第24話 狭い空間のつり橋効果
俺の名前は及川勇
とある食品メーカーに勤める会社員で今日は古い倉庫の整理をしている。
上司命令で資料を探していて、どうもここに必要な資料があるらしいのだが、いかんせん普段から掃除をしていないのか埃がひどい。
まったくここにある程度必要な資料があることがわかってるならある程度整理整頓もしておけばいいのに。
まぁ俺も人のことは言えないが。
正直見つかりませんでしたと言って戻りたいくらいなのだが、そういうわけにもいかない理由がある。
ここで作業をしているのが俺だけではないからだ。
「及川さん! 見つけましたこれじゃないですか!」
一緒に探しているのが、菅田桃子さん。
俺の後輩の女子写真である。ショートカットが似合う真面目で明るい女の子だ。
「菅田さん、この中から見つけたんですか?」
「ええ、散らかっているように見えて必要な資料自体はきちんとまとまってます。最初に整理をした方にはわかるんでしょうね、全員にわかるようにはなってないですけど」
「なるほど」
「それより早くここから出ましょう。マスクをしてても埃がひどくてむずむずします」
しかし本当にいい子だな。
俺は正直この菅田さんに惚れている。
丁寧な仕事、人当たりの良さ、可愛い容姿、こんな子か彼女だったらいいなとよく思う。
まぁこれだけ可愛い子なので、狙っている男性社員は多い。俺は平々凡々だから難しいかなと思っていた。
倉庫のあるところは俺たちの会社とは別オフィスのため、今ここには俺と菅田さんしかいない。
「早く会社に戻りたいですね」
「そうですね」
もちろん菅田さんに他意はないだろうが、せっかく2人切りの時間なので早く戻りたいという言葉にはちょっと複雑さを感じてしまう。俺はめんどくさい男か。
「早く帰って自分にご褒美上げたいな~ 甘いものとか食べたいです~」
「俺もコーヒーでも飲みたいな」
うーむ、可愛らしい。甘いものと菅田さん非常に絵になる。
ここで誘ったりできない俺はヘタレである。
「さてと、エレベーターで1階を押してと……」」
この倉庫は8階にある。当然エレベーターを使うことになるので俺はボタンを押す。
カチッ、カチッ。
「あれ?」
「どうしたんですか」
「なんかボタンが作動しなくて、ドアは閉まったんだけど」
普通にエレベーターが8階に来て、ドアが開いて中に入ってドアが閉まるまでは完全に正常だったのだが、急にボタンがすべて消えてしまった。
「え、またまたぁ、及川さんそういう冗談はやめてくださいよ」
「いえ、本当にどこもついてなくて、まったく反応もなくて……」
「で、でも私たちこのエレベーターで上がってきたわけですからおかしいじゃないですか」
なんか菅田さんがいつもより慌ててるな。普段はどちらかといえばマイペースでおっとりしてるのに。
「まぁそれはそうですが、とりあえず階段で降りることに……、ドアも開かないな」
「え……それってつまり、及川さんと2人きりでエレベーターに閉じ込められちゃったってことですか!」
すごく不安そうで嫌そうな顔で言われた。
いや、状況が状況だから不安で嫌に決まっているのだが、俺と2人切りなのが嫌みたいなニュアンスにも聞こえるのでちょっとショックである。俺はめんどくさい男か。
「大丈夫でしょう、こういう時にエレベーターには外部に連絡できるボタンがあるはずですから」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
それにしてもなんか菅田さんに落ち着きがない。呼吸が荒くなってきているし、調子でも悪いのか。
「す、すいません及川さん、お願いが……」
「なんですか」
「ちょっと腕を組ませていただいていいですか」
「え、ええいいですが」
そういうと菅田さんは俺の左腕に両腕で組んできた。いわゆる腕を組んでいるカップル的な状況で、菅田さんとの距離も近いのでドキドキしなくもないが、菅田さんが本当に不安そうなので、俺はとにかく非常ボタンを連打した。
「うーん、反応がないので、正常に作動してるかわからないな」
「こういうのって24時間対応しているものじゃないんですか?」
「いえ、必ずしもそういうわけでもないらしくて、契約でただ連絡が管理人にいって、その管理人から連絡をしないといけないパターンもあるらしくて」
「そ、それはつまり……管理人さんがいないと連絡がいかないってことですか」
「まぁそうなりますけど……、菅田さん、ちょっと俺の腕に抱きつく力が強くなってますが大丈夫ですか」
「は、はい、私実は狭いところが苦手で……」
「えー!? でしたらエレベーター駄目じゃないですか」
「苦手とはいっても、ちょっと息を止めていて、目を閉じてれば大丈夫なので」
「それは厳しいのでは……」
とにかく、このままじゃ菅田さんがかわいそうだ。この状況は嫌ではないが、すぐにでも会社にスマホで連絡をしよう。
フッ!
「きゃああああ!」
エレベーターの電気が急に消えて真っ暗になった。すると菅田さんは腕どころか、俺に真正面から抱き着いてきた。
ああやわらかい……ではなくて。
「ごめんなさい! 私暗いのもダメなんです!」
「菅田さん離して! 携帯落とした!」
菅田さんに思い切り抱き着かれた衝撃で、スマホを落としてしまった。これでは連絡が取れない。
「嫌です! 及川さん、どこにもいかないでください!」
「この状況ではどこにも行けませんから! とにかくスマホ探す間だけでも離してください!」
「ごめんなさい私が悪いんです! ここに必要な資料があることは今日休みの先輩から聞いてて、でも探しましょうって言って、しかも及川さんに手伝ってほしいって上司に押したの私なんです! だからバチが当たったんです! 及川さんと2人切りになれたらいいなって思ってすいません!」
なんか動揺して全部色々話してるけど、えらいことを言ってないか。
「ちょっと距離が縮まったらいいなとか考えてごめんなさい」
菅田さんもしかして俺のことを
「閉所恐怖症で暗所恐怖症なのに、2人で密室で過ごす妄想なんかしてすいません」
俺のこと好きじゃーん!
パッ。チーン。
菅田さんの懺悔(?)が通じたのか、急に電気がついてエレベータが動いた。
1階を降りたところで2人で出たが、思い切り気まずい空気が流れていた、
「で、では会社に戻りましょうか」
「は……はい」
「あ、あの。俺はバチが当たったとは思いません。むしろ神様からのプレゼントだと思ってますよ、俺も菅田さんが大好きなので、あんな形ではありますが、気持ちを聞けてうれしいです」
そして、俺は小菅さんとお付き合いができることになった。
ちなみにあのエレベーターはきちんと点検もしていて、あの倉庫ができて以来一度も誤作動をしたことはなかったらしい。
これはエレベーターの神様がいてくれたかな?




