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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第四章『全てを救う者』
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交わる時の日(3)


夢を見ていた。

その夢の中では、リリアが一人で立っていた。真剣を片手に少女は世界を見下ろしていた。

天空に浮かぶその場所には誰も近づく事は出来ない。絶対なる高み……。その世界は彼女にとっての孤独であり、永遠でもあった。

眼下に広がる世界は燃えていた。リリアは振り返る事も見下ろす事もしなかった。ただ空を見上げ……黙って月を瞳に映しこんだ。

やがて雲の切れ間から金色の光が世界に降り注ぐと、彼女の本当の姿を映し出す。リリアの銀の装束は返り血で赤く染まり、彼女の立つ場所も真紅の台座となっていた。

背後には無数の死体が山を成し、人がまるで瓦礫のように折り重なって朽ちていた。少女はようやく振り返り、自らの作ったいくつ物山を見渡し、一つ一つに涙を流した。

俺はそこにいるのに、リリアに近づく事が出来なかった。両足はまるで大地に杭を打たれたかのようにぴくりとも動かず、腕は伸びないし声も届かない。

それでもどうしてもリリアに伝えたくて俺は必至で両足を動かした。やがて足首が千切れて大地に落ち、歩けなくなって這いずり回る。

彼女はそんな俺を見下ろしていた。冷たく凍った瞳で、両足を失った俺を。無様に這いずる俺を見て、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべる。それが、悪夢の終わりだった――。


「――大丈夫? 目が、覚めた……?」


薄暗い部屋だった。それも無理は無い。その場所が部屋ではなくテントの中だという事、そして外が夜である事に同時に俺は気づいた。

テントの外には焚き火でもあるのだろうか。揺れる紅い光は薄い布地を透けてこのテントの中も照らしている。暗い闇の中、俺の手を握り締める誰かへと視線を移し、思わず飛び起きる。


「リリア……っ!? ぐ……っ」


「無理しないで! 貴方は死に掛けていたんですから……無理をすれば死んでしまいます。傷を治すことは出来ても、命を蘇らせる事は出来ないのですよ」


「…………ううっ」


彼女に支えられながらゆっくりと薄い布で出来た寝床の上に横たわる。全身を激しく切り刻むような鋭い痛みの中、そっと彼女を見詰める。

そこに座っていたのはリリアだった。正確にはリリアではなく、リリアによく似た誰かだ。歳は……俺よりも上だろう。大人になったリリアと言う感じで、その仕草や態度にもどこか大人びた物がある。

やがてそれがリリアが成長した姿ではなく、マリアが若い頃の姿なのだと気づいた時、俺の中で何かが合致した。深く息をつき、体の力を抜いてリラックスする。


「ここは……」


「北方大陸の大雪原を抜けた場所に在る遺跡です。自分の名前はわかりますか?」


「本城夏流……」


「ホンジョウ、ナツル……? 不思議な名前ですね。イザラキの出身にしては、服装はクィリアダリアの物に近いようですが……」


マリアは俺をじろじろ見詰めながら不思議そうな顔をしていた。そりゃあそうだろうな。異世界の名前に、クィリアダリア聖騎士団が作った専用の戦闘服……オマケに武器はテオドランドの一品だ。クィリアダリアに近しい存在である事は間違いないのにここは北方大陸ときているらしい。

身体が痛くてよくわからなかったが、今冷静に考えるとここはとても寒い……。身体は指先一つ動かしただけでも苦痛で、起き上がる事は出来そうにない。


「どうして俺は助かったんだ……」


わけがわからない。だが、俺は確かにフェイト・ライトフィールドと名乗る男に遭遇した。彼に命を救われたんだ。

オルヴェンブルムの勇者記念館で見たフェイトの姿を思い起こし、確かにそれが一致する。何よりあの剣はフェイム・リア・フォース……。服装もサイズや細部が異なるが、リリアの纏っていたアーマークロークで間違いない。

それに彼女は確かにリリアの母、マリアだろう。つまりここは過去だ。つまりええと……。俺の頭がおかしいのか?

