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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第三章『女王の神剣』
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約束の日(1)


リリアと別れたのは、リア・テイル城門前での事だった。

何故か一向に目覚める気配が無く、すやすや寝息を立てながら涎を垂らすゲルトを背負い、リリアは城の中に姿を消した。

別れたのが城門前とは言ったものの、結局あの時リリアが草原を歩いて行く背中を見送ったきり、彼女と言葉を交わすシーンはなかった。

当然の事だろう。相手は女王なのだから。いや、それを言えば俺は救世主のはず……。まあ、これといってリリアと話す事も無かったし良いのだが。


「ちょっとちょっとぉっ!? 何であたしだけ仲間はずれなわけっ!? イジメ!? これイジメ!?」


というのは、戻ってきた俺たちに対するベルヴェールの発言だ。そんなん知るかとしか言い様がないのだが……。

問題はここからだった。オルヴェンブルムから列車でシャングリラに戻ろうと進んでいると、何やらありえない景色が見えてきたではないか。ラ・フィリアとかいう巨大な塔が傾き、砲台に成っていたのだ。

プロミネンスカノン――その名前を知ったのは、俺たちが慌ててアイオーンたちに会いに行った時の事だ。何故かその場に見知らぬ小さい女の子が居たので外に放り出すと、しばらくするとアルセリアが相変わらずでかい図体で入ってきた。

説明によると、このディアノイアに眠る真の力こそプロミネンスカノン――。所謂超広域破壊用大魔法放出砲台であるらしい事が判明した。

解った事といえばそれくらいで、後の事は良く判らないままだ。兎に角戻ったばかりで疲れていた俺たちは一度解散となり、学園もその日の内に元通りの姿へと戻っていった。

物理的に変形がどうもおかしいとしか思えないのだが、まあ実際しちゃってるんだからしょうがない。学園の変形には呆れるしかないが、まあ今はなんでもいい。

仲間たちの手前強がってはいたものの、秋斗は尋常な強さではなかった。正面から殴りあう事になり、そもそもその前に俺はグリーヴァと戦っていたわけで……。当然、ダメージも疲労も大きかった。

丸一日学園の寮で休み、一日ぼけーっと過ごした翌日。見覚えのある顔が俺の部屋の中にあった。


「へぇ〜、ここがナツルの部屋か〜! そういや、お前の部屋に入るの初めてだな」


「貧相な部屋ね〜……。家具も何にも無いし。ほんとにここで生活してるの?」


「五月蝿いな……余計なお世話だ。嫌なら帰れ」


ベッドの上に腰掛けたまま溜息を漏らす俺。部屋の中では何故かベルヴェールとアクセルがうろうろしていた。

一体何をしに来たのか……。まあ、話があるから訪問してきたのだろうが、だったらさっさと本題に入れと言いたい。


「大聖堂の今後の処遇について決まったから、一応報告しとこうと思ってさ」


女王――リリア・ウトピシュトナは大聖堂の生き残りを快く迎え入れると言う。元老院の人間も含め、全てを許すと彼女は言った。

とはいえリリアは正に鋼鉄の乙女となりつつあった。反乱をたくらむ人間には容赦しない――。実際、聖堂騎士の一人が彼女に襲い掛かったらしいのだが、リリアは素手でそれを組み伏せ、倒れた騎士の頭を踏みつけながら宣言したという。


「共に生きる意志のある者は受け入れましょう。しかし、平和を乱す存在は斬って捨てます――ってな。あれは本気の目だった……。リリアちゃん、いつのまにかおっかねえ女の子になっちまったな」


「そうか? 元々キレると何するかわからんやつだったろ、あいつ」


「まあそんなわけで、逆らう者には多少強引なやり方でも従わせる方針らしい。まあ、そうまでしなきゃならないだけの理由があるんだけどな」


大聖堂の連中は、皆神の存在に魅入られている。それは正当なヨト信仰だけではなく、歪んだ願いや心の傷も神の言葉で許しを得ていたらしい。

十年前の戦争で心に傷を負い、様々な物を人々は失った。その心の穴を埋めるために信じていた在りし日の大聖堂を失い、彼らは完全に放心状態だという。中には希望を見失い、自ら死を選ぶ者も少なくない。


「元々、戦争で傷ついて一人じゃ歩けなくなった連中が集まった組織だからな。皆どうしたらいいのかわかんねえのさ……。これからの人生、何に縋って生きていけばいいのか、な」


