第29話 にゃん・にゃん・にゃん
俺の名前は徳井劉生
平々凡々に学生生活を過ごしている高校2年生である。
ただ、充実していないわけではない。
「ただいま~」
『にゃーん』」
『にゃ~
「おお。お出迎えありがとうミルドレッドにサイモン、今日も可愛いな」
家に帰れば可愛い可愛い猫ちゃんがお出迎えしてくれるからだ。
「よーし、なでなでしちゃうぞ」
『シャー!』
『プイっ』
なでようとすると、ミルドレッドは威嚇してきて、サイモンはそっぽを向く。
そんなきまぐれ猫ちゃんなところも本当にかわいくて仕方がない。
「猫のことをとても大事にしてるのはいいことだと思うんだけどね。猫に鼻を伸ばしてるくらいなら、彼女でも作って女性に鼻の下を伸ばしなさいよ」
「彼女、何それおいしいの」
「あんたねぇ」
「母さん、俺はいつも言ってるだろ。俺は猫がいればいいって!猫万歳!」
「だめだこの子、はやくなんとかしないと」
ちなみに俺は別に人嫌いというわけではない。俺は生まれた時からずっと猫が日常のそばにいたこともあって、猫が本当に大好きなだけなのだ」
そんなある日、猫を今日もかまっていると両親に声をかけられた。
「実は友人の猫ちゃんを一時的に預かることになった」
「猫ちゃん! 歓迎だな。どんな猫ちゃんなんだ」
「とにかく可愛い可愛い猫ちゃんらしいわよ」
「可愛い可愛い猫ちゃん! 楽しみだな」
プライドの高いミルドレッド、気分屋のサイモン、さてこの個性ある2匹と一緒にもう1匹愛でられるのが楽しみだ。
「で、その預かる件なんだが、お父さんとお母さんの友人でな。一緒に旅行に行くんだ」
「へー、つまり?」
「2週間ほどお父さんもお母さんも家を空けるから、猫をよろしくね」
「まぁえらく唐突な話だな。まぁいいよ」
これでミルドレッドもサイモンも併せて3匹を俺1人で独占し放題である。
次の日、朝から父さんと母さんは外出していった。
「そういえばまだ猫ちゃんが来てないけど、父さんとお母さんの友人の人がここに猫を連れてくるのかな」
ピンポーン。
するとインターホンがなった。
「はーい」
しかしドアを開けて俺は驚いた。
「こんにちは」
そこにいたのは、細川由美未
同じ学校に通う同級生だが、直接的な絡みはない。
日本人的な美人なのだが、わずかに入っている外国の血から銀髪の髪を持ち、しかもそれに違和感がないという美少女だ。
その美貌に男子生徒のみならず女子生徒まで虜にし、ファンクラブもあるという噂だ。
しかしその可憐な容姿とは裏腹に、いつも無表情、無口で何を考えているかはわからない。
よく言えばクール、悪く言えば不愛想である。
そんな彼女を俺含め一部の生徒は苦手としていた。目が釣り目な猫目で、きまぐれ猫ちゃんぽさはあるが、関係を持ちたいとは思えない。
一度ぶつかったときに、めちゃくちゃにらまれたこともある。
ほかの人はぶつかっても何もないので、俺は特に嫌われている可能性がある。
そんな彼女がなぜ来たのか。
「どうして細川がここに」
「聞いてないの」
「ああ、もしかして猫のことか」
ということは、両親の友人というのは、細川の両親になるのか。どこでつながりがあるかわからないものだ。つまり細川の家の猫を預かることになるのか。
「は、猫って何のこと?」
「え」
「じゃあ上がるわね」
「え、なに、どういうこと?」
「え、今日からしばらくあなたが私のお世話をしてくれるんでしょ」
「はいいい? ちょっと待ってくれるか!」
「はいはい、じゃあソファで休んでるから」
俺は細川を一応通してから母に電話をする。
「母さん、どういうことだよ!」
「だって、あなた女の子が相手だと嫌がるでしょ」
「嫌がるとかどうとかじゃなくてさ。無理だろ」
「あー、電波が悪いところに来ちゃったわ。じゃあ由美未ちゃんをお願いね~」
ツーツーツー。
なんの説明もしてもらえなかった。
