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二人で反省会

 失敗しちゃったね、じゃあまた明日ー……とはならず、フィアの提案により反省会が行われることになった。


 今はレオの村に最近できたカフェのラウンジで二人、軽く紅茶を飲みながら雑談している。


 そう、雑談である。当初こそ今回のダンジョンの法則についてとか、スライムという下級魔物の大群をどう対応するかとか、なんやんや喋っていたのはものの十分くらい。


 後はただひたすら、最近の俺の近況を報告する場になっていた。


「え! じゃあジークは、いろんなお店で働かせてもらってるんだね。楽しそう!」

「全然楽しくないって。俺は扱いやすいみたいだな。そっちこそ、どうだったんだよ」


 気がつけば俺の話ばかりなってしまうので、フィアに話題を振ってみる。すると、曖昧そうに微笑を浮かべるばかりになる。


「ん、んー……まあまあかな」


 聞けば彼女が所属する剣聖パーティは、大陸でたまに出現する巨大な魔物を倒すために、国から依頼を受けているらしい。冒険者としては破格、というか新人としてはもう別次元の活躍をしている。


 だから、フィアはただの村人にとっては、もう遠い存在になってしまったはずなんだ。でも、こうして近くにいるというのはなんとも不思議だった。内にある好奇心が勝手に刺激され、とうとう踏み込んでいいか微妙なものに言及する決心がついた。


「っていうかさ。ディランとは最近、どうなんだ。同じパーティだし、五年前より随分変わったんだろ」


 現在、世界には剣聖は二人しか存在しないとされている。そのうちの一人であり、彼女の許嫁でもある男。奴を思い出すたび、俺の心にはいつも荒波が押し寄せていた。手紙でやりとりしてる時も、気にはなったがさすがに聞けなかったし、フィアから話すこともなかったけど。


 ただ、ちょっと遠回しな感じの質問だったかもしれない。俺が聞きたかった質問というのは、奴との関係性というか……なんと言いますか。


 許嫁のあいつとはプライベートでどういう進展してるの? っていう下世話な内容を遠回しに聞いてみた次第で。やだ俺ってめんどくさい!


「んー、別にいいじゃん、ディランのことは。ねえ、それよりもさ。実はなんだけど……さっき時つかさんの声が聞こえたの」

「声?」


 ディランの話はあっさりと打ち切られ、話はダンジョン関係に戻る。そんなに隠されるとなおさら気になってしま——うけどやめておこう。ただ、もっと気になる単語が出てきた。


「時つかさんって?」

「え? あのダンジョンから聞こえる声の人。それでね、なんか挑戦回数が増えたって声がしたの」


 あ、そっか。時喰いの迷宮をつかさどる者って自分で言ってたから、時つかさんか。唐突かつ奇妙な聖女のネーミングセンスは置いておいて、それとは別に驚きの証言があった。


「え!? じゃあ、一日二回とか挑戦できちゃうってこと?」

「うーん。分かんない。挑戦可能数が増加しました、ってしか言われなかったの」


 相変わらずざっくりしてるなー。


「その声っていつしたんだ? 俺には全然聞こえなかった」

「あ、やっぱり! カフェに入ろっかなーって時」

「そんなタイミングで? 意味分からんな」

「ううん。私、分かっちゃったの。あの人のこと」


 いつになく真剣な顔になるフィア。俺は無言で前のめりになり、続きを促した。


「多分、寂しいんだよ。ジークと私に、すぐ会いたくなっちゃったんじゃない?」

「あ、そっか! 寂しいのかー……って、なにその可愛い理由!?」


 あんな平坦かつ無感情な声してるのに、中身は寂しがり屋とか超可愛いじゃねえか。だったらもっと優しいダンジョンにしてくれ。


「意外と普通のお姉さんかもよ」

「ダンジョンで声だけで接してくる時点で、普通じゃない気がするんだけど」

「ねえ! 今日もう一回トライしちゃう!?」

「うーん、まあ。いいけど」

「わっ! 即答だね。ジークもダンジョンにハマってきたんじゃない? 冒険者デビューしちゃう?」

「バカバカ、俺なんて通用するわけないだろ。じゃあ、これ飲んだら行こうか」


 正直、どうしてもすぐに再挑戦したかったから、挑戦回数が増えたのはとっても助かる。俺が紅茶を飲む速度を上げていると、不意に何名かの男女がカフェに入ろうとして足を止めた。


「あれ! もしかしてあのフィアさんじゃないですか!?」

「うわ! ホントだ! あのディランパーティの聖女だ」

「きゃー! フィアさーん」


 あっという間に知らない人に囲まれてしまうフィア。俺が知らない人ばかりなので、きっと観光でどこかに向かう最中に訪れた人達なのかも。悲しいけれど、この村を主な観光目的にする人はほとんどいない。


「あ、ど……どうもです」


 恐縮しながらも立ち上がり、握手やサインに答えている。いや、やっぱ遠い世界の人になっちゃってるよ。


 っていうかみんな、チラチラとこちらを見ては「誰?」と言いたげな顔をしてらっしゃるんですが。気まずくなってきたので、とりあえず紅茶を一気に飲み脱出することにした。


 フィアは戸惑いつつも挨拶を済ませると、俺についてきて小さく嘆息する。


「なんか、ごめんね」

「気にするなよ。それより、攻略前に準備したい」


 俺は石板を呼び出して、スキルツリーを眺める。スライム通りを失敗した時にPTを沢山貰えたので、けっこう貯まってる。


 これからどんなスキルが出てくるかは分からないけど、結構な量を獲得できそうだ。歩きながら、とにかく手に入れてみたいスキルを取りまくることにした。

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