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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第三章『女王の神剣』
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嘆く魂の日(1)


「アイオーン、こっちの修理は終わったぞ。いつでもプロミネンスカノンを発動出来る」


泥だらけの姿で制御室に姿を現したヴァルカン。その背後に続いていたクロロが頬に付いた汚れを拭いながらアイオーンへと歩み寄る。


「プロミネンスカノンの発射トリガーは……アイオーン、貴方に預けられている」


「……ふむ。まあ、準備くらいはしておいても構わない、か」


奏操席に腰掛けたアイオーンが両手を左右に伸ばす。光が集い、そこに彼女が奏でるためだけに存在する鍵盤が現れる。

それはこの巨大な魔道要塞をたった一人で操る為の特殊操縦機関――。アイオーンの行動をサポートする為、クロロがアイオーンの傍らに立ち、同じように操作パネルに手を伸ばす。


「プロミネンスカノン、発射準備。シャングリラはカノン発射形態に移行します」


クロロの言葉と同時に学園全体に光が走る。全ての建造物の間に光が迸り、街中に居た全ての人々は空を見上げた。

天高く聳え立つ巨大な塔、ラ・フィリア。どこまでも伸びるその塔は今、ゆっくりと倒れようとしていた。

それは崩落しているわけではない。『傾いて』いるのである。ゆっくりと、学園全体が変形し、巨大な塔を真横に支えて行く。


「シャングリラ、目標捕捉の為に横回転を開始。座標補正開始。ラ・フィリア、砲身モードに変形完了」


アイオーンは自らの両手に紋章の描かれた手袋を嵌めた。そうして一呼吸間を置き、鍵盤を一気に指先で叩く。

激しいメロディラインが学園、そしてシャングリラの町を包み込んで行く。何が起きているのか全く理解出来ずに誰もが呆然とその景色を見上げる中、アイオーンは演奏する指を止める事はなかった。

塔は傾き、巨大な砲身へと変化する。学園はシャングリラの基盤ごと回転し、西へと方針を向ける。危険区域に立っていた住民たちの足元に転送魔方陣が浮かび上がり、人々は次々に学園内部に転送されて行った。

その最中も常にアイオーンは演奏する手を止める事は無い。彼女の演奏そのものが学園を異形へと変える力を持つ。光の鍵盤が螺旋を描き、その中心でアイオーンは黙々と作業を続けていた。

長すぎる砲身を支える為、草原には光の支柱が無数に出現する。それらに支えられ、ラ・フィリア全体に魔力が充填されていく。


「プロミネンスカノンに魔力チャージを開始します」


「アイオーン! 修理が完了しているとは言え、動力機関が不安定なままだ! 出力はせいぜい30%が限界だ!」


一人でノンビリと変形の様子を眺めていたヴァルカンが声を上げる。アイオーンもその事実には既に気づいていた。だが、30%――。その威力だけで充分すぎる。


「目標、魔王城パンデモニウム。ディアノイア、プロミネンスカノン発射用意。魔力チャージ状況10%……20%……30%……。プロミネンスカノン、発射準備完了」


その瞬間、アイオーンの手は停止した。発射するかどうか――それは重要な問題である。チャージをするまでならば問題はない。だが、引き金を引いてしまえば悲劇の繰り返しとなりかねない。


「プロミネンスカノンの威力を考えれば、聖騎士団が撤退するまで待つべきだろうね。ケルゲイブルムごと蒸発しかねない」


「んー……。まあ、パンデモニウムも撤退するだろうからな。動きがあったら狙撃すればいいだろ」


「そうだね」


軽い口調でやりとりを交わすアイオーンとヴァルカン。その砲身が狙いを定める先、パンデモニウムの奏操席ではレプレキアが忌々しげにその反応に眉を潜めていた。


「……ディアノイアのプロミネンスカノンか。まさか『また』、自軍もろとも吹き飛ばす積もりなのか……?」


レプレキアの周囲に浮かび上がる黒い光の鍵盤の螺旋。そこに少年は手を伸ばす。旋律が奏でられた瞬間、パンデモニウム全体の魔力の輝きが行き渡って行く。

膨大な闇の力がパンデモニウムに収束する様子は地上からでも充分に見て取る事が出来た。その輝きを見上げながら一人、返り血に染められた銀の鎧の合間からアルセリアはそれを見上げていた。