俺は確か、ヨトにいきなり襲われたんだ。訳の判らない魔法を使う、バケモノみたいな強さの天使……。そう、羽が生えていた天使のようなやつだった。それで秋斗と一緒に立ち向かったけど、負けて……。


「秋斗……! 秋斗はどうなったんだ!? いっつぅっ!!」


「ああっ! だから、安静にしていてください! もう……困った人ですね」


「何で俺は生きてるんだよ……くそっ」


秋斗が俺を助けようとしてくれたのに……パンデモニウムの魔力回路の中に落ちたんだ。

それで、全身を超密度の魔力が焼いて、そこに溶けて俺も死ぬはずだった。それがいきなり夢みてるうちにこんな所に――過去に飛ばされていた。

場所はどこなんだ。なんでこうなった。どうしてフェイトがいる。頭の中がこんがらがっている……。誰か、説明してくれ……。


「生きている事が不幸であるような物言いは止めなさい、ナツル? 貴方はこうして生きている……。それはとても素晴らしいことなのですから」


そう微笑んで彼女は俺の手を握り締めてくれた。とても柔らかくて、暖かい手……。リリアに似ていて、でももっと優しい手。

何だかそれが疲れた身体に猛烈に効いて気づけば俺は泣いてしまっていた。マリアは涙する俺の手を握り締め、ずっと傍に居てくれた。

俺はリリアを守れなかったのか……。秋斗もヨトに殺されただろうか……。パンデモニウムは? 世界はどうなったんだ? 何で俺はここにいる。何一つ、成し遂げられないまま……。


「……泣きたい時は、心の底から涙を流した方がいいですよ。そうしてそこでへこたれず、明日は笑って過ごすんです。涙を流すのは、過去を悔やむからじゃない……。明日に進む為なんだって。そう思えれば、貴方の明日はきっと今日より素敵になるわ」


「……マリア……」


「はい……って、あれれ? どうして私の名前をご存知なのですか? それに貴方、さっきうわ言で何度も何度も『リリア』って……。どうして貴方がその名前を……」


彼女がそう口にした時だった。テントに光が漏れ、誰かが入ってきたのが解った。足音の方向に視線を向けるとそこにはフェイトが立っていた。


「お? 目が覚めたみたいだな、少年。具合はどうだ? 寒いか?」


「……フェイト」


「おう、フェイトだぜ? 寒いんだったら……マリア、ほら! 一緒に寝てやれよ。女の裸ほど心温まるものもないぞ……ひいっ!?」


いつ、抜いたんだ? マリアの腰に携えられていたレイピアの鋭い刃がフェイトの喉元に突きつけられていた。


「フェ〜イ〜ト〜……?」


「じょじょっ!? 冗談だろ……。ちょっと、刺さってる……! ちょっと血が出ちゃってるから!」


「あら、刺してるんですよ?」


「わかった落ち着け……! ほら、少年にトラウマ作ったらまずいだろ!? なっ!?」


「……それもそうですね」


マリアは不機嫌そうに片目を閉じながら鞘に剣を収める。それにしても……これがあの伝説の勇者、フェイトか。なんか……威厳ないな。


「遺跡の調査の結果、やっぱり地下に続いている事がわかったぜ。とりあえず今日はここでキャンプだ。明日以降、地下の探査に乗り出す……っと、業務報告はこんなもんにしてだな。少年にゃあ色々と聞かねば成らん事があるんだよ」


そりゃまあそうだろう。俺は得体の知れない瀕死の男……。それも雪原のど真ん中にぶっ倒れていたんだからな。

フェイトからどんな尋問を受けるのか……そう考えていた矢先だった。彼は一度テントの外に出て食事を運んでくると携帯用のボトルに移し変えられた酒のような物を掲げ、ウィンクした。


「ハラぁ減ってんだろ? 一杯やりながらと洒落込もうぜ。男が会ったらまずは飲む――。理解しあうのはそれだけで充分だ」


若いのにおっさんのような事を語るフェイト。その前向きで明るい姿勢にリリアの姿を見出し、俺はまた少しだけ泣きたくなった。



⇒交わる時の日(3)



