5
予約投稿したつもりがしてませんでした!ごめんなさい!
学校の最寄り駅から、家とは反対方向の電車に乗ること15分。
普通電車しか止まらない小さな駅でドアが開くと、隣の車両に乗っていた花子が降りたのを確認して、ぼくも電車から降りる。
そして改札へ向かう花子から15メートルくらい離れて、その背中を見ながらあくまで自然にぼくも改札へと向かう。
花子が改札を通って姿が見えなくなると……やや急ぎ気味に改札へと歩く。
……ストーカーでもやってる気分だ。
「絶対ここまでしなくても良かったと思うんだけど」
ICカードをかざしながら、向こうの柱に背を預ける花子へ愚痴をこぼす。
「バカね。それで変な噂が立ったら責任取れるわけ?」
「たかだかぼくらが二人になるところを見られたくないからって、わざわざ電車30分も見逃して人気の少ない駅に移動するまでしなくてもいいじゃないか」
それも、移動中は車両も変えて、という徹底ぶりで。
「だから。責任取れるわけ?」
「……取れません」
「なら、私の言うとおりにして。……こっち」
ぼくを言い負かせた花子はフンと鼻を鳴らして、太陽の傾く方角を指差して歩く。
そうしてたどり着いたのは、けっこう小さめなファーストフード店。
ポテトフライとジュースを2つずつ頼み、それを席に持って座る。
「それで、相談って何さ」
座るなり開口一番にぼくはそう言った。
花子は無言でチューっとストローからジュースを飲みながら、僕の顔をじっと見つめる。
「文化祭の代休、橋本くんと遊びに行くことになった」
ストローから口を離した花子は淡白にそう言った。
「ふうん」
「そこは『どこに?』でしょ?」
「どこに?」
「まだ決まってない」
なんだコイツ。じゃあ何で聞かせたんだ。
「それを決めようと思ってアンタとわざわざこんな密会開いたの」
「……なんでぼくが他人の外出先を決めなきゃけいけないのさ」
「アンタ、橋本くんの親友なんでしょ?」
「親友だからって外出先を管理する人なんて聞いたことないけど」
ぼくの返事を聞いた花子は大きくため息をついてポテトをつまんだ。
そしてまた一口ジュースを口にして、ずいっと身を乗り出してくる。
「今から誰にも言ってない秘密をアンタに言う。もし他言したら殺した上で地獄の果てまで追ってもう一回殺す」
……なにかすごいとんでもない言葉が聞こえてきた気がします。
「怖いから聞かない」
「そう」
ぼくのくだらない反抗の一言を聞いた花子は、意外にもあっさりと引き下がった。
ちょっと拍子抜けしたが、まあ厄介ごとが起きないくらいならいいか、と思っていると、花子が触っていたスマホの画面を不意にこちらへ向けてきた。
そしてネットから探してきたらしい、とある画像をぼくに突きつけながら。
「もう一回だけチャンスをあげる。私の秘密、聞きたい? それとも聞きたくない?」
「……聞きたいです」
「そう。女の子の秘密が聞きたいのね。……他言したら本気で殺すからね? 早苗にも言ってないから」
念を押しながら、花子はトイレの画像を開いていたスマホを直す。
どうやらこれからもアレをエサに脅されるらしい。
……それにしても、桜木さんにすら言わず、ぼくだけに明かす秘密って何だろうか。
実は男だった、とかだったら面白いな。
「私……橋本くんが好きなの」
なんだ、やっぱりそんなのありえないよな。ファンタジーじゃないんだし。ただ慎吾が好きなだけか。
「……えぇ!? 慎吾のことがすむぐっ!?」
思わず叫んだぼくの口に手を力強く押し付けた花子によって、間一髪のところで言葉はさえぎられ。
「……次はないから」
薄く鋭い眼光で思い切り睨まれてしまった。
そしてしばらくその視線を向けた後、花子は乗り出していた身を引っ込めて、大きくため息をついた。
「信じた私がバカだったわ……」
「……ごめん」
……これに関してはぼくが全面的に悪かった。
それからお互い無言でポテトをいくつかつまんでいく。
ポテトが半分くらいなくなった頃、ようやく花子が口を開いたことで、沈黙は終わった。
「話の続きなんだけど」
「うん」
「私は橋本くんの好きなこととか知りたいの。あと、好きな服とか」
……なるほど。
つまりデート(?)プランを慎吾の好みに合わせようってことか。
「うーん……でも難しいな。確かにぼくは慎吾とはよく遊ぶけど、男の子相手と女の子相手じゃ全然違うだろうし……」
「じゃあそれは後にして、服とかは?」
「ああ、服はカジュアルなのをよく着てるよ」
とりあえず答えれるところから、ということで慎吾のよく見る服装のイメージを伝えてみたんだけど……花子は明らかに顔をしかめている。意外だったのだろうか。
「……アンタさ、私が橋本くんの私服を聞いてどうすると思ったわけ?」
「え? いや、特に考えてなかったけど……どうするの?」
「こっちが聞きたいわよ! 普通そこは好きな女の子の服装聞いて私の当日のコーデの参考にするんでしょ!?」
なるほど、そりゃそうだ。
「『ああ、そうか』ばりに手を打つな! アンタほんっっと使えないわね!?」
「……大丈夫?」
「はぁぁ!? アンタどういう神経したらそこでそんなことが言えるわけ!?」
ぼくのわけのわからない言葉にさらに頭に血をのぼらせた花子。
ぼくも何を言ったらいいのか分からずに次の言葉を探していると、散々怒った花子はため息をついて立ち上がる。
「いい? 明日の朝までにさっきの質問の答えと……あと好物とかよく行くお店とかをLIMEで送ること。もし無視したらアンタの命日は明日になるわ」
「もうちょっと、女の子なんだからさ……」
「なに? 女の子らしく上目遣いでお願いしろとでも言いたいの?」
「そこまでは言ってないけど」
「分かってるわよ。もしそうなら組み伏せてたところだから。そんなことよりとにかく! 絶対に明日の朝。遅れたら殺す。分かったら解散」
「ちょ、ちょっと」
しかしぼくの言葉にはもう耳を貸さず、スタスタと出口のほうへと歩いていく。
その様子を見たぼくは思わずため息をつきながら、振り返ってポテトをひとつつまむ。
「ポテトもらうねー」
「はあ!? ちょっと待ちなさいよこのクズ!」
机の上に大量に残っていたポテト。さすがに無断で食べるのは気が引けて、しかし捨てるのももったいなくて花子の背中に一声かけたのだけど……。
「勝手にしなさいよ!」と返ってくると思っていたぼくの予想を裏切って花子がズカズカと戻ってきた。
そしてワイルドにも残っていたポテトを全部鷲掴みにすると、そのまま一気に頬張ってまたスタスタと歩いて行った。
それを少しの間呆然と見つめ……気が付けば笑っていた。
「おかしな顔」
誰へともなくそう呟いたぼくは、同じようにポテトを頬張り両手に二本のジュースを持ってその背中を追いかけた。