勇者の資格の日(2)
見上げた空は果てしなく蒼く、逆にそれが恨めしかった。
雪原に一人倒れ、真っ白に塗り替えられていく世界の中、たった一人死に掛けていた。どうすれば助かるのかなんて考えもしない。ただただひたすらに疲れていた。
つい先ほどまで分厚い雲に覆われていたはずの空にぽっかりと空いた青空から光が差し込んでいる。それをただ美しく思い、そしてただ憎たらしかった。
血まみれの手を伸ばす。どうすればそこに届くのだろう? 願いは口にさえ出来ない。ただ伸ばした手が何もつかめないまま空しく握り締められる。
神の為に戦った。信じる物の為に戦った。どうしようもないくらい戦って戦って、祈るように戦った。そうして手に入れた物はなんだったのか。
足跡だけがぽっかりと残っていた。振り返ればなんて事は無い、全てと戦ってきたから足跡は一つ。何も残らず、何も手に入らない。
深く息を付いて口から血を吐く。呼吸はもう長い間止まっているのかもしれない。何時間も何時間も、心臓は動いていないのかも知れない。ただ死んでしまった体の中で意識だけが生きているという矛盾は何度経験しても慣れるものではなかった。
痛い、苦しい、悲しい、辛い、泣きたい。頭の中を過ぎってきた沢山の言葉はむなしく途切れ、今はもう何も感じられない。全ての五感が解けてなくなってしまえば、後にはこの身に何が残るのだろう? 片方は潰され既に機能しなくなった目でただ空を見る。
「……ああ。そうか……。見上げなかっただけで……世界は綺麗だったんだ」
そっと目を閉じる。体中から血が抜けてもう寒くて仕方が無かった。寒いというその感覚もなくなって、ただ身体が動かなくなった。
もう終わってしまいたいと願った。生まれて初めてそれを願った。死んでしまいたい。消えてしまいたい。それでもその願いはきっと叶えられる事は無い。判ってはいた。それでも願ってみたのだ。
願いはやはり叶えられなかった。死ぬ事は叶わなかった。全てを振りほどいて歩いてきた雪原に、彼女以外の足跡が一つ。青空から降り注ぐ光を浴び、その人は雪原に倒れた彼女を抱き上げた。
ただ抱き上げ、背負い、そうして歩き出す。誰かの背中に揺られながら少女はゆっくりと瞳を開いた。その大きな背中が自分を救おうとしている事に気づき、ただ目を閉じる。
まだ生きろと神が言っているのだろうか。まだ死ぬべきではないと。だがそれはただの酷使に過ぎない。自分はもう壊れている。死にたい。消えたい。だがやはりそう、その願いは叶えられない。
「死なせはしない」
男は言う。
「絶対に、死なせはしない……」
その声の力強さに悲しくもないのに涙が零れた。
まだ生きなければならない。少なくともその時はそう思った。
だが、生きるという事は何かを背負うことに他ならない。その時死に際で彼に背負われた彼女は、気づけば自分では背負いきれない程の荷物を背負ってしまっていた。それを降ろす事も出来ず、ただ背負い続ける――。
終わりはどこにある? 考えても答えは出ない。果てしなく世界は続く。滅びなど訪れない。ならば常にそこに在り続ける彼女にとって世界とは果てしなく広がる無限の牢獄に他ならない。
「……死なせない、か」
過去を思い返し、瞳を開く。すぐ隣に腰掛けていた夏流が視線を向けてくる。その視線に応えるように微笑んだ。
北の港へと続く列車の中、近づく過去の思い出を前にアイオーンは震える自分の腕を握り締めた。そうすることで何かを留める事は出来たのだろうか。
いや、それはきっとなにも掴む事は出来なかった。それはそう、丁度あの日光の差す場所で伸ばした手が、何一つつかむ事が出来なかったように――。
アリア救出舞台の目前に、北の大陸が迫っていた。
⇒勇者の資格の日(2)
「ついたぞ。ここからは船で移動する事になる」
マルドゥークの仕切りに乗っ取り列車を降りて歩き出す。潮風の吹きぬける港、北方大陸行きの船が行き交うクィリアダリアに管理された巨大な港に俺たちは到着した。