「ほ〜。つまりあれか、お前は未来から来た異世界人で、未来での戦いで死に掛けたと思ったら何故かここにいたと」


「…………あんまりにも荒唐無稽な話になってしまうんだけど」


「そりゃ大変だったな〜。いや〜、しかしお前は本当によく生きてたな。パンデモニウムの魔力回路に落ちたら俺でも十秒と持たずに蒸発するだろうに」


「え? し、信じてくれるんですか?」


「は? 嘘なのか?」


「いや、事実なんだけど……」


「なんだよ変なこというなよ。嘘かとおもっちまったろ」


そう言ってフェイトは残っていた酒を飲み干して笑った。

まず俺は自分自身の事を全て偽らずに話す事にした。ここには心境の変化というものがあったのだろう。俺はもう、誰かに嘘を付きたくなかった。

この世界に対する影響とか、この世界の未来とか正しさとか、そんな事よりもまず第一はリリアに会うことだ。あの子に……元の時代に戻って会うには、絶対に彼らの協力が必要になるだろう。

俺は兎に角信じてもらえるように全てを最初から話した。それこそ何時間にも及ぶ長話になってしまったが、フェイトは俺の話をあっさりと信じてくれた。しかも特に驚いている様子はなかった。


「随分難儀な設定抱えてるじゃねえか、救世主ボーイ。おいマリア、話を聞いてたか?」


「……聞いてはいましたが、あまりにも突拍子もない話で……。でも、どうやらリリアは元気に育っているようで安心しました」


「だな! いや、流石俺の娘だぜ!」


「その自覚、少しは父親らしさと節制には繋がらないのかしら……?」


「…………いやっ、だから……。例の件はもういいだろ? カンベンしてくれよ……」


「貴方がオルヴェンブルムを出てからここに来るまで、一体何人の女性と寝ようとしたか……。六人ですよ、六人!」


「それは間違っているぞマリア。途中二人同時に美味しく頂こうと思ったから七人だ」


「だからどうしたっていうんですか、この馬鹿っ!!」


女王の口から飛び出した馬鹿という単語に絶句する俺であったが、二人の喧嘩は収まる気配を見せない。マリアに襟首をつかまれながらフェイトは何やら必至に弁明していた。だがその内容はどれも呆れるような事ばかりだった。

なんというか、これがリリアの親父か……。大雑把なところは似てるが、リリアがこういう男に似なくて本当によかったと思う……。いやでも冷静に考えるとあいつは結構モテたような気もする。ゲルトとか、アクセルとか。

そんな余計な事を考えているとテントに新たな人物が登場した。それがゲルトの父ゲインであることに一発で気づく事が出来たのはフェイトの時と同じ理由だ。


「何やってるんだ二人とも……。彼が完全に固まってしまっているじゃないか。勇者部隊の恥を晒さないでくれないか」


「いてててっ! だったらマリアを何とかしてくれ!!」


「…………君が陛下にボコボコにされるのは仕方が無いし僕はむしろ歓迎だけど、時と場合というものがあると思うよ」


「……むう。まあ、ゲインがそういうのなら……」


「おいぃっ! なんで俺がやめろっつってもやめねえくせにゲインがいうとやめんだよ!?」


「貴方はただ自分が助かりたいだけの命乞いではないですか」


「俺だって客の事を考えてたっつーの! ……なあんだよその目はっ!? お前ら二人して勇者に向かって失礼だとは思わないのか!?」


「姫です」


「僕も勇者だけど何か?」


二人の冷静な態度にフェイトは納得行かない様子で振り返った。完全に拗ねてしまったフェイトの代わりに前に出たのはゲインだった。


「失礼を赦して欲しい。僕は、ゲイン・ノースティライト……いや、今はゲイン・シュヴァインだったね。彼と同じく勇者を背任している」


「……本城夏流です。よろしく、ゲイン」


彼の求める握手に応える。握手を終えるとゲインは一歩身を引き腕を組みながら立ち上がった。


「話は大体テント越しに聞かせてもらったよ。時間跳躍とは少し飛躍した発想だけど、そうでなければ説明の付かない事が多すぎる」


彼はボロボロになり、脱がされたのであろう俺の上着取り出してきてフェイトとマリアに見せた。


「この襟首にクィリアダリア聖騎士団の紋章がある。けど、この紋章は僕たちのものとは少し異なるようだ。それに反対側には……」


「勇者部隊のエンブレムじゃねえか。ほー、未来じゃこうなってんのか」


「当然ながら彼は僕らの仲間じゃない。となると、未来のブレイブクランであると考えるべきだろう。それと、彼が装備していた武装はテオドランドの技術で作られているが――僕らの知らない術式兵装、つまり未知の技術で強化されている」


