第1話 ツンデレ義姉とツンデレ義妹
俺の名前は赤井洋平
高校2年生の17歳である。
俺の家はいわゆる父子家庭だった。
だった、というのは今はそうではないからだ。
「いやぁ、俺と洋平だけで男のむさくるしい生活をしてたから、女性が一気に増えて華やかになったよ」
にっこにこで満足そうな顔をしているのは俺の親の父さんの秀則。母さんが早くに亡くなったなか、俺を育ててくれた明るい尊敬する父さんだ。
「ふふ、私たちも家に女性しかいなかったので、男手が増えて安心感と頼りがいがありますよ」
立って父さんに料理をふるまっているのは、聡美さん。俺の新しいお母さんになる人だ。
美人さんでよく俺の父さんと結婚したものだと思ってします。失礼か。
「ねぇ、沙耶ちゃんも千奈ちゃんもそう思うでしょ」
「そうだよね、男手がないと何かと不便だし、早く再婚してくれればいいのにと思ってたもん」
「夜とかなんとなく心配だったからね」
聡美さんが声をかけたのは、俺と父さんの対面側に座っている2人の少女で、沙耶さんと千奈さんである。沙耶さんが1つ年上で18歳、千奈さんが1つ年下で16歳である。
美人さんな聡美さんにそっくりな姉妹で見惚れるレベルである。
「沙耶ちゃんも千奈ちゃんももう俺の大事な娘だ。何かあったら頼ってくれたいいよ」
「「はい、お義父さん!」」
2人が声をそろえていう。俺の父さんかっこいいな。
「洋平はおとなしくて、家で本を読んでるような奴だけど、いざというときには頼りになるからな、な?」
「あ、ああ、どうかな」
急に話を振られて言いよどんでしまう。
「お~い、そこは任せてくれというもんだろ!」
バンバン!
「飯食ってるときに背中叩くな。出るだろ」
「あ、大丈夫です。洋平くんに何か頼むくらいなら、自分で何とかします」
「お姉ちゃんに同じです」
「あ、そう……」
「ちょっとちょっと、義理とは言っても洋平君はあなた達の兄弟になるのよ。もう少し歩みよるとかないの?」
俺への超塩対応に聡美さんが二人をたしなめる。
「全然。私お義父さんは欲しかったけど弟欲しいって言ってないし」
「お姉ちゃんに同意。兄は欲しいとは言ってない」
「こら! なんてこと言うの」
「だって部屋にこもってるような弟ができても、うれしくないし。お義父さんみたいにアウトドアならまだいいけど」
「せめて皆が羨むようなかっこいい兄だったらよかったけど、お義父さんはかっこいいのに」
「そうよね、お義父さんがイケメンで活動的だから、期待しちゃったのに」
「いわゆる陰キャな兄とかむしろ恥ずかしいんですけど」
塩対応どころか、全力で塩をぶつけられている気分である、心が痛い。
「もう二人とも~」
まぁ事実ではある。俺はあまり身だしなみに気を使っていないし、インドアなので父さんの子供とは思えないくらい見た目には自信がない。
と、いうわけで、親の再婚で俺にはお母さんと姉と妹ができたわけである。
さて、男苦しいところに一気に女性が3人も来ると、自然の家の雰囲気が変わっていくものである。
まず香りが変わる、どことなくフローラルになる。
可愛い小物も増えてきて、色合いも明るくなっていく。
なんとなく住んでいて生活感が出てくる。
父さんはきちんと家事をしていて、掃除もしていたのだが、なぜか以前よりきれいに見える。
そのあたりは不思議なものだ。
まぁそれはいいとして、問題は沙耶さんと千奈さんか。
1つ屋根の下に同世代の女の子が2人もいればドキドキしそうなものだが、俺と2人の間にはそのような甘酸っぱいいい雰囲気など来ない。
なぜなら。
「おはよ~」
「…………」
「…………」
ただの挨拶すらガン無視である。思いっきり嫌われているのでありました。
「まぁ仕方ないよな。あの2人のいう通り、俺みたいなのが兄弟になってもうれしくないだろうし」
俺は自分でいうのはなんだが、あまり学校の友人も多くないし、成績がいいわけでもない。部活をやってるわけではないし、特技もない。ただ部屋でおとなしく本を読んでいるだけである。
女子の友達など皆無に近いので、2人の好みもよくわからない。
沙耶さんは高校3年生。千奈さんは高校1年生。
沙耶さんが高校卒業した先の進路がよくわからないけど、俺は大学は県外を選んで1人暮らしをしようかな。全員の居心地がよくなってメリットしかない。
あの2人と俺があまり仲良くないことで、父さんと聡美さんの仲が悪くなることだけは絶対にしてほしくない。父さんは俺を1人でここまで育ててくれたし、聡美さんもそうだろう。2人とも苦労してきた分、絶対に幸せになってもらわないといけない。
そんなこんなで2か月ほど経った。
俺も2人の塩対応に慣れてきて、家の感じにも慣れてきた。
今日も本を読んでのんびり寝ようとしていたところ……
コンコンコン。
俺の部屋のドアがノックされた。
聡美さんかな。父さんはわざわざノックしないし。
「どうぞ」
俺は本に目を落としたまま、返事する。
「……洋平おにいちゃん……」
ん? んん?
