11話
(やっぱり思うようにはいかないものね)
“前回”の騎士の時とは違い、鍛錬はしていても訓練をしていたわけではない。思うように身体は動かないし、正直ドレスも邪魔だ。
そんなことを考えながら、ディアナは目の前の男の足を斬りつけた。
扉を開けた先には、見張りをしていたらしい男が3人いた。
男たちはすでにディアナの足元に転がっている。
(できれば、声を出す前に片付けたかったんだけど・・・)
そうもいかなかった。
「なんだ!」「どうやって!」などとお決まりのような叫び声を上げさせてしまった。その声を聞いて、駆けつけてくる者もいるだろう。
ディアナは足元で呻く男たちから剣をひとつ取り上げて、殴りつけて昏倒させる。
命まで取る必要はないし、動けなくなってくれていれば充分だ。
ディアナは取り上げた剣を振ってみる。少し大振りだが使えないことはない。むしろ、敵の数がわからない以上、氷の剣を出力し続けて魔力が削られる方が痛い。
洞窟の奥から、複数の男の声が聞こえる。
予想通り仲間の声を聞いて駆けつけてきたのだろう。
ディアナは剣を持ったまま駆け出す。隠れる場所もない以上、先手を取ったほうが良い。
「はぁ?!」
「お、おいっ!」
先頭の男が目を見開いて立ち止まる。立ち止まったせいで後ろの男がぶつかったらしい。
驚きもするだろう。攫ってきた女が剣を携えて走ってくるのだ。
ディアナは目を見開いた男に向けて剣を薙ぐ。男は防ぐ間もなくその場に崩れ落ちた。
「このっ・・・!」
崩れ落ちる男を躱すように、仲間の一人がディアナに剣を振りかざす。その剣が振り下ろされる前に、ディアナはその手首を斬りつける。
剣を取り落とした隙をついて横に躱し、剣の柄で男の後頚部を思い切り殴る。
「なっ・・・何だお前!!」
思い切り踏み込んで、後ろに立ち尽くしていた短剣の男の胴体を斜め下から斬り上げた。
深手ではあるが、直ぐに死にはしないだろう。
残った一人がその隙をついたように、ディアナに向かって剣を振り下ろす。
身体を捻ってそれを躱し、左手で男の顔を掴む。
パキ、という音を立てながら、男の顔が凍り付いていく。魔力の出力を上げれば頭蓋骨ごと砕け散ってしまうので、加減が必要だった。
ディアナは手を離し、思い切り男の腹部に膝蹴りをする。膝を落とした男の後頚部に踵を振り下ろすと、男はそのまま顔面から倒れ込む。ぱりん、と氷の割れる音がした。
ディアナは大きく息をつく。
「きっとまだいるわよね。もつかしら、身体」
そう呟きながら、倒れた男たちの装備を漁る。
鞘と剣を取り上げて、自分の身体に固定する。ついでに短剣も取り上げておく。敵がどれだけいるかわからない以上、武器はあった方がいい。
洞窟はそこまで広くはなさそうだ。
多くて数十人といったところだろう。
ディアナは両手を上げて身体を伸ばす。
両足を開いて、脚の筋をしっかり伸ばす。これは先にやっておくべきだった、と思いながら。
両肩を大きく回して、ついでに首も左右に動かす。
コキリ、と気分のいい音がなった。
ゆらりと揺れる明かりが見える。同じ方向から複数の男の声が聞こえた。
「やっぱり、鍛錬は日々行っておくべきだわ」
声のする方に向けて、ディアナは今度は優雅に歩み始めた。