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ステージ2-1 スライム通り

 次の日、ダンジョン攻略は夕方から開始になった。

 俺が武器屋の受付で仕事をしなくちゃいけないことを伝えると、フィアは「じゃあ夕方ね」とあっさりと決まったわけだが。


 武器屋のカウンターでぼーっとしながら、なんか不思議な生活してんな俺、としみじみ思う。だってつい最近まで、無気力でダラダラと暮らしているだけだったのに。


 店の窓から見える村人達が、談笑しながら何処かへと歩き去っていく。俺と同じくらいの歳で見知った間柄だったけど、最近じゃ挨拶すらなくなっていた。チラッとこちらに目をやったが、彼らはすぐに視線を俺以外に移した。なんだよ、手でも振ろうと思ったのに気まずいじゃんか。


 一年前、必死に修行していた道場で破門になってからというもの、ダメ人間、終わった奴、そんな風に陰口を叩かれることもあった。正直キツいと思うこともいっぱいある。まあ、友達がまるっきりいないわけじゃないから、まだ良かったけど。


 そんな冴えない人生を過ごす自分でも、変われるのだろうか。ふと頭に浮かんだ疑問が、客が全然来ない退屈を紛らわす。もし、このままあのダンジョンで腕を磨いたなら、俺は昔に憧れた英雄みたいに強くなれるだろうか。


「いやいや、流石に無理あるな」


 自分の腕が通用しなかったことは充分に分かってる。そして、俺を打ちのめした剣聖は、本格的にその才能を開花させているだろう。自分だけが進んでいるわけじゃない。昼過ぎになってようやくお客さんが増えてきたので、あとは何も考えず仕事をこなし続けた。


 いやー疲れるなぁって思って空を見上げると、遠くのほうででっかいカラスの姿を見つける。


「よう! お前も仕事中か?」

「カァー」


 まるでこっちの言葉がわかるみたいに、そいつは返事をした後バサバサと飛び去っていった。いいなー翼。飛べるようになるスキルとかあったら、めっちゃ楽しいのに。


 そんなことをぼんやりと考えながら、仕事を終えた俺は森へと向かった。


 ◇


「やっほー。じゃあ始めよっか」


 能天気な挨拶そのままに、フィアはまた森の中で詠唱を始めた。ふと、以前から思っていた疑問が口から出る。


「うす。っていうかさ、フィア。俺……このままダンジョン攻略してて、いいのか?」

「え? どういうこと?」


 首を傾げながらも召喚は続行中のため、周囲がキラキラ輝きまくって落ち着かない状態になる。


「だって、あれだろ。俺ってば、こんな普通の村人だしさ。なんか、特別なダンジョンっぽいし。いいのかなって」


 ギフトダンジョン。いろんな種類のものがあるとは聞いてるけど、きっと才能がある奴が受け取るべきものだろう。俺でいいのか? こんな無才な奴でいいのか、と本当は聞きたかった。でも、いくらか包んだ聞き方に変えてしまう自分に、少し嫌気がする。


「もちろん! そんなに気にしなくて大丈夫だよ。このお土産は、ジークが一番合ってるの」

「そうかなぁ」

「うん! 私としては、できる限り進めたいの。こうなってくると、お土産でもプレゼントでもないかも」

「じゃあなんなの?」

「うーん……」


 フィアは空を眺めつつ、ほんの僅かなあいだ考えると、ぱあっと明るい笑顔になった。


「ちょっぴり危ない、遊園地?」

「いや、ちょっとどころじゃなくて、だいぶ危険だよ!」

「そうかもね。でも、一人っきりの遊園地なんてつまんないもん。じゃあ行ってみよー」


 俺は苦笑しつつも、またダンジョンへと潜る。今日もきっと大変なんだろーな、とか思いながら。


 ◇


「うおおおおお!」

「が、頑張って! ジークぅう!」


 いやいや! 大変どころじゃなかったわ。


 今度は【2-1 スライム通り】っていうステージを選んだ。至って真っ直ぐな通路を進んでいたところ、遠くからゼリー状の青、緑、白、黄色といった魔物達が大群で押し寄せてきたわけで。つまりスライムの集団とやり合っている。


「くそ! こいつらホントに、次から次へと!」

「ファイト! ファイト!」


 フィアは背後のほうで、俺が傷つくと回復魔法を使ってくれる。あと援護のためとかでモーニングスターを振り回していたが、スライムじゃなくてこっちにぶち当てるので禁止にした。


 プルプルとしたゼリー達は大体俺に向かってくるが、たまにフィアにも攻撃をしてくる。彼女を守るべく下がりながら対処していると、スライム達はその分押してきた。


 ただ、こいつらは数こそ厄介ではあるものの、致命傷を与えるような強さはない。ひたすらに剣を振っていれば何匹かは適当に倒せる。でも、増援がどんどん増えてくるから厄介過ぎる。


 あと、今回のダンジョンにも時間制限があり、十分以内という条件だった。前回とクリア条件が同じだとすれば、一番奥にある扉に入ればクリアになるはず。さっきまではフィアと喋りながら、なんだよ余裕だなー……とか思ってたのに、あと三分くらいしかない。マジしんどい。


「く! こうなったら、強行突破だ!」

「え? それ——ってええ!?」


 俺は剣を鞘に収めると、フィアを抱き上げて走り出した。別に戦わなくても、目的地に到着すれば終わりなはずだ。


 そういえば彼女を抱えた時に気づいたんだが、俺たちの両手が白く光ってるんだけど?

 でも、摩訶不思議現象に気を取られている暇はなかった。スライム達が本領を発揮してきたんだ。


「げ!? こいつら」


 扉の奥から次々と現れるスライム達は、少しでも触れるとピッタリくっついてくる。腕や足に柔らかい体がくっつき、身動きが取れなくなってくる。ついでに後ろにいたスライム達も追っかけてきた。


「ジーク! ちょっとこれ危ないかむうう」

「お、おぶ!?」


 スライム達は体を丸めて体当たりをしまくってきた。俺たちは吹き飛ばされ、結局は戦う羽目になってしまう。必死になって剣を振りまくっていると、あの声が響いた。


『0。攻略失敗です』

「うわー!?」

「きゃー!?」


 カウントダウンしてたみたいだけど、全然気づかなかった!


 唐突に落とし穴が出現し、視界が真っ白に。失敗かぁと思いつつ、前回までとは明確に変化したダンジョンに戸惑っていた。


『ダンジョンの攻略に失敗 挑戦者に時力を15付与、時PTを35付与。支援者に魔力を35付与』


 森の中に戻った時、聞こえた声に俺とフィアは驚いて顔を見合わせた。以前失敗した時より、貰えるポイントが断然多くなっている。

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