第25話 サンタクロース
ここのところ、一気に寒くなり、冬の空気がはっきりと顔を見せ始めた。
十二月に突入し始めた頃、話題に上るのは冬最大のイベントであるあれだ。
優には恋人はいないし、好意を寄せている相手もいないので、そこまで特別性はない。
腐女子的にも存外クリスマスは大人しめだったりする。ハロウィンや先のポッキーの日の方が賑やかな気さえしてくる今日この頃だ。
かと言ってまったく無縁のものというわけでもない。なにせ、
「今年はサンタさん来るかな」
「いい子の真宏くんには絶対来るよー」
目の前でサンタクロース向けの手紙を書いている真宏がいるのである。
小学生高学年といえば、早い人ならサンタクロースの真実を知ってしまう年頃である。
しかし、純粋天使な真宏は未だにサンタクロースを信じている。楽しそうに手紙を書いている姿は眼福以外の何物でもない。
真宏に悪い人の方が多いじゃん。今の時代はこのまま育ってもらいたいところである。
「もうそろそろクリスマスか……」
感慨深げにぽつりと呟くのは今日も今日とてゲームに勤しむ音葉である。
リア充爆発しろ、と声高に叫びそうな人種であることに間違いはない。
「僻みはわびしいよ」
「僻んでねぇよ。うちの場合、僻む要素があんまねぇだろ」
首を傾げる優に顔をあげた音葉が溜め息とともに答える。
「普通に家族でパーティするし、プレゼントも貰えるだろ。むしろ、豪華な飯が食えるラッキーデイじゃん」
「んー、それはまあ…確かに? 言われてみれば」
ケーキも食べれて、おいしいご馳走も食べてる。別にそれは悪いことではない、むしろいいことと言える。
恋人がいて、一緒に過ごすクリスマスはさぞかし特別なものなだろう。しかし、恋人がいなくてもクリスマスは楽しめるものだ。
友達や家族、わいわい楽しめる人がいて、楽しむ心があるのなら、イベント事は悪いものではない。
きっと高校生や社会人になればまた、クリスマスというものに臨むスタンスも変わってくるのだろうが、優はまだ中学生なので今を楽しむのみである。
ちなみに優は毎年、玉木家のクリスマスパーティに参加している。両親がいてもいなくても、上川家と玉木家は合同でパーティを開くのだ。
玉木家のパーティはそれなりに豪華で、クリスマス用のちょっと豪華なお惣菜から、料理好きの藤が張り切って作ったパーティ料理まで様々なご馳走が並ぶ。
それからパーティゲームなんかもして、毎年賑やかだ。
「宏くん、もしかしてサンタさんに手紙書いてるの?」
「うん! 藤お兄ちゃんも一緒に書く?」
高校生の玉木家長男へ、小学生の玉木家末っ子が無邪気に問いかける。
サンタクロースをいつまで信じていたか、というのはクリスマス間近になると話題にのぼる話である。
早くて小学生低学年頃、遅くても中学生には真実を知るのが一般的だ。
「じゃ、俺も書こっかな。今年はサンタさん来るかなあ」
真実を知らない者には現実を知らせないように振る舞う。相手が幼ければ幼いほど、共通の認識として存在するものだ。
藤もまたそういう意味で言葉を紡いだのだと優は信じたかった。信じていたかった。
「ぇ……」
ただ予想外の言葉に短い声を零して、音葉を見る。困惑を露わにして藤を指差した。嫌な想像を否定されることを願いながら。
返ってくるのは無言の肯定。目が死んでいるように見えるのは実の兄の見たくない現実がそこにあるからか。
つまりはそういうことだ。
玉木藤。玉木家の長男にして高校一年生。彼は未だにサンタクロースを信じていたのである。
「マジか」
長い付き合いで初めて知った真実。これから藤を見る目が変わりそうな優である。




