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Fnomy  作者: 猫宮めめ
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第14話 中二病

 真横から聞こえるゲーム音に優はそっと目を向けた。

 玉木家の三男坊、優と同じ年の、ある意味一番付き合いが長いとも言える幼馴染。彼は今日も今日とてゲームに勤しんでいた。


 学校から帰ってから、はたまた休みの日、彼がすることと言ったらゲームばかりである。まあ、休日はライトノベルを読んだり、アニメを見てたりもするが、今は置いておく。


「音葉ってさ、中二病ってよりゲーマーだよね。どっちかっていうと」


「急になんの話だよ」


 ゲーム画面から視線を動かさないまま、面倒臭そうに言葉が返される。

 嫌がる素振りを見せていてもこの男、決して無視することはない真面目で律儀な男なのだ。

 なんだかんだ、優と腐談にもよく付き合ってくれる。


「いや、ほら。音葉って一応中二病常識人って肩書きじゃん」


「そんな肩書き名乗った覚えねぇよ」


「まあまあ。でさ、中二病って設定あるわりにはそこまで中二病感ないよなあ、と思ったわけだよ、私は」


「設定とか言うな。つか、中二病じゃねぇよ、俺は」


 とか言いつつ、実は中二病という線も通常ではあるが、普段の音葉の行いを見てると真実を告げているように思える。

 たまにする中二病っぽい発言はキャラ付けのためにやっているのでは、というのが優の見立てだ。


「いやいや、音葉は中二病だよ」


 優の見立てを真っ向から否定したのは、推しカプの片割れ、和である。

 音葉のすべてを知っていると言っても過言ではない和の言葉に思わず心が揺れ動く。


「……でも、眼帯とか包帯とかつけてるわけじゃないしさ」


「リアルならそこまで重度な人なかなか見かけないよ」


「それは確かに」


 実際、中二病最盛期であるはずの中学でそこまで痛い人を見かけたことはない。

 二次元と三次元は違う。つまり、三次元の中二病は二次元ほど分かりやすくない説が出てきた。


「音葉、コップに入ってるのなに?」


「コーヒー」


「ブラック?」


「ブラック」


 答える音葉はそのまま黒い液体で喉を潤す。

 一見、涼しい顔で飲んでいるように見えるが、よく見てみるとわずかに眉間に皺が寄っている。


「ほら」


「なるほど」


 飲めないのにブラックコーヒーを飲む。確かに中二病の症例としてあげられる有名なものだ。

 ここで大事なのは何故ブラックコーヒーを飲むか、だ。単なる嗜好なら中二病ではなくなる。


「苦いなら砂糖入れればいいのに」


「別にいいだろ。嗜好だよ、嗜好。ブラックの方がコーヒーの風味が分かる的なあれだよ」


 自分が話題の中心になるのが嫌なのか、捲し立てるようにそう言って音葉は離席する。


 暇潰しの種がいなくなってしまったことを残念に思いながら専門家の方へ目を向ける。

 中二病専門家ではなく、玉木音葉専門家に。


「発言的に予備軍感はあるね」


 捨て台詞を思い浮かべ、和へ語りかける。確かに言う通りだと。


「ゲーマーって中二病多かったりするからね」


「ああ、確かに。アニメでも中二病っぽい発言するゲーマー多いし、ゲーマーの中二病も多いもんね。なんか、すっごく納得した」


 ゲーム内で俺TUEEEEを楽しんでいるという考え方もできる。ゲームが下手でも、雑魚キャラ相手ならそれを演出することもできるのだ。


「どっちかっていうと音葉は密かに自己陶酔するタイプだよ。たまに妄想してにやにやしてるし」


「えっ、なにそれ。超見たい」


 流石、専門家なだけはある。

 玉木家四兄弟の中なら音葉のことを一番知っていると思っていたが、まだ程遠い。


 推しカプが互いのことを知り尽くしてるなんて優的にはとても美味しい事実である。


「注意して見てたらわりと目撃頻度は高いよ」


 つまり和パイセンは常に注意して音葉を見ている、と。

 荒ぶる内なる何かを必死に押しとどめつつ、すまし顔で「へぇ」と相槌を打つ。


 静まれ、私の中にある腐の波動よ、今は貴様が目覚めるときではない。


 中二病を話題に出したせいか、ついついそういう思想が浮かんでしまった。もしかすると優の中にも中二病の種が眠っているのかもしれない。

 誰しもが中二病の種を持っているのだ、きっと。


「今度こっそり教えてよ」


「見てたら分かるよ。音葉に怒られるのは嫌だし」


 簡単に折れてくれない専門家、和。優が原因で推しカプの間に不和が生じるのは避けたい。

 致し方なし、と優はこれから音葉の観察に勤しむことを心に決めた。それはそれで怒られる原因になるのでは、という思考は一先ず遠き彼方へ追いやった。


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