「ほほ〜。メフィスのおっさんがやったんじゃねえとなると……やっぱりそういうことになるのか」


「以上の点を根拠に君が未来からの来訪者である事を僕は信じようと思う……ん? 何かおかしかったかい?」


「いえ……なんでもないです」


やっぱりゲルトの父だけあってしっかりしているというか……。何となく委員長っぽさがあるというか……。仕草や言葉の抑揚まで似ていて何だか笑えてしまう。

彼は大層不思議そうに小首を傾げていた。悪い事をしてしまったが、まさか娘さんにそっくりですねと言うのもなんだかおかしな話だ。話を流して進める事にした。


「話によれば、君はナナシといううさぎの力で空間を越えていたらしいね。だったら、同じようにうさぎの力でどうにかならないのかい?」


「……確かにそうだ」


言われてみれば、別にナナシのやつだったら普通に現実世界に戻れるかも知れない。が、そういえばあのうさぎ君はどこいっちまったんだか。


「うさぎの彼なら別のテントで休ませているよ。君以上に外傷が酷かったものだからね……。君も歩けるようになるにはまだ日数がかかるだろう。僕らは暫くこのあたりに滞在しているから、時間は気にせずまずは身体を治すといい。落ち着いたらもう一度話を窺うとするよ」


「……何だか何から何まですみません」


「構わないさ。正直に言えば、君の存在に少しばかり興味があるからね。まだまだ話し足りないのさ。ほら、マリアは兎も角フェイトは回復魔法も使えないんだから、邪魔しないでとっとと出て行くんだ」


ゲインに首根っ子をつかまれて引き摺られていくフェイト。二人がテントから居なくなるのを見送り、俺はマリアと二人きりになってしまった。

マリアは未来でも相当な美人だったが、こっちだと若返ってさらに美人というか……。リリアに近くなったせいか、何だか緊張する。


「それじゃあ、遠慮なく休んでください。とりあえず、包帯を換えた方が良さそうですね」


「いや、自分でやります……」


「ええっ? 駄目ですよ、無理をしちゃ。ほら、脱いでください……!」


「いや、自分でやりますからっ! いってえええっ!?」


「もう、だから私がやるって言ってるのに……」


『ついでに、マリアに色々マッサージしてもらうといいぞ〜。白い指先がこう……君の数日間ぶっ倒れっぱなしの一物をだな……。胸も無駄に大きいからはさんでもらうと最高に――ひぎいっ!?』


布の向こうにマリアが投げつけたレイピアが確実に何かを貫いていた。テントの布に血が染み込み、レイピアを引き抜いて彼女は笑顔を作った。

ああ、急所に刺さらなかった事を祈ろう。あの人今見ないで投げたもんな。どこ刺さってもいいっていう考えなんだろうな。ああ、怖いな。怖いな。


「さあ、脱ぎましょうね〜?」


「…………ハイ」


基本、逆らわない方がいいような気がした。

リリアそっくりの人に裸を拭かれたり包帯を巻かれたりするのは正直かなりしんどかったが、何とか耐え切ると急激に眠くなってきた。俺はそのままマリアが見守る中一気に眠りへと落ちて行った。

そうしてマリアに看病されながら眠ること数日間……。瀕死の状態からこの短期間で回復出来たのはマリアの類まれなる回復能力のお陰だといえるだろう。

何とか歩く事が出来るまでに回復した俺ではあったが、うさぎのほうは相変わらず眠り続けていた。外傷は最早問題ないレベルにまで回復した様子だったが、魔力の枯渇から意識が戻るにはまだ時間がかかるという。

