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Fnomy  作者: 猫宮めめ
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第34話 ホワイトデー

 台所の方から何かを混ぜる音が聞こえる。

 明日はホワイトデー。藤が何かお菓子でも作っているのだろう。

 藤が台所で何かを作っているなんてよくあることで、それをBGMに優はリビングでだらだらと過ごす。


「バレンタインデーみたく、ホワイトデーにも固定のお菓子とか欲しいよな」


 同じくお菓子作りの音で鼓膜を揺らす音葉がぽつりと呟いた。

 話しかけるような物言いにも拘わらず、視線はゲーム画面に向けられたまま。まあ、いつものことだ。


「あるじゃん、クッキーとか、マシュマロとか」


「そうだけど、そうじゃねぇんだよな……。バレンタインはチョコ、みたいなはっきりとした答えが欲しいんだよ」


 別にチョコレートを、優があげた余り以外では貰ってないくせに悩ましい顔で断言する音葉。

 チョコレート、たくさん貰ってお返しに悩んでますと言わんばかりの発言である。もしくは今は貰ってないけど、将来的に貰う予定があるとか……。


「はっ、和からのチョコか」


 優秀な腐女子の脳が音葉の発言から最適解を導き出す。なるほど、それならば仕方がない。


「いや、でも、私的には音葉がチョコを渡してほしいな」


 腕を組み、悩ましい声を上げる。


 攻めがあげるチョコも捨てがたいが、受けがあげる王道チョコの方が優の好みだ。

 そう思ってバレンタインの前日、音葉もチョコレート作りに誘ったが、秒で断れてしまった思い出がある。


「話がすり変わってんぞ、腐女子」


 冷ややかな目と冷ややかな言葉が贈られる。


「つーか、和に返す前提の話ならそこまで悩まねぇだろ。適当にその辺のもん、あげときゃいいし」


「なるほど、好みは把握してると」


「言ってねぇよ。都合の良い解釈すんな」


 考えてみたら、和×音(なごおと)はそれくらいドライの方がいいかもしれない。和へのお返しに悩む音葉よりも、雑に和の欲しいものをあげる音葉の方がいい。


 ゲーム画面から視線をあげた音葉のツッコミを他所に優は妄想を繰り広げる。

 このやりとりもいつも通り。聞いていないことに音葉は深く溜め息を吐いた。


「そういえば和にチョコあげるの拒否ってたけど、和から貰うからだったの?」


「んなわけないだろうが」


「だって急にホワイトデーのお返しとか言い出すから」


 女子から貰ったという可能性はゼロに等しい。音葉が優以外の女子と話していることなんてほとんど見かけない。

 紀依や奈々と少し話したり、クラスの女子と必要最低限の話をするのが精々だ。


「藤兄が作ってるからなんとなく」


「えぇ、怪しいなあ」


 ちなみに玉木家のチョコレートの数は、真宏が圧倒的に多く、次点で藤、同率最下位で音葉と和だ。


 真宏は性別問わず友達が多いので義理チョコをたくさん貰ってくることが多い。藤は、チョコレート作りのアドバイスのお礼として貰ってくることが多い。最下位二人は優や七緒以外からは貰わない、といった感じだ。


「つか、ホワイトデーはあげるもので意味が出るから面倒臭いだよな。定番のクッキーとかでも、なんかあるじゃん」


「あー」


「定番の奴って渡しても深読みされて面倒なことになるじゃん」


 分からなくもないと思って頷く。


 その手の知識は男の人よりも女の人の方がある。貰った後に自分で調べることもあるだろう。

 別に意味もなく贈ったプレゼントに、妙な意味が付与されるのは優でも困る。


「あ、クッキーは仲の良い友達、マシュマロは関係を終わらせたい、だって」


 今日は和がいないので、自分で調べてみる。検索結果の中から適当に目についたサイトを開き、表示される文字を目で追う。


「友達はまだしも、定番のやつ贈って関係終わらせたいとか地獄じゃん」


「アクセサリーとかなら分からなくもないけど、お菓子系まで気回んないよねぇ」


 ざっと見ただけでもいろいろある。

 意味のないやつもあるからこれを贈るのが一番無難かもしれない。


「とりあえず、マシュマロがとんでもない落とし穴ってことは分かった」


 ここで一つ、ホワイトデーに向けての対策ができたと二人して頷く。あと、地雷そうなのはグミとか、だろうか。

 好意を示すという意味合いなら他にもたくさんあるが。永遠の愛とか、告白の意味を持つものまである。


 男の人は大変だな、と優は他人事のように画面に並ぶ文字を見つめた。


「まあ、返す機会ができてから言えよって話だけどな」


「ほんとそれ」


 杞憂にも程がある心配に顔を見合わせて笑ったタイミングで台所から電子レンジの音が聞こえた。何かが焼き上がったらしい。

 つまみ食いがてら様子を見てこようと立ち上がる。


 そういえば、藤は何を作ってるんだろう。

 せっかく仕入れた知識を披露してあげようかな、と考えながら優は台所へと歩を向けた。


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