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すきだらけ  作者: 35
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第4話 いろいろこじれている後輩

「俺ずっと三波のことが好きだったんだ!


「え……」


俺の名前は轟真也とどろきしんや。中学校の卒業式の日に精一杯の勇気を振り絞って片思いしていた女子の告白した。


相手は同じ部の1つ後輩の三波美鈴みなみみれいだった。


中学2年生の終わりでも未だに制服が若干大きく見える小柄な体格だが、とても可愛らしい女の子だ。


「ふ、ふーん、ミッドナイトクラクションベイベー先輩が私の事を……」


「そのあだ名は止めてくれと言ってるだろ……」


ミッドナイトクラクションベイベー先輩とは俺のことだ。


真也が、深夜でミッドナイト、轟で車を連想してクラクション、なんとなくベイベーでそうなってるらしい。


長いし反応しづらい。


「はいはい、先輩が私のことをー、へーそうだったんですね~。ちなみにずっとというのは、具体的にはいつからなんですか?」


「えーと、三波が入部してきたときからだけど……」


「へ、へー、つまり初対面から私にメロメロメロンだったというわけですね~なるほどー♪」


三波はちょっとにやけた顔で、話し方も反応も見た限りまんざらでは無さそうだ。

部活以外でも普通に付き合いあったし、付き合ってもいいですよーくらいの返事が期待できそうかな。


と、いう淡い期待を抱いた数秒後、


「無理ですね。先輩と付き合うとかありえないです」


腕組をしてそっぽを思い切り向かれた。


「そのボサボサの髪もぷよんぷよんの醜いボディで告白してくるなんて、どうかしてますよ。ポケ〇ンじゃ、ないんですからね」


おい打ちをかけてきた。


「卒業式だから最後はかっこよく決めてしまおうとか男らしいとか考えちゃったんですか? もう少し現実を見てくださいよ。努力の足りない人とは付き合えませんね、キモイです。中華まんでアンマン食べる人くらい気持ち悪いです」


追い打ちに次ぐ追い打ちに俺のメンタルはゴリゴリ減っていく。

ただ言われていることが大体正論なので、返答できない。


確か三波はあんまんが好きで食べているはずだが、それを突っ込む気力もない。


「ま、まぁそれでも、2年近く親交を深めてきたわけですし、先輩がどうしてもというならもう1回くらいチャンスをあげて「今まで仲良くしてくれてありがとうー」


「ちょ、ちょっと先輩、話聞いてます? まだ話は途中で」


あまりにメンタルを削られた俺は涙が止まらなくて、何も聞こえなくなって走って逃げた。



「うわっ! またあいつの夢見ちまった……」


あのつらい黒歴史から月日が流れ、俺は高校2年生になっていた。


今でもあの日の夢を見る。


あの日の出来事自体はショックだったが、確かに俺は三波とほんの一部の友人しかおらず、ほかのクラスメイトとは話すこともしなかった。それで見た目も気にしなかったし、人付き合いも全く気にせず、勉強や運動に努めることもなかった。


三波に言われたことを真摯に受け止めて、自分磨きを始めた。


体重も落とし、見た目にも気を使って、勉強やスポーツも頑張って、人にやさしく自分に厳しくを意識して、日々を過ごしていた。


それもあって、高校1年生の3学期にもなれば、それなりに友人もいて、クラスメイトとも話せる普通の学生くらいにはなれたと思う。


「あの、私轟くんのことが好きです! 付き合ってください」


そのおかげもあって、女子の友人もできて、告白されるようにもなった。


「今回は…ごめん」


だが、俺から告白するのはもちろん、女子にせっかく告白されたとしても、あの三波事件がフラッシュバックして、尻込みしてしまう。いわゆる三波の呪いである。(俺しかいわゆらないが)


そんな日々を過ごしていた高校2年生の5月、俺のクラスメイトからとある写真を見せられた。


「なぁなぁ。これお前だろ(笑)」


「げ、なんでそんなの持ってんだ」


俺の太っていた中学時代の写真である。今改めてみると本当に太ってるな。


「さっき保健室で俺の後輩がもらった写真をもらった」


「保健室で俺の写真を誰が配ってんだよ。メリットもわからんし」


「なんかこの写真を見せてこの人しらないかって聞きまくってる女子がいるらしいぞ。かわいい子だけど、お前の知り合いか?」


俺が比較的女子の友人ができたのは高校1年生の後半の時期だから、後輩にあまり知名度があるとは思えない。だから、俺の後輩でかわいい女の子となると俺の脳裏に浮かぶ女子は1人しかいない。