なんとも言えない後味の悪さが残る結果となったが、とりあえず女王は大聖堂を取り込む事に成功した事になる。クィリアダリアの内乱そのものは一応の落ち着きを見せたと言えるだろう。

だが課題はこれからも多く残り続ける。人々の心の傷を癒し、リリアが神の代わりに彼らが信じられる存在にならねば意味はないのだから。


「あ〜そうそう、ディアノイアにも大聖堂の子供たちを受け入れる事になったのよ。大聖堂にはなんていうか……暗殺者見習いみたいな子が沢山いるのよね」


その話はアクセルにも聞いている。大聖堂は戦争孤児――。その存在が世界の中で希薄になっていた者を使い、暗殺者を生み出そうとしていた。聖堂騎士も同様である。子供であるのに戦う事以外を教えてこられなかった子供たちを受け入れる先は、確かにディアノイアを置いて他にないだろう。

ディアノイアでならば、正しい力の使い道を知る事が出来る。魔物や敵意を持つ存在から人々を守る事が出来れば、世界の安定につながり同時に彼らも一人で生活していけるようになるだろう。力はただ力だ。正しい使い方さえ解れば、彼らの過去は無駄になったりなんかしない。


「お陰で武器やら防具やら、生活必需品やらの納入で物凄く忙しいのよ、パパの財閥……! 信じられる? あたしその準備と手伝いずうっと続けてたのよ?」


「ああ、それで近頃見なかったのか――って、じゃあリリアはずっと前からその積もりだったのか?」


「そうみたいね。あの子大したもんよ……。ま、あたしは努力が無駄になんなかったから良いんだけどね。準備を前もって進めていたお陰で受け入れは順調、文句なしの進行具合よ」


そう言って苦笑するベルヴェール。こいつも両親の手伝いで忙しかったんだな。コンコルディア財閥――たしか、嘗ての勇者部隊を支えたスポンサーでもあったはずだが。


「洗脳が行き届いて居ない子はまだいいんだけど、完全に大聖堂の思想に染まっている子は受け入れには時間がかかりそうよ。問題はまだ山積みね」


「…………時間がかかっても、なんとかするさ! 俺たちにはまだ、未来があるんだ。リリアちゃんならそれを信じられる。少しずつ……皆にわかってもらうさ」


そう言ってアクセルは強く頷いた。俺とベルヴェールは同時に顔を見合わせ、それから笑う。


「ああ、そうだな。がんばれよアクセル。手伝える事があれば何でも言ってくれ」


「そうよアクセル! ナツルはあたしと違ってぜ〜んぜん働いてないんだからっ!! もうガンガンこき使いなさい!」


「おい、俺だって結構戦ったり戦ったり戦ったりしてるんだぞ?」


アクセルは特に複雑な心境だろう。だが、これからも前向きに生きていこうとしている。それは皆で応援しなきゃならない。もう、あんな悲劇は起こさないように。


「あ、そうだ。ナツル、ヴァルカンの爺さんが呼んでたぞ? 何でもお前に用があるとか」


「ヴァルカン爺さんが? ディアノイアか?」


「いや、今度はオルヴェンブルムだってさ。丁度リリアもお前に話したい事があるらしいから、リア・テイルで待ってるらしい」


何で爺さんがオルヴェンブルムで俺を待つんだ? まあ、リリアの話というのも気になるし、メリーベルとの約束もある。どちらにせよオルヴェンブルムに向かうのだから、ついでに会って行くか。


「俺とメリーベルはこっちに残るよ。俺が居ればガキ連中も安心して学園に入れるだろうしな」


「……あたし、仕事が山積みなんだけど」


「頑張れよ、コンコルディア財閥次期当主」


「……なんかあんたにそういわれると無性に腹立つわね」


そんな事を言いながら俺を睨みつけるベルヴェール。まあそれはそれで……平和で良い事じゃあないか――。



⇒約束の日(1)



