第1話 サラ
気がつけば、俺は水中にいた。
苦しい!早く出たい……!!
もがいていると底から紫色の手が伸びてきた。
何だこれ!?
叫ぶと大量の水を飲み込んでしまい、意識を手放しそうになる。
手は俺の足を引っ張り、奥へと引きずりこむ。
「俺に面白いもの見せてくれよ」
炎が見えた。
おかしい……ここは水中なんだぞ。
炎が俺を包みこむ。
何が起きている…?
「げほ、ごほっ!!おぇ!!」
酸素で咽せた。……何故か。
てかこれ……俺の声じゃないな。
景色も違う。
目の前が火山だ。
俺は神崎の家の風呂にいた筈。
そしたら水中に居て、手が来て、炎が来て、今に至る。
空に変なのがいる。
羽があって、でっかい尻尾、でっかい身体……ドラゴン?
いやまさか。
ドラゴンなんているわけ……あ、火を吹いた。
……
……
……
どう見たってドラゴンだろ!!!
もしかして、ここは異世界か?
俺、異世界転生した?
いつ死んだ?
風呂に入っていただけだし……。
あ
この前姉貴が言っていた。
「あんた、風呂で寝ないでよね?失神して溺れ死ぬから」
俺、風呂で死んで転生した?
……はぁ!?
カッコ悪!!
神崎に迷惑もかけてるし!
恥ずかし過ぎだろ!!
……いや、過ぎたことについて喚いたって仕方ない。
状況整理だ。
俺は死んで異世界転生した。
今は見ず知らずの世界の火山の麓にいる。
身体がなんだか、硬い。
手足が無いというより……首から下が無い。
口を開けるとパカパカッと箱みたいな音がする。
口内の歯、舌はある。
火山が見える為、目もある
明らかに人外だな。
ドラゴンがいる世界だし……大方、魔物とかに転生したとか?
ハハッまさか。
『大せいかーい』
誰だよ、今の声!?
周りには誰も居ないのに。
と言うか、大正解って……嘘だろ……?
『嘘じゃねーし。今のお前は……ミミックだ』
ミミック?
ゲームで宝箱に偽装している奴?
『げぇむ?何かは知らないが、宝箱に偽装しているのは確かだ』
俺、ミミックなのか……。
あ、でも強いのもいるしもしかしたら無双出来たり……。
『無理だ、無理。今のお前はDランク。《強い魔物》というのはAランクから』
ランクとかあんの?
『EランクからS++ランクまでな』
へー……
『自分で聞いた割には反応薄くね?』
お前とかいうな。
俺には木戸拓哉という名前があるんだぞ?
そもそもお前何者だ!?
俺の脳内に声が響いてるしさ。
『俺?俺はえーと……《サラ》。お前の守護霊とでも思っていい。キド・タクヤ……異世界の人間は名前が長いなぁ?』
守護霊?
って!人の名前につべこべ言うな!
『この俺が新たな名付け親になってやろうか?』
……名付け親?
『魔物らしい名前、つけてやるよ』
魔物……ミミックらしい名前、ねぇ……。
魔物で木戸拓哉って合わないかもな。
頼む。
『《ミア》なんてどうだ?』
おお!なかなかいいかも!
それから、サラと色々話した。
因みに俺が目覚めるまでサラは、俺の記憶を勝手に覗いてやがった。
どうりで異世界の人間って事を知ってたわけだ。
その後数日の間、サラによる異世界講座が開かれた。(俺の中で)
まず、この場所。
ラマダ熱地帯という、この世界最大の火山がある地域とのこと。
その次、ランク。
低い方から順に、E、E+、D、D+、C、C+、B、B+、A、A+、S、S+、S++
全13段階だ。
俺はDランクの為、低級魔物に該当する。
因みにサラのランクは……秘密だそうだ。
次に、スキル。
特殊能力のようなものだ。
普通は自分で所有スキルの確認ができるらしいが、俺はまだ出来立てホヤホヤのミミックだ。
出来るわけがない。
というわけで、サラに確認してもらった。
俺のスキル…
擬態化:無機物に擬態する。擬態可能時間は1時間。
超鋭歯:鉱石さえも噛み砕く。
炎球:炎でできた弾丸を相手に発射する。その熱、約200度。
……だそうだ。
あとはいつのまにか《炎耐性++》というのを手に入れていたらしい。
ミミックっぽいスキルばかりだ。
例外といえば炎球だが、それは俺が火山の近くで生まれたからと考えてもいいだろう。
そして、国。
大きく3つに分けられる。
人国:人間の支配する国々。
魔国:魔物の支配する国々。
精霊国:精霊の支配する国々。
基本的に、人国は魔物を受け入れない。
それは勿論、安全の為だろう。
人語を話し、人間に近い身体を持つ魔物もいるが、そんな彼等でさえも入国不可。
極めて閉鎖的な国々だと言う。
人と魔物が関われる場面は、冒険者が国外の探索をしている時くらいらしい。
魔国と精霊国は友好で、互いの国の行き来は自由。
貿易も行なっているらしい。
その後も講座は続いた。
俺の前世の知識を使った比喩表現が所々あった為、理解が簡単だった。
一通り知っておかなければならない事は聞けた。
気になる事といえば……
……低級魔物に守護霊が憑くっておかしくね?
『へ?』
へ?って……。
『えーと、それはな……あ、転生者サービスだよ!あるあるだろ!?』
あるある……なのか?
まぁいいや。いつか吐くだろ。
『……で、俺の話聞いて目的とか見つかった?』
精霊国か魔国に行くつもりだな。
どちらも低級魔物の俺が行っても大丈夫らしいし。
『な!?精霊国はやめとけ!!』
はい?何故に?
『精霊国は上級魔物にとってはいい場所だが、低級魔物は分からん。下手したら性格悪い奴に、魂持ってかれるぞ』
……マジか!先に言っとけ!
じゃあ魔国だな。
『あそこの中央都市フェイトだと、低級魔物でも居やすいからそこがいいだろな』
というわけで目的が確定した。
目指すは《フェイト》……魔物の街だ。