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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第三章『女王の神剣』
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交わる時の日(1)


「では、フェイトはロギアに止めを刺さなかった、と……。そういう事ですか?」


魔王大戦の終結はフェイトとリインフォースによって齎された。その最後の戦いの場に同席する事の出来なかった仲間たちにとって、フェイトの真意を知る方法は既にどこにもなかった。

勇者は死んだのだ。残ったのは朽ち果てたその亡骸と、主を失って尚僅かばかりも輝きを失うことの無い聖剣の光だけ。そこにロギアが封じられているという事実は公表される、フェイトの死体を回収しに向かった仲間たちの間だけで密かに囁かれた。

彼らも本当は死体ではなく生きたフェイトを連れ帰りたかった。彼には待っている人々が大勢居る。戦いを共に切り抜けた仲間が居る。それでもフェイトの死という事実は変わらない。だというのに、魔王は聖剣の中に息づいたまま……。若いフェンリルにはそれが我慢ならなかった。


「何故その聖剣を態々封印処理など施し残すのですか!? ゲイン、貴方なら判るはずだ! ロギアの力は膨大……封印など生ぬるい物が通用する物ではない事くらい!」


しかしゲインは聖剣を破壊する事はしようとしなかった。勿論剣を破壊したところでロギアの封印がどうなるのかは判らないという事実もあった。しかし何より、親友が最期に残した聖剣を、その死に際に行った最期の行いを無駄にはしたくなかった。

当時、勇者部隊の誰もが辛い気持ちの中にあった。決戦の地での戦い――その中で魔王まで辿り着けたのはフェイトとゲインだけ。逃げ帰ったのだと糾弾されるゲインと自分たちは何も変わらないのだという事、勇者という立場から一心に国民の悪意をゲインが背負っているのだという事……。様々な事実がフェンリルを苛立たせ、その憎しみの矛先はロギアに向けられる。

詰め寄るフェンリルの声を聞き、それでもゲインはリインフォースに鎖を巻きつける。その様子にフェンリルは拳を握り締め、歯軋りする。


「……オレたちは、結局フェイトの力になる事も出来なかった。戦争が終わっても世界は何も変わらない……。支配者がただ、ザックブルムからクィリアダリアに摩り替わっただけだ」


「確かに君の言う通り、世界はそれほど変わらなかったかもしれない。ただ、フェイトが居なくなって、ロギアが封印された……。数え切れない命を犠牲にして得た結果は、勇者が魔王を倒すという結末だけだ。それは決して僕らが望んでいた物ではないというのに」


「クィリアダリアは腐っている……! 魔王が居なくなった途端、周辺諸国を侵略し始めた! 既にどの国も魔王との戦いに疲れ果て、誰も彼も戦う気力など残って居ないというのに……!」


「かつては共に戦った国でさえ、今僕らは倒さなければならない。だから僕はね、裏切り者と呼ばれてよかったと思うし、それは間違いではないのだと思う」


寂しげに笑うゲイン。そう、彼はもう戦いたくなどなかったのだ。今まではそれでもよかった。それでも明るい未来を信じていられた。それが希望だった。

だが現実は違う。どこまでも闘争を望むのは彼らが信じた国そのものであり、人そのもの……。そして今、自分たちもまたかつての魔王と同じ所業を求められるのならば。


「僕は裏切り者だから、爵位も勇者も騎士の位も剥奪された。だからもう、誰も僕を戦場に連れ出そうなんて思わないだろう。これでもう、誰も殺さないで済む……」


「…………オレは」


「腑抜けた僕を笑うかい? 君にはその権利がある。君たち弟子を魔王の城まで連れて行って、戦場で馬鹿みたいに鍛えたのは僕らなんだ。君の人生を変えた僕を、君は恨む権利がある」


「……後悔ならしていません。しないと決めました。オレたちの行い、その全てが無駄だったとも思いたくはない……。魔王は封じてもいつかは目覚めるのでしょう? ならばオレは、次に魔王が目覚めた時に殺せるように強くなって置きます」