「――――っ!?」


目を覚ましたゲルトが一番に見たのは窓辺に立つフェンリルの姿だった。

混乱する頭を抱えながらフェンリルを指差し首を傾げるゲルト。そのゲルトに歩み寄り、フェンリルは腕を組み溜息を漏らしながら言った。


「……君は相変わらず無茶ばかりするようですね、ゲルト」


「ルーファウ――。フェンリル」


「――――ふん。まあ、好きな呼び方で構わないがな。具合はどうだ?」


「へっ? 具合っ?」


フェンリルの長い腕がゲルトの頭を掴む。そうして額を覆う前髪をかきあげるとゲルトは顔を真っ赤にしてじたばた暴れ出した。


「何をするんですか!?」


「ガキの頃は良く面倒見てやったのに恩知らずなやつだな」


「あぁああ、貴方がそれを言うんですかっ!?」


飛び起きて魔剣を手にしようとしたゲルトであったが魔剣は見当たらない。慌てて周囲をきょろきょろ見渡していると、気づけば既に魔剣はフェンリルの手の中に納まっていた。

何やら過去の嫌な思い出が頭の中で再び再生され、ゲルトは涙目になりながらフェンリルに跳びかかる。しかしフェンリルはあっさりとゲルトの特攻を回避し、少女は無様に床の上にへたりこんだ。


「少し落ち着け。一度死んで蘇ったばかりだというのに張り切りすぎだ、阿呆」


「ぐぬぬ……! って――蘇った?」


その言葉を耳にした瞬間ゲルトは自分の身に何が起きたのかを思い出した。ジルベストリとの戦いの中、身体に力が入らなくなり、突然寒気が襲ってきて強制的に意識が途切れてしまった事を。

それをゲルトは気絶したのだと思っていた。だがしかし、少しだけ気絶とは違った気がした。あれはそう、もっと寒くて――もっと寂しい感覚。

思い返すと背筋がぞくりと震えた。そうして冷や汗を流しているゲルトをフェンリルは抱きかかえ、ベッドの上に放り投げる。


「だから、大人しくしていろと言っている」


「あ、貴方はどうしてそれを……?」


「――覚えて居ないか。まあ、オレが駆けつけたのはお前がくたばった後だったからな。無理も無い」


「……助けに来てくれたんですか?」


「結果的にはそうなる」


「…………」


二人の間に沈黙が流れた。ゲルトは目を細め、複雑な表情でフェンリルを見詰めていた。かつてゲインを失い孤独の中でただ力だけを求めていたゲルトの傍に居てくれたたった一人の人物――。兄のような存在であるルーファウスこそが黒き猟犬の正体であったのだから、それも無理はない。

ゲルトに剣術を仕込んだのも魔法を仕込んだのも全てはフェンリルであった。ゲインは死に、ゲルトは父の力を直々に受け継ぐ事は敵わなかった。故に父の弟子であったフェンリルに教えを乞うのは至極自然な流れであった。

フェンリルはゲインに様々な事を教えてくれた。世界を憎んでいたゲルトは彼に甘える事はなかったが、常に傍で見守ってくれている存在として認めていた以上、それは頼っていた事に他ならない。


「……助けて、くれたんですね。ありがとうございます」


「…………。それより今はお前の体だ。ゲルト、お前は確かに一度死んで蘇った……。異常はないか?」


「死んで、蘇ったって……そんな当たり前のように前提されても困ります。死者を蘇らせるなど――それこそ魔王の秘術、死術ネクロマンシーくらいのものでしょうし」


しかし、死術は発動しても完全に人間を蘇らせるわけではない。その人間の魂を術者の魔力で拘束し、朽ちた肉体に再び強制的に宿すだけの呪文である。死術により復活した存在は術者からの魔力供給に命を任せ、その身は死したまま活動し続けることになる。

ゲルトは自らの胸に手を当てる。心臓は確かに鼓動を刻み続けている。生きている――。体温も暖かい。そう、間違いなく生きている。

死術では死者は蘇らない。回復魔法でも一度命が尽きた存在を蘇らせる事は出来ない。死者の蘇生などそれこそ神の奇跡でも起きぬ限り絶対にありえないのである。


「だが、お前は死んだ。オレは確認したからな」


「――。それが事実なら、わたしは一体……!? え、なっ!? これはっ!?」


自らの異変に気づいたのはその直後であった。身体を蝕んでいた呪いがその息を潜めているのである。魔力を込め、あえて呪いが暴れまわるように力を与えてみせる。すると身体に呪いの模様が浮かび上がった物の、傷みも負担もなくただ呪いの力だけが発現した。

ベッドから飛び起きたゲルトは自らの指先を噛み切り、血の雫を零す。それは紅い絨毯にしみこむよりも早く空中で霧散し、光となってゲルトの掌の上で紅い結晶を成した。


「……力が」


ジルベストリ戦でゲルトは呪いの力を戦闘に流用する事に成功した。それは無意識のことであり、彼女はそれを狙って行ったわけではなかった。

しかし今、自らの意思で呪いをコントロールし、更にはその力さえも自在に扱う事が出来たのである。指先に魔力を込め、傷口から流れる血を固めて傷を塞ぐ。自らの異様な力にゲルトは思わず息を呑んだ。