「ど、どどどどうしたの?」
俺は動揺した。俺を訪ねてきたのは千奈さんだった。
俺の部屋を訪ねてきたのも初めてだし、俺のことを洋平お兄ちゃんと呼んでくるのも初めてである。
しかも塩対応の時のやる気ない声とは違って、めちゃくちゃ甘い声である。
「ごめんなさい。お願いがあって……」
「な、何かな?」
「今夜、一緒に寝てもいい」
あ、これは夢か。
つねってみた。痛い。夢じゃない。いかん動揺が隠せない。
どういう展開だ。何かイベントをこなしたか?
「どど、どうして?」
「怖いテレビを見ちゃったの。お義父さんとお母さんが見てたから何かなって思って……、心霊写真のテレビだった……」
「怖いの苦手なの?」
「もう本当に苦手! CMを見るだけでも怖いのに、しっかり見ちゃった! 1人じゃ寝れない! でもお義父さんとお母さんはきっとお母さんが怖いの苦手だから、一緒に仲良く寝るだろうから邪魔したくないし……」
「じゃあ沙耶さんのところに行けば……」
「お姉ちゃんは嫌! お姉ちゃん私がホラー嫌いなの知っててからかってくるんだよ! あんな非科学的なもの怖がるのなんでわからないとか言って! しばらく馬鹿にされるからいやだもん!」
なるほど、聡美さんへの気遣いと姉への意地でここに来たわけか。なるほどか?
「で、でも一緒に寝るっていうのは」
「隅っこでいいから! 今日だけでいいから!」
俺の寝転がっている布団に千奈さんが乗ってくる。
「隅っこって言っても俺の布団は狭いから! もうすでにいろいろ当たっちゃってるから!」
千奈さんは美人さんで出るところ出たスタイル抜群な少女である。俺が大変なことになってしまう。
「うう……」
しかし、涙目で俺の胸当たりをつかんでくる姿を見て、邪な気持ちなど無くなった。
「テレビのホラー番組は大体やらせだって。幽霊はいないこともないとは思うけど、そのあたりにどんどんいるものじゃないと思うよ」
「そうかな……」
「今の時代いくらでも加工や編集で自由に変えれるし、全部が全部そうじゃないって」
「ん~、でもやっぱり心霊写真は怖くて」
「心霊写真に写ってくる幽霊は相当写りたがりやな幽霊だよ。俺はそもそも写真に写ること自体好きじゃないのに、幽霊になってまでわざわざ写真に写りたくない。さっさとあの世に行きたい。面倒くさい。写真写りは別として。陽キャとしか思えない」
可愛くないかもしれないが、俺はあまり写真写りがよくないこともあって、写真があまり好きではない。
そのため、心霊写真に対しての小さいころからの感想がこれだったのだ。父さんには笑われたな。
「ふふ……陽キャラの幽霊か~。そうだね、死んだのにわざわざいろいろしに来る幽霊さんでそうなのかもね」
(あ、笑ってくれた)
笑うとめちゃくちゃかわいいなやっぱり。
そのままいろいろ話をしていたら、俺のベッドの上ですやすやと安心した寝息を立て始めた。
俺は布団をかけてあげて、千奈さんを起こさないようにしてベッドから抜けて床で寝た。
「え! 洋平お兄ちゃん床で寝たの!」
次の日、部屋で先に目を覚ましていた千奈さんにそういわれた。
「うん、まぁ、年頃の男女が同じベッドで寝るというわけにもいかないし」
「…ありがとう、今まで冷たい対応してたのに、こんなに優しくしてくれて、それに紳士的で…」
「べ、別にいいからさ」
袖をくいっと引っ張られて上目遣いを見られるとドキドキする。
「沙耶お姉ちゃんに何かあったのって聞かれるの恥ずかしいし、これからも表向きは冷たくするけど……、もう私洋平おにいちゃんのこと嫌いじゃないから。覚えておいてね」
そう言って、俺の部屋を部屋を千奈さんが外を見ながら出ていく。
「うーん、本当に夢みたいだった」
その日からも相変わらず俺に対して沙耶さんと千奈さんは塩対応だった。