元老院の老人たちが使用した秘密の脱出通路――それは当然アルセリアも知っていた。先回りし、街から離れた岩山から通路に強引に潜入し、逃げてくる元老院を皆殺しにしてアルセリアはケルゲイブルの正殿の窓からパンデモニウムを見上げていた。

闇の光は全てを焼き払う滅びの力と成りかねない。しかし十年前の戦争で、ロギアは一度としてパンデモニウムをそのように使った事はなかった。使うべきではない力というものがある。その封印を解き、人道に反する力を発動したのは魔王ではなくクィリアダリアであった。


『パンデモニウム……。レプレキア、貴方なのですね……』


「――――っ!? アナタは、アルセリア……? どうしてアナタがここに……」


背後からの声に振り返る。巨大な鎧の騎士の前に立っていたのは全身を炎のような紅い衣装で包み込んだ女――ナイアーラであった。

元老院の一人でありながらこの地にまだ彼女が残っていたのは単なる偶然に過ぎなかった。真紅の魔術師はすぐさま片手を挙げ、魔術を編みこむ。

放たれた紅蓮の炎。しかしアルセリアはなんら防御をする事もなく、全ての焔を弾き飛ばして見せる。何が起きたのか、ナイアーラにも理解は出来なかった。騎士は巨大すぎる剣を肩に乗せ、一歩、また一歩と歩み寄る。


「パンデモニウムが出現した以上、時間が無いわ! 預言の時……空白の日が迫っているのよぉ!? それなのに、どうしてアナタは……っ」


鎧は無言で剣を突きつける。ナイアーラは完全におびえていた。目の前に居る巨大な鎧の中身――。それは、いかにマリシアの力を持つ人間であろうとも恐怖するに値する絶対的な力――。


『貴方とも数百年に及ぶ付き合いでしたが、どうやらそれも今日までのようです』


「……ふ、ふふふっ!! ア、アタシが負けるはずがないじゃあない!? だってアタシは――不死身なんだものっ!!」


漆黒の炎がナイアーラの身体を変化させていく。美しい炎のドレスを身に纏い、焔の翼を広げるナイアーラ。不死鳥のマリシアは再び炎の術式を練り上げ、アルセリア目掛けて放った。


蜂起する煉獄フェル・エクスプロード――!!」


一瞬で収束した小さな光の球。指先から放たれたそれはアルセリアの鎧に直撃すると同時に炸裂し、城の壁も、部屋も、何もかもを巻き込み爆ぜて吹き飛ばす。

燃え盛る紅蓮の炎に包まれ、アルセリアの胴体から上は吹き飛んでいた。圧倒的強固を誇るどんな防御であろうと、貫通効果を強力に練りこんだ術式ならば無傷で耐えられるはずも無い。


「アハ! アハハハハハッ!! アンタがヨト神の何を知っていたのかは知らないけどっ!! 結局アタシが最高に燃えているのよっ!!」


「鎧を砕いたくらいで何をいい気になっているのですか、ナイアーラ?」


「な――っ!? い、ぎっ!?」


気づいた時には何もかもが遅かった。ナイアーラの口は真っ二つに裂けていた。口だけではない。そこより上は完全に切断され、哀れ肉片となった頭部が転がり落ち、切断面より地飛沫が上がる。

