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2話  そうだね

 ひめゆり野球部は体づくりに力を入れている。

 そのため、チームから選手にプロテインが支給されており、部室には大きなプロテインの袋やボトルが所狭しと並んでいる。


 飲むタイミングや分量は、選手個人にゆだねられている。

 ひなは練習後に飲むタイプである。


「今日は何味にしようかなぁー」


 また、ひなはチームから支給されるプロテインの他に、「痩せるプロテイン」を自前で持っている。

 どうやら、脂肪の燃焼を促進する成分が入っている、ということらしい。

「痩せるプロテイン」はティラミス味である。

 それを支給プロテインと一緒に飲む。


「やっぱりバナナかなぁー。バナナティラミスだなぁー」


 バナナティラミスである。

 プラスチックの計量スプーンでざっくり3杯、シェイカーにすくい入れる。


 喉の渇きにまかせ、一気に飲み干す。


「う ぼ゛え っ !」


 吐く。


「ハッハァ! 引っかかりよったな、ひなぁ!」


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 グラウンド整地を終えたうらが部室に引き上げてきた。

 八重歯をのぞかせ、いたずらっぽく笑う。

 ひなはドロリとした白濁液を吐き出し、涙目になりながらえずいている。


「そりゃ、プロテインやのうて白い粉よ」

「うぇぇ……、白い粉ってなに?」

「白線引くやつ」

「白線引くやつ⁉︎」


 ラインパウダーは、ときに石灰とも呼ばれる。

 しかし、厳密には正しい表現ではない。

 かつて、ラインパウダーに消石灰が用いられていた名残であるが、現在は安全面から炭酸カルシウムや石膏が使われている。


「飲んじゃったんだけど」

「ま、大丈夫やろ。ひなやし」

「どのくらい石灰にしたの」

「バナナだけ」

「む〜。私だからよかったけど、レイラちゃんやマリサが飲んでたら大変なことになって

たよ……?」


「うらが」


「ふふふ、そうはならんのよ」

「なんで?」

「ひなだけに当たるようにした」

「えぇ……。私がバナナを選ぶのを読んでたってこと?」

「せやな。メンタリズムゆうんよ」

「へぇ、すごいなぁ」

「じゃ、ちょっと片付けてくる」


 そう言いながら、うらはバナナプロテイン(石灰)を戻しに行った。


 ひなが気を取り直してシェイカーを洗っているとレイラが部室に引き上げてきた。


「あ、レイラちゃん。おつかれさま」

「おつかれさまです。ひなさん、シェイカー貸してもらえませんか。忘れちゃったんですよ」

「うん、いいよー」

「ありがとうございます」

「ふふ、レイラちゃん。私はこれから、レイラちゃんが何味を選ぶか当ててみせるよ」

「面白いですね、当たったらジュースおごってあげますよ」

「よーし」

「そのかわり、当たらなかったらマッサージしてくださいよ」

「よ、よーし……」


 低血圧なレイラには珍しく、乗り気な様子で賭けを提案した。

 勝利を確信している様子である。


「ずばり、アップルパイ味だね!」

「そんなもん、ひなさんと菜流さんしか飲まないですよ」

「じゃあストロベリー!」

「ハズレ」

「ココアだね!」

「それもハズレです」

「マンゴー!」

「違います」

「むぅ〜、外しちゃった。あとはレイラちゃんの嫌いなレアチーズ味しかないよ」

「えっ⁉︎ …………は、謀りましたね。 まさかひなさんにやられるとは」

「へ?」

「単細胞に見せかけて私を誘導していたんですか。ひなさんのくせに」


 レイラは心底悔しそうな表情でレアチーズ味のプロテインをシェイカーに入れる。


「ふ……。レイラちゃん、よくわからないけど、どうやら私の勝ち?のようだね」

「何言ってんですか。賭けは私の勝ちですよ。当ててないじゃないですか。調子に乗らないでください」

「え? あ、そっか。まさかレイラちゃんがレアチーズを選ぶとは」

「約束通り、マッサージお願いしますね」

「しかたないなぁ」


 レイラは苦い顔をしながらレアチーズプロテインを流し込む。


「ぶふっ、ゲホッ、ゲホッ! なんですかこれ⁉︎」


 レイラは白い液体をいきおいよく吹き出す。

 それを顔からビシャビシャに浴びてしまったひなの胸ぐらをつかむ。


「だれですか?」

「わ、わたしじゃないよっ! ほんとだよっ!」

「だれですか?」

「たぶん、うら……だと、おもう」


 ひなは目をぎゅっとつむり、震える声を絞り出すように答えた。


「そこのロープ取ってください」

「……はい」

「ちょっと行ってきます」


 レイラが部室から出て行くと、どこか遠くで叫び声が聞こえた。



(おう、レイラおつかれさん! ん、なんや? え、ちょ、ちょい待ち! なに、なんやのん⁉︎ 誰か! 誰かたすむぐっ! んーーー!)









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