第10話 アレンジレシピ そうめん編
湯がいたそうめんを均等に器に盛り付ける。全部で五人分ともなるとそこそこの量になる。
食べ盛りの真宏と、実はよく食べる優の分は気持ち多めに盛り付ける。代わりに普通よりは少食気味の和と音葉は少なめだ。
そうめんには事前にタレと混ぜてあるので、よく知る白い姿ではなくほんの少し茶色をまとっている。
その上にこれまた均等に、炒めた鶏ひき肉を乗せる。辛いのが苦手な面々もいるのでレシピよりも辛さ控えめに作った。
鶏ひき肉の中心をわずかに窪ませるように形を整え、卵を落とす。
本当は卵黄と書かれていたけど、五人分の卵白があっても使い道に困るのでそのまま落とす。
お菓子作りしてもいいが、やはり五人分は多い。
最後に刻んだ細ねぎを散らせば、完成だ。
「出来たから運ぶの手伝ってー」
「はあい」
元気のいい返事がリビングから返ってきて真宏が姿を表す。その後ろには一緒に遊んでいたらしい優の姿もある。
真宏は出来たての料理を興味津々に見つめながら、それでいて慎重な足運びで運んでいく。その後ろを行く優に続くように料理を運ぶ藤を迎えるのはゲーム中の音葉と、読書中の和だ。
「二人ともお昼出来たよ」
「ん」
返事と判別しづらい返事とともに二人も食卓につく。
全員で手を合わせて、食事が始まる。それが玉木家の食事風景だ。
「これ、そうめん?」
「そうだよ。油そば風そうめん、アレンジレシピ見つけたから作ってみちゃった」
いつも食卓にのぼるそうめんは湯掻いただけのものだ。薬味を変えたり、つゆの方はアレンジを加えることもあるが、そのものをアレンジするのは初めてだ。
みんなの反応を見る限り、悪くはなさそう。今後のレパートリーに加えてもいいかもしれない。
「アレンジレシピ、ここ最近よく見るようになったよな」
「余ったやつをとか、飽きて来た頃にとかね」
玉木家のクール担当、音葉と和の二人がぽつぽつと会話を重ねている。
低めのテンションで重ねられる会話は藤には分からないことも多いが、着眼点が独特で勉強になることも多い。
「んー、でも、飽きるほど食べたって記憶ないなあ」
次男坊、三男坊の会話に優が割り込む。三人はとても仲良しなので、藤にはよく分からない会話も優には理解できるらしい。
「うちはお中元で届くこともないから余るほどそうめんないんだよねぇ」
今回は藤にも入り込める会話だったので、藤も積極的に参加する。食卓でのコミュニケーションはやっぱり大事だ。
「楽できるって意味だとそうめんがいいけど、アレンジするなら手間も変わらないしね」
普通に食べるなら湯がいて、市販のめんつゆを薄めて、たまに薬味を刻むくらい。
アレンジするとなると湯がいた後に炒めるという工程が加わり、他の料理を作るのとそこまで手間が変わらなかったりする。
藤は料理をするのが好きだし、休みの間なら手間も気にならないので、普通に料理して食卓に出すことの方が多い。
「おいしそうって作ってみるくらいかなあ」
「まあ、うちだとそうなるわな」
「あ、でもレパートリーが増えるのは純粋にありがたいよ。みんなも食べたい奴見つけたら教えてね」
毎日違うレシピを考えるのも大変なのである。藤はそこも苦とは思わない性質であるものの、やっぱりレパートリーが多いのと少ないのでは勝手が違う。
「藤お兄ちゃん、これすっごくおいしい! また作ってね」
無邪気な笑顔を向ける真宏にうんうんと頷く。その横で優が笑み崩れた顔を見せ、それを音葉が冷たい顔で見ていた。
「ちょっと話変わるけど、袋麺とかもアレンジレシピあるじゃない?」
独特のぬるっとしたテンションで和が話を続ける。
「あれ、それはそれでおいしいけど、結局普通に食べるのが一番、って落ち着くよね」
「あー、ね。それ、ちょっとわかるかも」
「冷たくてもおいしい! とか言われても、やっぱ温かい方が上手い奴な」
三人の話は藤にもなんとなく分かる。
ラーメンは冷たいよりも温かい方がおいしいのだ。特にインスタントの麺は温かい方で食べるのが普通だったから余計にそう思うのかもしれない。
冷たくしたり、アレンジしたり、変化球の食べ方にまだ慣れていないのだ。
「チ○ンラーメンとかは別だよね。あれはアレンジしても変わらないクオリティ」
「俺はそのまま食べる方が好きだけどな」
そうめんを啜りながら、中学生組は楽しげに会話を重ねている。
優がいるときはいつも食卓が賑やかで楽しい。
「んー、僕はいろんな食べ方できてうれしいけどなあ」
「そうだよね、そうだよね! やっぱ真宏くんは天使だよぉ」
会話の内容をちゃんと理解できないながらの真宏の言葉に優は相好を崩した。
いつもの姿にこれまたいつものように音葉が「……ショタコン」とぼやく。
「まあ、あれもそれも企業の必死な努力ってことで」
場の空気に流されない和がそれらしい言葉で会話を締めくくる。これもすべて玉木家によくある日常の風景である。
弟たちの、いつも通りの姿を藤は今日も笑顔で見守るのであった。




