第18話 生徒会長はツンデレである
俺の名前は長谷川幸次郎
高校2年生の目立たない男子である。
強いて特徴をあげるのであれば生徒会に属していることである。
役職は書記。初期の仕事は意外と多く、特定のイベント前は当然雑務にも駆り出されるしやることはとても多い。もちろんやりがいはあるし、運動部や文化部に強く気になることもなかったので後悔はしていない。
ただ、1つだけ悩みはある。
「ちょっと」
「あ、はい」
「報告書は?」
「……今やってるところです」
「まだ終わってないの? 遅すぎじゃない? あなたは無能なの?」
「すいません」
「謝罪してる時間があるなら行動で示してくれないかしら?」
「ごもっともです」
あいかわらず手厳しい。
俺に中々な辛辣な言葉をかけてくるのは生徒会長の辛島絵里である。
黒髪ロングにクールな瞳が特徴で、高校生にしてすでに美少女というより美女という代名詞がふさわしいレベルの美人である。
この容姿端麗さに成績優秀、スポーツ万能と天から二物も三物も与えられていて、まさに学園のマドンナである。
しかし……
「辛島さん、今度俺とデー……「無理」
「まだ全部言ってないのに?」
そのルックスに惚れて寄ってくる男子には一切の可能性を感じさせない食い気味な断りを入れ、
「辛島さん~、一緒に遊「遠慮します」
声をかけてくれる女子相手にもこの対応。
そう、彼女は誰に対しても塩対応なのである。
このせいか彼女は恐れられてしまい、完璧超人さも手伝って誰も声をかけることは今となってはほぼない。
ただ、生徒会長に選ばれることに誰からも文句が出ないほどのカリスマ性はある。事実優秀なので、そこに問題はないのである。
では俺に対してはどうなのかというと、俺に対しては塩対応ではなくやたらと手厳しいのである。
「何度言ったらわかるの! 各委員会からの報告はきちんと細分化してと言ってあったでしょ! 同じことを言わせないで!」
「ごめん、すぐにやる!」
「締め切りギリギリだから急いで! それが終わったら備品のチェックと各委員会の見回りね! きちんとして!」
「了解しました!」
美人が怒ると怖いというのは本当で、有無を言わさない迫力がある。同学年なのがまだ幸いで、先輩だったら俺は泣いている気がする。
「会長って、やたら長谷川に厳しいよな……」
「何か嫌われることでもしてるの?」
同じく生徒会に所属する2人から声をかけられる。生徒会のメンバーに厳しいならまだ納得できるが、ほかの2人にはやはり塩対応なのである。厳しいのは俺に対してだけだ。
「するわけもないし、そんな度胸もない」
「だよなぁ。でもあれは明らかに目の敵にしてるとしか思えない」
「まぁ否めないところはあるな」
「長谷川! そんなところで話してないでちょっとこっちに来なさい!」
「は、はい!」
まぁこんな感じで会長の厳しいしごきに耐えながら頑張っている。大変ではあるが、会長として頑張る彼女を尊敬もしているので、俺は従っている。彼女のやることに間違いはないからだ。
そんなある日、祭日で学校が休みのため打合せをリモートで行っていた。
生徒会役員と各委員会での会議。いろいろ時間が押していることもあって、会長の提案で行われていた。
「というわけで、各自内容を確認して報告をお願いします」
会長が仕切って話す。今日はリモートということもあって、制服姿ではなく私服姿だがやはりきれいである。ちょっと俺は見とれていた。
「長谷川!」
「はい!?」
「表情が上の空よ! ちゃんと話を聞いてた!?」
「聞いてます聞いてます」
本当に一瞬気が抜けただけなのに。会議しながら俺の表情に気づくとか視野が広すぎる。
「どうだか、まあいいわ。本日はここまでです。皆様お疲れさまでした」
そして会議が終わった。
「ふぅ、つい見とれてしまった。普段は会長と目が合おうものならそれだけで怒られるからな。リモートは危険だ」
会長は人としても尊敬しているが、やはり女性としても魅力的だ。普段は目があえば怒られるので、こういう機会に無意識に見てしまったようである。
