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すきだらけ  作者: 35
23/33

第23話 お見合いは第一印象が大事

俺の名前は遠藤岬(えんどうみさき


とある出版社に勤める25歳である。


ただ平凡ではない。


勤めている出版社が小さいのだが、俺の実家遠藤家は由緒ある旧家なのだ。


「悪いね送ってもらっちゃって」


「ううん、政樹のためなら全然」


「じゃあね」


俺が家の前に来ると、ちょうど車が止まっていてそこから1人男が下りてきていた。


「おお、岬、お前も今帰りか」


「ああ、政樹兄さんもか」


彼は俺の兄の遠藤正樹えんどうまさき


俺の兄はコミュ力が高くて、頭もファッションセンスもよく、俺とは雲泥の差がある。


日本トップクラスの大学卒業後に金融会社に就職して正にエリート街道を進んでいる。


「さっきのは彼女」


「まあな。まぁお前にはいないもんな」


顔こそ兄弟なのでそっくりだが、やはりさわやかな兄は当然モテる。


「おかえりなさいませ、政樹様、岬様」


使用人の人が出迎えてくれる。


一応同じように接してはくれるが、兄と比べて大学も就職先も平凡な俺は若干この家では肩身が狭い。


特に兄は俺を露骨に見下していて、よく使い走りみたいなこともさせられる。逆らうと面倒なのでしたがいはするが。


「で、兄さん今日は何?」


今日も部屋に呼び出されていた。


「実はさ、さっき親父に見合いの話をされてさ」


「まぁ遠藤家だからな。兄さんもその辺は大変だな」


長男である正樹兄さんの方がこういうしがらみ的なことも多い。そこだけは同情しなくもない。


「お前さ、代わりに行って来いよ」


「は?」


「俺さ、美人のホステスの彼女いるからさ、見合いとか面倒なんだよ。どうせ顔は一緒だからお前が言ってもわからねぇよ」


「いやだよ、兄さんのお見合いだろ。後々面倒なことになったらどうするんだろ」


「その辺は俺がどうにかするから当日だけなんとかしろ」


結局兄に押し切られてしまった。


実際気分屋な兄には両親ですら強く言うことができないのだ。俺は猶更だ。


~見合い当日~


「おい、何で岬が来てるんだ。政樹はどうした」


父が見合いの席で俺を見て驚く。


「兄さんはいつものあれだ」


「まったくあいつにはあとで話すとして、来なかったでは本当に済まされない。浜本家のご令嬢だ。岬、お前は最低限相手を不快にさせないことに勤めろ。いいな」


まぁ代わりだから当然といえば当然なのだが、俺への期待が全くない父の言葉にもちょっと俺のこことが痛む。


「失礼します。浜本家の方お見えになりました」


「初めまして、浜本仁美はまもとひとみと申します。本日はよろしくお願いいたします」


(か、可愛い……、この人が兄さんのお見合い相手……)


正に可憐と大和撫子を絵にかいたような清楚なお嬢様だった。

声も落ち着きがありながら可愛らしく、俺は一発で目を奪われた。


そのあと、俺の両親交えて話をしていたのだが、俺は何を話していたかよく覚えていない。


ただ俺が緊張していても、俺の顔を笑顔で見つめてくれている聖母のようなやさしさも感じていた。


「いやぁ気に入っていただける相手はたくさんいたのですが、いろいろあってなかなか娘は良縁に恵まれなくてですね」


「ははは、娘さんを持つ親は大変ですなぁ」


この会話くらいは覚えていたが。確かにこれだけ完璧な仁美さんがなぜ結婚していないのかは少しだけ疑問だった。


その後いわゆる若い2人だけになって2人で庭を歩いていたが、まったく話題がなかった。


「あ、あのーいい天気ですね!」


という一番駄目な話題が最初に出るくらいだった。やはり俺は兄さんと違ってコミュ力不足だ。


「ふふ、そんなにご緊張なさらないでください。ゆっくりお話をしましょう。政樹様はどのようなご趣味をお持ちなのですか」


しかしそれでも優しく俺に話題を振ってくれた。


「はいありがとうございます。読書が趣味です。小説が好きでして」


「まぁ、わたくしもですわ」


「あ、そうなんですか」


屋内系の趣味みたいに思われなくてよかった。でも確かに仁美さんの読書姿は絵になりそうだ。


「ええ、どのような本がお好きなのですか? 最近はみたらし刑事の推理シリーズを私は読んでますわ」


「ああ、俺も読みましたよ。あの独特のトリックと奇想天外な動機が見どころありますよね」


「はい、読んでいて引き込まれます。同じ作者の人食いパイプオルガンも好きですね」


「それもいいですね。少し古い作品ですけど、俺も人に勧めてます」


「ええ、私は本を読むことはなかったんですけど、当時テレビで好きな小説をプレゼンするブックバトルっていう番組を見て、それでこの作品を知ってからこの作者さんに惹かれたんです」


