始まりの風呂
「悪いな、終電逃して泊めてもらうことになって」
「良いんだよ、このくらい」
そう言って俺を自宅に招き入れたのは、同じ大学の友人_神崎だ。
それにしても此奴は友達思いだ。
今日、二人で近頃話題の居酒屋に行ったのはいいが長居しすぎた為、俺は終電を逃した。
ネットカフェで寝泊まりしようかと思っていた所、神崎が「俺ん家、この辺りだから泊まれよ」と言ってきた。
俺_木戸 拓哉はいい友を持ったもんだ。
それにしても、あの居酒屋の料理は最高だった。また行きたいくらいだ。
何せ、ここ数日の疲れを忘れるくらいの旨さだったからな。
疲れ……あ。
思い出してしまった。
体の内に重りが現れた気がした。
あーあ!!なんで思い出したんだ!?
「お前…疲れてる?」
「……ああ」
「風呂でも入れようか?」
「……お願いします」
神崎は荷物を置くと
「風呂沸かしてくるから、そこにある漫画でも読んでろ」
と言って風呂場へ向かった。
あざーす。
アロマの香りが浴室中に広がる。
神崎の奴、入浴剤まで用意してくれるなんてな……今度お礼に飯奢ろうかな。
何処の店に行こう?
……いいや、後で考えるとしよう。
とにかくここ最近は色々あって疲れた。
その1、好きな同サークルの女の子に彼氏が出来た。つまり、失恋。
……俺、中学から高校まで何回かいろんな子に告ったことあるけど、全部振られちゃったんだよね。
俺、ずっと彼女出来ないのか?
大学卒業して就職した後も彼女出来なかったらどうしよう?
独身貴族&童貞の仲間入り?
嫌だぁあああああ
……
その2、突然の姉貴の訪問。
本当に突然だったんだよなぁ。
勝手にアパートに来て、勝手に酒飲んで、勝手に愚痴って、勝手に酔って、勝手に部屋を荒らして、勝手に帰った。
俺、姉貴苦手なんだよな。
それに仕事が医者で忙しい筈なのにどうして来たんだ。
俺は実の姉が来ても嬉しくないんだよ!可愛い子に来て欲しいんだよ!
……
その3、アパートの隣人(×2)に怒られた。
姉貴が酔って大声で愚痴ったせいだ。俺は悪くない。
う…瞼が重い。
寝たいのか、俺よ。
じゃあ寝るか…睡眠欲に勝るものはないからな。
神崎は暇つぶしにスマホゲームをしていた。
「……ガチャで爆死、またかよ」
というか、あいつ遅いな。
風呂にスマホでも持ってった?
いや、あいつのスマホはテーブルの上に置いてある。
じゃあ何で?
脳内をある可能性がよぎる。
……まさか。
神崎は浴室へ走った。
その顔は色を失っていた。
浴室のドアを開けた瞬間、神崎は声にならない程の悲鳴をあげた。
木戸拓哉が、若葉色の湯船に沈んでいたからだ。
*****
その者はラマダ火山の火口を静かに眺めていた。
彼にとってマグマはただの退屈しのぎに過ぎず、炎耐性++のない《奴ら》に捕まらない場所はここだけなのだ。
「……………!?」
麓に異変を感じた。
魔物が誕生しようとしているようだ。
彼は好奇心に身を委ねようとした。
しかし、火口を離れると《奴ら》に捕まるのではないか、と本能が囁く。
……そしたら爆発をお見舞いしてやればいい。
彼は麓へ駆け下りた。
魔力の塊が形を成そうとしていた。
見続けていると、取り込まれてしまいそうだ。
……いっそのこと、取り込まれてしまえば?
……魔物の中に俺がいるなんて《奴ら》は思うまい。
……そろそろマグマに飽きてきてたし。
彼は魔力の塊を見つめた。
周囲が歪み、身体が硬直した。
……俺に面白いもの見せてくれよ。
やがて彼は魔物に取り込まれた。
その魔物は……
はじめまして、チビ林檎と申します。
主人公が風呂で死ぬ話を入浴中に思いつきました。
不定期更新で、全く更新しない時期があると思いますが、作者は生きてます。ご安心を。
学生なだけあって、そんなに文章力ないです。
今まで書いてたのは妖怪のお話とアニメの二次創作です。
どちらも女主人公でハイテンションだったので、こういう小説を書くのは新鮮です。
次で主人公が転生します。
では、これでおさらば。