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月のない夜空に捧げる花  作者: Revy
1章
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序章

雲の切れ間から覗く赤黒い満月が、辺りを照らす。

抉られた大地、鼻を衝く血の匂い、近くで何かが爆ぜる音。


「ディアナ!しっかりしろ、ディアナ・・・!!」


閉じかけていた目を、ゆっくりと開ける。

青空を映し出したような真っ青な瞳に自分の姿が映る。


この方を守るための盾となるべき身体は、もう動かない。

この方の敵を屠るための手は、もう剣を握ることもできない。


「・・・最後まで、お守りできず・・・申し訳ありません」


喉に血が絡み、掠れてしまった声でも届いたのだろう。

この国で最も高貴な人は、泥と血にまみれた顔を歪ませ、静かに首を振る。


そっと伸ばされた手が頬に触れる。


その手は、一介の女騎士に触れるべきではない。

そう思うのに、それを諫めるだけの力は私には残っていなかった。


「・・・時間を巻き戻せたらいいのに」


空色の瞳から、雫が零れるのが見えた。


「そうしたら、僕は・・・僕はきっと君を・・・」


―――どうか悲しまないでください。

―――貴方の騎士としてお傍にいられただけで、私は幸せだったのですから。


「ディアナ・・・?!ディアナ!!」


―――でも、もし、時間を巻き戻せるのなら。


―――もし、願いが叶うなら。


―――今度は、違う形で貴方の傍に―――






「・・・最悪だわ」


柔らかなベッドの上で、ガバリと起き上がったディアナは大きくため息をつく。


カーテンのすき間から入り込む光がどうにも目ざわりで、ディアナは肩を軽く回しながらベッドから降りた。

今日は、満月だ。

空に浮かぶそれを見ないようにしながら、カーテンを閉め直す。


「よりによってあんな夢を見るなんて・・・」


どうせ今夜は寝付けないことなんてわかっていた。むしろ夢を見る程度には眠れていたのなら僥倖だろう。

そう思い直してディアナは部屋の真ん中に立ち、右手を伸ばして目を瞑る。

甲高い音と共に、その右手に透き通った剣が現れた。

両手で構えて振り下ろす。空を割く音が静かな室内に響く。

この大陸では、時折ディアナのように『魔法』と呼ばれる力を持つ者が現れる。どのような属性の、どんな能力を持つかは個々によって異なる。ディアナは氷の属性、とくに攻撃に特化した能力を持っている。


それ故に、“前回”は騎士としてこの国の王家に仕えていた。

騎士は基本、男性の仕事だ。女騎士となれるのは、魔法の力を持った者だけに限られている。幼い頃にこの力に目覚めたディアナは、侯爵家の令嬢でありながら騎士となる道を選び、王家に仕えた。


剣を片手に持ち替え、身を翻させながら舞うようにしてそれを振るう。男性に比べて腕力の無い自分が苦心して身につけた剣技だった。身軽さを活かして、的確に急所を狙えるように。相手の肉を切り裂くのではなく、確実に相手を無力化するために。


そうして何度か振るっているうちに、少しだけ気分が落ち着いてくるのが分かる。

じんわりと身体が汗ばんでいるが、どうせ、朝食後にはすぐに侍女によって入浴させられるだろう。


そう、明日は夜会だ。

この国の皇太子殿下の婚約者発表のための。

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