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その2




残された部屋には、私と女の子が対面に座っている。

何から話せば良いのか……異世界とか言ったら引かれるのかもとそわそわしていると「貴女のお名前は?」とにこにこ笑顔の女の子が問い掛けて来た。

綺麗な薄桃色の髪はふわふわと柔らかそうで、チョコレート色の瞳がさらに柔らかい印象を与える。

声まで甘くとろける様な可愛らしさだ……少なくとも本物の「女の子」だと私は緊張を和らげる。



「私は永原あさひです」


「あさひ……素敵な響きなのね、太陽の加護を賜っているみたい」


「あ、ありがとう……」



そんな真正面から褒められる機会なんて無いので視線を左に向けると「まあ!黒い瞳なんて初めて見たわ……!」と嬉しそうに身を乗り出す。

ああっ、香りまで甘い、女の子だっ!



「わたくしはリアレアリア・フォルス・ダグヴァラスと言うの。

ユウトから少しだけ話しを聞いたわ、あさひは異世界の出身なのでしょう?」


「リア、レアリア……」


「長いものね、どうぞリアと呼んで!」



細く白い手に手を取られ、私は思わず頷いてしまった。



「あさひ、不安でしょうけど心配なさらないで。

ユウトの事ですからきっとお父様に事情を話す筈。

こんな不遇な事、流れ星に当たるくらいの確率ですわ、きっとあさひの力になってくれる筈!

もちろん、わたくしだってあさひの力になります!」


「……でも、私何も持ってない、何も出来ない……ですよ?

ただの高校生だし……就職だって地元のコネで入った様なものだし」


「何も無いと言う事は今からたくさん学べると言う事ですわ。

何も知らない出来ないままなら凡人ですけれど、あさひはあちらの世界から来たお客様だもの!

きっと、私達には無い素敵な力があるはず!」



ぎゅっと握られたその手が暖かい。

マイナス思考だった考え方が格好悪い事に気付かされた。

今後の事、身の振り方。

リアはこの世界の、この国のお姫様……私は何も持っていないただの平民の位置だろう。

と言う事は……。



「リア、私勉強したい」


「まあ……お勉強ですの?」


「うん」



前の世界で、私は2年間ほとんど勉強と共にあった。

もちろん受験の為に勉強をしていたのだけど、それは先生に教わっているための理由が必要だったからで……それに、その志望校は諦めてしまったので受ける事はなかったのだけど。

それでも勉強が楽しいと思えるくらいにはずっとしていられる人間なのだと分かった。

先生に教わるのは難しいだろうと思ってリアにそう言うと、みるみる笑顔になって「喜んで!」とまた手を握られる。



「ユウトはまだ時間が掛かるでしょう。

私で良ければ色々と教えさせていただきますわ!」


「助かります!」


今度は私から握り返すと、やっぱり嬉しそうに満面の笑みで答えてくれた。



この部屋で教えられる事は少ししかないと言うリアの言葉により、壁に掛かっていた地図をテーブルに広げた。



「この辺りからこの辺りまでが、我がカバネリアル国が保有する地域、ノーズローズ地方と言います。

これは大陸地図ではありませんので我がカバネリアル国が中央に位置していますが、実際はとても広く……未開の地や未踏の地も数多存在しておりますの。

大陸の中心はキリゼ公国と言う国で、我が国はそこから東へ向かって4ヶ月程かしら」


「4ヶ月!?すごく遠いのね」


「ふふっ、そうですわね。

わたくしもキリゼ公国へは2回程しか赴いた事がありませんけれど、緑の多い自然と共存している素敵な国ですのよ」



そう言って笑うリアは、見た目からすれば私と同じ年くらいなのに色んなことを経験して来たのかなと疑問に思った。

しかしそんな事は聞けなくて、リアは次の話しにうつる。



「この国の特色と言いますか……他の国と比べて分かりやすく言いますと、三つ。

ひとつ、健やかであれ。

ひとつ、勇敢であれ。

ひとつ、朗らかであれ。

ですわ」


「んんー、分かりやすい」


「ええ、わたくしの御先祖様から語り継がれている、国の民を見て思う人柄などが分かりやすくこの三つですの」


「勇敢であれって、民に必要なの?」


「もちろんですわ!

常に健やかに、勇敢に、朗らかに。

身体が健康であるにはよく食べる事が必要ですし、街の外に出る魔物達から民を守るには勇敢でなくてはいけませんし、怒ってばかりの人に部下は付いて来てはくれませんわ」


「あ、そう言う事なのね」



つまり、人一人に対しての言葉では無くこの国の人間達が自主的に行なっている目標の様なもの、と言う方か。

カバネリアル国の人達を見るのが楽しみになって来た。


先生が戻って来るのにまだ時間が掛かるらしいと、鎧を身にまとった兵士の様な人が来てリアは頷いた。



「この部屋で教えられる事と言えば地図で見える周辺の場所の説明くらいかしら……ねえ、あさひ。

わたくしからもお聞きしても良いかしら?」


「もちろん」



私の返事にぱあっと花が咲いた様に笑うリア。

それだけでどの女の子よりも可愛いと感じてしまう。

やはりそれだけ魅力的な人なのだろう。



「あさひは異世界から来たのよね?

その衣装はあさひの居た場所の民族衣装的なものなの?」


「え?あ、これは制服って言って……先生が居た高校……いや、教育機関?の中で生徒が着る服なんです」


「そうだったの?とても素敵なのね……リボンが綺麗な真紅だし。

それに中の着方はどうなっているの??

シャツに、ベストに……カーディガン。

スカートのプリーツ加工が素敵だわ……裾にあるラインも可愛らしいのね!」


「リア……褒め過ぎだと思う」



ただの学生服をそんなに褒められても、生産者にお礼を私が言えないから悔しく思ってしまう。



「そんな事ないわ!

素敵なお洋服よ、あさひ」


「……それは、私も思ってる」



数少ない高校の強みは学生服の可愛さだっただろう。

色が紺と赤のリボンと言う定番色ながら、リボンは4種類、スカートも3種類から選べたのだから。

他の高校は中々選ぶ事は出来ないと聞いていたから、密かに我が校の自慢でもあった。



「ねえ、今度わたくしのドレスと交換してみない?」


「私は全然良いけど……お姫様がこんなの着て大丈夫?」


「ええ!問題無いわ、それに見せたい人が居るの」


「おお……」



そう言って頬を染めたリアは、さっきよりも大人っぽく見えた。

そして人差し指を立てて「内緒よ?」と笑う。

私はそれにもちろんと頷いて、2人で小指を絡め合うのだった。

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