元々はバズノクの首都、ズエルカルブの西に存在する為バズノクの管理していた港だったが、その国が滅んだ現在はクィリアダリアが北方大陸との唯一の玄関口であるこの港を管理している。
バズノクが管理を一括していたわけではなく元々クィリアダリアの騎士が常駐していたはずだったが、今回のアリア拉致事件でこの港の船が一隻奪われたと言う話である。まあ、腕の立つのが襲ってきたら僻地の騎士程度に何とかできるわけもないのだが。
で、何故ここにマルドゥークが居るのかというと……今朝、集合場所に向かうと既にマルドゥークが準備万端で待ち構えていたのである。数名の執行者らしき連中に監視されつつ、俺たちは港を歩く。
なんでもこいつはアリアが拉致された時すぐ近くに居たらしい。だが一対一で賊に戦いを挑んだ所、真正面から叩きのめされたという。マルドゥークが勝てない強さの敵となると、もう本当に並の騎士ではひとたまりもないだろうなあ。
何は兎も角リリアを解放するためにもクィリアダリアのためにもお姫様の救出は必須だ。なんだか急にRPG的な流れになってきたが、事態は想像以上に厄介だ。
「賊はここで船を奪って北方大陸に向かったと思われる。我々も船を借りて追撃する」
「本当に北方大陸に向かったのか? 違う所に行く可能性もあるだろ?」
「そこは問題ない。アリア様は特殊な魔力の持ち主でな。それを探る道具があれば方角くらいは簡単に割り出せる。経路からしても行き先は北方大陸――ガーグランドで間違いない」
それそのものは大したことではない。ただ、ガーグランドそのものに色々と因縁があり、クィリアダリアの人間の多くは近づきたがらないという。
しかし俺たちはそんな事を気にしている場合でもなく、実際ガーグランドもクィリアダリアの支配下にあるのだ。敵地というわけではないのだから、臆する必要もない。
「では私は船の手配をしてくる。貴様らは少し待っていろ」
「了解だ」
去っていくマルドゥークを見送る。ブレイドは港町が珍しいのか、あちこちをきょろきょろと見回していた。
「んーと、確かガーグランドって……ザックブルム、魔王の国があった大陸だよな」
「……らしいな」
ザックブルムの魔王ロギア。かつて魔王大戦と呼ばれた壮大な戦乱の世界の中、全てを支配しようと目論んだ国、ザックブルム。
そのザックブルムは北方大陸のさらに北、雪と氷に包まれた大地に存在したという。そして北方大陸は完全にザックブルムに支配され、今でも殆どの場所が魔物だらけで立ち入る事が出来ず、聖騎士団が必死で大陸の大掃除に挑んでいるという。
そんな曰くつきの大地でも嘗て世界最高の反映を果たしたザックブルムの大地である北方大陸は様々な資源が多く、魔王の財宝が各地に眠るといわれるトレジャーハントの聖地であり、同時に立ち入る人間を食い殺す魔界とまでも言われている。兎に角そんな所にアリアが連れ去られたというのだから、これはもう一大事に他ならない。
だがその一大事に対して割かれた人材は俺たちだけ。この少人数での追跡は並の騎士では相手にならない戦闘力を持つ相手に対する少数精鋭作戦であると同時に、未だに国民にアリアが拉致された事が伏せられている事も関係している。
出来得る限り被害を出さず、騒ぎにせず、穏便に迅速に事態の収拾を図ることを大聖堂は俺たちに望んでいるのだ。魔界だろうがなんだろうがやるしかない。
「ブレイドはザックブルムに行くのは初めてか」
「そりゃね。普通の人は好き好んでザックブルムには行かないし。行くとしたら商人とかトレジャーハンター、あとは向こうに元々住んでた人じゃないかな」
「クィリアダリアの人間は近づきたがらないわけだしな……当然か」
世界の北の果てでかつてあった戦い、戦争……。それはもう終わってしまってこの世界には無いはずなのに、まだ世界を二つに分け隔てたまま残されている。
そこでかつて勇者は何を思って戦ったのだろう? この世界の果てで刃を交えた数え切れない無数の命……。それはきっと嘘なんかじゃない。今もこの世界に続いている、列記とした真実なのだから。
