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Fnomy  作者: 猫宮めめ
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第7話 和の部屋

 玉木家には古から伝わるいくつかの謎がある。というのは冗談としつつ、玉木家次男、玉木和にはいくつかの謎がある。こっちは本当だ。


 そもそも和という男はミステリアスだ。美少年につければ箔が付く属性の持ち主である。

 常にローテーション、幼い頃からの付き合いである優ですら、和のテンションが上がっているところなどほぼ見たことがない。

 数回ならある。それもテンションが上がっていると言っていいか微妙な塩梅ではあったが。


 なんでもすぐマヨネーズをつけたがる味覚音痴と思いきや、マヨラーなだけで正常な味覚を持っていたりもする。

 勉強は中の上、運動は中の上。意外にもコミュニケーション能力は高く、友達もそれなりにいる。


 謎。ミステリアス。幼馴染や家族からもそう言われる和、その最大のミステリーは彼の部屋である。

 長々と語っているが、本題はこれだ。曰く、


「僕は入るなって言われてるよ」


 こちらは玉木家末っ子の言。

 小学生な上に純粋天使な真宏が出入り禁止にされている理由は、まあ分からなくもない。


 ミステリアス、マヨラーの他に和にはもうひとつの特性がある。

 即ち、エロ。中学生とはエロに興味を持ち始める年頃である。和はそちら方面にも造形が深く、たまに優もよく分からないことを口走ることがある。


 ともあれ、和の部屋にその手のブツがあるのは想像に固くなく、純粋を煮詰めた真宏が出禁にされるのも頷ける。


 そしてそこに続くのが、


「僕が入っちゃったときも怒られたなあ。洗濯物置きに行っただけなんだけど……」


 首を捻ってそう言った長男の言葉である。

 家事を一手に引き受ける藤が他の兄弟の部屋に入ることも少なくはないだろう。


「和の部屋、どんな感じだったの?」


「んー、別に変わったところはなかったよ。ちゃんと整頓されてたし」


 藤すらも出入り禁止にされる部屋。意外なのか、イメージ通りなのか、物はそこまで多くなく整理整頓が行き届いているらしい。

 見た目ではその理由は窺えないらしく、謎は深まる限りである。そして――。


「なんだよ、変な顔して」


 当たり前の顔で当たり前のように和の部屋から出てきたその人はそう言った。


 縁が太めの眼鏡をかけ、よくよく見れば可愛らしい顔をしてるともいなくもないその人物。常識人の皮を被った厨二病、あるいは厨二病の皮を被った常識人、玉木家の三男坊、玉木音葉である。


「えっ、和の部屋って出禁じゃないの!?」


 たまたま目撃した優はその衝撃にいつもの腐女子的反応を忘れて問いかける。対する音葉は意味が分からないと眉根を寄せた。


「出禁ってお前、何したんだよ」


「いやいやいや、違うって。真宏くんも、藤も入るなって言われてるんだって」


 風評被害が起こりそうなのを察し、口早に状況を説明する。さらに眉根を寄せて考え込む音葉は数拍ののち、「ああ」と小さく呟いた。


 これは長年(という程でもないが)謎だった和の部屋について知る絶好の機会だ。少しも聴き逃せないと注視する。


「和、潔癖なところあるからな。他人に部屋入られるの嫌なんじゃね?」


 他人って家族ですが? ていうか、音葉ならいいの?

 そんな疑問が優の中に浮かび上がる。


 何故、音葉は自分だけが出入りを許されている状況に疑問を抱かないのだろう。音葉は特別、和にそう思われていることを当たり前に受け取っていて――まさか。


 電撃が脳髄を駆け巡った感覚がした。

 自室に他者が入ることを嫌う和。でも音葉だけは出入りを許可している。

 その事実から導き出される答えは一つしかない。


「ま、本当のところは本人のみぞ知るってとこだけどな。気になるなら聞けばいいんじゃねーの」


「大変美味しゅうございました」


「いや、なんでだよ」


 脈絡がなさすぎる優の言葉に音葉のツッコミが冴え渡る。

 なんでも何もない。腐った脳内を駆け巡った答えは単純明快。和と音葉はできている、それだけ。


 恋人同士であれば、家族よりも深い繋がりがあるのならば、例外扱いされてるのもうなずける。ていうか、それ以外に理由が見つからない。


「邪魔してごめん。お幸せに!」


「は? おい、腐女子……っ」


 これ以上、二人の恋路を邪魔することなど許されない。部外者あるいは通りすがりの壁Aは潔く立ち去るのみ。

 来た道を引き返し、優はリビングへ戻る。推しの幸福を願って。

     

 〜完〜






「いや、終わらせんなよ」


 訳も分からず取り残された音葉の叫びが廊下に響き渡るのであった。

 それを聞きつけた和が部屋から顔を覗かせるのはまた別の話。

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