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聖女になった幼馴染がお土産にダンジョンを持ってきた(?)ので攻略していたら、いつの間にか剣聖より強くなっていた村人の話  作者: コータ


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もう一度戦力を計ろう

 どうやら地竜を走らせてきたらしく、二頭の逞しい竜が少し遠くからこちらを見つめている。大人しく様子を見守っているようで、二人が竜に懐かれているのが彼女にはすぐに理解できた。


 金髪の少女は陽光のように眩しい笑顔となり、アンジェも自然と笑みが溢れる。


「あらぁ! フィアちゃんじゃないのー。どうしたの、こんな所に」

「えへへ! お久しぶりですっ」


 アンジェとフィアは王都ラグで知り合い、かれこれ三年以上の付き合いがある。歳が離れてはいるが親しみやすいアンジェをフィアは慕っていたし、色々と苦労が絶えなかった聖女にとっては良い相談役でもあった。すぐにリビングに招き、二人はひとしきり軽い近況を伝えあった。


「ええー……じゃあ相当大変な調査をされてるんですね。巨大魔物って、ちょっと怖い」

「そうね。多分だけど、そこらの大きいだけの魔物とは格が違うみたい。それで、今日はどうしたの?」

「はい。実は、アンジェさんに見てほしい人がいるんです。あたしの幼馴染なんですけど」


 挨拶を促され、見るからに平凡な男が頭を掻きながらペコリと挨拶をする。特徴がないのが特徴というか、ルックスも雰囲気も普通そのものだった。


「初めまして。俺、ジークっていいます」

「ジーク君ね。あたしはアンジェ。冒険学全般の研究者よ。フィアちゃんとは三年くらいの付き合いなの。よろしくね」

「凄いっすね。俺は町の武器屋とか道具屋で店員してます」


 とりあえず普通に挨拶と握手をかわしたものの、アンジェはさして関心が湧かなかった。くどいようだが、普通の中の普通と表現したくなる男だったからだ。

 

 三人が雑談をする中でも、助手は必死に調査を続けていた。乱雑に置かれた研究資材や、死にそうな顔でよくわからない作業を続ける人達にジークは戸惑いを隠せない。紅茶を出してもらうが、大きなテーブルはぎっしりと謎の物体や研究用魔道具で埋まり、安らげるような雰囲気ではなかった。


「そういえばディラン君は?」

「あ、えーと。ちょっと用事があって、今は別行動です。それよりアンジェさん、ジークの総戦力をオーブで測ってもらえませんか?」

「え? この子の戦力を? 別にいいけれど、どうして?」


 フィアは若干の苦笑いになっていた。


「ジークの総戦力をギルドで測ったことがあったんですけど、上手く計測できなかったみたいなんです。でも、アンジェさんのところだったらいけるかなーって。絶対強くなってると思うんです」

「す、すいません。忙しいっすよね」


 聖女とは対照的に、普通の村人君は気が進まない様子だった。


「まあ、遠路はるばる来てくれたんだし、望みとあらば測ってあげるわよ。でも変な話ね、普通のオーブじゃダメなの?」

「はいっ。実はギルドの総戦オーブで測定したんですけど、ブワー! ってすっごい光が出た後、何も映らなくなっちゃったんですよ」


 フィアの曖昧な説明は、アンジェには伝わったらしい。少しだけ、彼女の瞳の奥に好奇心が宿る。


「ふうん。珍しいこともあるものねえ。せっかくだし測ってみましょうか。君、こっちに来て」

「はい。よろしくお願いします」


 ちょっと遠慮気味なジークという青年を横目で観察し、王都きっての研究者は不思議な気分になる。一見普通な男子のようで、実は普通ではないのかもしれない、と。それは常に目新しい刺激を求めている存在が、願望まじりの想像をしただけではあるが。


 アンジェに招かれた先にあったのは、まるで岩を磨きあげたかのような巨大な玉がある部屋だった。部屋を埋め尽くすほどの巨大な台座の上に置かれたそれは、ギルドのオーブを何倍も大きくしたようなサイズ感で、ジークは早くも圧倒されてしまう。


「やり方は簡単よ。ただオーブの真ん中を片手で触れればいいの」

「わあ! すっごーい。アンジェさん、これ以前よりもおっきくないですか」

「うふふ。ちょっとばかり新調したのよ。もしかしたら近々、使う機会があるかもしれないわ」


 二人はとめどない会話を続けていた。ジークはただオーブに手を触れるだけだというのに、なぜか緊張している。奇妙な直感が、彼を少しばかり臆病にしていた。だが、そんな自分におかしみを覚え、僅かな間苦笑いをした後、ただ自然に右手で灰色の塊に触れた。


 変化はすぐに起こる。黒に近い色合いのオーブから幾つもの光の線が走った。徐々にオーブ自体が赤色に輝き出し、幾つもの光の線は詠唱文字に姿を変える。戸惑う青年をよそに、古代文字が彼の右手を中心に円を描きながら広がっていった。


 詠唱文字がオーブ全体を埋め尽くした後、ただならぬ強烈な光が部屋全体を、居合わせた全員を包む。


「あら……」

「きゃ!?」


 持ち主であるアンジェは、手で視界を守りながらも、薄目を開いて事の成り行きを見守る。フィアはびっくりして体を丸くしていた。当の本人はいたって普通にしている。


 光が収まり、縮こまっていたフィアが薄目を開けて、キョロキョロと周りを見渡した。


「お、終わった? ジーク! どう?」

「え、ああ……何も出てないけど」


 オーブは赤色の輝きを保ってはいるが、先ほどまでの強烈な変化は感じられない。きっとこのまま静かに元の姿に戻るのだろう。アンジェは何か思案しながらも、落ち着いた声音のままでぼんやりとしている。


「ううーん。新調したせいでちょっと鈍くなっちゃったのかしら」

「え? もしかして壊れちゃったんですか?」


 不安な顔になるフィアを、彼女は小さく笑って否定した。


「壊れはしてないと思う。数値もちゃんと測定できてるはずだけど、すぐには見れないみたいね。やっぱり新調するとどこかおかしくなるのよね。でもちゃんと測れることは保証するわ。結果が出たら教えるけど、今はレオの村?」

「はいっ。私、もうちょっとだけ故郷にいるつもりです。久しぶりに帰ったんですけど、もういろんなことが変わっててー、」


 ジークはこの場では部外者であり、フィアとアンジェの間で会話が続く中、退屈そうにオーブを眺めているくらいしかすることがなかった。


「つくづく俺って、このオーブってやつと相性が悪いのかもな」


 その後、ちょっとしたお菓子などをご馳走してもらった後、二人は村へと帰って行った。多少会話をしてみたが、やはりこの青年は普通だと、アンジェは話すほどに関心を薄めていくようだった。一週間もすれば名前も忘れてしまうかもしれない。


 冒険学の第一人者は、どうしてあんなに退屈そうな男と聖女が一緒にいるのか不思議でならなかった。この時、彼女の瞳にはまだ、ジークはただの村人としか映らなかったのである。

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