マルドゥークの声に導かれ港へ走る。ブレイドはブレイドで、俺は俺で。マルドゥークはマルドゥークで、そう……アイオーンはアイオーンで。俺たちの持っている心は全て嘘なんかじゃない。そしてだからそれぞれきっと過去を背負って生きているんだ。
船に乗り込み、動き出す世界。まだ見ぬガーグランドの土地は船でも暫く時間がかかる。その間俺はずっと広がる海を眺めていた。
潮の香り、空の青さ、流れる雲、跳ねる水しぶき、魚の群れ、それを感じる自分自身。秋斗はそれを所詮作り物だと言った。でも俺はそんな風には思えない。
ここにあるもの全てが真実だなんて声を大にして言うことなんて出来ない。でもここに自分が存在する以上、それは全てを肯定する事に他ならない。もしそれらが全部消えてしまう泡沫の一幕だとしても、それでも俺は……。
リリアは俺を疑いながらも信じて微笑んだ。その笑顔を思い返すと頭の中が沸騰しそうになる。自分でも何と言えばいいのか判らないが、とにかく不思議な気分だった。リリアにそんな顔をさせてしまう自分に猛烈に腹が立ち――今は絶望するよりも先に、それをぶっ潰してやりたいと思う。
もうあんな風に笑わせたりしない。俺がさせない。拳を強く握り締める。魔王の大陸だろうがなんだろうが知ったこっちゃない。全部潰して取り戻す。力ずくでも。
「君は不安には思わないのかい?」
隣にはいつの間にかアイオーンが経っていた。船の手摺にもたれかかり、風を受けて真紅の髪をなびかせている。俺は顔を上げ、それから空を見上げて眉を潜めた。
「怖いさ。でも、リリアを助けられない自分の方がもっと怖い」
「その勇者に自分が疑われていたとしても、かい?」
「…………信じてくれとは、言えないさ」
俺はこの世界の人間じゃないし、秋斗と俺が話しているところをリリアには見られてしまったのだ。本当ならばガンガン詰め寄られて当然の場所で、リリアは俺に背を向けた。
裏切られる事が怖い女の子はそれを知るくらいなら知らない方がいいと言った。俺はそれに甘えて真実を話せないで居る。でもいつか……いつかは話さなきゃいけないんだと思う。
「だから、いつか纏めて話すさ。信じてもらえなくてもいい、本当の事を」
俺の言葉にアイオーンは微笑みながら海を見つめる。時間だけはたっぷりとあった。船から飛び出して探しに行くわけにも行かず、その足踏みする時間だけがもどかしく過ぎて行く。
ふとアイオーンに視線を向けると輝く水しぶきを眺めながら彼女は大人びた視線で世界を眺めていた。ふと、大聖堂での会話が気にかかり、その傍に顔を寄せる。
「……なあ。大聖堂での事だけど……」
「……顔が近いよ夏流」
「いや、他の人に聞かれたらまずいだろ……。向こうでブレイド君がマルドゥークに魚の種類を延々と説明されているうちに済ませたい」
「……ふう。それで? 言っておくけれど、リリアの中にロギアがいることなら大聖堂はずっと前から知っていたと思うよ」
まだ質問しても居ないのに予想外の返答が帰って来た。俺はアイオーンとあの元老院の男との関係性を尋ねようとしたのだが……。
「大聖堂は魔王大戦の時から勇者部隊を常に監視していた。勇者フェイトの聖剣リインフォースの中にロギアが封印されている事なら、十年前から知っていた事だろうさ」
「――なんだそりゃ? なんで今更……今なんだ? あの神官、何を考えてやがる……」
「尤もその事実を知っているのは彼だけで、他の元老院は知りもしない事だろうけれどね。ただ前の大戦時、勇者の仲間だった人間なら皆知っているというだけのことさ」
つまりアイオーンはこう言いたいのか? あの神官はフェイトの仲間であり、元勇者部隊の一人なのだと。
しかしだとすればどうしてフェイトの娘であるはずのリリアの中に魔王が封じられている事など元老院に報告しようとするのか。いや、信頼を勝ち取れば今後も黙っているというのだから、逆に元仲間の娘だからこそ恩赦を与えているという事なのか……?
