第11話 水着回
画面には海ではしゃぐ少女たちが映し出されている。派手な髪色の少女たちは各々に合わせた水着をまとっている。
制作陣の以降か、やたらと胸を強調するようなシーンが多い。まあ、水着回といえば、概ねこんなものである。
夏の水着回、秋冬の温泉回。この二つは萌え系アニメでは欠かせない露出回である。
とはいえ、それを見る音葉の中に特別な興奮はない。共に見ている和に置いても同じである。
エロ担当みたいな立ち位置にいるくせに和はあまり分かりやすい反応を見せない。
そっち系の知識は妙に豊富ではあるが、他の雑学にも詳しいのでその延長線上とも言えなくないものだ。
「見るたびに思うんだけどさ」
いつもと変わらない淡々とした口調て和が切り出す。特に返事もせず、音葉はアニメに集中しながら続く言葉を待った。
「水着と下着ってあんまり露出変わらないのになんで下着を見せるの嫌がるんだろうな?」
「隠す前提のものだからじゃね」
「確かに使い古した下着とか見られるのは嫌か」
「美少女キャラがそんな下着着てるとも考えたくもねぇけど」
年頃男子の夢が崩れてしまう。
まあ、アニメに登場するキャラたちは大抵オシャレな下着を身に付けているものだが。それが余計に水着と下着の境界線を曖昧にしてるのかもしれない。
などと埒もなく考えているとノック音が耳に滑り込んだ。返事するより早く扉を開けて現れるのは現在、玉木家に居候中の優の姿だ。
「返事する前に開けんな」
「あっ……ごめん。オトリコミチュウかもしれないもんね」
「マジのトーンで謝んな、意味が出るだろうが」
「えぇ、和とイイコトしてたんじゃないのー」
「黙れ腐女子、むしろ出てけ」
「ごめん、ごめん。冗談だって、これの続き貸して」
腐女子の冗談は冗談じゃないから恐ろしい。この女は隙あらば、音葉と和をくっつけようとするのである。
何が怖いって、全力で拒否する音葉に対して和が満更でもない態度を見せていることである。
「あ。私、まだ最新話見てないんだよね」
「一緒に見る?」
「見る見る」
「音葉、最初からにしていい?」
部屋主の意見など聞かないまま、滞在の意を示す優。
女が男の部屋に、など幼馴染としての付き合いを考えれば今更である。音葉も、和も三次元の女に興味はないし、(和の場合、三次元の男には興味があるかもしれないが)。
この場合、貞操が危ぶまれるのは音葉なのでは、と嫌な想像は打ち消して、ため息とともに優の滞在を受け入れる。
「そういや、夏祭り以降夏っぽいことしてないなあ」
インドア三人組はエアコンが聞いた部屋でオタク活動に勤しむ毎日である。
「夏コミとか行きたいよな」
「うんうん、じゃなくて……この場合もっと別のことでしょ。海とか」
「暑いし、人が多いし却下」
「同じく」
間髪入れない二人の返しに優は「わかる」と真面目な顔で頷いた。自分で話を振っておいてこれである。
「現実の海なんてこんなキラキラしたものじゃないもんね」
三人それぞれに現実を目に映して、大きく息を吐き出す。リアルはクソゲー、これが変え難い事実である。
なにかの拍子で力に目覚めたり、怪物が襲ってきたり、そんな未来を音葉の中の厨二心は求めている。世の中、そんな上手いこといかないと冷静な部分で諦めているが。
二次元と三次元、それを比べるのは誰も幸せにならない不毛な行為だ。
「ち、な、み、に、二人はどこの子水着が好み? やっぱスク水?」
「……いや、スク水はあからさま過ぎる。んー、なんだっけ、あの腰に長いやつ巻いてるやつ」
「パレオ?」
音葉は無視すると決めた質問を和は真剣に考え込んでいる。こういうところで妙に相性がいいのだ、二人は。
「それ。露出前提の水着で、あえて隠すの最高だよね」
「わっかる。パーカーとか着てると萌える、いや、燃える」
ここには変態しかいないのか。女子が混ざっていることで、まだまともに見えてしまうのが不思議だ。
何が悲しくて、兄と幼馴染の性癖を聞かなければならないのか。ここは小さな地獄だ。
できれば距離を取りたいところだが、パソコン画面で見ている以上、あまり離れてしまうとアニメが見えなくなってしまう。
下手に口を挟むと巻き込まれるのは分かっているので、なるべく気配を消してアニメを見ることだけに集中する。