燃え盛り焦げ付いた鎧の中、小さな小さな手が伸びていた。一陣の風が吹きぬけ、煉獄の炎は一瞬で消滅する。

焦げ付いた鎧の中から伸びたのは小さな手――。幼い少女の手。巨大すぎる鎧の中からゆっくりと姿を現したのは、純白のドレスを身に纏った少女だった。

その腕から放り投げられた鎧の全長を遥かに超える巨大すぎる剣はナイアーラの頭部をすりつぶし、石柱に突き刺さっていた。ふわりと揺れる白くウェイブした髪を指先で弄り、無表情な少女はナイーラに歩み寄る。


「……死ねない身体とは不便なものですね、ナイアーラ。そんなに成ってもまだ生きているなんて」


「…………」


ナイアーラは残された口半分から血の泡を噴出しながら身体を震わせていた。少女は小さく跳躍し、細い手でナイアーラの切断面を鷲づかみにするとそのまま大地に叩き付けた。

完全に首から上は砕け散り、ナイアーラの肉体は激しく痙攣した。同時に大地に亀裂が走り、砕けた石の破片が虚空へと同時に浮かび上がる。


「――死なないのならば、死ぬまで殺して差し上げましょう。貴方に死を与える事で、神の許しとしましょうか」


大地に三度、激しい怪力でナイアーラを叩き付ける。上半身はつぶれていた。その肉体を素手で引き千切り、四肢を放り投げ、臓腑を引きずり出し、それでも尚死ぬことの無いナイアーラの心臓を握り潰し、血塗れの姿でアルセリアは顔を上げた。


「うっかりしていました。別に死なずとも、行動不能になっていれば問題はなさそうですね。尤も、思考を司る脳を砕いてしまったのですから……私の言葉はもう届いてはいないのでしょうが」


肉片を手から放し、床に落す。頬に付いた血液をそのままにアルセリアは窓の向こう、パンデモニウムの光を見上げた。


「問題なら在りませんよ、ナイアーラ。空白の日が来たならば、再び約束の地で合間見えるのですから。心と、記憶をそのままに……」


黒い光が広がる空。それを見上げる血まみれの少女は確かに美しかった。



⇒嘆く魂の日(1)



「な――!? あ、あれは一体……!?」


空を見上げたゲルトは膨大な魔力がパンデモニウムから放出されている事に気づき顔色を青ざめた。それは、魔法なんて生易しい物が発動するのではない。もっともっと、おぞましい――爆発的な力の発動を意味している。

余所見をしてしまったゲルト目掛け、ジルベストリの槍が襲い掛かる。繰り出された槍はゲルトの腕から魔剣を弾き飛ばした。


「戦闘中に余所見とは! 笑止!」


「ぐあああっ!?」


槍を回転させ、石突でゲルトの顔面を強打し、よろめいた所で少女の腕に槍を突き刺した。ジルベストリが腕を捻った瞬間、鎧の継ぎ目に正確に突き刺さった槍は少女の細腕をあっけなく切断してしまった。

肘から下、自らの腕が宙を舞い、壁に当たって落ちる様子を血の気の引いた様子でゲルトは見送っていた。遅れて激痛が走り、しかしそれに屈するわけにはいかなかった。

雄叫びを上げながら魔剣を拾い上げ、繰り出された止めの攻撃を弾き返す。力を込めた所為で切断面からは血があふれ出し、少女は苦痛に脂汗を浮かべながらふらつく体でジルベストリを睨んでいた。


「片腕失い尚且つその闘志……女子にしては良い眼をしている」


「う……っ! ぐう……っ!!」


「しかし、片腕だけで勝機があると考えているのであれば些か滑稽。選ばせてやろう、小娘」


槍を頭上で回転させ、ゲルトを前に構える。突きつけられた血に染められた刃に少女の顔が映りこむ。


「次に刎ね飛ばされたいのはどこだ? 腕か? 足か? それとも――慈悲を以って一思いに首と行こうか!!」


魔力のコントロール、力の制御は精神状態に強い影響を受ける。高い集中力で魔力を練りこみ、初めて力を発揮できるのである。

腕を失った動揺と焦り、そして激しい痛みはゲルトの心を確実に追い詰めていた。少女相手でもジルベストリの猛攻は止む事は無い。四方八方から繰り出される槍独特の間合いからの重い一撃は、片手で受け止めるには不足している。