仕方ない、ここは細川を説得して帰ってもらうか。
「徳井君」
「細川、実はさ」
「今日からよろしく」
「はい、よろしく」
きつい口調とクールな表情で当たり前のように言われては逆らえなかった。
こうして俺はしばらく細川の世話をすることになった。
細川の世話というのは、要するに細川に家事能力が全くないため、両親の手伝いをしていた俺ならできるということで話し合われたようだ。細川はどうか知らないが、一応説明は俺にするべきだと思う。帰ったらお給金をもらわないといけないくらいだ。
と、いうわけで、俺はご飯を自分の分と細川の分で作った。
「ど、どう、口に合うかな」
「うん」
「嫌いなものがあったら事前に教えてね」
「うん」
…会話続かねぇ、気まずい。
『にゃーん』
「きゃっ」
サイモンが細川の足に頬ずりした。プライドの高いミルドレッドと比べて、サイモンは、相手を選ぶが人懐っこさはあるきまぐれ猫ちゃんだ。
どうやら細川のことは嫌っていないようだ。
「……ごちそうさま」
「え、もういいの」
「いいわ」
そういって立って離れて行ってしまった。
細川は猫嫌いなのかな。その辺の説明もしておいてくれよ。
細川が離れて行ってしまって、甘え足りなかったのか、サイモンがめちゃくちゃ俺に頬ずりしてきた、可愛かった。
片付けをした後に、1時間ほどサイモンと戯れていたが、いつもならこのくらいの時間に俺のところにくるミルドレッドの姿が見えないのが気になった。
「ちょっと気になるな。サイモン行くぞ」
そういうとサイモンが俺の肩に乗ってくる。今日のサイモンはご機嫌だな。可愛い。
そして各部屋を探していると、俺はとんでもない光景を見つけることになった。
「にゃーにゃー」
『にゃーん?』(首傾げ)
「にゃー」
『うにゃーん』(伸び)
「ああ、もう可愛すぎなんですけど~」
ミルドレッドと細川が戯れていた。
ミルドレッドが可愛いのは同意する。
ミルドレッドはプライドが高いのだが、こちら側が下手にでると、結構サービスしてくれる。
しかし、それ以上に……。
「細川、何してんだ」
「あ、あんたなんで……」
「なんでもなにも……、いつもの餌の時間にミルドレッドが来ないから気になって探してたら、今こうなった」
「のぞき見とか最低じゃん……」
「細川の部屋に来たわけでもないのに、のぞき見とは言わんだろ」
細川は母の部屋で過ごすことになっているが、ここは共有の部屋。鍵がかかるわけでもないので、不用心なのはあっちだ。
「いいから出てって!」
しかし怒られて逆らえなかった。
何を怒っているのかはわからなかったが、しかし女子のプライベート的なところにいきなり入ってしまったところはあるし、一応部屋は閉まっていたのだからノックくらいは必要だった気もする。
そういう反省も込めて、夜彼女の部屋を訪ねた。
「ええとさっきは悪かった。ちょっと気づかいが足りなかった」
「ううん、私も怒りすぎた。ごめんね……」
よかった。落ち着いてくれてるみたいだ。それにきちんと謝れる子なんだな。今度少し安心できる。
「じゃあ俺はこれで」
「ちょっと待ってお話したいことがあるの」
「え」
そういわれて、俺は細川の部屋に入る。
細川の部屋とは言っても母親の部屋だ。
ただ、なぜか細川の香りがしてちょっとドキドキする。同じシャンプーのはずなのだが違う香りにしか感じない。
「見られちゃったから白状するけど、私猫が大好きなの」
「あー、そうだろうね」
さっきのを見たらだれでもわかる。
ちなみに俺はサイモンを膝にのせてゴロゴロして、細川はミルドレッドをなでなでしている。
「猫はもちろん可愛いものは大好きなんだけど、キャラに合わないから隠してて、さっきは動揺して怒っちゃった。ちょっと前にぶつかったときも、あなたのカバンについてた猫の可愛いキーホルダーを睨んじゃってごめんね」