「リリアから話は聞いている。お前が目覚めたら、これを渡すようにと言っていたな」


フェンリルがゲルトに投げ渡したのはワインボトルだった。それを受け取り、蓋を開けた瞬間気づいた。その中身はなみなみと満たされた血液であると。

その血の匂いを嗅いだ瞬間、頭の中で何かが切れてしまったかのような気がした。一気に呷って飲み干してしまいたい――。そんな激しい衝動を抑え、ごくりと生唾を飲み込む。


「別に気にする必要はないぞ。お前の症状は聞いている。リリアが特殊な容器――魔力を外に逃さないボトルを作ったらしい。中身もあいつの血液だ。純度としては夏流には劣るが、それだけの量があれば十分だろう」


フェンリルの話を最後まで聞き届けるよりも早くゲルトは貪るように血を一気に飲み干していた。その味はこの世にあるどんな美酒よりも勝るように感じられる。ただひたすら血を貪り、飲み干した後はその余韻に浸った。

暫くぼんやりと濃厚な味わいに浸っていたが、直ぐにリリアの血を飲んでしまった事を思い出し、真っ青になる。それからリリアの血を飲むと言う行為そのものを思い返して顔が真っ赤になり、一気に噎せ返った。


「お前、何だか見ていて面白いな」


「よ、余計なお世話です……! り、リリアの血……。リリアの血を……うううっ」


「頭を抱えて悶えている場合ではないぞ。兎に角一度死んで蘇ったとはいえ異常があるかも知れん。早めに検査を受けるべきだ」


「……い、いえ。多分、大丈夫だと思います。それよりも……わたしが蘇った理由について何か心当たりはないのですか?」


ゲルトの問い掛けにフェンリルが思い返したのはリリアが放った光の術であった。

白い翼を広げ、神々しい輝きと共に空を切り裂いて光を集めたリリア。その膨大な魔力がゲルトに流れ込んだ次の瞬間、ゲルトは死者から生者へと流転していた。

原因があるとすれば、考えられるのはあのリリアの大魔法――。しかしあんな魔法は存在しない。リリアの魔法のルーツは学園でフェンリルが教えたものと授業で伝授されていたもの、更には勇者秘伝の書――フェイトが残した書物にあるものだけのはず。

しかしあれはどの魔法とも異なる、何かもっと高位の行いであった。魔法――その呼び方さえ適切ではないのかも知れない。『奇跡』とでも呼べばいいのか。なんにせよ、人の身には余る偉業である。


「――――あの土壇場だったからな。原因までは検討が付かない」


咄嗟にフェンリルは嘘をついた。しかしゲルトは当然のようにそれを信じた。まさか、奇跡の理由になど彼女も思い当たる事はなかったのだろう。

男は腕を組み、溜息を漏らす。この事は誰かに広めるべきではないと考えた。だが、リリアには問い詰めねばならないだろう。その力は余りにも――人の領分を逸脱しすぎている。


「お前がなんともないのであれば俺はもう行くぞ。ここにいる理由もない」


背を向けて歩き出すフェンリル。その姿を見てゲルトは慌てて呼び止めた。


「待ってください!」


「何か用か?」


「あの……その」


歯切り悪く言葉を詰まらせ俯くゲルト。しかし意を決し、顔を上げてフェンリルに叫んだ。


「わたしに、戦闘を指南してくれませんか!?」


「――――はっ?」



「――はあ。何度来ても気が重いな、この城は」


「そうぼやくな。貴様も救世主なら、いい加減慣れるべきだろう」


「救世主……ねえ」


聖都オルヴェンブルム、リア・テイル城内。謁見の間へと続く長い長い回廊を俺はマルドゥークと肩を並べて歩いていた。

今日は女性が同行していないので、女性云々うだうだ言われる事はなかった。本当にありがたい。

さて、俺はただ爺さんに会いに来ただけなのだが、その爺さんがリリアと話しこんでいるらしいので俺も来いと城に着くなり呼ばれてしまったのである。マルドゥークも忙しい立場だろうに、こんな下っ端みたいな仕事させられてかわいそうに。

