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恐怖!霊が憑依し異言を語る

#祈祷部屋

父親  「あなたは?」

姪   「先生の助手でございます。先生は瞑想に入っておられるので私が二、三事情をうかがいますが、お宅様のお部屋の配置をお教えいただけますか?」



#北側の四畳間

 家族が帰ったので、四畳間と六畳間の仕切り襖は開け放たれている。おばさんも姪も、今は誰はばかることなく煎餅をほおばり茶をすすっている。


姪   「仏壇の部屋の隣りが長男の部屋なのよ。中学生って言ったかしら、ときどきお茶を盗んでるのは彼よ。」

おばさん「どうしてわかるのよ?」

姪   「だって彼以外には不可能だもの。まずお茶をお供えした母親自身は除外。お婆さんは毎日仏間で寝起きしてるけど、朝はずっと母親と台所で炊事してるからアリバイ成立。父親の寝てる部屋の戸は台所に続いてるし、娘さんも部屋から仏間に行こうとすれば台所の横を通らなきゃなんないのよ。だからこの2人でもない。残るのは彼だけよ。」

おばさん「なんでその子がそんなことすんの?」

姪   「さあ、そこまでは。」

おばさん「納得いかないねえ。」

姪   「そう? でもこれがあたし達のモノの考え方よ。とにかく、その子に一度当たってみれば何かわかるかもね。」



#警察署のロビー

 署員の名札を付けた姪がエレベータから降りてきて、ソファーに座ったおばさんのところまでやって来る。


姪   「ちょっと勤務時間中なのよ、カンベンしてよ。」

おばさん「こないだの、ほら仏壇のお茶の話ね、アンタのおかげでわかったわよ。」

姪   「そう、やっぱりあの子が犯人だったのね?」

おばさん「それで、今度家に行ってあの子を除霊することになったんだけどね……」

姪   「ああー!もう、転んでもタダじゃ起きないんだから。霊は関係なかったんでしょ?」


 おばさん、ちょっと真顔になって、


おばさん「ちょっと、はっきり言っとくわよ。どうやって起こったかを調べるのはアンタ達の方が得意かもしれないけど、アタシが霊視()るのはなぜそれが起こったかってこと。アンタに言われてあの子を直接霊視したら、それがわかったのよ。」

姪   「はいはい。」

おばさん「それについちゃあさ、ちょっとアンタに確かめてほしいことがあるのよ。」



#依頼人の家(仏間)

 おばさんが、お茶がなくなるという例の仏壇の前に座っている。姪はその後ろに控えている。向かい合うようにして家族が座っているが、今度は祖母や長男を含めた全員が揃っている。ここは都心から離れたベッドタウンで、家も新建材を使った今風の家。


おばさん 「御仏壇に祭られているのは?」

お婆さん 「私の連れ合いと御先祖様デス。」

おばさん 「お婆ちゃんの旦那様が亡くなられたのは?」

母親   「もう3年になりますかしら?」

おばさん 「ここの前の御主人は、戦争中大陸の方へ行かれてますね。」

お婆さん 「うんにゃ、ワシャ内地(ないち)と聞いとる。」

姪    「おじいさんが受けておられた軍人恩給の資料だと、あちらに派遣された部隊に所属しておられたようなんです。」

おばさん 「ここの坊っちゃんがやったことは、前の御主人が大陸でされた事に関係があるんですよ。」


 おばさんは終始にこやかに語る。


父親   「それはどういうことですか?」

おばさん 「御家族の方の前で言うのも(はばか)られることなんですけども、息子さんに()いた仏様が成仏(じょうぶつ)されるには、それは家族の方皆様に知っていただかなくてはならないんです。」


 おばさん、背を正して、


おばさん 「前の御主人、大陸ではずいぶんと(むご)いことをされてきたようですねえ。そこで殺された方が、この()の主人ばかりがねんごろに供養されているのを(ねた)んで、坊っちゃんにあんなことをさせていたんですよ。」

父親   「まさか、親父が!?」


 おばさん、黙っている。


父親   「お袋、知ってるのか!?」

お婆さん 「うんにゃ、ジイチャンはそんな人じゃねえよ。まったく冗談じゃねえ。」


 お婆さん、腹を立てて横を向いてしまう。


父親   「私も生前の親父を知ってますが、そんな男じゃない。それは家族の私達が一番よく知っている。仮に親父があっちに戦争で行ったとしても、あの親父がそんなことをするはずがない。申し訳ないが、アンタの話は信じられない。悪いが帰ってもらいたい。無論、今までのお布施(ふせ)は返してもらわなくて結構。その代わり、二度とウチの敷居(しきい)はまたがんでもらいたい。」

母親   「私も、おじいちゃんがそんな人だったなんてちょっと信じられませんので……申し訳ないいですけども。」

父親   「アンタひょっとして、何かの政治団体とか新興宗教と関係があるんじゃないかね? ウチは見ての通り住宅ローンもあるし、金なんか取れんと思うがね……」


 おばさん、あいかわらず微笑(ほほ)みを浮かべて黙っている。うしろの姪も笑っているが、実はキレる寸前である。


 突然、長男が痙攣しだした。背を丸めながら理解不能な異語をつぶやいていたが、いきなり上体を起こすと激しく泣きながら父親を指さした。


長男   「ニホンジンハ、イツモソウダ!! アンナニヒドイコトシトイテ、戦争オワッタラ知ランカオ! ワタシ奉公(ほうこう)シテタニホンジンに見殺シニサレタネ! ヘイタイモニクイケド、知ランプリシテタニホンジン、モットニクイ!!」


 クヤシイ、クヤシイと言いながら、畳を掻きむしるように長男は号泣した。父親はあっけにとられて言葉もない。おばさんは素早く長男に駆け寄って、背中をさすりながら念仏を唱えた。


おばさん「もういいから、ツラかったねえ。もうみんなわかったから、もういいから。」


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