第40話 クラス替え
春休みが明ければ、訪れるのは新学期。そして新学年。
今日から優は二年生に進級するわけだが、そんなことよりも捨てがたい、誰にとっても大切なイベント事がある。
その名も『クラス替え』である。
仲良い人と一緒になれるかどうか、はたまた苦手な人や問題児と一緒にならないかどうか。
一年間そのクラスで過ごさなければならない、という点において非常に重要なイベントだ。
これが物語であれば、主要メンバーのひとまとめにする意味も込めて、一クラスに収められることも少なくないが、現実はそう簡単にはいかない。
一年生のときは菜々と同じクラスだった。
菜々はコミュニケーション能力が高いので、他のクラスメイトとの仲も繋いでくれて、そこそこ上手くやってこれた。
誰も知り合いがいないなんて地獄ありませんように、と祈りながら優は教壇に立つ教師の声に全霊を注ぐ。
優の通う中学校では壁に張り出されるのではなく、元担任教師が一人ずつ何組が告げる方式を取っている。
「上川は五組」
この時点ではまだ誰と一緒なのかは分からない。むしろ緊張感を高めながら、次は菜々のクラスを聞くことに集中する。
「……山前は七組」
違う。たったその事実で地獄に突き落とされた気分だ。
クラス内でそこそこ仲良くしていた子たちも軒並み違うクラスだった。絶望しかない。
肩を落とし、暗い顔で優は新しいクラスーー二年五組の教室へと向かう。
今まで使っていた机と椅子とともに移動するので地味に大変な作業だったりする。
中身がほとんど入っていないリュックを背負い、椅子を重ねた机を持って階段を下る。
そこから五組の教室の前に立ち、祈るように足を踏み入れた。
出席番号順に割り当てられた席に机を置き、これでクラス替えは完了。
ひと仕事を終えた優は喧騒が残る教室内を見渡す。誰か一人でも知っている顔を見つけ出すために。
「あ」
視線の先に一人の少年がいる。
比較的小柄で、引きこもりがち故に肌は白い。眼鏡の奥の目は眠たげで、気怠げ。でもよくよく見るとそれなりに顔は整っており、紛うことなき受け顔の少年。
「音葉〜」
唯一、たった一人、知り合いを見つけて駆け寄る。泣きつくにも近い優に、受け顔少年は面倒臭そうに振り向いた。
「優も一緒か」
「よかった〜。知り合い誰もいないかと」
「人見知りは大変だなー」
他人事のような返し。それも気にならないくらいに優の心は安堵していた。
一先ず、音葉がいてくれるのなら、これから先の優の一年は安心だと。
「でも女友達いなかったら意味無くね?」
思春期真っ盛りの中学生ともなると異性の知り合いよりも、同性の知り合いの方が重要だったりする。
そして奈々は言わずもがな、紀依も違うクラスらしい。
「それはそうだけど、音葉がいるのといないのとじゃ全然違うから! 逃げ場があるのとないのとじゃ違うでしょ!?」
「まあ、俺は別にどうでもいいけど」
呆れながら、ため息を吐きながらも拒否はしない音葉。ちょろい音葉さんなだけはある。
逃げ場にしようとしている人物に失礼極まりないことを考えながら、優は改めて教室を見渡す。
見覚えのある人も、見覚えのない人もいる。後者だってすぐに見覚えのある人になるのだろう。
この教室で優の新たな一年が始めるのである。
一先ずこれで完結とさせていただきます
短い間でしたが、お付き合いいただきありがとうございます
また会えますように