「まだ戦いの渦中に身を置くのか。それもいいだろうね。でも、それだけが全てじゃない。聖樹ラ・フィリア……あの周辺に街を作っているらしい。そこで、将来世界を守る子供を育成する兵士養成学校が発足する。ソウルはそこの教師に志願したそうだよ」


「……兵士養成学校? 世界中を支配しようとしておいて、子供に何と戦わせるつもりなんだか……」


「だが、それも悪くはないと思う。いずれはゲルトも、その学園に入れてやりたいと思ってる。守る為には力が必要だ。僕たち大人は間違った使い道で血を流してしまったけれど……次の世代はそうでないと信じてみるのも一つの未来だよ」


しかしフェンリルは首を横に振り、背を向ける。それは当然の事であり、ゲインも溜息と共に目を閉じた。


「聖戦……侵略戦争が始まれば、オレたちも狩り出される。オレは御免です。そんなことの為に、生き延びたわけじゃない……」


「……それもいいだろう。君は君の生き方を探すといい。生き残った仲間は、皆ばらばらの道を選んだ。君もその自分の信じた道を行けばいいだろう」


ゲインはそう言ってリインフォースを抱いて微笑んでいた。それが、フェンリルが人生で唯一師であると認めた男との、最期に交わした言葉となってしまった。

それから何年かの時が流れ、ゲインの訃報をフェンリルも耳にした。だが、悲しむ事はなかった。最早仲間の死程度で涙を流せるほど、彼らは人らしくはなかったから。

戦争の終わり、フェイトの死、ゲインの死……。多くのものを失い、取り残されたのはリリアだけではない。ただ変わってしまった世界の中、どう生きればいいのかも判らず、世界に馴染めず焙れた人間など、いくらでもいる――。


『……フェイトの娘、か』


ふと、少し長い間物思いに耽っていた。闇に閉ざされた森の中、焚き火に照らされて眠るリリアに視線を送る。

立ち上がり、その傍に片膝を付く。すやすやと寝息を立てるリリアの髪に触れ、そして静かに手を引いた。

自らの掌をじっと見詰める。フェイトが残し、ゲインが育て、そして学園が鍛えた次世代の勇者。未来を切り開くかもしれない希望。そして彼女が抱く、リインフォース。


『……やり直せるなんて思っていないさ。今更……オレは――』


呟きは闇の中に消えた。握り締める拳の中に、思いさえ巻き込むかのように――。



⇒交わる時の日(1)



「こちらがその入り口ですわ」


そう言って八が指差したのは、何とも場違いな――自動ドアだった。

アリア救出の為にやってきた俺たちに対し、アリアを差し出す条件として八が提案したゲーム――。それは実に彼らにとって効率的なものだった。


「簡単な事です。ただ、姫さんに匹敵する財宝を、ちょっと取ってきてもらいたいってぇだけの話でしてね」


ゲーム……それは所謂トレジャーハントだった。ザックブルム地価空洞は、この大陸全土にかなり広くその根を伸ばしているらしい。彼らの住むアンダーグラウンドシティのように魔物が完全に駆除された施設もあれば、俺たちの期待を裏切らず魔物だらけで人が入れない区域も存在するという。

彼らの多くはこの地価空洞に存在す古代遺跡、あるいは魔王軍の施設から品々を回収し、流通に乗せてクィリアダリアに売りつけることで生活しているという。俺たちに提案されたのは、手付かずになっている遺跡の探索だった。


