第2話 負けてしまった幼馴染キャラ
俺の名前は、生天目一介
1人でいるのが大好きな高校2年生のぼっち野郎である。
1人でいるのは気楽である。特に考えることも考えないことも自由なのが好きで、今日も誰もいない校舎裏で1人昼食を食べている。
だが、今日は普段だれもいないここに、ちょっと特殊なイベントが起きていた。
いわゆる男女の修羅場が繰り広げられていた。
一応彼らから見て俺の姿は視界に入るはずなのだが、全く気付かれていない。
まぁもともと存在感がないからな。
イケメンとギャルと清楚な子がいる。
確かイケメンは高橋達也、ギャルは西田雛子、清楚な子は水野由佳だったかな。
俺でも名前を知っているのはクラスでも有名な三角関係な3人だからだ。
とは言っても決着はつきかけている。
高橋と水野の関係がかなりうまくいっていて、雛子の旗色は悪いからだ。
雛子と高橋は幼馴染で小さいころからの付き合い、水野は高校生からの付き合いなのに、水野の旗色がいいのは何とも悲しいものである。幼馴染キャラって不憫。
「待ってよ達也! 私のことを信じてよ!」
ちょっと声が大きくなってきて、俺の耳にも届いてくる。
「うるさいな。信用はできない。そもそも俺が由佳ちゃんのこと好きなんだって言ってるだろ。お前みたいなガサツなギャルじゃなくてな!」
「そんな……、ほら私たち幼馴染で……結婚する約束もしたでしょ!」
「いったいいつの話をしてんだよ……。そんなのは子供の頃の冗談みたいな話だろ、まじでお前うざいわ。可愛くねえし。俺にもう話しかけてくんなよ。行こうぜ由佳ちゃん」
「う、うん達也君……」
そして2人は歩いていく。
「じゃ、ごめんね、雛子ちゃん」
そういった水野の顔は醜くゆがんでいた。高橋には見えないようにしていたが。
そして、そこには雛子1人になった。
うわー、めちゃくちゃ落ち込んでる~。ズーンって効果音が視認できそうなくらいズーンとなってる。
あそこまで落ち込んでるのが見た目でわかるくらいわかるのもすごいな。
むしろ倒れこんだりせずにうつむいているところだけで我慢できてるのもすごい。
しかしこれで完全に雛子は振られてしまったわけか。
「おい」
あまりにもいたたまれなくて、声をかける。
「な、なに、あんた、ああ、一介か……何の用もしかして見てたの」
そういう雛子は涙を流していた。まぁ当然か。
「まぁ見てた」
「そっか、じゃあ愚痴でも聞いてよ。笑っちゃうでしょ。私好きな人にずっとうざいって思われてたんだって。で、私がいろいろ悪いことをしてるみたいな噂が流れて信用もしてもらえなくて……、しかも可愛くもないって……、私ってそんなに可愛くないのかな?」
「そんなことはないだろうが、お前の好意はちょっとツンデレっぽいからな、人によっては悪い伝わり方をするのかもな」
雛子はギャルとは言ってもそれは見た目がそうなだけで、とてもいい子である。ただちょっと素直度が足りない。
「ツンデレって何?」
「普段は好意を素直に伝えられなくて、デレたら可愛いタイプだ。高橋は典型的な鈍感種巡行だからな。伝わりにくいかもしてない」
「か、可愛い?」
あれ、何で照れる?
