第19話 秋の七草
隣に座るのは純粋天使の玉木真宏。小学六年生、あと数ヶ月もすれば中学生になるなんて嘘のように未だに純粋さを保ったショタの中のショタ。
小さな頃から見守っているお姉さん的にはこの純粋さを永遠に保っていてほしいと願うばかりである。
真宏ならショタ年齢じゃなくてもショタとしてやっていけると心から思う。内面ショタを目指して頑張ってほしい。
「優お姉ちゃん、秋の七草って知ってる? 今日ね、学校で教えてもらったの」
「聞いたことはあるかも。ええと、桔梗とかだっけ」
「うん! 昔の人の歌が元になってるんだって」
知り得た知識を披露するだけでもこんなに愛らしいなんてもはや罪だ。
秋の野に 咲きたる花を 指折りかき数ふれば 七種花
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝貌の花
学校で教えてもらった歌を上機嫌に披露する。優もなんとなく聞いたことあるようなないような歌だ。
うんうんと相槌を打ちながら耳を傾けつつ、同時に首を傾げた。
「あれ、桔梗入ってないね?」
「あのね、朝貌の花ってのが桔梗のことなんだって」
小学生で育てる定番植物を思い浮かべていた優は「へぇぇ」と感心する。
昔と今じゃ呼び方が違うなんてのはよくある話で、これもその類なのだろう。
「萩とか、撫子とかは聞いたことあるなあ」
撫子といえば、某作品のキャラが真っ先に思い浮かぶ。
まあ、彼女は「なでしこ」ではなく、「なでこ」なのだが。
ともあれ、ちょこちょこ聞き覚えのある単語はある。女郎花や藤袴なんかも、姿はぱっと出てこないにしろ、名前自体は知っている。
葛花自体はともかく、葛というからには葛粉の原料なのだろうと想像がつく。植物は名前と実態が違うこともあるので一概には言えないが、そこは今は置いておく。並んだ七つの名前の中で一番耳馴染みのないのは、
「尾花ってのは?」
「ススキのことだって。動物の尻尾に似てるから尾花って言うの」
確かに秋の植物といえばで、真っ先に浮かぶのが風に揺れるススキの姿だ。
あれは花というカテゴリーでいいのか。花っぽさはないものの、他になんと言っていいのかも分からない。昔の人が尾「花」と呼んだのなら花なのだろう。
「秋の七草って何のためにあるんだろ」
七草シリーズで言えば、一番有名なのは春の七草だ。無病息災を祈るとかで、一月七日に七草粥を食べるという習慣がある。
玉木家でも当日になると七草粥が登場する。
対して秋の七草は、存在は知っていてもそれで何かするみたいな話は聞いたことがない。
別に何かする必要がないとはいえ、春の七草の立ち位置を考えると何か求めたくなってしまうのが人間だ。
「んっとね、鑑賞用だって」
変に期待してちょっと申し訳なくなった。
鑑賞だって大事な役目だし、別になにも悪くないのになんか申し訳なくなった。
「あとね、お薬にも使われてたりするんだって」
そういえば咳止めの薬なんかに桔梗って書いてあったような気がしなくもない。桔梗って薬になるんだ、と驚いたのをなんとなく覚えている。
「ぁ、そうだ。ね、ね、秋の七草のこともっと知りたくない?」
「優お姉ちゃん、知ってるの?」
「私は知らないけど、和ならもっといろんな豆知識を教えてくれるよ」
玉木家の雑学王こと次男、和。
どうせ、いつものように音葉の部屋にいるだろうから、突撃して推しCPの営みを覗くとしよう。
二人っきりの世界を壊したくないと思いつつも、優だって女の子。壁として見れないなら突撃するしかない。
真宏もいるし、ちゃんと用もあるのだから、音葉にも文句は言われないだろう。