だが、千奈さんは誰も見ていないときは笑顔で手を振ってくれたり、微笑みかけてくれたりするようになってくれた。それだけでも俺の心はすごく癒された。
そんな感じで俺が少しこの家で存在意義を持てるようになってきた数日後。
コンコンコン。
俺の部屋がノックされた。千奈さんかな。
「どうぞ」
「洋平くん……」
まさかの沙耶さんだった。
「どどどど、どうしたんですか!」
沙耶さんが入ってきて俺は驚いた。しかも普段の塩対応の声と違って、甘い声である。
「ごめんなさい。お願いがあるの、一緒に寝てくれない」
「え、どうしてですか!」
なんかデジャヴ感があるな。
「か、雷が怖いの! 今日はずっと大きな音でなってて、怖いの! でもお義父さんとお母さんはお母さんが雷が怖くて一緒にいるだろうから、邪魔はできないし」
「だ、だったら千奈さんと一緒に寝れば」
「千奈はダメ! だってあの子家の中にいるのに雷が怖いとか意味わからないって言ってくるんだもん!ほかにも実害がないものは怖くないとか言って馬鹿にしてくるんだよ! 絶対嫌よ!」
「で、でも一緒に寝るって……」
「隅っこでいいから! 今日だけでいいから!」
「隅っこって言ってもベッドは狭いので……」
(本当に同じこと言ってる……)
「今まで冷たくしてたのに、急に甘えさせてなんて虫のいい話なのは分かってる……でも」
伏し目になってしまった沙耶さんを見て、助けてあげたくなった。
「感受性が強いんですね。いろいろ敏感なんですよ」
「……笑わないの?」
「笑いませんよ。怖いものは怖いでいいんですから。でもいろいろ敏感すぎると疲れちゃいますから、もう少し鈍感でもいいと思いますよ。雷は確かに音は怖いですけど、実害はほぼありませんし」
「そうだけど」
「俺なんか鈍感すぎて震度4の地震が起きたり、近所で火事が起きても寝てるんですよ。少し分けてほしいくらいです」
「……ふふ、それは危ないわね。逃げ遅れちゃうじゃない。分けてあげられるならそうしたいわね」
(あ、笑った)
そのまま話していると、沙耶さんは安心したのか、寝息を立てて眠り始めた。
俺は布団を沙耶さんにかけてあげて、起こさないように布団からでて床で寝た。
「え! 洋平くん床で寝てたの!」
次の日、俺は先に目を覚ました沙耶さんに声をかけられた。
「ええ、まぁ。年頃の男女が同じ布団で寝るわけにも行きませんので」
「ありがとう、洋平くんって私が思った以上に男らしくて頼れるのね」
「いえ、そんなことは…」
ベッドの上から微笑まれるとドキドキする。
「千奈に何かあったのって聞かれるの恥ずかしいし、これからも表向きは冷たくするけど……、もう私洋平くんのこと嫌いじゃないから。覚えておいてね」
そう言って、俺の部屋を部屋を沙耶さんが外を見ながら出ていく。
「うーん、本当に夢みたいだった」
俺最近夢みたいな出来事が多いな。
その次の日からも、もちろん俺は千奈さんにも沙耶さんにも冷たくされた。
まだ仲良くなれてないのかと、父さんと聡美さんに心配されるくらいずっと塩対応である。
「洋平お兄ちゃん、今日家庭科の授業でクッキー焼いたの、結構自信作だからあげるね」
「洋平くん、普段どんな本を読んでるの? 私も読みたいから貸してくれるかな?」
しかし、2人とも誰も見ていないところでは、めちゃくちゃ優しくしてくれるようになってきた。
そして、2人とも、どうやら自分だけが俺と打ち解けたと思っているようである。
まぁ俺としてはお互いが隠したいことをわざわざばらすのもどうかと思ったので、そのままにしておいた。
「洋平お兄ちゃん、今日も一緒に寝ていい?」
数日後、また千奈さんが俺の部屋に来た。
「またホラー番組見ちゃったの?」
「うん、最近時期も時期なのかホラー特集が多いみたいで……」
「そっか、じゃあ……」
「洋平くん、お願いが……」
「え?」
「え?」
(わぁ~、沙耶さんも来ちゃった!)