俺が倒れている間にもフェイトたちは遺跡の探索を行っていた。テントから出て初めて俺はその場所が八とであったあの遺跡の入り口であった事に気づいた。

時は俺がパンデモニウムの中で意識を失った十二年前――。正に魔王大戦末期、世界は混乱と戦乱の中に飲み込まれていた。

どこまでも広がる雪原の彼方、たとえどこまで進んでも戻る事が出来ないかつて俺が見た世界……。そこに戻る手段が見つかるまでの間、俺はフェイトたちの世話になる事になった。

事情を理解してくれた彼らとは接しやすかったし、何よりそうすることが正しいことのように思えた。ここで彼らに会えた事は偶然ではない。運命的な何かを感じるといったら、少し考えすぎだろうか。

遺跡の探索――それが今の俺の役目だった。今日も俺は地下に潜り、遺跡の中を塞いでいる壁や岩を壊したり何か貴重な資料がないか探したりを繰り返している。

フェイトたちは何やら独自の行動を行っているらしく、今でも戦争は続いているという。この大陸は激戦区であり、付近に増援は無いが敵の脅威も少ないらしい。

彼らがこの遺跡をウルトキア遺跡と呼んでいる事に習い、俺もこの遺跡をウルトキアと呼ぶ事にした。彼らはウルトキアにどんな目的があるのかまでは教えてくれなかったが、助けてもらった恩返しという事もあり俺は彼らについて遺跡を探索した。


「しっかし、アホみてえに広い遺跡だな……。迷宮と呼ぶにもサイズが大きすぎる。こんなことなら少人数の極秘任務なんかじゃなくて大部隊を率いてくるんだったぜ」


「そういうわけにもいかないだろう。最近は目に余る行動ばかりで大聖堂に睨まれている君がそんな大掛かりに動けば波風が立つ……。何より現場に僕らより階級が上のものが居なかったお陰でナツルを隠す事が出来る。むしろいい結果に繋がったと思うけどね」


二人は俺の前を歩きながらそんな事を語り合う。黒と白の勇者、ゲインとフェイト。その並ぶ姿はそのままリリアとゲルトを彷彿とさせる。

彼らの姿は、意思も関係性も含めて子供に受け継がれている……。なんだかとても不思議な、そして嬉しくなる事実だ。

遺跡の中を歩いて行くと、巨大な空洞に出た。そこには嘗ての古き町並みが並んでいる。地下に沈んだその町を誰かがアンダーグラウンドシティと呼び、それは未来にも存在し続ける事になる。

かつて八が使っていた家を通り過ぎ、そこがまだただの廃墟である事を認識してここが過去である事を噛み締める。

彼らは合計二十人にも満たない少人数で行動していた。この旧居住区が確保できた事を契機に地上の施設と装備は全て移動し、今はこのシティで寝泊りしている。

うさぎのやつも今はこっちのほうで休んでいる。俺たちは一先ず今日の探索を終え、マリアの待つ家へと戻る事にした。家に入ると火にかけられた鍋をかきまぜるエプロン姿のマリアが俺たちを迎えてくれる。


「お疲れ様。今お夕飯にしますから、もう少し我慢してくださいね」


「ナツル、先に今日の収穫物を倉庫に移動しておこう。フェイト、手くらい洗え」


「つまみぐいつまみぐい……っと! おぉ、うまい……ひぎいっ!?」


料理に手を伸ばしたフェイトの指と指の間に包丁がつきたてられる。びよぉ〜んとかいう音が鳴って包丁がコミカルに揺れている……。


「おぉ怖……っ! あんなお姫様誰が嫁に貰うんだよ……」


「え……? フェイト、あんたマリアと結婚してないのか?」


「何で俺がマリアと結婚するんだ?」


いや、そんなごく自然と不思議そうな顔をされても困る。ここが十二年前だとすると、既にリリアは三歳……。あんたマリアとの間に子供設けてんじゃねえかよ。

その俺の言葉は口に出される事は無かった。口笛を吹きながら出て言ったフェイトを見送りながら俺とゲインは同時に溜息を漏らす。あいつは本当にどうにかしないとだめだ……。