「ここであっしらの眼鏡に適う品物を回収してこられれば、アリアの姫さんはお返ししやす」


「それのどこがゲームなんだ?」


「まあ、中に入ってみればわかりやすよ。それに、楽しいでしょう? トレジャーハント♪」


にっこりと笑う八。まあ要するに返して欲しかったら金になるものをよこせ、っていう事だから脅されているようなものだが……。まあ、正面からやりあうよかマシか。

仕方が無いので扉を前に再びパーティーで集まり作戦会議を開く。事前に八に許可を貰い、全員で探索するのではなく何名かいざという時の為に残しておく事が許されている。

古代遺跡ダンジョン内部は迷宮のように入り組んでいる上にそこらじゅうから魔力が放たれており、魔力コンパスが使えないという。遭難してう可能性も考えられるので外に人員を待機させておくのは当然だし、そもそもその間アリアを見張っていてもらわなければならない。

約束事を破るような男には見えないが、一応一国の姫でありリリアの事もかかっているのだ。ダンジョンに入っている間に逃げられました、なんてオチは願い下げである。


「執行者数名と……マルドゥーク。お前残ってアリア様を見張ってろ」


「断る! 私も一緒に行くぞ、ナツル!! 貴様らに任せていたら時間がどれだけかかるかわからんし、ダンジョン探索なら経験もある!」


「……意外だな。アリアの見張りのほうをやりたがると思っての配慮だったんだが」


「今はそれより一刻も早くここから姫様を救い出す事が大切だ。見張りならそこの赤髪の女にでもさせればよかろう」


そう言ってアイオーンを指差す。しかしまあ、確かにアイオーンなら……一人外においておいても全く問題なさそうだが。

何があってもアイオーンがピンチになる情景が俺には想像出来ない。こいつだったら賊が襲ってこよーがアリア様が連れて行かれよーが俺たちが遭難しよーが、なんかなんとかなる気がする……。


「……うん、そうだな。スタンバイメンバーはアイオーンで、探索は俺とブレイド、マルドゥークの三人で行う……って、あれ? ブレイド君は?」


「彼ならさっき待ちきれないといった様子で楽しげに中に入って行ったよ、ふふふ」


「いやいや、見てたんなら止めろよ!? くそ、中どうなってるのかわからないのにあいつは〜っ!! 行くぞマル!!」


「世話の焼ける子供だな……ん? おい、何勝手に人の名前を略している? ナツル貴様! 待てっ!!」


なんだかうるさい眼鏡と共に自動ドアを潜って迷宮の中へ足を踏み入れる。そこに広がっていたのは……なんというか、世界観にマッチしない風景だった。

機械的な構造のまるでSF世界のような内装の通路が続いている。その床や壁には魔術文字が刻まれ、今でも淡く輝いている。流石に意表を突かれる景色に足を止めて眺めてしまう。


「ここまで保存状態のいいダンジョンは私も初めてだな……」


「……っと、それどころじゃなかった。ブレイドを追わないと……!」


二人で真っ直ぐに続く通路を走り、自動ドアを潜る。そこには何かの機械が大量に蠢く工場のようなスペースが広がっていた。わけのわからない機械に囲まれ、ブレイドは楽しそうにあちこちを見て周っている。


「あ、ニーチャン! 見ろよこれ、すげえ機械がいっぱいだ!!」


「こら、ブレイド!」


近づくなり速攻ブレイドの頭部をチョップする。頑丈な手甲でやられたので痛かったのか、ブレイドは涙目になって両手で頭を抑えていた。


「危険な場所に先行するな……。何があるかわからないんだ、用心しなさい」


「うぐう……き、気をつけるよ……」


俺たちがそんなやりとりを交わしている間にマルドゥークは機械類を調べているようだった。俺も何かないかと歩き回ってみると、動いている何も運んでいないベルトコンベアの続く先、不思議な武器のようなものが山積みになっているのが見えた。

ベルトコンベアを飛び越えて近づき手に取ってみると、それは機械の剣のようだった。既に年代物でボロボロではあったが、言うならば小型のチェーンソーのように見える。

他にも銃のような物など、どうにもこの世界には合わないようなものがごろごろと転がっていた。いや、機械人形なんてものもあるのだから、機械的な生産施設や武装があってもおかしい事はないのだが……。