こんがらがる思考の中、口元に手を当てて考え込んでいるとアイオーンは何かを思い返すように俺を見つめて微笑んだ。その笑顔が妙に魅力的で視線を反らす。
「何だ?」
「いや。ただ……少し、昔の事を思い出していたのさ」
そう言って笑うアイオーンが何を考えていたのかは結局わからなかった。そしてやっぱり俺の質問は彼女の言葉で遮られてしまったように思う。
船は数時間でガーグランドの港に到着した。南方大陸の港と変わらぬ賑やかな港に降り立ち、マルドゥークを先頭に歩き出す。
港を出ると直ぐに広がっているのが荒野だった。北方大陸に列車など気の利いたものは存在せず、仕方がなく徒歩で移動する事になる。目指すはアリアの反応のある方角だ。
厳密にアリアがどこにいるのかはさっぱりわからないのだ。大まかな方向を見据えて移動するしかない。出来るだけ急いで移動をし、日が暮れてから辿り着いたのは小さな山の麓にある街だった。
山は雪山で、そこから降る雪は街にも積もっている。シャングリラは暖かかったのに、ここまで来るともうまるで冬になってしまったかのようだ。
シャングリラやオルヴェンブルムに比べ、その街はとても寂しげに見えた。雪に包まれ人の通りが少ない事もその理由だったのだろう。しかしそもそもまず人口が少なく、家の数も当然少ない。
吐き出す息は白く染まり、執行者たちと共に街に入る。まずは聞き込みでも始めようかと街の人々に視線を送るが、住人たちはあっという間に家の中に隠れてしまう。
拒絶を示すように力強く占められる扉や窓に思わず眉を潜める。執行者たちは街の方々に散って行き、それを見送りマルドゥークが腕を組んで振り返った。
「やはり現地住民から話を聞くのは無理かもしれないな」
「どういうことだ? ここの連中、俺らを見ただけで引っ込んだみたいに見えたぞ?」
「……ザックブルムとクィリアダリアの確執はまだ消え去ってはいないのだ。戦争の遺恨は十年やそこらで消え去るほど容易ではないからな」
マルドゥークの口調はどこか寂しげに見えた。だが実際にそうだろう。十年前の戦いがまだこの世界を二つに隔てている……その現実に直面しているのだから。
仕方が無い、何とか話を聞ける家を探すしかない。幾つかの民家の扉をノックして周る。手分けしてあちらこちらを周ってみたが、結局出てきてくれる家は一つもなかった。
何の手がかりも得られずに肩を竦める。マルドゥークの持つアリアの居場所を示すコンパスのような道具は俺たちの見上げる雪山を指し示している。
「……行くだけ行って見るか」
「この夜の中か?」
「時間がないんだ。それに半端な罠でやられる俺たちじゃないだろ」
マルドゥークもそれ以上反論することはなかった。アリアを一刻も早く取り返したいのはこいつも同じなのだ。多少危険なのは最初から決まっている事。だったら最初からそんなもんに構っている余裕はない。
アリアがいるかもしれないならその可能性を全て明かしていけばいいだけのこと。俺たちは夜の闇に包まれた雪山に向かい、歩みを進め始めた。
大聖堂地下封印室――。そこはありとあらゆる魔の存在を封じる為に古来から存在する聖なる空間。漆黒の闇の中、黄金の術式が輝く祭壇の上でリリアは両手足を鎖に繋がれて宙にぶら下げられていた。
白いドレスに着替えさせられ、磔にされるようにただそこに浮かぶ少女はうっすらと瞳を開いたまま何も光の見えない暗闇をぼんやりと見つめ続けていた。
全身から魔力が吸い取られるような、身体に力が入らない、思考することさえ億劫になる封印の術式の中、ただただ頭の中で楽しかった出来事だけを繰り返し繰り返し再生していた。そうすることだけが今の彼女を保つ唯一の手段だったのかも知れない。
疑いたくない、疑いたくないと意識すればするほど救世主を名乗る少年の顔が思い出せなくなる。思い出の中で浮かび上がる沢山の笑顔が全て偽りだったのではないか? それは考えてしまう事さえ恐ろしくてたまらなかった。