「何だよ、それくらい言われなれてるだろ」
「そ、そんなこと達也は言ってくれなかったし……」
こいつの男の対象は高橋しかいないのか。一途というかおバカというか。
「まぁ、なんだ。振られてすぐお前にいうのも何だが……、可愛いと思うぞ。気遣いもできるしいい女じゃないか。だから高橋に振られたとは言っても、すぐにいい男ができる……と思うぞ」
「何よあんた、普段そんなこというタイプじゃないくせに、もしかして振られてすぐにやさしい言葉をかければ靡くかと思って適当なこと言ってるんじゃないの」
さっきの照れた顔から一変して、すごくいぶかし気な目線を向けられる。
「そりゃまぁ、全くないといえば嘘になる」
適当にごまかすのも何だし、正直に言っておくことにする。
「雛子はさっきも言った通り、めちゃくちゃいい女だと思うし、俺みたいなボッチにも声をかけてくれて名前で呼んでいいって言ってくれて優しいしな」
そう、俺のようなボッチがわざわざおせっかいをかけたのは、雛子がとても優しいやつだからである。
見た目はギャルっぽく、付き合ってる友人も同じようなタイプが多いのだが、勉強も真面目にやっていて、誰にも優しい子である。
俺と雛子は2年連続同じクラスで、苗字が近いため、席が前後ろになる。
1年生の1学期に体調不良で休んだ雛子が、俺に声をかけてきて、授業の進捗やクラスのことを俺に訪ねてきたのが、付き合いの始まりだ。名前で呼ぶようになったのは、2年生になってから、これも縁でってことで名前で呼んでほしいとのことだった。西田よりも雛子のほうが女子っぽいからいうことらしい。
もちろん俺以外にも優しくて、高橋にべたぼれしていなければ、何人の男を勘違いさせてしまったかわからない。
むしろ、高橋に一途なのに、分け隔てなく優しいことが好感度につながり、男女ともに好かれていた。
だが、そういうところが皮肉にも高橋には面白くなかった節もあったように思われた。
「マジで俺みたいなやつに可愛い雛子が声をかけてくれるのは、神対応だ。雛子は本当にいいやつだよ」
「……普通にやってるだけなんだけどな。せっかく同じクラスになれた縁があるんだから、みんなと1度は話してみたいじゃん」
「そのあたり、水野は真っ黒だぞ。俺のことなんかひどい目つきで見てくるからな。明らかに人によって対応変えてやがる。多分雛子のよくない噂を流したのも、あいつじゃないか?」
「そういわれれば……、中学まではここまで嫌われてなかったし……、なぜか私が由佳さんをいじめてるみたいな話になってて……」
やっぱりか。あそこまで清楚な感じだと裏があるようにしか思えないしな。
「だったら、誤解が解ければまた達也も私のことを」
「誤解が解けたとして、もう1度同じように好きになれるのか?」
「え?」
「最終決断は雛子がすることだから、おせっかいかもしれないが、子供の頃からずっと一緒だった雛子を信じずに、高校生からの付き合いの水野のいうことを信じて、それだけならまだしも雛子に暴言を吐くような奴だぞ」
「で、でも、私は小さいころからずっと達也が好きで、達也が全てで……」
言ってて心ぐるしいが、俺にも優しくしてくれるいい女な雛子が後悔することだけはしてほしくない。
「そんなことは言うなって。何度も言うが、雛子は優しくていい女だ。見た目だけのイケメンが全てなんてさみしいことは言わないでくれ。きっと雛子は……、高身長で、高収入で、イケメンの、いい男と付き合える! 俺が保証してやる!」
「ご、語彙力が……、それにあんたに保障されてもね。それだけ言ってくれるのうれしくないわけじゃないけど、何でそんなに買ってくれてるの?」
「何度も言ってるだろ。俺みたいなボッチ野郎は女子に話しかけられるだけで好きになっちまうんだぞ。俺にまともに話しかけてくれる女子は本当に雛子くらいなんだ」
「それだけ自分を客観的に見れてるなら、いろいろなんとなるでしょ」
ちょっと雛子に笑顔が戻ってくる。それだけで安心できた。
実際雛子にあこがれている男子は多いし、先輩後輩問わず好かれている。高橋のことにけじめがつけば、もう大丈夫なはずだ。