「んー、ニーチャンそれは駄目だね。完全にぶっ壊れてるし……あんまりいいパーツ使ってないよ」


背後から俺の手元を覗き込むブレイド。流石は冒険家学科だけあり、目利きは鋭いらしい。


「せっかく来たんだから、ドーンとデッカイの持って帰ろうぜ!! あ、でも一応その辺のも適当に持ってけばいっか」


「持ってくって、この機械の武器の山をか……? 三人で持ち運べる量じゃないだろうが」


そんな俺の言葉をブレイドは笑って聞き流す。そうして両手を翳すと魔力で生み出された光がまるで掃除機のようにそこにあった武器の残骸を見る見る吸収していった。

今の今まですっかり失念していた。ブレイドは固有空間を作り出す魔術を使えたはず……。成る程、それならいちいち持ち運ぶ必要はないのか。


「盗賊の基本だよね! ニーチャンもマスターしたら?」


「……どういう仕組みなのかもどうすれば出来るのかもさっぱりわからん。うーん……その辺はブレイドに任せるよ」


「おい! ちょっと来てくれ!」


マルドゥークの呼び声に応じて二人で駆け寄る。見ればマルドゥークはわけのわからない機械類を手際よく操作しているように見えた。ダンジョンは初めてではないと言っていたが、まさか判るのだろうか。


「この施設の名前がわかった。第三アルカプラントというらしい。地下三階まである、機械人形の生産施設らしい」


「機械人形の……? お前、その機械いじれるのか?」


「古代文明の遺産なら少しはな。古文書も読めるし、神代の文字も解読可能だ」


神官ってのは頭が良さそうなイメージがあったが、本当にいいんだな……。と、それは兎も角この施設が機械人形の製造工場だとすると。


「じゃあ、まだ動く機械人形が残っているかも知れないって事か」


「マジ!? 機械人形丸々一体なら、ものすごい高値で取引されてるんだ! お宝と呼んで間違いない品物だぜ!」


「そうか……だったら話は早いな。まだ動きそうな機械人形を探そう。よし、急ぐぞ」


三人でその場から離れようとした時だった。マルドゥークが操作していた端末から突然警報が鳴り響いた。

何だかわからず慌てて振り返る俺たち。同時にブレイド君と一緒にマルドゥークに視線を送ると、焦った様子で首を横に振った。


「わ、私は何もしていないぞ!?」


「……眼鏡のニーチャン、なんか変なトコいじったんじゃ……」


「……おい神官、本当にわかって操作したんだろうな」


「な……き、貴様ら無礼にも程があるぞ!! いいか、私は九つの時から古代文明の遺産について研究を……」


腕を組んでマルドゥークがそんな事を語り出した時だった。マルドゥークの背後、大地がせり出し、そこから巨大な八本足の蜘蛛をかたどったような巨大な機械が現れた。

それは正面にガトリング砲にしか見えない何かを装備しており、どうにも友好的には見えない。しかしガトリング砲って……。何でこの世界にそんなもんがあるのか……。


「……により、私の論文が認められ魔術教会からも表彰を受け……」


「……や、やばい! カウンタートラップだよこれ! ニーチャン、逃げよう!!」


「マルドゥークいつまで喋ってんだ馬鹿!! 後ろ後ろ!!」


「馬鹿とはなんだ馬鹿とは……! 後ろって――」


マルドゥークが振り返り、機械の塊と目線が合う。そうして俺たちは弾かれるように駆け出した。

蜘蛛は凄まじい勢いで足を動かして猛然と俺たちを追いかけてくる。地下に格納されていたからか、まるで新品のように綺麗なボディで不具合もなくきちんと追尾してくる。本当にいらんとこばかりしっかりしやがって……。


「ガーディアンマシンだよ!! こういうダンジョンには、決まってあの手の魔物がいるんだっ!!」


「魔物つーかロボットじゃねーかっ!!」


「ロボ……? それがなんだかはわからんが、兎に角来るぞ!!」


ガトリング砲が俺たちを捉える。放たれた弾丸は轟音と共にそこらじゅうをブチ抜きながら俺たちを追ってくる。流石に逃げ切れないと判断して振り返ったマルドゥークが魔力障壁を展開する。

