お帰り。2人とも遅かったね。今日は俺の家族が出かけてるから、ごはん頂くよ」


俺は小春と小夏を迎える。ただすごく不機嫌そうである。


「「どうして忍が迎えに来なかったの?」」


「はぁ」


俺は一言溜息をつく。


「どっちかのところに行っても……よかったのか」


「うぐっ」

「うぐっ」


2人は涙ぐんで言葉を出さなかった。


「とにかくごはんにしよう。腹が減った。せっかくだからと思って待ってたんだからさ」


「「食べるーー」」


「そういえば忍はなんで私達のいたところが分かったの?」


「そうだよね。あの公園は昔はよく遊んでたけど、最近は行くわけでもなかったのに」


「それは2人がこうしてくることを見越して、発信機をつけておいたからな」


「え?、どこどこ?」


「それはいくら忍でも犯罪だよ! 警察警察!」


「冗談だよ。勘だ勘だ」


「「勘怖すぎ!」」


2人は若干引き気味だった。


まったく人の気も知らないで。


俺が2人の場所が分かったのは、発信機でも勘でもない。


きちんとあのラインのあと直接探し回って、2人の位置を確認して、それを2人の両親に伝えただけだ。

晩御飯の前に走る羽目になって実に疲れた。


2人が俺をどう思ってるかは知らないが、2人とも俺には大切な存在だ。区別はついても平等に接していくのが俺の主義だ。


~刈谷家サイド~


どこか物思いのふける表情の忍を見て、私も小夏もきゅんとしてしまう。

どこか物思いのふける表情の忍を見て、私も小春もきゅんとしてしまう。


私たちにとって、忍はとても大切な存在。

今までもこれからもずっとそうに決まっている。


(ああ、神様……、どうして私達は2人なのに……

忍は1人しかいないのですか?)


~刈谷家サイド終わり~










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