手足が痺れ、呼吸もままならない。もう長い間酸素を吸って居ない気さえしてくる。血を流しすぎた所為か、それとも呼吸困難の所為か、意識も薄れてくる。

視界に曇りが生まれれば余計に死は近づいてくる。自分は殺されるのか――。そんな恐怖がゲルトの心の中にふつふつと湧き上がって行く。


「リリア……わた、しは……っ」


「ふん! 戦いの最中他者の名前を呼ぶなど、半人前の証拠よ! ぜええええいっ!!」


「うぅっ!?」


懇親の一撃がゲルトを防御の上から吹き飛ばす。完全に息が上がっているゲルトとは対照的にジルベストリは落ち着いた様子で倒れたゲルトの首筋に刃を当てていた。


「忠義の為に散る騎士の心意気は確かに見事。しかして今だその身は未熟……。何か言い残す事はあるか?」


「…………ジルベストリ……」


「同じく王に尽くす心を持つ人間としての最期の心意気よ。貴様の王を殺す時に伝えてやろうではないか。何、案ずる事はない。冥土で直ぐに出会えるのだからな――」


その言葉を受けた瞬間、ゲルトの瞳に強い闘志が戻った。首筋に刃を当てられているというのに、ジルベストリが反応できないほどの速さで大剣を繰り出し、その首を狙う。

二人の攻撃は同時に不発に終わった。互いの首筋に傷を残し、血を流しつつも後退する。目を見張るゲルトの動きにジルベストリが笑いを浮かべた。しかし、その喜びの表情は直ぐに驚きに変化した。

背後から何かが飛んできていた。それは闇の攻撃魔法――。しかし、背後に敵など居るはずもなく。振り返ったジルベストリは己が何と戦っていたのかを知る。

転がっていたのは切断されたゲルトの腕だった。開かれたその手の正面には魔方陣が浮かび上がっている。次々に魔法を放ちながら――切断された腕はジルベストリ目掛けて飛来したのである。


「何とっ!?」


槍を回転させ魔法を弾き飛ばすジルベストリ。その背後、剣を振り上げたゲルトの姿があった。

大剣を片手で振り下ろしたゲルト。その一撃はジルベストリの肩口から袈裟に斬りこみ、深手を負わせていた。しかし同時に槍はゲルトの喉を貫き、少女の口からは鮮血が溢れ出した。

だというのに、ゲルトはじっと無表情にジルベストリを見た。そうして背筋が凍るような冷たい――残虐な笑顔を浮かべた少女は剣を捻り、ジルベストリの半身をずたずたに引き裂いた。


「ぬああっ!?」


ジルベストリもまた、首を刎ねようと槍を捻る。しかしゲルトの首は既に槍から離れ、少女の身体は地に付いていた。音を立てて大地に零れ落ちる血を指先に、少女は喉を押さえて身体を揺らす。


「面妖な……。貴様、死が恐ろしくはないのか!?」


喉を潰されたゲルトが声で答える事は無かった。しかし、ジルベストリは感じていた。今までの少女と、今目の前に居る少女とでは――力の本質が異なる事に。

切断された腕を拾い上げ、腕の切断面に押さえつけるゲルト。腕が激しく痙攣し、血飛沫が渦を巻く。そうして次の瞬間には切断された腕は機能を回復していた。


「――回復呪文? いや、これは――まさか、我輩と同じ不死者ネクロライザー――!?」


それは正解ではなかった。だが、限りなくそれに近い『何か』であることは間違いない。

少女に呪いを飲ませた男は不老不死の法を研究していた。妹の身体に宿る呪いを打ち消し、同時にあらゆる病と傷から少女を救う――そんな神にも等しい力を欲していたのである。

