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Fnomy  作者: 猫宮めめ
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第4話 夏祭り side home

 冒険心擽る音楽をBGMに黙々と読書に勤しむ少年がいる。


 今年で中学三年生。受験生の夏休みなどという事情へ一切目を向けることなく、和は文字を追うことだけに集中する。

 部屋の中ではゲーム音とページを捲る音、この二つだけが存在を許されている。


「……ふぅ」


 あとがきまで余すところなく読み終わり、和は息を吐き出す。


 安定の面白さだった。

 アニメ化をきっかけに最近特に流行っている作品だ。

 ラノベオタクなら知らない人はいないだろう人気作は、やはり人気なだけあって和を満足させてくれる面白さだ。

 本を元の位置へしまい、次の巻へ意識を向けて(まばた)きをする。


「音葉、これが最新巻だっけ?」


 和が読書に勤しむ傍ら、ゲームに勤しんでいる弟へ問いかける。


 読んでいた本は弟のもの。この部屋も弟の部屋である。

 部屋の主こと音葉は「ちょい待ち」と短い返答の後に、顔をあげる。


「んー、ああ。あれだわ、机の上にある」


「おけ」


 短く答えれば、音葉は視線をゲーム画面へと戻す。


 示された机には書店のブックカバーがつけられた本が置いてある。

 表紙を開き、目的のものであることを確認する。

 新品同然。というか、恐らく買った本人も読んでいないであろう一冊を手に和の読書タイムは再び始まる――。


「あ、もうこんな時間か」


 何気なく、机の上に置かれたデジタル時計へ目を向ける。

 示されるのは、十九時間近といった時刻。


 いつもなら夕食を済ましている時間であり、通りでお腹が空いてるはずだとお腹をさする。


 今日は昼食を済ましてからずっとこの部屋で読書なり、ゲームなりして過ごしていた。

 お互い時間を気にすることもなく、今数時間ぶりに時計を見た。


「音葉、飯にしよう」


 ゲーム画面から顔をあげた音葉もまた、数時間ぶりに時計へ目を向ける。


「藤兄たち出掛けてんだっけ」


「お祭り行くってさ」


「あー、そういやそうだったな」


 家事全般を担当している長兄は末っ子とともに祭りに行った。普段から作り置きしているおかずやら、冷凍食品やら、好きなものを食べてと伝言は預かっている。


 ちなみに現在居候中の幼馴染も祭りに行っている。二人残ることになった和と音葉に対して、にやついていたのはいつものことだ。


「こんな暑い中、よく出掛けられるよな」


「同感」


 暑さとは無縁のクーラーの中で過ごしていた二人は数時間に部屋から出た。

 廊下に出るやいなや、肌を撫でる生暖かい空気にお互い表情を曇らせる。


 とっとと食べて、とっとと戻ろう。

 共通認識をアイコンタクトで確認し、足早にリビングを目指す。


「冷食とかでいっか、何があるか知らねぇけど」


 玉木家では、長兄の藤が家事のすべてを行っている。とはいえ、兄も遊びたい盛りの学生なので、気にせずに済むように一通りの冷凍食品は揃えてあるのだ。

 レンジで温めるだけでいい冷凍食品はニート志望のひきこもりの強い味方だ。


「仕方ない。今日は俺の愛のこもった手料理を振舞うか……音葉だけに特別」


「どこぞの腐女子が喜びそうな言い方やめろ」


 居候中幼馴染はことあるごとに和と音葉をくっつけようとする。

 和的には吝かではないが、音葉は不満らしい。年頃かもしれない。


 なるべく情感を込めて言ってみたが、本気で嫌そうな顔をされてしまった。不思議。


「じゃあ、まずお湯を沸かします」


 台所へと辿り着き、早速鍋でお湯を沸かす。その間に「みそラーメン」と主張激しく書かれた袋麺を棚から取り出す。


「手料理ってインスタントかよっ!」


「俺に料理が作れるわけないだろ」


「威張ることじゃないんだよな」


 とはいえ、作ってもらっていて文句を言う気もないらしく、音葉は無言でお茶や箸を用意している。


「どんぶり、ここ置いとくから」


「ん」


 こういうさり気ない気遣いはポイントが高いと思う。惜しむらくは彼もニート希望のひきこもりだということだ。

 これでは将来、和は養ってもらえない。


「卵はおとし玉? かき玉?」


「かき玉って言ってもおとし玉にするだろ」


「いやいや、これ塩ラーメンじゃないから」


「おとし玉」


 要望にお答えして、味噌色の海に卵を二つ落とす。手際よく盛りつけをして最後の仕上げだ。


「マヨネーズは?」


「ラーメンにマヨネーズかける奴なんて和だけだろ」


 大きく「和」と書かれたマヨネーズを持ってスタンバイしていれば冷たく返される。


 美味いのに、と意気消沈。マヨネーズは何にでも合う万能調味料だといつか世界中に理解してもらうことが和の望みだ。嘘だけど。

 自分用のみそラーメンに大量のマヨネーズをトッピングしつつ、ようやく遅めの夕食は完成した。


「どう、うまい?」


「インスタントなんて誰が作っても同じだろ」


 こういうツンの部分も和は嫌いではない。むしろ、ポイントは高い。


 黙々とラーメンを啜る姿に満足げに頷きつつ、自分も食事へと移る。

 変わらない味。こういう安定感が何に関しても大事だったりする。マヨネーズのアクセントも最高だ。


「洗い物、俺がするから」


「ん」


 ひきこもりのちょっとした贅沢。たまにはこういう日があってもいいかもしれない。

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