「へ、へーそうなんですね」


「そういえば当時この作品のプレゼンで優勝した方も遠藤さんでしたね」


「え、ええ、まあ遠藤という名前は珍しくありませんから」


「そうですね。それよりももっとお勧めを聞いてみたいですわ」


仁美さんがとてもいい笑顔で俺と話してくれる時間は幸せだった。


でもその呼び方はずっと『政樹様』であった。そう、あくまでも仁美さんの見合い相手は政樹兄さん。俺の名前が呼ばれることはないのだ……


「よぉ岬、うまくいったか」


その日の夜に、政樹兄さんに声をかけられた。


「ああ、父さんは大丈夫だったのか」


「俺がいろいろ言っといた。心配することじゃない。どうした浮かない顔をして」


「ああ、実は見合い相手の仁美さんに、日曜日にも会いたいとデートに誘われたんだ」


「おいおいそんなわけがないだろう、お前が見合いをしてそんな風になるわけないだろう」


「本当だってば」


「へー、確かに連絡来てるな。この子が見合い相手か」


「ああ、記念に写真撮りたいっていってくれたから」


「へー可愛いじゃん。じゃあ日曜日のデートは俺が引き継ぐわ」


「え? 兄さん見合い嫌だったんでしょ。それに彼女いるわけだし」


「いいんだって、結婚するまでは恋愛は自由だ。じゃあご苦労さん」


その日の夜俺はいろいろな感情が渦巻いてなかなか眠れなかった。




~日曜日~


今日は兄さんと仁美さんのデートか。


確かに兄さんの方がずっと俺よりは優秀だ。


でも兄さんには本命の彼女がいるわけだし、それで仁美さんが傷つくかもしれない。


それはやっぱりよくない。仁美さんの幸せのためには俺が多少傷つくとしても……


ガッシャーン!!


「な、なんだ!」


入口からガラスが割れるような音がした。

俺は急いで玄関に向かった。


「ひいい、鬼が……鬼がいる」


鬼? 何かの例えか……。


玄関にいたのは仁美さんだった。


昨日と変わらず清楚可憐な和服を着てはいたが、オーラが出ていた。


「遠藤様……、私は政樹様とのデートをご所望いたしましたはずですが……、このような別の男を差し向けてくるとは……、浜本家を馬鹿にされているのですか!」


「え、仁美さんですか」


いつも威厳のある父さんも、あまりの鬼気迫る表情にたじろいでいた。

そして片手で兄さんを引きづって、そのまま玄関に投げ捨てていた。


「政樹様はどこですか! 私はあの方とお話をして、お出かけをして、そして結婚をしたいのです!」


「仁美さん、ど、どうも」


「あ、政樹様♪」


俺を見た途端に完全に昨日の仁美さんだった。


「あ、あれ鬼がいたような気がしたが……、目の錯覚か?」


「すいません。実は大変失礼ながら、昨日は兄の代わりにお見合いをしまして、そちらが政樹兄さんで俺は岬って言うんです」


俺は頭を下げた


「岬様……お顔をお上げください。あなた様でしたのね。遠藤岬……、昨日改めて受賞者の方のお名前を確認してわかりましたわ。岬様は私に本の世界をくださった大事なお方。その方とご縁をいただけたことがうれしいのです。ぜひ私をいいお付き合いをさせていただけませんか」


「仁美さん……」


仁美さんが俺の名前をよんでくれていることがとてもうれしかった。


こうして俺は仁美さんと結婚をすることになった。


仁美さんと結婚をして俺は仕事も生活もうまくいくようになり、幸せだった。


ただ、時々あの日のオーラを纏った仁美さんが垣間見えるときがある。

どうも本当にキレた時のことが原因でお見合いが失敗していたようだ。


「政樹様は岬様のことを悪く言われていて非常に不快でしたわ。もし岬様が我慢できないことがありましたら、いつでもおっしゃってくださいね。消しますから」


「いえ、大丈夫です」

ちなみに兄さんは仁美さんにビビッて俺に一切近づいてこなくなって、その点でも俺は平和になった。



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