だがあの日から俺は三波とは連絡を一切取り合っていない。だから、どうしてかなとも思う。


それにもう五月、あいつの性格からすれば入学してすぐに俺に声をかけてくるだろう。

仮にきまずくてかけてこないなら、そもそも探しにこないだろう。いろいろ中途半端だ。


「いやいやいやいや」


「何一人でいやいや言ってんだ? 気になるならまだ保健室にいるかもしれないから」


「悪いな、ちょっと行ってくるわ」


別に今となってはトラウマな彼女に会いたいわけでもないが、本当に本人ならいろいろ俺が過去と決別して、呪いから逃れることもできるだろう。


それで俺は保健室に向かった。


「とりあえず土下座ですね!」


俺が保健室に入ったら、間違いなくそこには三波がいた。


制服が中学の制服から高校の制服に変わっただけで、他はあの日と変わらない三波がそこにいた。


開口一番不機嫌そうな顔で腕組をして仁王立ちをしていた。


「私の存在に気付いて、自分からここに来たことについては褒めてあげてもいいと思いますが、先輩はふざけているとしか思えませんね」


「ちょっと待て、ほぼ1年ぶりくらいの出会いなのに、何でいきなりキレてんだよ」


「そうですね、1年以上ぶりですね。だから怒ってるんですよ! わかりますよね」


「まったくわからん」


こちらとしてはただ事実を述べたのだが、それが何か気に食わなかったのか、いっそうむすっとした顔で捲し立ててきた。


「ちょっとカッコよくなったからって、話し方もどこか偉そうになって! 先輩、中学の卒業式に私に好きだって告白してきましたよね! 出会ったときからずっと好きだったって言いましたよね! だったらきちんと告白をするのが筋でしょう!」


「え~」


俺告白したよな。むしろあれがトラウマになってるのに。


「私あの日からず~っと待っててあげたんですよ! なのに1年以上会わないうえに連絡すらないとは何事ですか! 信じられませんよ」


「一応聞くけどさ、記憶違いじゃなければ俺きちんと三波に告白してこっぴどく振られたはずだよな」


「仮にもずっと好きだった私に、1回振られたくらいであきらめるとか意味が分かりませんよ」


俺も意味が分かりません。


「それは別にしても、同じ学校に好きな子が入学してきたんですから、会いにくらいは来るでしょう普通は」


「いやだって三波が入学してきたこと自体知らなかったし、俺がここに入学したこと知ってたんだったら、三波が会いにこればよかったじゃないか」


「はぁ? なんで私が」


本当に何を言ってるのかわからないという顔で俺を見てくる。俺も三波が何を言ってるのかよくわからない。


「先輩が私のことを好きなんですよね。私は好きってほどではありません。普通です。嫌いではありませんが、普通です。だから、会いに来るのも告白してくるのも先輩から私に対してじゃないとダメなんです。それなのにこの体たらくなせいで、いろいろ私が小細工をして先輩から来させるようにしなければならなくなったんです。まったくなんで私がこんなことを」


なんというか面倒くさいな。


「じゃあ聞くが、例えば今回俺がお前に告白したら、今回こそは彼女になってくれるのか?」


「ふぇ? か、彼女ですか? えへへへ、あ、いやどうですかね? そうとも限りませんかね」


顔を少し赤くしてしどろもどろになっているが、相変わらず俺を振る気満々だ。


「だったら、告白はしないぞ。俺がここに来たのは三波ときちんとけじめをつけるためだし」


「え」


俺がそういうと、三波は驚きの顔を浮かべて、涙目になる。


「せ、先輩……、私の事嫌いになったんですか……?」


仮にも好きな女の子の涙目顔は反則級である。特に普段強気な三波ならなおさらだ。


「い、いや別に嫌いではないが……」


だからつい甘くなってします。別に嫌いじゃないのは事実ではあるし。


「でで、ですよね! そんなわけないですよね」


俺の返事にどや顔と腕組を取り戻してまた声色も元気になる。

だが、焦りがあるのは見てわかるな。


「なぁ三波、本当は俺のこと結構好きだったりするのか?」


「ちちちち、違いますよ、先輩が私のことを好きなんでしょ!」


「でも、俺のこと1年以上待ち続けてたんだよな」


「ち、ちがっ」


珍しく俺の方が優勢な流れになったので、ちょっと攻める。顔を近づけて頬を手で触る。


「ちょっと素直になれないだけで、実は純情で一途なんじゃないか?」


「にゃにゃ?」


ネコ化した。


「ほーれほれ」


「う、うるさいうるさいうるさーい!」


からかいすぎて怒られた。


「べ、別に先輩のことなんて、好きじゃないんですからね!」


女子の友人ができた今ならわかる。三波との付き合いのあるからわかる。


俺のことが好きなのに決して自分からは告白してこない、だが、俺からの告白も気を付けないと照れて受けてくれない。

そんないろいろこじれてしまった三波だが、彼女になりたそうに俺のことを見ている。


「はは、ありがとな。三波、俺とお願いだから付き合ってくれ」


だから、俺は下手に出る。三波の呪いはなんだかんだ俺がまだ三波のことが好きだからきっと思ってしまうことなのだろう。


「し、仕方ないですね。先輩がかわいそうだから、付き合ってあげますよ!」


2年越しの告白はちょっとややこしい形でかなうこととなった。


「しかし、先輩となんだかんだ付き合うことになるなんて夢みたいですね」


「ふーん、これは痛いか?」


俺は三波の頬を引っ張ってみる。ふわふわもち肌で柔らかい


「あれ? 痛くないです夢ですか?」


「ふーん、じゃあこれは」


俺は三波の頭を乱暴に撫でてみる。サラサラで気持ちいい。


「痛くないです夢ですか?」


「これは?」


俺は三波の腕を思い切りつねってみる。


「…………これは痛いですよ!」


怒られて三波に脛をけられる。確かにこれは痛い夢じゃないようだ。









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