第21話 ハロウィン
「と、まあ……そんな話を紀依ちゃんたちとしたんだよね」
ライトノベルやゲームソフトが所狭しと並んだ部屋。棚に収まりきらなかったものが床や机に積み重なっており、ある程度整頓されながらも足の踏み場が限られた空間が作り出されていた。
そんな中に三人の少年少女が、スナック菓子を広げて思い思いに過ごしている。
「舞谷の言葉は相変わらず攻撃力が高いな…」
ゲーム画面から目を離さないまま、呆れた顔でそういうのは玉木家三男、音葉である。
この部屋の主である彼は新作ゲームの攻略に勤しんでいる。
「俺的には腐女子が男同士の恋愛を妄想するのも、作者によっては不快なんじゃね?とは思うけど」
「いやまあ、それはそうかもしれないけど」
「自分は友情を描いたのに恋愛に変換されたらもやっとするだろ」
普段、優の妄想に付き合わされている当事者は言うことが違う。
否定できる言葉が見つからず、優は曖昧に活路を探すことしかできない。
腐向けと勝手に断定するのも、勝手に恋愛関係だと断定するのも言ってしまえば同じようなことだ。それを言われてしまえば反論はできない。
「それは二次創作全般に言えることじゃない?」
音葉の隣で読書をしている和がこれまた本から視線をあげないまま、ぼそりと呟く。
「過度なエロ表現とか、ギャグとか、作者的には違うってなるでしょ」
「んまあ、それもそうか。今どき、二次創作を想定せずに作ってる人なんていねぇだろうしな」
二次創作界隈が盛り上がれば盛り上がるほど、認知度もあがって作品の売上もあがる。
その事実がある以上、公式の認識がどうであれ止めることができないのが実情だ。
にしても、優の周りにはなんでこう達観した考えの人が多いのだろうか。なんとなく振った話題でここまで返ってくるとは思っていなかった。
「って、あ。時間だ」
パソコンに表示された時刻を見ていそいそとインターネットを立ち上げる。某動画サイトを開き、慣れた手つきでログイン。
フォローしているユーザーの中から目的の人物を探し出し、まさに投稿されたばかりの動画を再生する。
イヤホンはなし。イントロが流れ出し、美麗な歌声が部屋の中に響き渡る。
画面では思い思いの仮装をした美少女美青年が入れ代わり立ち代わり映し出されている。
低めの少年ボイスに、地に響くような声、可愛らしいアニメ声に、爽やかな声。それぞれの歌声が重なり合い、美しいハーモニーを奏でている。
「あー、最っ高……やっぱ神だなあ」
これは後でもう一度聞くとして、他の歌い手さんたちの投稿も巡回しなければ。
後ろにいる男共は無視して、その歌声をただ堪能する。
「自分の家にもパソコンあるだろ」
なんて音葉に言われもしたが、わざわざ帰るのは面倒なのだ。スマートフォンは?という意見は大きい画面で見たいという言葉で相殺する。
スマートフォンの方は、それはそれで後でじっくり見るつもりだ。
「……ハロウィン専用の曲ってボカロ特有の文化って感じするよね」
「言われてみれば……他のアーティストとかもそれ用の曲はないもんな。ぽい曲はあっても」
「使い所が難しそうってのありそう」
「あー。ハロウィンの曲はハロウィンでしか歌えない感あるよな」
「クリスマスソングは冬の歌としても、ラブソングとしても歌えるからね」
「ラブソングはそもそも無理として秋って感じもしねぇしな」
「秋っぽい曲って難しいよね」
「難しいな」
後ろで何やら話をしているが、優は動画を見ることに集中する。
毎年仮装をした新規イラストも出るので、ファンとしてはありがたいのがハロウィンだ。
仮装というのはとても美味しい。服装が普段と違うことも然ることながら、髪型がアレンジされているのもポイントが高い。
「ああ、最高だった……」
まだまだ優のハロウィンは続く。