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すきだらけ  作者: 35
22/33

第22話 親子連れを助けまして

俺の名前は如月一誠きさらぎいっせい


大学の友人との飲み会ではしゃぎすぎて思い切り終電を逃したため、近所のファミレスで時間をつぶしていた。


午前2時から午前5時まで3時間くらい適当な品とドリンクバーで過ごしていた。


しかしこの時間というのは次の日が休みとはいえあまり人はいない。

いるとすると俺と同じくらいの年齢だが、1組ちょっと異質なお客さんがいた。


若そうなお母さんと小さな子供がいたのだ。


小さい女の子を抱きかかえて寝かしつけているが、俺と同じ時間くらいに入店して、最初に一品頼んでそれを子供に与えてからは一切注文をしていない。


これだけならそこまでは気にしないが、見た目もかなりくたびれていて、しかも母親がずっときょろきょろして挙動不審なのである。


ちょっと酒の残った勢いもあり、おせっかいかなとは思いつつも声をかけた。


「あのー、いらんお世話だったらすいませんが、大丈夫でしょうか」


状況がわからないので、漠然とした質問になってしまった。


「うう……すいません、私、お金を持っていないんです」


すると表情が崩れて泣き出しつつ、現状を話してくれた。とりあえず、不審者みたいに思われなくてちょっと安心してたりする。


「すいません、この子にここ何日かきちんとした食事を与えてあげられなくて、泣きじゃくるこの子がどうしてもかわいそうになって……」


どうも訳ありのようだ。改めてみると、本当にボロボロである。俺が考えることでもないが、母親が無銭飲食で捕まってでもしまったら、この小さい子供がどうなるのかもふと気になってしまった。


「……すいませんおせっかいですが、一緒に出ましょうか。あと15分くらいで電車も出ますし、ここは俺が出しますよ」


そう言って俺はお母さんの伝票を取る。


「え、でも……」


「いいですから、俺バイト代入ったばかりで、ちょっと昨日飲み明かして気分もいいので」


後ろから静止の声が聞こえたが、俺は気にせず払った。めちゃくちゃかっこつけているが、一品しか頼んでないあの家族のお会計は480円である。480円で不幸が一つなくなるなら、おせっかいもいいもんのだ。


