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迷路の攻略法

「きゃあああー!?」

「うおおお!? ちょ、ちょっと! ちょっと待って」


 昨日さんざん苦しめられた迷路の中で、俺たちはひたすら逃げ回っている。どうしてこうなったかというと、フィアが自信満々に解き放った攻撃魔法【セイクリッドレーザー】が壁を破壊できず、反射して四方八方に飛び交っているからだった。


 迷宮の攻略どころではなくなって、ひたすらレーザーを避けることに精一杯。何やってんだろ本当!


「ジークぅう! これどうしよー」

「分からん! 当たったら死ぬんじゃねえかこれ!」


 いやー、フィアは成長してるなー。こんな白くて鋭い魔法ぶっ放しちゃうくらい腕を上げているなんて、嬉しくて俺はもうすぐ死にそうだ!


「あっぶねええ! って……あれ!?」

「え? なに、なに?」


 ようやくレーザーが消え去った、と思ったんだけど違った。なんと壁の中に吸い込まれていったらしい。


「この壁、もしかして」


 またレーザーが飛んでくるかもしれないので、すぐに近づくのは危ない気がした。転がっていた小石を拾い、さっきの壁に投げつける。石は円を描きながら、壁の中に吸い込まれていった。


「フィア! やったじゃん! 隠し通路発見」

「わあー。そういう仕掛けだったんだ。私ってば冴えてる——ひゃああ!?」

「うお!? だ、大丈夫?」


 飛び上がらんばかりに喜んでいたフィアの帽子を、白い光が掠めて行った……。どうやらさっきのレーザーみたいだ。そして遠く天井まで届きかけ、ようやく消失した。


 コックさんみたいに背の高い帽子が、スパッと半分くらいに縮んだ。なんか、途端に不恰好になっちゃった。


「あはは。大丈夫大丈夫。帽子がちょっとシュッとしただけ」

「うん。なんかあれだな。鋭角的でちょっと、カッコいいかも」

「もうっ。絶対そんなこと思ってないでしょ」

「まあまあ、とりあえず行こう」


 フォローしようと思ったが失敗した。ここは笑ってごまかすしかない。


 ただ、一つ先に進めたとはいっても、ここからまだまだ迷路は続くわけで。そして結局は迷ってしまうのだった。残り時間はあと五分。多分目的の扉にはけっこう近づいていると思うんだけど。


 俺たちは昨日よりずっと早足で進んでいた。魔物には一度も会ったことがないので、多分このフロアには出てこないんじゃないか。確信はなかったけれど、二人ともただの勘でそう思いながら進む。


「ねえジーク。地図、けっこう出来てきた感じ?」

「うーん。まあ、多分こんな風じゃないかな」


 俺はひたすら地図を書くようになった。昨日まで通った道も覚えている限りは書いて、確かめながら進む。その後、小石で床に字を書いたりして、いくつか目印もつけてみる。そしてちょっとしてから戻った時、目印がサーっと消えていくのを目撃した。

 

 それと、迷路の形が変化するということもないらしい。地図で書いた通路はどれも変わっていない。つまり、俺たちは混乱しすぎていくつか勘違いをしていたようだ。


「とりあえず、地図が出来てきた! もうちょっとなんだけど」


 言いかけて、俺は奇妙なことに気づいた。この迷路の中で、今までも経験した一瞬視界がぼやける現象。それが発動した時、どういうわけか真っ直ぐの通路に変化が起きる。


 一瞬だけ、一部分だけ奇妙な色に光ったような。


「これ……もしかして」

「え?」


 フィアが興味深げに見つめるなか、俺は恐る恐る様子が違った壁に手を伸ばす。すると、まるでなにもなかったように腕が入っていく。


「そうか! この現象が起きた時だけ、隠し通路が分かるんだ」

「え、えええ」


 ちょっと話に追いつけてない感のあるフィアを連れて、とにかく進む。残り一分半。でも、確かこの現象は時間切れが迫るほど頻繁に起きていた気がする。


 今度は長く曲がった通路を進みながら、意識を全体に向ける。十秒ちょっとくらいで、また視界がボヤける。


「こっちだ!」

「は、はい!」


 フィアはビックリしつつも、必死に後ろをついてきてくれる。一分をきり、あとは秒数のみ。あの時は恐怖でしかなかった謎の現象は、実は攻略のための鍵だったのか。


 いくつもの壁を抜けているうちに、俺たちは高揚感に包まれた。もしかしたら、ゴールできるんじゃないかと。


『残り時間、10秒です』

「フィア! 全力で走ろう」

「うん!」


 カウントダウンが始まるなか、謎だらけの迷路に確かな道が示される。長い長い通路に出た俺たちは、残り三秒で突き当たりの壁が変色したことを知る。今までとは違い、それは奇妙なほど鮮やかな赤色だった。


 俺は全力で駆けた。残りは二秒か、または一秒か。滑り込んで中に入ったと同時に振り向く。フィアがまだ届かない。思いっきり腕を伸ばす。彼女は躊躇いもなく飛び込む。白くて小さな手を掴み、思いっきり引っ張った。


 気がつけば開けた部屋の中で、二人して天井を仰いでいる。


「やったぁあ! 扉に入れたよ!」

「あ……ああ……」


 息も絶え絶えになっている俺をよそに、フィアは嬉しくてはしゃいでいるみたいだった。


『ステージ1-2 明滅回廊 クリアしました』


 クリア? 真っ白になっていく視界の中で、その声は清々しく頭の中に響いていた。

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