ゲルト・シュヴァインは飲み干したのだ。神を作る素材となる毒薬を。平らげればその身を滅ぼし、しかしあらゆる死を跳ね除ける絶対的な力を。

痛みの中、ゲルトは既に正気を失っていたのかもしれない。熱く零れ落ちる己の血液ですら今は心地よい物にしか見えない。少女は己の血を酌んだ掌から真紅の美酒を啜り、口元を真っ赤にして笑って見せた。

それは誰の笑顔だったのか。彼女の中に眠る獣がそうさせたのか。誰もそれはわからない。ただ、ゲルトの目的は一つだった。


「――――」


声にはならなかった。だが、当然のように願う事。

リリアを殺させない。リリアを傷付けさせない。そのためであるならば――どんな事にでも耐える事が出来る――。

魔剣を両手で構える。自らの肉体からあふれ出した血液は飛沫となって渦を巻き、魔剣の刃を覆って行く。血から生まれた禍々しい真紅の刃を振るい、少女はジルベストリ目掛けて走り出した。



礼拝堂ではアクセルと秋斗の戦いが続いていた。お互いの実力は一見拮抗しているように見えたが、それは秋斗が全力で戦って居ないだけに過ぎなかった。

しかしアクセルも救世主の力を持つ存在に必死で食らい付いていた。十二の剣を巧みに扱い、あらゆる攻防を実現する。事実、秋斗にとってアクセルは今までの戦闘経験の中で最強を名乗るに相応しい実力を持っていた。


「シュゥウウトォオオオッ!!」


「ハッ!」


銃弾の雨を掻い潜り、アクセルは刃を振るう。両手に構えた六つの刃を連続で繰り出すが、しかしそれは秋斗には届かない。

攻撃を見切り、回避し、時には銃身で受け流す――。逆にアクセルの回避行動は全て先読みされ、的確な位置に銃弾をねじ込んでくる。もしもこの風で刃を操る技術が欠けていたのならばアクセルは物の数秒で敗北していたことだろう。

剣と銃、二つの攻防は続く。風を載せた刃で遅いかかるが、秋斗は目にも留まらぬ速さで背後に回りこみ、距離を離して跳躍する。


「ハハハハハハハッ!!」


空中から連続で引き金を引く秋斗。その弾丸の一発一発が銀色に雷を帯び、膨大な破壊力を持ってアクセルに襲い掛かる。ついに防御の手が緩み、一撃の弾丸が身体を穿つ。途端に雷撃が迸り、アクセルは一瞬意識を失った。

その隙にこれでもかと放たれた弾丸は倒れたアクセルの身体を滅茶苦茶に撃ちぬいて行く。着地した秋斗は指先で銃身を回転させ、倒れたアクセルの額に銃口を突きつけた。


「じゃあな、ブレイドダンサー。少しは楽しめたぜ」


止めを刺そうと引き金を引こうとしたその時だった。正面から巨大な光の槍が飛来し、秋斗は障壁を展開して攻撃を防ぐ。しかしそれが障壁貫通効果を持つ魔法である事にいち早く気づき、銃弾を打ち込んで相殺した。

迸る銀色の雷撃の中を付きぬけ、何かが進んできていた。それは一瞬で秋斗の眼前に近づき、光の軌跡を描いて剣が振り下ろされる。救世主の前髪を切り裂いた剣の持ち主は美しい白銀の鎧を輝かせ、アクセルを抱きかかえ背後に跳躍した。


「――王が単身こんな所に突撃か? 少々間抜けだな」


「どうせリリアには指揮官なんて向いてないんですよ。だから、先頭に立って壁を切り開く――。それが私の、リリア・ウトピシュトナの戦いです」


有無を言わさず秋斗は弾丸を発射した。リリアはそれを避ける事はしなかった。銃弾は少女の額と顔半分を覆っていたフェイスガードに命中し、銀の仮面は大地に砕けて落ちた。

額から血を流し、しかし動じる事もなく真っ直ぐに秋斗を見詰めるリリア。片手で素早くアクセルの傷を癒し、神剣を片手に救世主と相対する。


「――いいツラだ。そうでなきゃ、お前を王にした意味がねえ」


「……さも貴方が私を女王にしたかのような物言いですね」


「そんなようなもんだろ? お前の為に色々とお膳立てをしてやったんだ。クク……ッ! そういや、マリアは救えなかったようだな? 俺様が手を貸してやらなけりゃあ、母親一人守れない――。それがお前の実力なんだよ、リリア」