そんなことを考えていて我に返ると、リモート画面がそのままだった。
「しまった退出をしてなかったか、もう俺と会長だけだ」
会長の後ろ姿が写っている、ということは会長も消し忘れか。まああとは俺が消せばいいから別に伝えなくても……」
「あ~もう、本当素敵♪ 幸次郎くん好き好きの好き~」
「!?」
「画面越しの幸次郎くんもしゅてきだった~♪ 私服姿とってもキュートだった~」
幸次郎って俺のことか? いやいや、幸次郎なんて名前はどこでも……、でも画面越しって……。
「リモートマジヤバなんだけど~。目合わせ放題だし、何回も見つめ合っちゃった~。ドキドキのドッキドキだった~」
これは会長なのか!? 普段のクールなルックスが甘々になってるし、ハスキーボイスも甘々になってるし、何かと甘い。一応頬をつねってみたが、痛い。事実である。
「はぁ~休日に幸次郎くんを拝めてマジ幸せなんだけど……眼福眼福……、本当は無理してリモートする必要はなかったんだけど、やってみてよかった。私はきっとこの日のために生徒会長になったのね……」
まさかの職権乱用である。
「私服姿見れて満足ではあるけど、やっぱりデートしてみたいな~。遊園地に水族館や映画館で同じ時間を共有するのもいいし、目的もなくショッピングやカフェ巡りしてお話もしたいな~、最近できた駅前のカフェに行きたいな~でも私から誘うのは恥ずかしいし……、でも幸次郎くんから誘ってくれるわけないし……あ、そうだ!」
何か思いついたらしい……、いい予感がしない。
ブーッ、ブーッ。
俺の携帯が鳴る。
「もしもし……」
「もしもし、今いいかしら?」
あ、普通の会長だ。どっちが素なのかわからないが。
「はい……」
「三送会で必要な買い出しがあるから、今週末あなたも付き合いなさい」
「俺でいいのか?」
「別に誰でもいいんだけど、あなたが一番暇なのかなって思うから」
「まぁ暇だけど」
「じゃあ問題ないわね。土曜日の10時に駅前集合ね、時間厳守で」
そして携帯を切られる、ちなみに電話中も俺はリモートを見ていたが、表情はいつもの会長だった。
「きゃー、我ながらいい作戦! 2人きりで休日にお出かけとかデートよね! 何を着て行こうかしら! お気に入りのワンピースかなやっぱり」
あまりの変わりように違う映像を見ているとしか思えなくなってきた。
「でもつい厳しい言い方になっちゃったし、あまりいい気分で来てくれないかもな~。私って本当に駄目ね。もっと素直になろうと思ってるのに、本人を前にするとつい口調が厳しくなっちゃって」
そういうことだったのか、俺にだけ厳しい理由は。
「でも今度はチャンスだもん! 頑張るもん! 素直になるもん! えいえいおー!」
どうしようものすごく可愛い。クールさのかけらもなくなって、むしろ年齢より幼くなってしまったが、ただ可愛いという感想である。いろいろずるい人だ。
とりあえず俺はここまでにしてこっそりと退出した。
それにしても驚いた。会長が俺に対してあんなに好意を向けてくれていたなんて。そんな素振りはなかったと思うが……とにかく土曜日が楽しみだ。
そして土曜日。
「会長お疲れです」
「遅いわよ! 時間厳守って言ったでしょ!」
「ごめん、でもまだ9時56分なんだけど……」
「5分前行動は常識でしょう! まぁいいわ! 行くわよ!」
「はい!」
~1時間後~
「さてこんなものかな」
「……、お、思ったより早く予定が済んだわね」
「特にアクシデントとかもなかったからね」
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「まぁ別にこれくらいは」
「そ、それで、もしこの後よかったらなんだけど……」
「この後? なんですか?」
「……なんでもない! 用事が済んだならさっさと帰るわよ!」
「ええ……」
(いきなりお誘いとか無理だもん……)
会長、小声ですが漏れてます。
しかしこれはいろいろ申し訳ない。リモートでいろいろ聞いてしまった以上はこちらも気を使わないと。
「あ、あの会長、もしよければ俺会長と行きたいところがあるんですがいいですか」
