第37話 桜
空から小さな花弁が散っていく。白のようでいて、淡くピンクを混ぜたような色合いの花弁はひらひらと微かな風に踊るように舞う。
はらり、はらりと舞い落ちる姿はなんとも幻想的である。
優はベンチに腰掛けて、舞い落ちる桜の花弁を感慨深げに見つめていた。
家の近くに、密かに存在する桜並木である密かと言っても、近くの住民ならみんな知っているくらいには有名な場所だ。
桜の名所と言っても過言ではないくらいたくさんの桜の木が植えられている。
散歩がてら花見をする人がちらほらいるくらいで、のんびり花見をするにはもってこいの場所だ。
コンビニで買ったお菓子を横に広げて、桜を眺める。優にとってこれは毎年恒例の行事であった。
「花より団子って言葉がお前ほど似合うやつもいないよな」
「ちゃんと桜も見てますぅ」
憎まれ口を叩くのは、みんなご存知玉木家三男の玉木音葉である。その横には当然、次男、和の姿もある。ニコイチである。
ひきこもりもとい極度のインドアな二人が休日に外に出ているのはなかなか珍しい光景だ。
「これも桜の魔力か……」
「それ、俺の担当だろ」
自称厨二病の音葉の溜め息混じりのツッコミ。
実際、桜云々が理由ではなく、比較的穏やかな気候なのと、家族で花見をしたいという末っ子の無垢なる願いを断れなかっただけだろう。
優をショタコンと散々言ってくれるが、彼も真宏には弱いのである。
「つか、今からそんなに食ってると弁当入らなくなるぞ」
「お菓子は別腹だから」
燃費の悪いこの体は食べてもすぐにお腹が空く。なので、何も問題はない。
藤が現在進行形で作っている弁当もちゃんと残さず食べる腹づもりだ。
と、不意に強い風が吹き、木々が大きく揺れる。満開に咲いた桜の花が一斉に舞い落ちる。
「こう見ると綺麗っちゃ綺麗だな」
「桜のシャワー浴びると幸せになれるって話あったよね」
「知らね」
何かのアニメで見た気がする話を零せば、素っ気ない返事が。
ここは雑学王の和だ、と懇願するような目で見つめる。
「俺も知らないな」
期待は容易く裏切られた。
「でもまあ、これだけ綺麗ならそういう話もあるかもね。俺は葉桜のが好きだけど」
「一言余計だって」
「でも緑とピンクが混じってるの、遠目に見たら綺麗じゃない?」
「そうかもしれないけど、いや、そうだけども」
遠目にっていうところが和らしい。
この手の鑑賞物は遠目に眺めて終えるのが和流、音葉流である。
夏の花火だって、ニュースでやってるのをテレビで見て風物詩を楽しんだ感を出す男たちである。
「まあ、ゲーム機持ってきてないだけマシか」
「流石に自重するわ」
「家にいるときはほとんど手を離さないゲーム中毒が何言ってんのさ」
とはいえ、今回同様、外出のときは持ち歩いていないのが音葉である。
ゲームもなし、アニメもなし、インターネットからも離れてのんびり桜を見る日もありだなとぼんやり考える。
空を見上げれば、青空と薄紅色に包まれた桜の木とのコントラストが綺麗だ。
「あ、藤兄たち来たよ」
和の声に視線を戻せば、重箱を抱えた藤と、その横に海歌。少し後ろに七緒と真宏の姿が見える。
玉木家の花見はまだ始まったばかりだ……!




