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4話  3−3−4

 8月某日の昼下がり。

 猛暑真っ盛り。

 小一時間の休憩後の練習はケースバッティングから始まった。


 ケースバッティングとは、あらかじめ任意の場面を作り出した状態から始める、実戦形式の練習である。

 当然、真剣勝負。

 気の抜けない、はりつめた空気である。 


 ケースは無死一塁。

 内野は送りバント警戒態勢である。


 ひなは一塁ランナーがいるため、一塁ベースにつき、投手からの牽制に備える。

 また、このケースは送りバントの可能性が高いため、ファーストはバントされた打球を取るために前方へのダッシュを念頭に置かなければならない。


 このとき、セカンドはファーストがベースについているため、空いた一、二塁間をカバーする必要がある。

 加えて、バントされた場合はファーストが一塁ベースを空けるため、そのカバーにも入らなければならない。

 よって、このケースにおけるセカンドは、一塁よりのポジショニングをする。


 ことが多い。


 ファーストのひなに痛烈な打球が飛んできた。

 イレギュラーした打球を体に当て、前に落とす。

 ボールを拾い、そのまま一塁ベースを踏み1アウト。

 体を反転させ、二塁に送球。

 クロスプレイとなるも、無事、タッチアウトでゲッツー成立である。


「ちょっとまって、あんこ!」

「なんなんです⁉︎」


    [二上ゆず] 2年 右投げ左打ち 二塁手 158センチ Cカップ

          お姉ちゃんのを翌日そのまま派 セミロングウェーブ




「いやちがくて! あんこ!」

「……なに、ひな」


    [二上あん] 2年 左投げ右打ち 遊撃手 160センチ Cカップ

          普段の下着派 切りっぱなしミディアム




「なんでベースカバーにゆずんこが入ってるのさ! ていうか棒立ち!」

「……ゆずがいたから」

「こんなに暑いのにお姉ちゃんにベースカバーなんてさせたら、死んじゃうのがわからないんです⁉︎ ねえ、お姉ちゃん!」

「死なないよ」

「ほらぁ!」

「ゆず、話きいてる?」


 本来、この場合、セカンドであるゆずは、ファーストのひなのエラーに備え、ひなの後方のカバーに回らなければならない。

 つまり、二塁ベースにゆずが入ることはない。

 ショートである、あんの役割である。


「だいたい、今日はお姉ちゃん、あの日なんですよ! ねえ、お姉ちゃん!」

「やめて、ゆず……」


 ゆずはあんのもとに駆け寄り、抱き寄せる。

 あんはいつも通りのポーカーフェイスだが、突然のカミングアウトに少し動揺が見える。


 ひなは、空を仰ぎながらも、あんに声を掛ける。


「調子悪いなら休んでいいよ〜。無理しちゃダメだよ」

「……いや、できるよ、ちゃんとやる。ゆずも、大丈夫だから」

「さすがお姉ちゃん!」


 ケースバッティング再開である。

 同じく、無死一塁。

 送りバント警戒。

 ゆずも、今回はきちんと、一塁に寄ったポジションを取っている。


 快音とともに、強い打球が三遊間に飛ぶ。

 なんとか、ゆずが追いつき、逆シングルで捕球。

 厳しい態勢ながらジャンピングスローで二塁フォースアウト。

 あんは一塁に送球するも、ここはセーフとなった。


「ゆず、よく取ったね」

「ありがと、お姉ちゃん! 今日も洗いっこしようね」


 抗議が入る。


「ちょっとまって、あんこ!」

「……なに」

「なんで二塁にいるのさ! ベースカバーはゆずんこでしょ!」

「……だって、ベースカバー入れって、ひなが」

「そうですよ! お姉ちゃんにベースカバー入れって言ったのは、ひなちゃんじゃないですか!」

「いや言ったけど!」


ひなは牧歩に助けを求める。


「キャプテンっ! キャプテンっ!」


 牧歩はひめゆり野球部のキャプテンである。

 名門の主将にふさわしく頼りになるため、部員からあてにされることも多い。

 ちなみに、一応のこと、ひなとアリアも副キャプテンという立場にある。


「あんこちゃん、ゆずんこちゃん」


牧歩は満面の笑みでサムズアップを掲げる。

グラウンドによく通る声が響く。


ナイスプレーッ(濡れたわ)‼︎」   


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