「……ナツル、彼の非常識さにはそろそろ慣れて行った方がいい。勇者部隊ブレイブクランとしてやっていくには、それが最低条件だ」


「……でも、ゲインさん」


「何も言わないでくれ……。あいつの子供がリリアだけとは限らないだろう? あんまり深く考えたくないんだよ、僕は……ははは」


乾いた笑いを浮かべているゲイン。なんだかこの人は本当に苦労人のようだ。フェイトは敬語を使う気にはならないが、ゲインはなんだか尊敬できる気がする。

どうしてこっちのほうが後に勇者として伝えられないのか、なんだか腹立たしくなってきた。兎に角二人で今日発掘した機械部品やらなにやらを倉庫へ運搬し、待機していた技術者たちに引き渡す。

掘り起こされる遺跡の殆どはまだこの時点では殆どが土の中らしく、まるで土木作業をしに着たかのような有様だ。機械的な動力も生きて居ないのか、自動ドアも開かない。力ずくで道を切り開く作業の繰り返しは流石にこたえる……。


「それにしても、この遺跡は広いな……。ナツルの時代ではここに人が暮らしているんだったね」


「はい。あんまり未来の事を話すのは、良くないのかも知れませんけど……」


「……未来を知ったところで人の運命は変わらないさ。基本君が未来から来た事は他言無用だしね。万が一話が漏れても、ここの仲間は信頼できる。昔からの騎士仲間だからね」


「そうですか……。だったらいいんですが」


「……にしても、せめてブレイドくらいはつれてくるんだった。こう肉体労働ばかりだと僕はきついな。見ての通り、力は大したことないんだ」


苦笑しながらそう語るゲインは確かに線の細い男性だ。どちらかというと中世的な顔立ちで美形なのだが、こういう労働には向いているようには見えない。

ブレイドというと、この時代では先代のブレイドになるのか。となるとブレイドの親父……。うーん、かなり力がありそうだ。


「ゲイン、夏流」


そんな事を考えていると背後から声が聞こえた。振り返ると小さな和装の女の子が大きな刀を抱えながら小走りで近づいてくるのが見えた。

彼女は八代鶴来――。未来でも何度か顔を合わせた事がある、ブレイブクランでは年少の方に入る女の子だ。未来では大分大人になっていたが、こちらではまだブレイド君(新)と同い年くらいでしかない。

とことこ走ってきたツインテールの黒髪少女は俺とゲインを交互に眺め、それからちょっと生意気な笑顔を浮かべた。


「ふむ……。二人して男同士の熱い会話でも交わしていたのかね?」


「ただの雑談だけど、まあそう言えない事もないのかな?」


「夏流はちゃんと働いているかい? 死に掛けの新入りだから、へまをして瓦礫に埋もれて居ないか拙者は心配だよ」


「余計なお世話だ、このちび子め」


揺れている鶴来の髪を両方掴み、ぷらぷらさせる。鶴来は何やら無表情に抗議してきた。


「君は拙者より年上なのだから、もう少し言動には気をつけた方がいい」


「ご忠告どうも」


「それで鶴来、もしかして何か見つかったのかな?」


「ご期待に応えられるかどうかは判らないが、他の調査班が活動停止状態の機械人形を発掘したらしい。拙者はこれからそれを見に行く所だよ」


「……機械人形」


何となく、未来での出来事を思い返す。いやいや、そんなはずはないか。まさかあいつがまたここで眠ってるって事もないだろう……うん。


「夕飯までまだ少し時間があるし、ついでに様子を見ていこうか」


「そうですね」


「……夏流、君はゲインには従順だな」


「尊敬してる人には素直なんだよ、俺は」


「ほう。拙者はそうでないと言いたいらしいな」


「そういってるんだが」


「……君たち、仲がいいのはわかったから。置いて行くよ」


ゲインの言葉に俺たちは同時に反論しようとして同時に口を閉じた。ちび子はとことこ俺の前を小走りに歩いて行く。俺もそれを追い掛け、見つかったという機械人形の元へと急いだ。