謁見の間に入ると広々としたスペースの奥、ちょこんとリリアと爺さんだけが並んでいる。二人は俺の姿を認めると何やら元気よく手を振っていた。なんという血筋……。


「よお〜ぼうず! 良く来たなぁ!」


「爺さん、ここ謁見の間な。それとあんたの城じゃないからここ」


「孫が女王なんだから俺は超王みてえなもんじゃねえのか」


勝手に役職増やさないでくれ。

爺さんのはた迷惑な元気さに溜息を漏らしているとリリアは昔と変わらない子供っぽい笑顔で俺を迎えてくれた。何だかんだでこうしてリリアと会うのも例の戦闘以来――。まともに会うのは大分久しぶりになる。


「急に呼び出しちゃってごめんなさい、夏流」


「いや、どうせ暇人だからな。それより爺さん、ここで話があるってことは……」


「ああ。今後の対魔王戦について話があるんだよ。まぁここで立ち話もなんだし、客間に移動しようぜ」


「……それは賛成だが、だからリリアの許可を……いでででっ!?」


「ごちゃごちゃ言ってねーで行くぞ! おら、付いて来いリリア!」


ジジイは俺の頭を鷲づかみにするとずるずると引き摺って強制的に客間に連れて行く。というか――どんな怪力だこいつ。つーか手ぇデケエッ!?

じんじん痛む頭を抑えながら客間の円卓に着く。それにしてもどこ行ってもアホほど広いため、少人数で会話しているのになんだか落ち着かない。


「回りくどいのは苦手だからサクっと本題に入るぞ。魔王の城パンデモニウムが機動し続けている限り、正直こちらの勝ち目は薄い」


それは俺も考えていた事だった。パンデモニウムは現在でも活動を続けており、北方大陸を中心に移動を続けている。

プロミネンスカノン――とかいったか。あの超砲台も、遠距離であれば遠距離であるほど照準を合わせるのは難しいという。まあ当然だな。離れていれば僅かな誤差でまるで見当違いの方向に攻撃が着弾しかねない。

パンデモニウムそのものが移動し続けているのはプロミネンスカノン対策でもあるのだろうが、それ以前に根本的に移動要塞としての能力が非常に優れている。なにせ、こっちには空を飛んでいるパンデモニウムに攻撃する有効的な手段が存在しないのだから。


「パンデモニウムそのものに武装はないが、無限とも思えるあの魔物の軍隊を引き連れてくる。あらゆる要塞、都市、何でもかんでもやつらは先手を撃つ事が出来る上に拠点から増援は出し放題……。一箇所ずつ確実にこちらの拠点を潰してくるだろうな。そして有効な反撃手段は存在しねえ」


「つまり、長期戦になればなるほどクィリアダリアは消耗する――そういうことだろ?」


「話が早くて助かるぜ。つまり、パンデモニウム相手にこっちがちまちま準備するだの軍を纏めるだのしている時間はねえってことだ。先手必勝、まずはパンデモニウムを撃墜する事が先決だ」


そりゃあそうなんだろうが――その方法がないから困ってるんじゃねえか。こっちには空飛ぶ乗り物なんかねえし、パンデモニウムがどこを移動しているのかもわからないんだ。戦いようがない。


「確かに短期決戦は俺も賛成だが、それはこっちに同じ空飛ぶ城でもない限りは無理だろ」


「その、空飛ぶ城があるといったらどうする?」


……何となく嫌な予感はしてたんだよ。まあ、そうだよな。そうでなきゃわざわざそんな話はしないよな……。

しかも、空飛ぶ『城』だと? そんなもん、飛ぶとしたら――いや、まさかな。まさかだろ?」


「この城、リア・テイルには変形機能が存在する。大型飛行艦に変形するシステムがな」


「やっぱりかよ! この世界の建造物はどーなってんだよっ!?」


「ディアノイア然り、パンデモニウム然り、これらは過去の時代――神々が存在していたといわれる時代より人間に受け継がれた神器だ。ディアノイア、リア・テイル、パンデモニウム……。どれも変形能力を持つ大型要塞であり、その中でも飛行能力を持つのはパンデモニウムとリア・テイルのみ。それぞれの国の王は古代兵器でもある要塞を今でも操る力を持っている」


どうやらそのリア・テイルを操る資格というのがそのまま女王の資格になっているらしい。リア・テイルの奏者の資格はそれぞれのリアを受け継ぐ者――つまり、女王の血筋にあるらしい。これが女王の血筋に大聖堂が拘っていた理由でもある。