「ふぇ? まぁ時間もあるし少しだけなら……」
というわけで、俺は会長を連れて歩いた。普段は会長の後ろを歩いているのでちょっと新鮮だ。
「と、ところで一緒に行きたいところって」
「着きましたここです」
俺が来たのは駅前のカフェである。
「最近できたカフェ、俺もちょっと興味あったんですよね」
「お、俺もって何かしら? まるで私が来たかったみたいじゃない」
「女性に評判がいいって聞いてたので……」
「まぁ男の子一人じゃハードルが高いもんね。そこまであなたが入りたいっていうなら付き合ってあげる」
うれしそうだな……。
「はい、ゆっくりしていってくださいね」
カフェで日替わりのコーヒーと軽食をいただいた。店員さんの対応も丁寧でオシャレな雰囲気で非常に居心地がいい。
「おいしいですね、会長」
「そうね……」
喜んでると思ったが、会長が若干浮かない顔である。もっと喜んでると思ったが。
「ねぇ、どうしてここに来たの」
「……? それはさっきも言った通りで……、いえ、本当は会長が喜ぶかと思ってきました」
会長の目を見てうそをつくのはよくないと思った。
「ここに私が来たら喜ぶと思った根拠があるでしょ……、普段はあれだけ厳しい態度を取ってるのに……」
会長の質問に俺は答えた。あのリモートを見てしまったことを正直に話した。
「やっぱり……見てたんだぁ……」
会長が涙目になってしまった。それより……。
「え、やっぱりって……」
「あの日リモートの切り忘れに気づいたの。切ったときは誰もいなかったけど、もしかしたら誰か見てたかもって……、よりによってまさか君に見られてたなんて……、もう恥ずかしくて生きていけないよ~」
顔を真っ赤にして両手で顔を覆ってしまった。可愛い……ではなく、
「大袈裟ですって」
「もうやだ~、おうち帰る~!」
会長が帰りそうになってしまった。
「あら? もうお帰りですか? セットのデザートがありますけど……」
「…………、食べてから帰ります」
会長、羞恥心より甘いものへの食欲が増す。可愛い。
「……ねぇ、長谷川君。覚えてるかな」
「何をですか」
甘いデザートに舌鼓を打ち、気持ちが落ち着いた会長が俺に声をかける。
「文化祭の準備をしてるときよ」
「ああ、忙しかったね」
あの時期は非常に忙しくて、副会長と会計の2人がクラスでの対応に追われて、ほぼ俺と会長だけでこなしていたのだ。
「あの時私が1人でやるって言ったのに、あなたは頑固に残ってくれたわね。1人のほうが集中できるって何回も言ったんだけど、それでもあなたは手伝ってくれたわ。私への同情かと思ったら、文化祭の成功のために、私が倒れでもしたら心配だって……」
「あの時はつい…………」
多分唯一会長に口答えをした時だった。つい強い口調で言ってしまったな。
そういえばあれからだったな。会長の口調がきつくなったのは。
「私ね、自分が1人で無理をして、1人で何とかするなんてずっと当たり前だと思ってた。周りの人も私に任せてたし。だから……あんな風に言ってもらえてうれしかった……それで……ううん。こんなこと急に言われても迷惑よね……」
「……いいえ、俺は会長……辛島さんにずっとあこがれていました。俺もどちらかといえば1人でいる人間でしたが、1人でも会長が堂々としている姿を見て、一緒に生徒会で頑張ってみたいと思って、厳しいことを言われることも多いですが、それでも俺は辛島さんが好きです……」
「え……本当……」
「はい、だから辛島さンに思ってもらえてすごくうれしいです。よければこれから生徒会以外でも一緒に入れればと思います!」
「……うん、とっても嬉しい……ありがとう」
こうして俺は絵里と付き合うことになった。
もちろん生徒会では今まで通り厳しいままだったが……
「ぎゅー!」
「ちょちょっと、誰かに見られたらどうするんだ?」
「ぎゅーし返してくれるまでは離れないもん」
しかし2人きりで居残り仕事をしている時だけは甘々になる。
俺だけが知っている会長の絵里の姿。これは見せられないな。