「そういうことだったのか」
いろいろつながってきた。
「それで本題なんだけど、あなたも猫大好きなんでしょ」
「もちろんだよ」
「それなら今日は朝まで猫の魅力について話し合いましょ!」
「え」
「いいでしょ、お願い」
「でも朝までは長いし」
「じゃあ1時間で」
「それなら」
さっきまでの怖いからではなく、目をキラキラさせて楽しそうなので、違う意味で断れなかった。
しかしちょっと心配だった。いくら猫の話とはいっても、今日までまともに話していたわけでもなかったし、食事の時も気まずかったからだ。
しかし1時間後~
「本当に猫ちゃんって尊いよな~」
「そうよね~、猫ちゃんはきっと神様が私たちにくれた天使様なんだよ」
「納得だね」
「でしょ~」
しかし人間というのは好きなもの同士の話となると永遠に話が続くようで、簡単に仲良くなれるようだ。これなら今後の生活にもなんの懸念もない。
「徳井くんは本当に猫が好きなんだね」
「ああ、俺の夢は猫ちゃんと結婚することといっても過言ではない」
「へー、って結婚」
「ああ、というか絶対にかなえる! 俺は猫ちゃんをお嫁さんにもらう!」
「そうなんだ」
「あ、もうこんな時間だ。じゃあお休み」
最後に言いたいことを言って部屋に戻った。
眠くて最後は細川の顔を見てなかったが、少なくとも否定をしてこなかった細川はいい子だな。
ちょっとシャイなだけなんだろう。色々安心した。
そして俺は眠りについた。
そして、深夜胸元あたりに少し重みを感じた。
これはミルドレッドかな。あいつはプライドが高いのだが、寂しがりやで基本的にだれかと一緒に寝ている。両親がいない以上は俺しかいないので、ここに来る可能性が高いことはわかっていた。
「ほらおいで、ぎゅっとしてあげるから」
すると布団が動く。しかしちょっと重たいような。
「にゃ~ん」
そこにいたのはミルドレッドではなく、細川だった。
それを認知した途端、俺は動揺した。当たり前だ。
「何をしてんの?」
「にゃあにゃあ」
うわ可愛い。もともと猫目で手を猫のポーズにしてるので、本当に猫ちゃんみたいだ。
じゃなくて、
「とにかくちょっと離れて、いろいろ当たってる」
細川はスタイルが抜群なので、柔らかいものが色々俺に当たっているのだ。
「にゃあ~」
離そうとすると困り眉ですごく寂しそうな顔をする。それでは突き放せないじゃないか。
「と、とりあえず一緒に寝ればいいのか」
「にゃあ!」
そして俺に添い寝のような形で俺の横で寝る。
満足げな表情で寝ているのはいいが、一体全体何が起こっているのかわからない。
そして次の朝、起きると横には誰もいなかった。
「細川おはよう」
「ああ、おはよう」
特に細川に変わった様子はない……、あ、なるほどあれは夢か。猫の話を細川としたから混ざってあんな夢を。いかんな俺は。
俺は反省したが、しかし夜になると……
「みゃあ~♪」
また俺の布団にきて一緒に寝る、今日は一応夢か疑ったが、さすがにこれは現実だった。
しかし意図が……、あ、なるほどこれはきっと俺にお世話になっているお礼か。猫の真似は俺がそうすると喜ぶから、なるほど、なんてうれしいことを。だったら俺も受け入れよう。
俺が普通に受け入れるようになると、細川のお礼(?)がエスカレートしていった。
「ミルドレッド!」喉ナデナデ
『なー』
「サイモン」腰ナデナデ
『にゃーん』
「……細川」頭ナデナデ
「うにゃーん」
ミルドレッドとサイモンと同じくらい、俺に対して夜以外も普通に猫で甘えてくるようになってきた。
その可愛さたるや本当に2匹にも劣らない。俺は毎日胸を高鳴らせていた。
そんなこんなで2週間。今日で細川のいる生活も終わりだ。
なんだかんだで楽しかったので、寂しくも思う。俺は今日はミルドレッドをなでなでしていた。
ミルドレッドはこちらが弱っていると慰めに来てくれる。この子のプライドの持ち方は本当にいい持ち方だ。