しかし銃弾はマルドゥークの障壁を一気に押し返して行く。まさかの破壊力に思わずうろたえた時、銃弾の雨を掻い潜ってマシンの懐に飛び込むブレイドの姿があった。


「この……! おりゃあっ!!」


マシンの頭部を蹴り飛ばすと照準がずれてマルドゥークは何とか助かった。直後ブレイドは地面に手を当て、魔力の扉を開放する。


「とりあえず――壁っ!!」


直後、俺たちの目の前に巨大な城壁の一部のようなものが飛び出してきた。保存しているのが武器だけだと思っていただけに突然現れた城壁に驚きを隠せない。


「ニーチャンこっちだ!!」


ブレイドの声に導かれ、通路を走る。どうも城壁で完全に道が塞がれているからか、ガーディアンはもう追ってこなかった。

息を切らしながら停止する。それにしてもなんだったんだ一体……。やっぱりマルドゥークが弄ったせいか……?


「それにしてもまさか壁が出るとは思わなかった……。何でも入ってるんだな、その魔法は……」


「んー、まあ城一つ丸々入ってるからね」


あっさりとそんな事を口にして歩いていくブレイド。にわかには信じられない事実だが……もしかしてマジなんだろうか。

逃げ回っているうちに辿り着いたのは生産プラントの一角だった。部屋の隅にはベルトコンベアが続いていた痕跡があり、壊れたベルトコンベアの先には沢山の機械人形の手足が転がっていた。

歩み寄りそれを手にとって見る。どうもこの手足も別の部屋に運ばれてそこで組み立てられるようだが、この部屋でベルトコンベアが壊れている製で隣の部屋には部品が届いていないらしい。空しく空回りする機械を眺め、立ち上がる。


「ブレイド、この手足とかは?」


「んー、手足もそこそこ値が張るよ。持ち帰っとく?」


「だったら一つ譲ってもらえないか? そうだな、えーと……この手とか」


手にしたのはそう、リリアの部屋で未だに主人の帰りを待っているであろう某執事ロボの為に見繕ったものだ。たしか結局金も無くて腕はなくなったままだったと思うから。

それにしても、こうして実際に探してみるとクロロがいかに貴重な存在なのかよく判る。メイドロボを平然と何十機も配備している学園の財力も……。

ロボット……機械人形、か。深くは考えなかったが、機械なんてこの世界の文明には過ぎた存在なんじゃないのか? 確かに列車は存在するが、それは魔力によって動くものだ。他にこれといって機械的なものは街では見かけない。

だというのに、ここには当たり前のように大量の手足が並んでいる。これが全て組みあがったとしたら、何百体もの機械人形が量産される事になる。それにこの機械製造プラントも、街の景色とは余りに違いすぎる。


「マルドゥーク、ここは古代遺跡だ……そう言ってたよな?」


「ああ。それがどうかしたのか?」


「いや……こんなに機械があるのに、どうしてシャングリラやオルヴェンブルムには機械がないんだ?」


「……機械、というのは、基本的には近年まで禁忌とされてきた物でな」


機械は元々ダンジョンの中には存在し、世界各地に点在するその遺跡からは発掘されていたという。しかし単純な話、この世界の人間にはそれがなんなのかも理解出来なかった。

一部の錬金術師たちはその機械の仕組みを解明しようとしたが、結局それを再現して生産する事も出来なかったという。当然何がどうなっているのかわからないものを応用して新しいものを生み出せるはずも無く。


「一般に出回っている機械も存在するが、それは殆ど壊れたものを継ぎ接ぎして修理したものだ。尤も、魔力を原動力としているという事実、おおよその部品程度しか錬金術師にも判らない。機械そのものに自己修復機能があるものもあり、特に技術が無くも勝手に直る場合もある」