「あれ、千奈がこんなところで何をしてるの?」
「それはこっちのセリフだよ。お姉ちゃんこそ何しに来たの?」
「私は…ちょっと洋平くんに用事があったから!」
「ふ~ん、お姉ちゃんはいつの間に、洋平お兄ちゃんのことを『洋平くん』なんて呼ぶようになったのかな?」
「そういう千奈こそ、『洋平お兄ちゃん』なんて呼んでるの?」
(あれ、なんか寒い)
時期は夏のはずなのだが。
「む~、私は洋平お兄ちゃんと一緒に寝るためにここに来たの! お姉ちゃんは邪魔しないで!」
「は? 私だって洋平くんと寝るためにここに来たのよ!」
(これはどういう展開だ!?)
俺はおろおろするだけで何もできない。
「先に部屋に来たのは私だよ! 早い者勝ちだからね!」
「そんなルールないわ! 勝手に決めてずるいわよ!」
2人とも俺と寝るつもり満々だ……。
「洋平お兄ちゃんは私がホラーとか苦手でも、『フッ、あんなのは加工でいくらでも作れるよ…怖くないさ』って言ってくれて、バカにしなかったんだよ、お姉ちゃんと違ってね、だから私は洋平お兄ちゃんのことが好きなの!!」
俺そんなにかっこよく言ったかな?
「私は雷が怖いのを『感受性が豊かなんですね。それは素敵ですよ』って言って馬鹿にしなかったんだよ。千奈と違ってね。私のほうが洋平くんのことが好きなんだから」
本当に誰のこと言ってんだ?
「私だもん!」
むにゅっ。
千奈さんの柔らかい胸に俺の左腕が埋まる。
「私だって!」
ぽむっ。
沙耶さんの弾力性のある胸に俺の右腕が挟まれる。
バチバチバチという擬音が聞こえるような鋭い目で沙耶さんと千奈さんがお互いをにらみ合っている。
(俺は本当に一体どうすればいいんだ~)
その夜、俺のことで張り合って、意地でも腕を離さなかった2人はそのまま寝てしまったため、俺は2人にくっつかれたまま寝るしかなくなった。さすがにこれは起こさないで抜けることはできないため、脱出不可能だった。
(あぁぁぁぁぁぁぁ、これは寝れねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)
いい香りと柔らかい感触に俺は一睡もすることはできなかった。
その日から俺の生活は完全に変わることになった。
両親に見られるのが恥ずかしいのか、昼間はとんでもなく冷たいままで、俺を見たら、邪魔だとかなんとか言ってくる。ツン状態である。
しかし夜になると、2人とも俺の部屋にもう大義面分も何もなくほぼ毎日来て、俺のベッドの上で俺を取り合うようになってしまった。
「ちょっと、千奈! こっちはベッドから落ちそうなんだから、もう少しあっちに行ってよ!」
「私だってぎりぎりだもん! 文句あるならベッドから出ればいいじゃん!」
「そもそもシングルサイズの俺のベッドに、2人も寝るのは無理があるんだってば!」
「「じゃあどっちと寝たいの?」」
「え~勘弁してください! 選べませんよ~」
ベッドの上で俺を奪い取る2人の日々はしばらく続くのであった。
昼はツンツン、夜はデレデレ、これなーんだ?
沙耶さんと千奈さんです。