〜それゆけ! ディアノイア劇場Z〜


*その頃……*


リリア「……」


ゲルト「……」


リリア「……え? 何かマップ上の方に増援出てきたんだけど……。下まで防衛行ってるのにどうやってダンナーベースに戻れと……」


ゲルト「あ、それ詰んでますよ」


リリア「……えー……。意味がわからないよ……」


ゲルト「このゲーム拠点防衛がめんどくさすぎますよね」


リリア「でもガン×ソード出てるから最後までやりたいじゃん……」


ゲルト「そういえばカオスヘッドやらないんですか? せっかく借りたのに……」


リリア「そんなんやってる時間ないよ……あっ」


ゲルト「どうしたんですか?」


リリア「カメラ回ってる」


ゲルト「え? ええっ!?」


リリア「あわわ……! リリアまだパジャマのまんまなんですけど!」


ゲルト「わたしも髪がかなりテキトーなことに……っ」


リリア「えと、えと、あれ? なんで? 過去に行ったんじゃなかったの?」


ゲルト「わ、わたしに訊かないで下さいよう! ううっ! 寝癖が、寝癖がー!」


リリア「油断してコタツで寝たりするからだよ〜」


ゲルト「昼過ぎになってもパジャマの貴方に言われたくありませんっ!!」


リリア「えーとえーと……スパロボKが出たからってガン×ソードとファフナー全部レンタルしてった人はどうかと思うよっ!!」


ゲルト「何の話してるんですか!?」


リリア「えと、えっと……」


ゲルト「少し落ち着きましょう……。みかんでもたべて」


リリア「う、うん……。でもDSしながらみかんとかカオス……」


ゲルト「ポテトチップス食べながらスマブラよりはいいんじゃないですか」


リリア「えーと、とりあえず……なんでカメラ回ってるのって話ね?」


ゲルト「え? 何々……。本編に出番がないから、せめて劇場では出してあげようと思って……って、余計な事を!」


リリア「うわーん、せっかくこたつでごろごろしてたのに〜……」


ゲルト「始めてしまったからには何か有意義な事をしましょう」


リリア「この格好でしても全くシリアスさがないんだけど」


ゲルト「そんなものは元から在りませんから」


リリア「えーっと、『空想科学祭』の第二段の企画がスタートしたみたいだよ!」


ゲルト「…………。レーヴァテインやキルシュヴァッサーなら兎も角、長期ファンタジーでその告知はどうなんですか? 『異界アルバム』とかにしたほうが……」


リリア「そ、そだね。なんか文字制限が厳しくなったみたいなので今回は参加しないみたいだしね」


ゲルト「何か他にないんですか、話題」


リリア「話題話題……。えーと、ペルソナがPSPでリメイク」


ゲルト「……」


リリア「わかってるよう、もーっ!! えっと、物語も架橋! あと一ヶ月くらいで連載終了の予定なのですっ!! 桜の舞い散る景色と共に惜しみながら終了するといいですよっ!!」


ゲルト「長らくお付き合いいただきありがとうございました――って、一月から初めてもう四月になるんですか。早いものですね」


リリア「うんうん。この長期が終わったら暫くは未完の完結と修正にかかる予定だから、暫く読者の皆様とはお別れなんだよ」


ゲルト「中々有意義な事が話せましたね」


リリア「パジャマと寝癖だけどね」


ゲルト「そういうことは思い出させないでください」


リリア「あ! ねえねえ、リリアも企画小説考えたよ!」


ゲルト「……なんですか?」


リリア「名づけて! 『小説家になろうロボット大戦』!」


ゲルト「誰かが書いてくれるといいですね、そういうの」


リリア「その際は是非レーヴァテインかキルシュヴァッサーを出してねっ!!」


ゲルト「あんな扱いづらい欝枠みたいなの誰も使いたがらないと思いますけど」


リリア「是非お気に入り作品にいれて改造限界突破していってね!」


ゲルト「……なんかカメラずっと回ってますね」


リリア「そろそろ限界だから――壊しておこっか」


ゲルト「賛成です。では――」


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