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月のない夜空に捧げる花  作者: Revy
1章
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4話

「見せもんじゃねぇぞ!下がってろ!!」

「は・・・離して!!」


酔っているのだろうか。赤い顔をした男性が、ナイフを片手に女性を捕まえている。

ディアナは人ごみをかきわけるようにして、人だかりの中心に向かう。


「こいつが悪いんだ!人を馬鹿にしやがってこの女・・・!」

「ひっ・・・!!」


男はだいぶ気が立っているようだった。そのまま、女性の首元にナイフを突きつける。女性は青白い顔で震えながら首元のナイフを見詰めている。


「誰か警備兵を呼べ!」

「余計なことすんじゃねぇ!てめぇから殺すぞ!!」


男は女性を引き摺るようにして、声を上げた男性の方に向かう。男性の横に隠れるようにして立っていた子どもが悲鳴をあげた。


「おやめなさい」



恐らく、既に警備兵に連絡は行っているだろう。彼らが駆け付け次第、この場は制圧されるはずだ。

そうわかっているのに、ディアナは我慢ができずその場に飛び出してしまった。



男の血走った目がディアナを見詰める。


「なんだ?お前が代わりに切られるってのか?」

男は抱えた女性の頬にナイフをペタペタと押し付けながら、下卑た目線でディアナを見る。そうして、げらげらと大声で笑い出した。


「今すぐその女性を離しなさい」

ディアナはそう告げるが、尚も男の笑いは止まらない。

「大したお嬢ちゃんだ!偉そうに、てめぇに何ができるってんだよ」


「―――あなたを制圧できます」


男が次の言葉を返すより先に、ディアナは深く踏み込み、飛び込むように男の間合いに入り込む。

女性の手を引いて男から引き離し、その勢いで回転し、高く振り上げた足で男の横面を思い蹴りつけた。

蹴り飛ばされた勢いで男は頭から地面に倒れ込む。


「すみません!大丈夫ですか?!」

「あ・・・だ、だいじょうぶです、ありがとうございます」


ディアナは自分が手を引いたことで転んでしまった女性に慌てて駆け寄る。膝をついて女性の様子を確認するが、どうやら怪我はないようだった。

当の女性は礼を言いつつも、呆然とした様子でディアナを見詰めていた。

そして、目を見開きながら叫ぶ。


「う・・・うしろ!」


ディアナの後ろには口元から血を流した男がナイフを片手に立っていた。


(あら、意外に頑丈だわ)


女性を優先した以上、ディアナも一発で仕留められるとも思っていなかった。


「死ねっ!!」


振り下ろされるナイフを見ながら、ディアナは右手に意識を集中する。



しかし、そのナイフがディアナに届くことはなかった。


うめき声と共に、男がはじかれたように横に吹き飛んでいく。今度はディアナが蹴りつけたのとは反対側の頬を抑え、男が転がりながら呻いている。


「無事だな?」


ディアナが見上げた先には、不機嫌そうな漆黒の瞳があった。





「・・・お陰様で」


ディアナはスカートを片手で軽く払いながら立ち上がり、座り込んだままの女性に手を伸ばす。

昨夜の正装とは違う黒い軍服を身にまとった男は、転がる男を見下ろしている。


「このような輩はどの国にでもいるものだな」


呆れたように呟き、表情にでる不快さを全く隠そうともせず、男はため息をついた。


「くそっ・・・なんなんだてめぇら!!」


転がっていた男は、尚もナイフを握り立ち上がろうとしている。


「下がってください」


ディアナは隣に立つ男に一応、そう告げてみる。


「お前こそ下がっていたらどうだ?」


あっさりとそう言い返され、ディアナは少しだけムッとする。


「この程度、問題ありません」

「そうだろうな」

「先程も、問題ありませんでした」

「わかってる」


男はどこか楽しそうな様子で口元を歪ませる。

昨夜のことも相俟って、だんだんと憎らしい気分になってきたディアナは男の顔を思い切り睨みつける。


「でしたら、わざわざ出て来られる必要はないのでは?」

「さすがに見て見ぬふりはできんだろう」

「そうして下さって結構です」

「さて、そうもいかないしな」


淡々と言い返す男に、ディアナの苛立ちが尚も募る。


「おい!!無視してんじゃねぇ!!」


振りかかるタイミングを失ったらしいナイフの男は、更に顔を真っ赤にして叫んだ。

ナイフを掲げた男に、ディアナは右手を向ける。

キン、と甲高い音が響く。

男は小さく叫びながらナイフを取り落とした。落とされたナイフは、小さな音を立てて砕け散った。


「・・・少し静かにしていて頂けます?」


男の動きが凍り付いたように止まる。事実、凍り付いているのかもしれない。

ディアナの纏う空気が周囲を冷え込ませ、圧倒させていた。


「・・・ほう。氷を操るか」

「貴方には関係のないことです」


尚も楽しそうな目で見詰めてくる男をディアナは睨み返す。

同時に、男の気配が増す。

昨夜と同じような、焼きつくような気配。


「貴方は・・・」


口を開こうとして、ディアナはハッとする。


「・・・まずいわ」

「なにがだ?」


警備兵の声が徐々に近づいてきていた。

市街の警備配置をしているのは、ディアナの父だ。それもあってある程度の外出が許されているのに、こんな騒ぎを起こしたことを知られたら、外出禁止も十分ありえる。


ディアナはぐるりと周囲を見回す。

暴れていた男は近くにいた人たちに抑えられていた。女性も知り合いと思しき女性に支えられていたから、もう大丈夫だろう。


「おい」


呼び止める声に聞こえないふりをして、ディアナは再度、人垣の中に飛び込んだ。



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