勇者は無言で剣を構える。秋斗はそれに構わず語り続けた。


「まあ、安心しろ。あれは運命だった。お前がどれだけ力をつけていようが、変えようのない運命……。そう、世界の意思が! お前の母親を殺しただけなんだからな!!」


「――――貴方はっ!!」


魔力が解き放たれる。身体の外側に力を放出しただけで長椅子は吹き飛び、ステンドグラスが音を立てて砕け散った。虹色の硝子の破片が飛び散る中、リリアは雄叫びと共に突撃する。


「運命なんて言葉で……! 人の命を決め付けるなんてっ!!」


「ハッ! 作り物の世界には運命の筋書きくらいで丁度いいんだよおっ!!」


放たれた雷を剣で切り伏せ、秋斗に襲い掛かるリリア。銀の剣と銀の銃が衝突し、拮抗した魔力に二人の身体は弾き飛ばされる。

壁を蹴り、パイプオルガンの上に飛び降りる秋斗。リリアは身体を回転させ衝撃を殺しながら下段に剣を構えて敵を見上げる。


「強くなったなあ、リリア! 夏流と会ったばかりは泣き虫のへこたれ勇者だったお前が、良くぞここまで強くなったもんだよ!」


「貴方の口から夏流の名前が出ると、私は虫唾が走ります……」


「へえ? そんなに好きか? あのヘタレ野郎が」


「……っ」


感情的になり、一直線に突き進むリリア。パイプオルガンから跳躍し、リリアの頭上を跨ぎながら銃弾を放つ。

剣で弾かれた雷撃はオルガンを焦がし、礼拝堂を炎で包み込んで行く。大きくなって行く炎を背景に二人は何度も攻防を繰り返す。


「夏流はお前に優しいもんなあ!? でもな、リリア――それは所詮、お前本人の気持ちじゃねえんだよ!」


「何を……っ」


「夏流を好きで好きで仕方が無いのはお前じゃなあない。お前の中にある、お前を生み出した女の心だ! 他人の心に左右され、さも己の気持ちであるかのように感じるお前が本当に運命に左右されていないと言えるのか!?」


「違うっ!! リリアは――リリアは、自分で――っ!!」


「自分で決めてここに居るのか? 親に魔王を宿され都合よく勇者に仕立て上げられ女王に祭り上げられ誰にも支配されて居ないと言えるのか!? 教えてやるよリリア……! この世界の終焉はお前の存在が巻き起こす! お前が世界を滅ぼすんだよっ!!」


リリアの神剣を銃身で受け、秋斗は蹴りを放つ。それを回避し、リリアは剣を一瞬手放し、逆手に持ち替えて下段から一気に振り上げた。秋斗の頬を切り裂き、空に振り上げられた剣を再び放し、両手で掴んで振り下ろす。


「はああああああああああっ!! 断罪する神意の音フェイム・エクス・フォース――!!」


輝きを纏い、振り下ろされる魔力の巨大な剣。それは聖堂の天井を切り裂きながら振り下ろされ、秋斗の銃へと叩き付けられる。


「運命なんて言葉で全てを許す事なんて出来ないッ!! そんな陳腐な言葉で世界は括れはしないッ!! たとえ誰かが望んだ世界でもッ!! この剣で全て切り開いて見せる――ッ!!」


