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月のない夜空に捧げる花  作者: Revy
1章
14/35

13話

「大丈夫?」


ディアナはくるりと振り返り、壁際に座り込んだままだった女性に声をかける。


「あ、あの・・・血が」


近づくディアナに、青ざめた女性が声を掛ける。


「あ、ああこれ。ごめんなさいね、驚くわよね」

「い、いえそうではなくて・・・だ、大丈夫ですか」



ディアナは比較的無事な右の袖を引きちぎり、ケガをした左腕にぐるぐると巻き付ける。

軽い血止めにはなるだろう。今更な気もするが。


「あなたこそ大丈夫?あの男に何もされてはいない?」


ディアナの問いかけに、女性は小さく頷く。


ディアナは自分の右手をゴシゴシとドレスで拭いて、女性に手を差し出す。


「では、とっととここから逃げ出しましょう!」


にこりと微笑むと、少しだけ女性の表情が和らいだ。



女性がおずおずと手を差し出そうとしたとき。

ディアナにピクリと緊張が走る。


瞬時に振り返って、ディアナは女性を庇うように立つ。


足音が近づいていた。

それも、複数の。



先刻、弾き飛ばされた剣までの距離は遠い。おそらく拾いに行くには間に合わない。


「そのまま、私の後ろにいてね」


女性にそう告げて、声のする扉を注視する。



一瞬の間の後、大きな音を立てて扉が開かれた。

そこに現れたのは、剣を携えた男たちだった。



(アランガルドの騎士・・・?!)


人攫いたちを突き止め、救出に来たのだろうか。


そう思ってはみたものの、既に遅かった。

両手に籠めた魔力は、すでにディアナの手を離れようとしている。


「ごっ・・・ごめんなさいっ!!避けてください!!」


叫んではみるものの、それも遅い。

数人の男たちの戸惑うような声が聞こえ、それが叫び声に変わる。



(わぁぁぁっっ!!やってしまったわ!!)


ディアナは両手で自分の顔を覆い、膝をつく。

今日一日で最も淑女らしい行動だったかもしれない。



(せめて死人が出ませんように・・・!!)


そう願ってみた瞬間、ぞくり、と背筋を撫でる感覚に襲われ顔を上げる。


壁のように現れた炎がディアナの魔力を相殺していく。


「あれは・・・」


弾けるような音が響いて、辺りが一瞬明るくなる。



眩しさに思わず瞑った目を開けると、そこには見知った顔があった。



「・・・何をしているんだ、お前は」



大きく息を吐いた男は、片手で顔を覆いながら、その場に項垂れた。








ディアナの後ろに隠れていた女性が、騎士によって保護されていく。

よろめく女性に自らのマントをかけ、そっと肩を支える騎士の様子に、思わずディアナはため息をついた。

騎士の洗練された動作は、やはり美しい。

その動きを支えるための体幹が非常にしっかりしているのだろう。


ふ、と目の前にできた陰に上を見上げると、不機嫌そうな、呆れたような表情が見えた。



「アルヴァ皇太子殿下。どうしてこちらに?」

「・・・こっちの台詞だ」



もう完全に呆れかえりました、という風情でアルヴァはまたも大きなため息をつく。


「なぜお前はここにいる。なんだその恰好は。なぜあの男は凍っている。なぜ人攫いたちが全員倒れている。お前は一体どうやってここに来て一体ここで何をしたんだ」

「そ、そんなに一度に聞かれても答えられません!」


苛立つように早口で捲し立てるように告げてくるアルヴァにディアナは困惑する。


(なぜこんなに怒っているのかしら)



アルヴァの大きな手が、ディアナの右腕に労わるように触れる。

腕を縛った布にはじんわりと血が滲んでいた。


「なぜこんな怪我をしている・・・?」


アルヴァは眉根を寄せてディアナを見る。

どこか苦し気に歪んだ漆黒の瞳をディアナは眺める。


「・・・話は後だ。すぐに治療した方がいい」

「話しかけてきたのは殿下です」

「・・・・・・お前な」


アルヴァは怒りをなだめるように大きく息を吐く。


ディアナの身体にふわりと白いマントが掛けられた。包み込むようなその香に、どくりとディアナの心臓が音を立てた。

自分の両肩に大きな手が置かれる。マント越しにその手の暖かさが伝わってくる。

ディアナは引き寄せられるように、アルヴァの胸元に頬を寄せた。


「・・・おい」


頭上から、アルヴァの戸惑うような声が聞こえた。

ディアナは目を閉じて、アルヴァの身体に凭れる。


「どうした・・・?」


アルヴァの大きな手が、慈しむようにディアナの背を撫でる。受け止められた両腕から伝わる暖かさに、ディアナは小さく息を吐いた。


「殿下・・・」

「・・・なんだ?」


労わるような優しい声色が、どこか遠くに聞こえる。


「・・・血が足りません」

「は・・・?」



ディアナはそのまま、アルヴァの腕の中で意識を手放した。


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