「ねぇねぇ」
すると後ろから細川が話しかけてくる。もう最後の方は話すときずっと猫語だったので、普通に話しかけられるのがむしろ新鮮だ。最後の日だからその辺はけじめをつけるのかな。
「ああ、な……んだその恰好は」
「どうかな?」
細川は猫耳で、長い髪をツインテにしてメイド服だった。
情報過多が過ぎる。
「どうかなというのは……」
「徳井君が好きかと思って」
「いや……」
これは好きすぎる。大好きです。
「ほらほらよく見てにゃん。猫耳だよ。似合ってないかにゃ?」
上目遣い+猫ポーズ+首傾げ。あまりにも強力すぎる。
「すごく似合ってて可愛いけど」
「にゃーん」
そういって俺に抱き着いてくる。柔らかい感触で理性が飛びそうになる。
「ご主人様うれしいですにゃん、私を可愛がってください」
「かわいがるって、どうすれば……」
「ナデナデでも、キスでもそれ以上のことをしてくれてもいいですにゃん」
「いやいや、ナデナデはまだしもそれ以上って……」
「…………」
すると細川が俺から離れる。
「そっか、そうだよね」
あれ口調が戻って、まぁわかったならいいか。
「……私じゃダメなんだね」
「ダメって何が」
「私、徳井君のことが好き……」
「え、俺のことを……冗談じゃなくて……」
「本気だもん、だからこの一緒に住んでる間、ずっとアピールしてたでしょ」
「つまりずっと猫ちゃんで甘えてきたのがもしかしてアピール的なそれ?」
確かにまったく思わなかったわけではないが、いろいろ逆に思えなかった。
「そうだよ、徳井君は全然気づいてなかったんだね」
「まぁ俺は地味なやつだからな。細川みたいな学園のマドンナに好かれてるなんて思えなくてさ」
「接点も今回はでほぼなかったもんね」
「そうだよ、だからなんで俺のことを」
「……1年くらい前に猫を助けた覚えがない?」
「猫?」
「車に弾かれそうな猫を助けてたでしょ」
「……ああ、覚えてる」
下校中に可愛い猫ちゃんだなって眺めてたら、思い切り交差点に飛び出したので、後先考えずに道路に飛び出したことがある。
あの時は俺が車の運転手に怒鳴られたくらいで、俺も猫にもケガはなく、用事があった俺は猫を近くの通行人に預けてその場を去ったのである。
「あの時の猫ちゃんね。アリーっていうんだけど、私の猫ちゃんだったの」
「まじか、そんなことが」
「あの時目を離したアリーを追いかけて、交差点についた時にはあなたが助けて近くの人に預けた後だった。でも顔は見えてたから覚えてたわ」
そしてその後俺にお礼を言って話がしたかったらしいが、恥ずかしくて言い出せなかったらしい。
それを細川の両親に細川が相談、そして仲のいい両親同士でこの話が共有されて、今回の話になったらしい。全部準備されていたのか。
ちなみに旅行にはいっておらず、全員今は細川家にいるらしい。
「あの時アリーを助けてくれてありがとう」
「いや、猫を俺が助けないわけがないから、お礼なんかいいよ」」
「それにこの2週間ごめんなさい。好きでもない女のお世話大変だったよね」
泣きながらうつむく細川を俺は撫でる。
「え……」
「全然いやなんかじゃなかったよ。楽しかったし癒されたし……、こんなにドキドキして一緒にいたいなって思ったのは、細川が初めてだよ。猫と同じくらい……それ以上に好きだ」
「!!」
「俺にもっと細川の世話をさせてくれ!」
「ふふ、変な告白……でも喜んで!」
こうして俺の生活は一変した。
細川はなんと学校でも完全に甘えてくるようになった。
クールな細川に何があったのかと俺は質問攻めにあうことになった。
学校では人としての細川が甘えてイチャイチャしてくることをうらやましがってくる男子生徒も多いが彼らは知らない。
「にゃん!」
家で猫になって甘えてくる細川が何よりも可愛いことを。