「リア・テイルはパンデモニウムと同じ強大な力を持つ古代兵器だ。大聖堂はそれを操るためにもリアの血筋を狙っていたわけだ」


「……今となっては大聖堂の事はどうでもいいがな。つまり、俺たちにはリリアがいる。リリアならばリア・テイルを変形させる事が出来る――そうなんだな?」


「変形したリア・テイルならば広域レーダーでパンデモニウムを発見するのも容易いだろう。それに乗り付ければ白兵戦闘に持ち込む事も可能だ。だがしかしここで問題が二つ」


「……一つは、リリアがまだリア・テイルを操る方法をわかってないって事。もう一つは、破壊されたリア・テイルのコアを修復しなければならないって事なの」


俺たちの会話に割り込み、リリアが告げる。まあそりゃそうだろう、リリアがリア・テイルを普通に飛ばせたらびっくりだ。アイオーンのような複雑な操作が必要になるのだろうし、当然練習が必要だ。

リリアが操る飛行艦に乗り込むのだから、それこそ墜落でもしたらクィリアダリア終焉の日が訪れるだろう……。それだけはなんとか避けなければならない。

まあ、リア・テイルについてはリリアに任せるしかない。となると、俺がここに呼び出された理由は残りのもう一つの方――。


「リア・テイルコアを修復する為には現代の技術じゃ足りない上に、古代の素材が必要になる。そのコア修復をお前に任せたいんだが……いいか?」


「――ああ。リリアに全部押し付けるわけにはいかないだろ。俺にやらせてくれ。何を集めればいい?」


騎士団じゃなくて俺に任せるって事は何かワケアリなんだろう。リリアは俺の言葉に嬉しそうに目をきらきら輝かせている……。あんまり期待されると困るんだがな……。


「集める素材については後で詳しい情報を記した書類を持たせる。技術者に関しては――太古、神の時代から生きているやつに手を借りるしかねえな」


「アイオーンはどうなんだ? ディアノイアの管理者なんだろ?」


「それはそうなんだが、基本的にそれぞれの要塞の管理ユニットにしか修理は不可能なんだよ。なんで、お前にはこの要塞――リア・テイルの管理ユニットをつれてきて欲しい」


そう言ってヴァルカンが俺に手渡したのはある人物の似顔絵だった。俺はそれを見て爺さんの絵心とその人物に見覚えがある事と、二つの事に同時に驚いた。


「リア・テイル管理ユニット、通称『白夜華蓮ミッドナイト』――。見覚えあんだろ? こいつはお前にしか付いてこないし、お前のいう事しか聞かない。多分――な」


そこに映し出されていたのは和装の少女――。いつだったか、アリア奪還の為に北方大陸に向かった俺たちが発掘した、白い機械人形だった。



〜それゆけ! ディアノイア劇場Z〜


*大変なことになってきた*


リリア「は〜、お茶が美味しいよ〜」


ゲルト「何を飲んでいるんですか?」


リリア「え? 梅昆布茶」


ゲルト「……なんという渋いチョイス」


アクセル「たたた、大変だ〜〜っ!!」


リリア「うっさいよもう! 人がお茶飲んでるときくらい静かにしなよ、ばかあっ!」


アクセル「熱ゥウッ!? お茶をぶっかけるならまだしも、お湯沸かしたやかんからダイレクトに熱湯かけるとか悪意しか感じられねえ!」


ゲルト「それで、何が大変なんですか?」


アクセル「俺の皮膚が火傷で大変だけど……。ああ、そうそう。虚幻のディアノイア……なんか予定よりもうちょっと続くかもしれない」


リリア&ゲルト「「 な、なんだってーっ!? 」」


ゲルト「……って、それもう聞きましたけど。110部くらいですよね?」


アクセル「いやあ……下手すると130くらい行くかもしれない」


リリア「ちょ……続きすぎ」


ゲルト「何でそんなに計算狂っちゃったんですか?」


アクセル「いやぁ……。何か思っていた以上に話が進まないというか、戦いに時間かけすぎたというか……。まあ、VS魔王編はあと十話しないで終わると思うんだけどさ」


ゲルト「そっからそんなに長いんですか!?」


アクセル「拾ってない伏線いっぱいあるしなあ……。でもそうなるとあと2、3ヶ月書かないと終わらないな」


リリア「いや、それでも連載ペース滅茶苦茶速くない?」


アクセル「あんまり何も考えずにプロットもなくテキト〜に書いてるからな」


ゲルト「それわざわざ言わなくてもいいのに……」


アクセル「あ、そうだ。もしかしたらディアノイアTRPG化するかもしれないから」


リリア「ふーん……ってぇ、何か一部の人にしか判らないような事をまたサラっと……」


ゲルト「えーと、また来週……」


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