9話 ラブ波 S
ひなとレイラは地震による寮の被害の有無と監督の安否を確認するために、練習を早く抜け帰寮することとなった。
帰路。
「レイラちゃん、手はもう繋がなくていいの?」
「なんで手なんか繋ぐ必要があるんですか。暑いだけですよ」
「さっきまで離さなかったくせに」
レイラは目を逸らす。
「監督大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ。たいして揺れてないし」
「あんなに怖がってたくせに」
レイラは視線を背ける。
「もうこないよね。余震も終わったみたいだし」
「こないですよ。たぶん」
「でも油断しないほうがいいよね」
「あたりまえです。気をつけてください」
「地震がおきる日って晴れてること多いよね」
「たしかにそうですね」
「地震雲ないかな」
「今見つけたってしょうがないじゃないですか」
「しょうがないかな」
「しょうがないですよ」
「レイラちゃん、今日は一緒にお風呂入ろっか」
「はい」
「ご飯も一緒に食べよ」
「はい」
「ベッドも一緒だね」
「それはイヤです」
「む〜。なんでよ〜」
ひめゆり野球部の寮は、屋内に部屋が並ぶタイプである。
二人は玄関を開け、はじめに監督の安否を確認する。
あいかわらずの寝言を聞いたあと、火もとやガス、水道などに異常がないか確認。
食堂や広間の冷蔵庫、テレビ、洗濯機などが倒れていないか確認。
設備や窓ガラスの破損がないか確認。
全て異常なし。
牧歩に連絡をして任務完了である。
ちなみに、寮内の扉は鍵がなく、全て引き戸である。
プライベートはもちろんない。
夜。
「ひなさん、電気消しますよ」
「いいよー」
ひなはベッドに寝転んで本を読んでいた。
ホットミルクを飲み終えたレイラがスイッチに手をかける。
23時。
いつもの就寝時間である。
ひめゆり寮は、基本的に二人で一部屋を使う。
ひなとレイラは同室である。
部屋には二組の机、椅子、木製の二段ベッドが備え付けられている。
話し合いの結果、ひなが二段ベッドの上を使っている。
理由は『高いところが好き』だから。
「もう地震こないよね」
「やめてくださいよ」
なんとなくの会話が終わり、室外機の音が響く。
夏の夜に静寂はない。
虫の声、カエルの声が外でやかましく鳴っている。
ときおり布が擦れる音がする。
「いま揺れた?」
「……ゆれてないです」
「でもさ、じっと仰向けになってるとさ、揺れてないのに揺れてる感覚になることあるよね」
「私はありませんね」
「そっかー」
「はやく寝ますよ」
「む〜ん」
二人が寝入ろうとしたそのとき、小さな地震がきた。
建物がみしみしと軋む。
「……いま、揺れたよね?」
レイラからの返事はなかったが、二段ベッドの階段を登り、ごそごそとひなの布団に潜り込んできた。
それからしばらく二人は寝られずにいたが、ふたたび揺れることはなかった。
唐突にひなが口を開く。
「レイラちゃん、いい匂いするね」
「ひなさんは抱き枕にちょうどいいです」