「あの、本当にありがとうございました……」


一緒に店を出た後に、めちゃくちゃ頭を下げられた。金額が金額なだけにちょっと逆に申し訳ない。


「いえいえ、金額が金額ですし」


「それでも……見ず知らずの私に新設にしていただけるなんて……とてもうれしかったです」


「……それではおせっかいついでで聞いちゃいますが、この後行く宛はあるんでしょうか」


「……」


「今はいいですけど、またお子さんもお腹が空くでしょうし、お母さんのことも心配です」


「それは……」


「あの、本当に余計なお世話かもですが、うちに来ますか。娘さんが安心して寝るくらいの場所はありますよ」


「いえ、そこまでお世話になるわけには……」


「一切変な気持ちで言ってるわけではないですよ。本当に心配なだけで」


「いえ、そういうことではなくて……初対面の方にそこまでお世話になるわけには……」


「ああ、とりあえず名乗りますね。俺は如月一誠と申します」


「ああ、これはご丁寧に……、私は都築真凛つづきまりんです。この子はマオです」


「真凛さんに真央ちゃんですね。とりあえず俺の家に来てください。少し休む程度ならいいですよね。お二人とも休憩したいでしょうし」


「…はい」


「お体もお洗いになられた方がいいと思いますので、あ、変な意味ではなく」


「……すいません、お言葉に甘えさせてください!」


ちょっと突っ込みすぎかと思ったが、受け入れてもらえた。正直ファミレスにいた時から若干匂いもきになってはいた。


真凛さんの分の切符も購入して、帰宅のための電車に乗る。


「5駅先でおりますので」


「はい……」


「むにゃむにゃ……、ママ……、え、お兄ちゃんだあれ?」


「マオちゃんおはよう、俺は一誠って言うんだ」


「イッセー? イッセー、マオ何か食べたい……」


「こらマオ!」


「はは、俺の家に来たらお菓子をあげるよ」


「イッセーの家に行けるの? 屋根のあるお部屋にいけるの」


「マオ! すいませんすいません」


「うん、部屋もベッドもあるお部屋だよ」


「よかったねぇ~ママ、お外で寝るのは寒いもんね」


「……本当にすみません……」


「謝らないでください……」


マオちゃん言葉に心が揺れた。訳ありの中でもかなり訳ありのようだ。


「ではとりあえずマオちゃんを寝かせますね」


「すいません、電車を降りた後くらいからマオを抱っこしていただいて」


「いえいえ、本人から抱っこ指令がでてしまいましたので」


マオちゃんは俺の何が気に入ったのかは知らないが、電車から降りるときに積極的に俺に抱っこをせがんできたので、俺が抱っこしてきたというわけだ。


「マオ、一誠さんから離れてベッドで寝ましょう」


「やーなの……、イッセーあったかいの、イッセーがベッドなの~」


あったかいのはマオちゃんである。そしてむちゃくちゃ可愛かった。


なんとかマオちゃんを寝かしつけて真凛さんから話を聞いた。


簡単に言うと、真凛さんの旦那さんが不倫をして、それに対して逆切れをして、離婚届を無理やり書かせた上に、無一文で2人を追い出したらしい。


「何とか財布が入ったポーチだけはぎりぎりつかんだんですが、クレジットカードは旦那が持っていまして、母子手帳だけでもなんとかキープできたのが幸いでしたが……」


しかも真凛さんは施設育ちで天涯孤独、旦那さんはそれをいいことに弱みにつけこんで真凛さんをこき使った上に捨てたという話だ。


「……では真凛さん、真凛さんには頼れる人はいないんですね」


「はい、出身施設は遠くて、旦那についてきただけですので」


「すいません、本当に差し出がましいことなんですが、うちの実家で働いてみるのはどうですかね」


「え……」


「うちの実家仕出し屋なんですが、女性の働き手が基本的に不足していて、先週もいくらいても困らないって言ってたので」


「とてもありがたい申し出なんですが、私は高校も出ていませんし、天涯孤独で、しかも今日お会いしたばかりなんですよ……、本当に大丈夫なんですか」


「いえ、俺はファミレスでマオちゃんの分だけを頼んで自分は一切手をつけなかった真凛さんはとてもマオちゃんのことを大事にしてるのを感じましたので、それだけでも信用に値します」


