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Fnomy  作者: 猫宮めめ
17/40

第17話 OG

 うとうとと舟を漕いでいた優は左腕に走った鋭い痛みに思わず身体を飛びあがらせる。


 びくっ、と音がしそうな勢いで、夢世界から舞い戻った優を隣に座る犯人が笑顔で見ていた。

 犯人の手には鋭く尖ったシャープペンシル、俗にクルトガと呼ばれるそれが収まっていた。


 デザインこそ違うが、優の手にも同じものが握られている。居眠りをしていたせいで、ペン先が前衛的な線を描いている。

 途中まで書かれた可愛らしい女の子の絵は乱れた線が走り、台無しになっている。

 消しゴムも使ってもどうにもならないほど侵食された絵に、密かに『没』の烙印を押す。


「上手く描けてたのにな……」


「自業自得でしょ」


 冷たい言葉を投げかけるのは優を突き刺した犯人もとい居眠り中の優を起こした友人、舞谷紀依だ。

 今は部活中。夜更かしが祟って眠りこける優を紀依はたびたび起こしてくれている。


「いやあ、優ちゃんってば眠そうだね」


 いつもなら紀依にお礼を言って、部活動を再開させるところだが、頭上から降ってきた声に目を瞬かせる。

 声の主は、背もたれのない木の椅子に座り、並んで座る二人の絵を覗き込む。


「かわいい。最高、神絵師」


 ぐっ、と親指を突き出して褒めちぎるその人は、


「鈴乃先輩、来てたんですね!」


 優と紀依が所属する美術部のOG、高崎鈴乃(たかさきすずの)であった。鈴乃は三つ上の先輩で部活にいた時期は被っていないが、たびたび顔を覗かせるのですっかり馴染みの先輩となっている。


 コミュ力が高く、フレンドリーで人見知りの優もすぐに仲良くなった。

 ちなみに玉木家長男、藤と同い年にして元クラスメイトなのであんなことやこんなことを教えてもらっている。


「高校生って思っていたより暇なんですね」


「相っ変わらず、冷たいねぇ。でも否定はしない!」


「勉強とか、大変じゃないんです?」


「普通科だから多少はね。でも、ほら、あたしってば要領はいいから」


 迂闊につっこめない返しに優は言葉を迷って呑み込む。こういうときの距離感はやはり掴みづらい。

 でも思えば、同じ高校に通っている藤もそこまで忙しくしているイメージはない。家事で忙しくしてはいるけど。


「まあ、先生たちにはあんまり良い顔されないけどねぇ」


「そういうもんなんですか?」


「そういうもんなんじゃない? 卒業するときも、戻ってくる奴は落ちこぼれの証みたいなこと言われたしねー。つまり、あたしは落ちこぼれなのさ」


 決して誇るべきではないことを胸張って主張する鈴乃。この先輩のこういう鋼の心臓ちっくなところは優も見習っていきたいと思う。なにぶん、小心者なので。


「アニメとかじゃ、歓迎されてるイメージあるけどなあ。やっぱフィクション的ってことですか」


「高校だとわりと歓迎されてるよ? OBOGが職員室で談笑してるの見たことあるし」


 中学校と高校のスタンスの違いなのだろうか。よく分からないが。


「高校の方がコネを大事にするってところかしらね」


「あーね。卒業生がいるってなると在校生の就活や進学にちょっぴり役立つ的なね」


 頭のいい人同士の会話に優はうんうん頷くのみだ。優も頭自体はそこまで悪くはない、はずなのだが、こういう大人な考え方はできない。

 言われたら納得はできるものの、そもそもこういう発想が出てこないのだ。


「実際、ひょいひょい中学に出戻ってくる卒業生は、高校に居場所のない落ちこぼれのように見えますしね」


「うっ……私じゃなかったら、致命傷で死んでたとこだよ」


 紀依の鋭い言葉は何故か、鈴乃だけではなく優にも突き刺さった。

 高校に進学してぼっち。居場所を探して中学校に訪れる自分。簡単に想像できてしまった、怖い。


「なんで、優まで死にかかってるのよ」


「いや……なんか…自分の未来が見えた気がして」


「心配しなくても、ぼっちになった貴方に中学に戻る勇気なんてないわよ」


「そこはぼっちになることを否定してくれる!?」


 確かに紀依の言う通りなわけだけど。

 この中学校にいる優の知り合いは、優が高校に進学した頃にはみんな、いなくなっているのである。強いて言うなら真宏がいるだろうが、真宏に会うなら玉木家に行くので充分。

 知り合いもいない中学校に通うなんて所業、優にはとてもできはしない。


 今からでも特別仲のいい教師とか、後輩とか作っておくべきだろうか。いや、そんなことできていたらとっくにしている。


「貴方の志望校、高崎先輩と一緒でしょ。この先輩のことだから、暇さえあれば会いに来てくれるわよ」


「暇がなくても呼んでくれたらいくよー。優ちゃんは独りにしないさ。ついでに後輩ができたら優ちゃんを気にするように言ってしんぜよう」


 友人と先輩の優しい気遣いになんだか涙が出てくる優であった。

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