異世界の住人という言葉。作り物の世界。リリアの心では理解出来ない沢山の情報。何よりも本城夏流という少年の不自然なその存在がリリアを苦しめていた。
今までだって信じていたわけじゃない。怪しい所など山ほどあった。それでも信じられると思った。夏流は自分を裏切らないと信じた。
彼こそ自分を包み込む鎖なのだと思った。明るい未来を見せてくれると思った。たとえ魔王が身体の中に居たとしても、それを彼は受け入れてくれると思った。願った。信じようとした。
だが実際はどうだ。現実はこの暗闇の中、戻ってくるかどうかも判らない彼を待つ事しか出来ない。信じると口にはしたものの、何となくぼんやりと思っていた。ここで自分は終わってしまうのかもしれない……そんな最悪の可能性を。
「気分はどうかね、リリア」
正面が照らし出された。足元から光る照明の中、大司祭ハムラビはリリアに問い掛ける。リリアはその問い掛けにただ不快感を込めた鋭い眼差しで応えた。
「封印の術式を受けるのは初めてではないのだろう? まあ、何度受けても慣れるものではないと思うが、我慢してくれよ。噛みつかれても困るのでな」
「……リリアはそんなことしません」
「君の中にいる魔王がそれをさせるかもしれない。いいかね、リリア? 自分の存在を肯定したいのであれば君は大聖堂の――元老院の管理下に置かれるべきです。大聖堂以外に、君の中の魔王を収める力を持つ組織はない」
「大聖堂に入れと?」
「そうではない。ただ、勇者に成るべきなのは君だけだと言う話だ。救世主はアリア姫を取り返してくるだろう。そうすれば君は自由の身になり、正式な世界を守る勇者として私が後押ししようではないか」
突然の話にリリアは不審下に眉を潜める。その態度にハムラビは暗闇の中、うっすらと笑いを浮かべて答える。
「なんてことはない。君は魔王の力を使ってこれからもこの世界を守ればいい。力は使い方次第だろう? 勇者として君ほど相応しい人間もいない。勘違いしないでもらいたいな。私は君を高く評価している。その身に正義と同時に悪魔を飼いならす君の存在は、我々にとって極めて理想的な勇者像なのだから」
「だったらどうしてこんな封印式なんて……?」
「封印式――ではないのだがね、実際は。兎に角これは必要な儀式なのだ。なに、君の身に害は与えないと約束しよう。ただ少しばかり身体の中身を調べさせてもらう事になるのだがね」
リリアを取り囲むように仮面をつけた神官たちがぐるりと並ぶ。それぞれが術式を発動すると同時にリリアの身体を熱く滾るような感触が襲った。
意識が朦朧とする中、目を瞑ってただ楽しい事を思い返す。夏流に躓いてしまった出会いの日。何度も彼の言葉に救われてきた事。思い返す沢山の『日』が頭の中でまだ輝いている。
決して忘れられない思い。信じたいという願い。信じられないという焦り。それらをただ思い返し、それでも今思う事は一つだけ。
「師匠……」
どうか、もう一度笑いかけて欲しい――。
執行者たちの術式でリリアが気を失った頃、大聖堂の前に立つ一人の男の姿があった。
黒い鎧に長大な剣を携えた仮面の騎士は聖堂を見上げて溜息を漏らす。そうして歩き出し、聖堂を護衛していた聖騎士二名を一瞬で昏倒させ、目を見開いた。
『よりによって大聖堂に捕まるとはな……。やれやれ――世話のかかる小娘だ』
刀身に付いた血を振り払い、その刃に己の顔を映し、フェンリルは一人大聖堂の中へと歩みを進めて行った。
夜の雪山は月明かりで意外なほど明るかった。そんな中、俺たちの前に姿を現したのは巨大な建造物だった。
石で出来たその建造物を見て誰もが思ったことを俺は代弁する。そう、それはまるで――。
「――古代遺跡?」