「……私は立派なんかじゃないです……、旦那にもいつも無能と言われていて、マオにもお前と同じで無能な大人にしかならないって言われ続けてまして……」


「いえ、俺は真凛さんのことを知ってるわけではありませんが、立派なお母さんということだけはわかってますよ」


「すいません、すいません……」


真凛さんも身だしなみを整えて、マオちゃんと一緒に寝息を立てはじめた。


安心そうに寝ている姿に俺も安心した。


俺はその間に実家に事情を説明したら、とりあえずあってみたいという話になったので、次の日に真凛さんを実家に連れていくことになった。


「はじめまして、都築真凛です、この子は娘のマオです」


「あらあら可愛いお母さんと娘さんね。おいくつかしら?」


「はい、私は26歳で、マオは4歳です」


そういえば年齢聞いてなかった。真凛さんまだ若いんだな。


「ちょうどいいタイミングだったわ。つい最近住み込みで働いてた人がやめちゃったのよ」


「そうだな。働いてくれるならぜひお願いしたい。部屋はちょうど入れ替わりに使ってくれればいい」


「本当によろしいんですか……でもマオは……」


「大丈夫大丈夫、保育所を探すのはお手伝いするし、それまでは小さい子供が大好きなおばあちゃんが面倒を見てくれるから」


「何から何まで本当にありがとうございます」


それ以降の手続き的なことはよくわからないが、正式に真凛さんは俺の実家の仕事を手伝うことになったようだ。


何度も頭を下げる真凛さんを俺の両親も心配そうに見てはいた。


そのあと、俺が1人暮らしをしているところに戻って数日、母から浮ついた電話がかかってきた。


「真凛ちゃんね、とってもいい子よ。すこしおどおどはしてるけど、素直で一生懸命でみんなからも好評よ」


「それは何よりだね」


「マオちゃんの保育園も決まりそうよ。あ、マオちゃんもお電話したい?はい」


「イッセー!」


「マオちゃん、元気そうだね」


「うん、いっぱいご飯食べられて、あったかいお布団で寝られてる、おばあちゃんも優しい、でもね、マオイッセーと遊びたい!」


マオちゃんは非常に癒された。


マオちゃんが会いたいとは言ってくれてるが、むしろ俺が会いたくて、実家に週末帰省するようになった。


おばあちゃんもマオちゃんにデレデレで、俺が帰省するとマオちゃんが俺にベタベタになるので、おばあちゃんから嫉妬されて無駄に修羅場が発生することはあったが。


真凛さんもすごく元気になっていって、顔色が安定してきた。

いい環境で仕事ができているようだ。


「父さん、いろいろありがとう。それでさ、1つだけ気になってるんだけど、真凛さんの旦那さんから、慰謝料とかとれないのかな」


父さんに気になっていたことを聞いてみた。


「俺もそれは気になってた。知り合いの弁護士に聞いてみたが、とにかく証拠が必要らしい。だが、

急仮に日記とかを取っていたとしても急に追い出された真凛さんに証拠的なものがあるか……」


「あの、追い出された日から、ずっと旦那と不倫相手からメールが送られてくるんですが、これは証拠になりますか?」


真凛さんが話に参加してきて、スマホを見せてくれる。


そこには真凛さんを追い出してからも、毎日のように相手から自慢、もとい自爆のメールが送られてきていたし、何なら追い出される前の完全に不倫期間のメールも残っていた。


「なんだ、しっかり証拠があったのか。これなら余裕じゃないか。知り合いの弁護士に話してみる」


父さんがすぐに連絡を取ってくれることになった。


「それにしても、わざわざご丁寧に毎日証拠を送り付けて何がしたいのかしらね」


母さんが未知の生物を見るような目でスマホの画面を見つめている。


「多分、いやがらせと上からマウントをしないと死んでしまう病気なんだよ」


「それはお気の毒ね」


「はは……、たぶん私が何もしてこないんだと思ってますよ」


その後、わざわざメールでご丁寧に離婚前から関係があったことも含めていろいろ証拠盛沢山だったので、慰謝料、養育費をもらうことができることになった。その後いやがらせメールなど飛んでこなくなり、かなり平和になった。


以前の問題関係が落ち着き、マオちゃんも保育園に通えるようになった。もともと愛くるしくて元気なマオちゃんは保育園でも友達ができて、本当に明るくなった。


そして、1年後。


俺は大学を卒業して、就職をした。将来的には実家を手伝うのでその関係の仕事だ。

なので、実家の近くに部屋を引っ越してそこから会社に行ったり、実家のお手伝いをしたりしている。


真凛さんは恩返しの名目で毎日マオちゃんを連れて俺の部屋に来てご飯を作りに来てくれたりしていた。とっても幸せだ。


それにしても真凛さん今日も頑張ってたな。とっても愛想もいいし、まだ27歳で若いから常連さんにも大人気だし、ちょっともやもやしちゃうな……。


俺は頑張り屋な真凛さんにかなり惹かれていた。でも告白の勇気はなかった。


あまり真凛さんに結婚のいいイメージはないだろうし、俺への恩みたいなもので、受け入れてしまいそうなので、仮にそうなるとしても……。


「ねぇねぇ。イッセーはマオのパパじゃないの!」


「「ぶっ」」


俺と真凛さんが思い切り吹き出してしまった。


「マ、マオ……何を言ってるの」


「お友達にマオにはパパいないのって聞かれたの、でイッセーのこと言ったら、イッセーはそうじゃないって言われたの。でもマオはイッセーがパパがいいの」


「ママも言ってたよね、なんだったかな。今日もイッセーが優しくしてくれた、でもイッセーみたいな優しい人にはきっといい人がいるから、バツイチの私には望みがないって毎晩のようにマオに」


「こ、こらマオ、何で全部言っちゃうのよ……」


「毎日マオに言ってるから覚えちゃったよ」


子供の記憶力おそるべし。


「だ、駄目よ。一誠さんはもっと素敵な方と結婚して幸せな家庭を築いていかれるんだから」


「えー、やなの。イッセーがほかの子のパパになるのやなの! イッセーはマオのパパなの!」


「マオ!」


「あ、あのー、真凛さん、俺は真凛さんが嫌ではないのであれば……、マオちゃんのパパになりたいと思ってます……」


「え……」


「わーい、パパだパパだ!」


こうして俺にはお嫁さんと子供ができることになった。






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