「――――ナメた口をぉおおおっ!!」


「斬り裂けぇぇぇえええええええっ!! ロギアアアアアアアアアアアッ!!!!」


膨大な二つの魔力が正面からぶつかり合い、炸裂する。銀色の光が大聖堂の上部を吹き飛ばし、蒸発した天井から降り注ぐ雪の中リリアは肩膝を着いていた。

全身全霊、全ての力を絞りつくして放った神剣の一撃――。聖堂を破壊するほどの威力を持つ剣を放った。だというのに――勇者は歯を食いしばる。

正面には傷だらけになり、しかしそれでも尚立っているもう一人の救世主の姿があった。銀の銃を降ろし、秋斗は不快さを隠しもしない瞳でリリアを見下ろした。


「…………てめえ」


「……う……くっ」


秋斗の腕がリリアの髪を掴み、力の入らぬ身体を強引に引き起こす。憎しみを渦巻かせた瞳でリリアを睨む救世主を少女は必死で睨み返していた。

ただ、睨み返すこと……それくらいしか今のリリアに出来る事はなかった。健気に、懸命に心だけは折れずに救世主に歯向かう勇者。その姿に秋斗が歪な笑みを見せたその時――。


「秋斗ぉおおおおおおおおおっ!!」


背後から放たれた電撃の力を片手で相殺し、秋斗は振り返りながら銃を構える。その正面、猛スピードで駆け寄るもう一人の救世主を視界に居れ、秋斗は笑った。

二人が正面から激突する。お互いの攻撃は空振りし、二人の救世主は至近距離、額をぶつけ合い睨み合う。

二人の間にそれ以上の言葉は無かった。金と銀、二つの電撃が迸り――ケルゲイブルムの空へと舞い上がって行く――。


〜それゆけ! ディアノイア劇場Z〜


*思えばこの作品あんまり叫ぶシーンないね*



リリア「キルシュヴァッサーとかウザイくらいに叫びまくりだったのにね」


ゲルト「そういうこと言わなくていいですから」


リリア「でもなんか最終回っぽい雰囲気になってきてない?」


ゲルト「まあそうですが、残念ながらもうひとひねりあるのでご安心ください」


リリア「まだ終わんないの……? ロボット書きたいって作者が言ってたよ」


ゲルト「変形合体する学園で我慢しなさい」


リリア「学園変形とかパンデモニウムとかは最早ネタだよね」


ゲルト「……書いてる間は楽しかったですけど、あまりに馬鹿設定過ぎて読者がどう受け取っているのか心配ですね」


リリア「まあ元々ノリとテンションで押し切る小説だからいーんだよっ!! ノリについてこられない人はもうここまで来る前に止めてるから!」


ゲルト「いえだから、更に引くくらい凄まじい設定ではないかと言うことで」


リリア「そんな事より、今日は作者の作業用BGMについて!」


ゲルト「……はあ。作業用BGM、ですか?」


リリア「執筆してる間音楽聞いたりしない? もしも作者の作業用BGMに覚えがある人が居れば、よりディアノイアを楽しめるかもよ〜」


ゲルト「音楽は大事ですからね」


リリア「えーと、じゃあまず普通のBGMだね。作者はゲームのRPGのサウンドトラックCDを聞きながら書くのが多いみたいだよ」


ゲルト「主に『ファイナルファンタジーシリーズ』、『ゼノサーガ』あたりですか」


リリア「ほのぼのしてるところは『マナケミア』とか『アルトネリコ』とかかな〜」


ゲルト「FFは8がBGM神だと思います」


リリア「光田さんのBGMはうまうまなんだよ〜」


ゲルト「歌とかは聞かないんですか?」


リリア「んー、あんま聞かない。でもディアノイアに限って言えばmisonoの『二人三脚』」


ゲルト「……え? 何でですか?」


リリア「え? あのねー、ディアノイアの基本を構想している時聞いていたから多分イメージ的に影響受けてると思う」


ゲルト「成る程」


リリア「あくまで作業用BGMだからね! ちなみに殆ど友達に借りた物で経費零円なんだよ!」


ゲルト「じゃあ普段は何聞いてるんですか?」


リリア「え? 相対性理論」


ゲルト「…………」


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