既に朽ち果て、雪に埋もれるようにして存在する不思議な建造物。その出入り口の部分を見ると、そこには篝火が灯っていた。どうにも胡散臭い格好をした男たちが何名か剣を手にして警備を固めているように見える。
「……山賊、か? まあいい、話が聞けそうだ」
マルドゥークが魔術書を片手に立ち上がる。丁度場所的にもアリアの居場所に限りなく近い。だったらもう胡散臭い物からぶっ潰していくべきだろう。
執行者たちに周囲の警戒を任せ、俺たちは武器を手にして駆け出した。出来るだけ迅速に、一瞬で全員を倒さねば成らない。
結局俺は裏側に回りこみ、背後から三人程居る護衛に襲い掛かった。背後から殴り飛ばすとあっけないほど気を失い、音もなく倒れて行く。隠密行動なら徒手空拳でも戦闘できる俺が最も適役なのだ、当然の結果とも言える。
護衛をあっさりと倒し、入り口を前に立つ。それはどうやら地下に続いているこの建造物の内部へ続く階段の入り口のようだった。後続のパーティーと合流し、自らの両手を合わせて気合を入れる。
「――とっとと倒してとっとと奪い返してとっとと帰るぞ」
勇み足で俺たちは階段を下った。丁度その頃、リリアに何が起きているのかなんて、当然判るはずもなかったから――。
〜それいけ! ディアノイア劇場Z〜
*リニューアルするのだ編*
リリア「ディアノイア劇場を少しパワーアップさせてみたのですよ!!」
夏流「ミスチルの『フェイク』今更聞いてハマった作者はやることが違うな」
リリア「えー。まあ何はともあれ、本編もカオスってるところで!! ちょっとディアノイア劇場も方向性を変えていこうというわけで!」
夏流「なんか『番外編ショートシナリオ』の要望がぶっちぎりなんだが、これは何をやればいいんだろうな」
リリア「うーん。何をやればいいんでしょうねえ?」
夏流「まあ何か考えるか……。人物紹介をあとがきじゃなくて纏めた奴を一話使ってやって欲しいというのがあったが、それはまあそのうちやろう」
リリア「キリのいいとこで、というわけで」
夏流「さて、アンケートでディアノイア劇場についての項目を増やしてみたわけだが、何と全員ディノイア劇場をチェックしているという返答だったのである」
リリア「ここ、あんまり誰も見てないだろうというつもりでいただけにビックリですね……」
夏流「あんまり誰も見てないっていう日本語もビックリだが、とにかくネタにしていい一言コーナーにちょっと来ているのでためしに取り上げてみよう」
〜今日の一言〜
アイオーンさん何歳ですか><
アイオーンさんじゅうはっさいとかですか?
リリア「アイオーンさんじゅうはっさい(笑)」
夏流「その発想はなかったなあ……。えーと、確かどっかの紹介で二十一歳(自称)って書いてあったよな」
リリア「アイオーン・ケイオス十七歳です。おいおい! よりはいいじゃないですか」
夏流「……それもまたわかる人いなさそうだなー。というわけで、アイオーンに聞いてみた」
アイオーン「……無茶振りにも程があるんじゃないかな。んー、実年齢か……。多分そのうち本編で出ると思うけど」
夏流「さんじゅうはっさいなのか?」
アイオーン「違う。アイオーンさん、十八歳だよ」
リリア「さんじゅうはっさいとか(笑)」
〜今日の一言〜
アクセル×ゲルトにカップリングはどう思う?
リリア「知るか。」
夏流「全くもってその通りなんだが、一応本人に聞いてみた」
ゲルト「在り得ません」
アクセル「そうだそうだ! 俺はロリが好きなんだ! ツンデレは守備範囲外だ!」
リリア「本当にどうでもいい質問ですね……」
夏流「……読者的にどうなんだろうな。ていうかどう思う? っていう質問がまずなんかおかしい……」
リリア「えー、何はともあれネタにしていいというコメントもあってありがたい限りです」
夏流「とりあえず番外編を考えるか……。誰をメインにするかが問題だな」
リリア「そんなわけで、次回に続くのであった!」