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月のない夜空に捧げる花  作者: Revy
1章
6/35

5話

「ここまで来れば大丈夫かしら」

「何から逃げてるんだ、お前」


ディアナは自分の後ろに立つ男をじろりと見詰める。

人影のない路地裏まで、半ば振り切るつもりで走ってきたせいで、ディアナが息がきれていた。そんな自分と違い、男は息ひとつ乱していない。


「貴方こそ、なぜ付いてくるのですか?」

「面白そうだったからだな」


(本当に何なのこの人・・・!!)


大きく息を吐いたディアナを、男はやはり楽しそうな目で見ている。楽しそうとはいえ、平均的に見れば不愛想な表情だ。


(さっきといい、昨夜といい・・・気配というより、あれは・・・)


「ねぇ、貴方は・・・」


ディアナが先程の問いかけを再度しようと思ったときだった。




「―――殿下!!」


聞こえた声に、男は盛大に舌打ちをした。不愛想な顔が心底嫌そうに歪んでいる。

駆け寄ってきたのは昨夜の従者らしき男性だった。


「いつもいつも・・・どうして貴方はそう勝手ばかりするんですか!!」

「別についてこいと言った覚えはない」

「貴方を他国で一人にできるわけがないでしょうが!!」


(・・・殿下・・・?)


ディアナは呆気にとられた表情で、目の前の男の顔を再度見る。


「言ったらつまらないだろう?」


男は整った目を細め、口元を引き上げる。


(本当に何なのこの人―――――!!)


口には出さず、心の中でディアナは叫んだ。








「ディアナ=ウォレスと申します。度重なる無礼、心よりお詫び申し上げます」


ディアナは自分にできる最大級の淑女の礼を目の前の男に向ける。


「こちらこそ失礼した。このような令嬢がいるとは思わなかったものでな」


揶揄めいた口調で男が言う。


「何分、淑女としてまだまだ未熟なもので。お恥ずかしい限りです」

ディアナは内心の怒りを押し殺しながら、謝罪の礼を取る。


「いや。良いものを見せてもらった。淑女の回し蹴りなどそう見られるものではないからな」

「いやですわ。どうぞお忘れくださいませ」


(今ここで披露してやろうかしら)


引きつりそうになる口元を無理やりに吊り上げ、ディアナは顔を上げて男の顔を見返す。


「アルヴァ=フェアフィールドだ」

「?!」


男が告げたその名にディアナは息を呑む。

アルヴァ=フェアフィールド。

隣の大国、アランガルドの皇太子の名だ。


(この人が?!)


アランガルドは“前回”の革命で、貴族側に手を貸し、この国を亡ぼす一因となった国だ。その国の第一皇位継承者。“前回”の戦争の指揮をとった人物だ。

“前回”も今回も、その知力、軍略、政治手腕、剣の腕前は、ファランドールにも噂として届いていた。


「それで、侯爵家の令嬢が供もつけずにこのような場所で何をしているんだ?」


アルヴァの言葉にディアナはハッとする。


(そうだったわ!!いけない!!)


「申し訳ありません。先を急ぎますので、これで」

ディアナは慌てながらアルヴァに再度礼を取る。


「答えになっていないが」

(しつこい!!)


「申し訳ございません。所用のため、市街に赴く必要がございまして。先を急ぎますのでこれで失礼させて頂きます」


ディアナは礼をとったままの形で、改めてそう告げる。


「ならば、俺も行こう」

「「は??」」


思いがけない提案に、ディアナと従者らしき人物の声が重なった。


「侯爵家令嬢を一人で歩かせるわけにはいかないだろう」

「・・・お言葉ですが。我が国の治安はそれほど悪くございませんので」

「先程の男のような例もあるだろう」

「問題ありません」

「まぁ、お前ならそうだろうな」


愉快そうに眼を細めるアルヴァに向けて、従者が大きくため息をつく。


「・・・殿下。貴方様も同様です。他国を一人で闊歩するなど・・・」

「お前も来たらいいだろう」


従者はがっくりと肩を落とし、片手で顔を覆う。

そんな従者には目もくれず、アルヴァはディアナに向き合う。


「並んで歩くわけにはいかないからな。俺はお前の後ろに控えていよう」

「はぁ」


(何を言ってもムダ、って感じね)


どうせ、目的地はすぐそこだ。荷物さえ引き取れば、あとは振り切ってしまえばいい。半ば諦めた心地で、ディアナは歩き出した。


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