「そういうことができないから陰キャボッチ不細工なんだよ」
「陰キャボッチはともかく、不細工な感じはしないけどね。肌も白いし、髪はちょっと長いけど奇麗だし……、その長い髪でよく顔が見えないからちょっとごめんね」
「お、おいやめろ」
雛子が俺の前髪に触れてくる。割と普段から距離は近いが、ここまで近いのは初めてでドキドキしてします。
「えっ?」
俺の前髪を上げた状態で、雛子が少し止まる。
「な、なんだどうした。やっぱり変な顔だろ」
「う、嘘でしょ。悪印象は無かったけど……達也とも違うけど……、全然見れる……、ね、ねぇ、一介、あんた私のこと別に嫌ってないというか、好きな感じよね」
「あ、ああ、好感はあるぞ」
なんかさっきまでと違うな。ちょっと照れてるし。
「そっか、じゃあこれから少し遊んだりしない、達也のことばかり考えてたから心に穴が開いたみたいなの。時間も空いちゃうし……」
「それは別にいいけど、俺でいいのか」
「うん、あとそのその暖簾みたいに全部隠してる髪……、は上げなくていいか」
「なんだよ」
(やっぱり俺の素顔がかっこよくなかったのか)
「ぼそぼそ(あまりかっこいいのほかの人に知られたくないし…)」
「なんかぼそぼそ言ってどうした?」
「なんでもなーい」
その日以降、俺は雛子によく絡まれるようになった。雛子が俺に対して優しいとは言ってもそれはクラスの中だけの話だったのだが、廊下や放課後、登校時にも絡んでくるようになった。
やたら2人きりになって俺の前髪を上げようとしてくるし、ああ、もしかして不細工選か?
「しかし雛子は可愛いな改めて考えると」
「も、もう、何で毎日のようにかわいいって言ってくるのよ~」
「見た目もそうだし、中身もそうだったけど、意外と甘えてきたり、家事もしっかりできたり、俺の趣味に何も文句言ってこなかったり、本当にいい女だよな」
「恥ずかしい~」
俺の胸元をぽこぽこ叩いてくる。なんだこの可愛い子は。
毎日あえて言ってるというより、自然に出ちゃうんだよな。
「お、おい雛子」
そんなある日、日課のようになった俺と雛子の帰宅の帰路に、高橋が現れた。
「わ、びっくりした」
雛子はびっくりして俺の腕にしがみついてくる。可愛い。
「や、やっぱり俺には雛子しかいなかった……」
「何があったんだ」
「由佳ちゃんときちんと付き合いだしたら、由佳ちゃんは家事は何もできないし、散財がひどいし、暴力までふるってくるし、散々だよ……。別れるって言ったら後でどうなっても知らないって言ってくるし……。昔みたいに一緒に俺と過ごせないか?」
「は? 何言ってんの?」
高橋の発言に雛子が返す。
「え?」
そんな冷たい反応をされるとは思わなかったのか、高橋はぽかんとする。
「もう私あんたのことなんてどうでもいいし……、一介の方がずっといい男だし……」
「え、俺?」
唐突に出てきた俺の名前に明らかに話の途中なのに割り込んでしまう。
「一介は私のことを全部好きって言ってくれるし、認めてくれるし、毎日毎日欠かさず可愛いって言ってくれて、ほめてくれて、すごく幸せなの……」
「そ、そんな」
「達也は私のことをうっとうしいって言ってきて素っ気ないし……、中学時代可愛いなんて全然言ってくれなかったし、縁が切れてむしろせいせいしてるんだから」
「は、何で、よりによってそんなボッチの陰キャ不細工を……」
「ていっ」
「わ?」
雛子が俺の前髪を上げる。
「は、あれ、普通にイケメン?」
高橋が俺の顔を見て、イケメンとか言ってる、そんなわけがないのだが。
「わかったでしょ。ボッチ陰キャはともかくとして、不細工じゃないし、優しいんだから! べーっだ」
雛子はあかんべーを高橋にして俺の元に来る。
「今日はどこにいこっか?」
「別に、雛子の笑顔になれるところでいいよ」
「も~、あまりきゅんきゅんさせないでよ~」
そんなこんなで俺は可愛い雛子とカップルになって楽しく過ごしていけるのである。
相変わらずの陰キャだったが、彼女が1人いれば楽しいんですよ。