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Fnomy  作者: 猫宮めめ


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第12話 夏休みの宿題

 至福のような長期休みの終わりが見え始めようとしたとき、優は齧り付くように折り畳み式のテーブルに向かっていた。


 毎年の恒例とも言える夏休み最後の洗礼。ほとんど手をつけていなかった宿題を残りの二、三日で終わらさなければならない。


 五教科それぞれ一冊ずつあるドリルに、漢字と英単語の書き取り、読書感想文。このうちすでに終わってるのは各ドリルの数ページと読書感想文くらい。

 ある意味、一番の難題とも言える読書感想文をライトノベルを読んだのに託けて終わらけてあるのがまだ救いだろう。


「うぅ、終わる気がしない」


 隣で泣き言を零すのは友人の奈々。彼女もまた大量の宿題を今日まで処理してこなかった同志である。


 夏休みが終わり間近となり、一緒に宿題をしようと集まったのである。今日は玉木家ではなく、上川家で勉強会が敢行されている。

 玉木家に居候中の身である優だが、ぶっちゃけすぐ近くなので実はわりと頻繁に家に帰ってるのである。


「自業自得でしょ。泣き言言ってないで手を動かしなさい」


「紀依の鬼〜」


 余裕を感じさせる涼しい顔で本を読んでいるのは同じく勉強会に招集された紀依だ。

 彼女の場合、同志としてではなく、監視役として呼ばれたに近い。


 何を隠そう紀依は夏休みが始まった五日以内にすべての宿題を終わらせているのである。

 宿題のドリル自体は夏休みの一週間前くらいから配られているので、始まる前から終わっていたものもあったくらいだ。

 優も紀依を真似して、始まる前にちょこちょこやってはいたのにこの差はなんなのだろう。


「はーぁ、こんなに宿題あって何の意味があるんだろう……」


 学校の勉強は社会ではあまり役に立たないとよく聞く。ならば、この宿題もあまり意味がないのではないか。

 つまりやらなくていい。現実逃避のように考える優は、紀依が本を閉じた音に肩を震わせた。


 怒られる。いや、監督してくれと呼び出しておいてこんなこと言って怒られるのは当然ではあるが。


「内容はともかく宿題をすることに意味はあるわよ」


 紀依は怒る代わりに溜め息混じりにそう言った。


「社会人になったら期限内に終わらせなければならない仕事なんて山ほどあるわよ。破れば、自分が困るだけじゃ済まない類のものがね」


 淡々とした口調は鋭利に泣き言を零してばかりの二人へ突き刺さる。


「宿題はほんの予行演習。自分が困るだけで済むうちに締切を守る癖をつけておかないと後悔するわよ」


「でも、ほら、仕事ならお金もらえるから別じゃん?」


「お金がもらえるならちゃんとする類の人間も確かにいるでしょうけど、宿題溜め込んで死にかけてる人が言っても、『明日からやる』ぐらい信用できないわよ」


 ふぐっ、と妙な声をあげて奈々が机に突っ伏す。クリティカルヒットである。こうかはばつぐんだ!


「もうやめて、奈々のライフはゼロよ!」


 奈々の死体を前に悲痛の叫びをあげる。と、冷たい視線が優を射抜いた。

 肩が大きく跳ねる。目を合わせたが最後、心臓を鷲掴みにされたような感覚が襲い、優は自分の死を理解した。


「監督役なんて言って呼び出してる時点で私には迷惑がかかってるわけだし」


「心の底からごめんなさい」


 温度を感じさせない言葉がむしろ怖い。

 すでに宿題を終わらせた強者の正論パンチに抗う術などない。

 優は貫かれた箇所から大量の血を零しながら、額をテーブルにつけて土下座の姿勢だ。


「くだらない茶番していないで手を動かしなさい」


「はい、ゴメンナサイ。手を動かします」


 従順な奴隷のごとく、優は再び勉強を再開する。奈々もゾンビとして生き返り、テーブルに向かった。


 自分は致命傷、相方は死んだが、紀依に監督役を頼んで本当によかったと優は心の底から思った。

 静かな圧力による恐怖心から二人は無心でシャーペンを動かした。ただひたすらに、黙々と。


 頑張っていればお菓子が差し入れられる。空になった飲み物もこまめに補給され、紀依の飴と鞭に二人は骨抜きにされた。一生ついていこうと思う。


 そしてついに――


「終わったー!!!」


「あたしもー。後は読書感想文だけ」


 一生終わらないかとすら思えた宿題の山が物の見事に片付いた。人間やればできるのである。


「ありがとう、紀依ちゃん。一生ついてく」


「ほんと、ほんと。紀依様最高〜」


「紀依様マジ神」


 我等が神、舞谷紀依を並んで崇める。

 宿題が終わってちょっとテンションがおかしな方に行っている気がするが、気にしない方向で。


「やめなさい。気持ち悪いわ」


 ストレートな罵りにすらも少し快感を覚え始めている。新たな性癖の開花ではなく、ハイになっているだけ、そう信じておこう。

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