「……じゃあ、機械品は殆ど出回ってないし、出回っても数は少なく高価ってことか」


誰にも扱えなかった機械を唯一扱えたという人間が居る。それが魔王ロギア。

魔王は機械を扱い、自らの兵力としていたという。その魔王の所業から、暴走した先ほどのガーディアンマシンのように明らかに機械性の存在も、魔物と呼ぶのが一般的なようだ。

所謂神の世代の遺産であるとされる機械品は基本的に一般人には立ち回らない。クィリアダリアが調査に乗り出したのもここ数年の事で、機械が一般に出回るのはまだまだ先の話だという。

しかしそう話を聞くと、クロロは一体どこから来たんだか……。ヴァルカン爺さんはクロロを知っていたようだし……。


「ニーチャンたち、真面目に探せよ〜っ!! またさっきのやつが追っかけてくるかもしんないだろー!!」


考え込んでいたらブレイドに叱られてしまった。仕方ない、あとで考えるとしよう。

それからも俺たちは順調に遺跡内を探索し、金目の物を漁った。そうして階段を下って行き、最下層である地下第三層まで辿り着いた。

そこにあったのは巨大な扉だった。勿論自動ドアだったが、動力が入っていないのかはたまた扉そのものが壊れているのか、兎に角扉は開かなかった。


「構造的にこの辺が武器庫だと思うんだけどなー」


「開かないんじゃあしょうがないな」


「いやいや、こういう時こそ盗賊の出番ってね」


ブレイドが片手を翳す。すると扉に小さな輪のようなものが開いた。それは部屋の内側へと通じているようで、ブレイドはそれを潜ってみせる。


「部分的に通りぬけ出来る空間を作ったわけ。ほら、入ろうぜ!」


「……便利だなーその能力……」


感嘆の声を上げながら中に入り込む。そこは真っ暗な闇に包まれた巨大な空間だった。

部屋の中を走る魔力の光だけがぼんやりと部屋を照らし出しているが、殆ど先は見えない。ここに来るまでは暗いなりにも照明があったのだが……。


「照らすぞ」


マルドゥークは掌に魔力を収束し、強い光源となる球体を生み出した。一瞬で部屋の中が照らされると、そこに大量に折り重なるようにして倒れた機械人形の残骸が浮き彫りになった。

それらはどうにも手足や首などがはずれてしまっており、完全な状態にあるとは言いづらい。当然動くようにも見えず、しかし大量の武器や機械人形の山は充分に俺たちを圧倒する迫力を持っていた。

思わずそれらを見上げていると、ブレイドが声をあげた。一番下、残骸の山にもたれかかるようにして腰掛ける一体の機械人形がそこにはあった。その少女型の人形は手足も首も万全な五体満足な状態だった。


「これ動くんじゃない!?」


「さっさと回収して戻らねば……。アリア様もさぞ心細い想いをしておられる事だろう」


「お、おい……。動くかもしれないならあんまり不用意に近づかないほうがいいんじゃ……」


俺の発言を無視して二人は座った人形に近づいていく。二人の手が人形に触れようとした瞬間、どこかで聞いたような警報が鳴り響いた。


「激しくデジャヴュ……」


嫌な予感を覚えて振り返る。俺たちが通ってきた扉の前の床が一斉に開き、そこから夥しい数のガーディアンマシンが姿を表した。

流石にあの量はおかしいだろうと思って慌てて二人の所に駆け寄る。どうにも道は行き止まりで、逃げ場もない……。


「やばいな……」


「わ、私は何もしていないぞ!? ほんとだぞ!?」


「今はそんな事よりこれ何とかする方が先決じゃない!?」


ブレイドの言う通りだ。迫るガーディアンたちを前に武器を構える。


「穏便に済むと思ったんだがな……」


溜息を漏らす。まあ、仕方が無い。人間相手にするよりは、幾分気も楽だ――。

俺たちは機械人形の群れに、一斉に襲い掛かった……。


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